序曲。
誰かが、主人公の独り言が解り難いと言ったので、その理由をここに付託しようと思った・・・本当は、これが第二部裏(三部)になる構成だったのにな・・・。
最後までコンセプト通りに併記にするか迷ったのだけれど、こういう風にしました。
正直な話をしてみる。
僕は今の現状を打破しなければならない。
基本的にそれは不可能で、世の中には受け入れられモノとして処理されるとしてもだ。
「んなァ、サク?」
「何?」
何時も通りの朝食のこの光景の中で、この兄の言う事なんてタカが知れている。
「いい加減、向かい合って朝メシ食うのヤメねぇ?」
ほら、ロクな事じゃない。
「何それ?じゃあ、隣り合って食べるの?そっちのが気持ち悪くない?」
この"双子の兄"の言いたい事は解らなくもないけれど、今ある日常という名の慣れを変えると逆に違和感を覚えるに決まっているから。
「だって同じ顔だぜ?」
この兄は"一卵性"という意味を解っているのだろうか?
一卵性と言っても、多少の差異は存在しているけれど。
一番の違いは眼鏡と髪の色。
兄である堂上 郁実と違い弟である僕、美咲は、濃紺がかった髪をしている。
兄は黒だ。
瞳の色は二人とも同じ。
若干、全体的な色素が薄い方が僕。
「今更。生まれてからずっとだよ?」
どうでも良い部類に入ってもおかしくないのに・・・一々気にしてたら、僕が狂う。
「意外とざっくばらんだな?」
「違う。悩んだって、どうにもならない事だって結論が、とっくの昔に出ているだけ。」
そこに"在る"事が僕の全て。
「・・・誰に似たんだか・・・。」
「兄貴。」
というか、それをこの僕に聞く?
僕は自分と同じ顔を真顔で睨む。
「外見だって似てるんだから、多少中身が似てもおかしくないでしょう?双子の性格は、環境で変化するのは、科学的に証明されているんだから。」
基本、一緒の家庭環境で過ごしているんだし、幼児期の性格形成は、兄と弟という役割の違いだけだ。
「なんだかな。」
「仕方ないよ、一応兄貴として尊敬しているからね。」
兄がいたから僕は存在している。
これも紛れも無い真実。
尊敬しないわけがない。
「だから真顔で言うなよ。」
仕方が無い。
兄はそう言うけれど、それだけの事を僕はしてもらったのだから・・・。
そんな考えを持って今まで生きてきた僕に、これ以上の負担を背負わせないように、精一杯の兄としての姿を僕に見せてくれている事も知っている。
だから、余計にこの件は深く僕の心に根ざしている。
それは"負い目"とか"引け目"がさせてるのかも。
「兄貴、僕はもう出るよ?」
考え事をしているうちに、登校時間の余裕がなくなっているのに気づいた。
「あぁ、なぁ、サク?」
「ん?」
兄の気まずそうな、それでいて滅多に見せない真剣な表情に、僕はその時が来たのを悟る。
「俺さ、ちょっくら旅に出るわ。」
「・・・そう。」
兄の出した結論。
何時かはそんな結論に辿り着くんじゃないだろうかと思っていたから、返事は至極あっさりとしたものだった。
「やっぱり俺達は双子なんだな。」
予感。
共振でもいい。
解っていたんだ。
この優しい兄は、僕の為、自分の為にそこに至るのだろうと。
「だね。」
それなのに、兄は済まなさそうな表情を崩さない。
そんなところも、僕は尊敬している。
責任を持って、弟の僕に見つけ出させようとしているんだ。
「いい機会だろ?一度やってみたいと思ってたんだ。大丈夫、飽きたら帰ってくるさ。」
逆に言えば、飽きない限りは帰ってはこないという事。
もしかしたら、僕が何か"今と違う結論"を見出せたら、帰ってくるのかも知れない。
・・・自信はないが。
「学校は?」
「ま、なんとかなるだろ。」
学生などという身分を持っている以上、本分をまっとうしないと、夫婦で海外勤務していった両親に顔向けが・・・。
確かに義務教育課程ではないんだけれど。
とりあえず、一学期の中間考査は互いに終わっていたハズ。
「ふぅん・・・。」
留年くらい覚悟のうえなんだろう。
「んじゃ、ま、後を頼むわ。」
「ん。」
別れの言葉にしては、あっさりし過ぎだけれど、僕達兄弟にはこれくらいの挨拶が丁度いい。
それにしても、兄の置いていった"課題"はかなりの難題だ。
兄を居間に残し、玄関で大きな溜め息を一つつくと、僕は気持ちを切り替えるようにして、学校への登校を急いだ。




