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フレデリクの場合 1

 私の名前はフレデリク・ドムドロス。


 私には一つ年下の婚約者がいた。侯爵家の令嬢リゼリア・メルドークだ。


 初めて引き合わされた日は二人ともまだ幼く、お互い年の近い遊び相手としか認識していなかったが、可愛らしい笑顔で話しかけてくるリゼリアが私は好きだった。


 私の家はリゼリアと同じ侯爵家だが、メルドーク家ほど裕福ではなかった。私は三男だったから、いずれはこの家を出ていくことになるのだと教えられていた。


 つまり、結婚して相手の家に入るか、城へ勤めて文官となり准男爵の地位を得るか、もしくは騎士となるか。そうでなければ私は平民となってしまうのだ。


 私は生まれてからこの侯爵家での生活しか知らない。平民の生活など想像もできず恐ろしかったが、貴族でいられる道があると知って安堵したものだ。


 しかし、私に城勤めは難しいと早々に気付いてしまった。


 幼い頃から家庭教師について勉学や剣の稽古をしていたが、私はどうにも物覚えが悪く、また剣の扱いも得意ではなかったので、よく兄達にからかわれては泣かされていた。


 家庭教師達は根気よく私に教えてくれたが、一向に成績は上がらず、また剣も上達しなかった。私は途方にくれたが自分ではどうすることも出来なかった。


 そんな中、私の将来を心配した両親が早々に婿入り先を探してくれたのだ。それがメルドーク家だった。


 最初メルドーク侯爵、つまりリゼリアの母親は二人の婚約に前向きではなかったらしいが、両親が頼み込んでなんとか話を調えたらしい。


 平民とならずに済むことにほっとしたし、リゼリアと結婚出来ることも嬉しかった。いずれはメルドーク家に入り、メルドーク侯爵となるリゼリアを支えていくのだと、この時の私は自分の未来を疑いもしなかった。


 それからは度々メルドーク家へ行き、リゼリアに会うようになった。婚約者として親交を深めるのが目的で、月に数度は会いに行った。


 リゼリアは私が行けば喜んでくれたし、話をすればほほ笑んでくれた。だから私達はうまくやれていると思っていた。


 時は過ぎ、私も成長して父や兄に連れられて徐々に社交の場に出るようになった。それまでとは比べものにならないくらい、私の世界は一気に広がった。


 しかし、それと同時に私のは足はメルドーク家から徐々に足が遠のいていった。


 新しく知った世界が楽しかったこともある。しかし、それとは別にリゼリアと私では話が合わないということに改めて気付いたのだ。


 リゼリアはもとから大人しい少女だったが、それは成長してからも変わらなかった。最初の頃は共通の話題を探していたが、リゼリアが話すことと言えば読んだ本の感想や領内の事業に関することなど、私にとってはちっとも興味のないものばかりだった。


 一方私は社交の場で知った今の流行やゴシップなど、世間知らずなリゼリアが知りえないであろう話題を話して聞かせるようになった。


 ところが、きっと喜ぶだろうと思っていたのにリゼリアはたいして興味も示さず、時たま困ったような顔をする。さらには私の言動をとがめるようなことまで言い出す始末だった。


 せっかく話してあげているのにと不満に思うと同時に、リゼリアに対して「つまらない」という感情が私の中で膨らんでいった。


 私が親しくしている同世代の友人たちはみんな明るく社交的だ。女の子達だってリゼリアとは全く違う。みんな綺麗に着飾り、流行のドレスや最新のカフェの情報などを話題にしては楽しそうにはしゃいでいる。


 それまで女の子との接点がなかった私は、リゼリアとの違いに驚くと同時に、リゼリアがみんなと違うのだと気付いたのだ。


 リゼリアの恰好はいつも地味だった。控え目と言えば聞こえはいいが、化粧気も少なく、私にはとても陰気に見えた。仮にも婚約者の私が会いに来たというのに、これは失礼ではないかとさえ思った。


 昔はリゼリアのことを可愛いと思っていたがそんな気持ちを抱けなくなり、私はだんだんメルドーク家へ行くのが憂鬱になっていった。


 転機が訪れたのは、リゼリアの母、メルドーク侯爵が倒れたことだろう。


 それは突然の知らせだった。


 原因は不明だが侯爵は生死の境をさまよい、しばらくは意識がない状態が続いた。


 私は見舞いに行ったものの、リゼリアは終始硬い表情でうつむいていて何と声をかけていいのか分からなかった。


 その後、奇跡的に侯爵の意識は戻り一命は取り留めたものの安静が必要とのことで領地で療養することになった。


 リゼリアはとても忙しくしているようだったし、どうせ行っても暗い顔を見るだけだと思うと気が重く、会わないまま日は過ぎていった。


 しかし、婚約者としての義務もあり、久しぶりに私はリゼリアに会いに行くことにした。


 メルドーク家を訪れるのはいつ振りだろう。前回の訪問がいつだったかよく覚えていなかった。


 私はリゼリアにどう言葉をかけるかを迷っていたし、それ以上に訪問が遅くなったことを責められるのではないかと思い少々緊張していた。


 ところが、屋敷の中で私を出迎えたのは思ってもいない人物だった。

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