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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
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第49曲:Rainy Day and Day(アルザック視点)

 由緒正しき建造物。

その建造物の中に並び立つ彫刻も、さぞか謂れのある銘が入っているに違いない。

私には、そんな学がないので、一切解らないが。

もっともそういった知識があったとしても、披露する相手のご婦人と接する機会などない。

私の周りにいる人間と言えば・・・。


「何だ?拙者の顔に何かついているか?」


 付いているだろう・・・デカい鉄仮面が!


「いや。」


 ここで声を荒げる程、子供ではないつもりだ。

しかし、こういった建物の中というのは、自分とは何よりも不釣合いだ。

・・・気のせいか、頭痛がしてくる。


「・・・・・・やはり帰る。」


 建物内の回廊で、くるりと踵を返す。

大体、元々ここに戻るつもりなど無かったのだ。


「な?!『一度、本国へ戻ろう。』と言ったのは、貴殿であろう?!一度口にした事を曲げるのか?!」


 迎えがコイツじゃなかったら、帰ろうとも思わなかったがな、なにせコイツは・・・。


「本当に面倒な奴だ。」


 冷静に考え直して、迎えがコイツじゃなくて"もう片方"だったら、もっと面倒だったろうと思うが、感謝する程でもない。


「元はと言えば、貴殿がおひぃ様の願いを盾に、自由気ままに振舞っていたからこのような事になったのだぞ?」


「あぁ、お陰で卿みたいな者が姫さんの面倒を見ていたと思うと・・・。」


「何だ、その憐れみを込めた様な何とも言えない視線はっ?!」


 ・・・これが憐れみを込めた視線だと肯定すれば、納得したり・・・しないな。

余計に面倒になるだけか。


「二人とも、何を楽しそうに話しているのです?」


 また面倒な事になった。

私達の前に現れた小柄な少女。


「これはおひぃ様。」


 それまでのやりとりが何だったのかと言いたくなるくらいしおらしく膝まづく。


「姫さんの教育方針に関して少々。」


「あら、まぁ、これでも日々の勉学は怠ってませんよ?」


 白い手袋をした手を口元にあててクスクスと微笑む少女の声は、どこか小鳥の囀りを彷彿とさせる。

金のふんわりとした長い髪に蒼い瞳。


「姫さんはお変わりなく。」


 小さい。

私の胸以下の身長。


「えぇ。アルザック、地方の"巡回任務"ご苦労様でした。」


「いえ、そうでもなかったですよ。」


 おっとりとした彼女の口調には、相変わらず苦労の色が浮かばないのは不思議だと常々思っている。


「それで如何でしたか?」


 苦労の色が浮かばないうえに、全然口調が変わらず真剣な話題を振るのだから、これはある意味では天然というのかも知れない。


「姫さんのご指摘通り、地方になればなる程、酷いものでしたよ。」


 特に最後のドルラス領は冗談で済まない程に。

流石に詳しい内容を伝えるのは憚られる。


「そうですか・・・やはり・・・。」


「しかしなれど、おひぃ様、拙者も出向いたドルラス領では、その問題も幾分改善されると思いますぞ。」


 この馬鹿!

人が折角話題を振らないようにしていたのに・・・。


「まぁっ、何か新しい政策でも?!」


 ぽんっと手を叩いて笑顔になるのは良いのだが、これでは逆に答えに窮するではないか。

だから帰りたくなかったというのに。

えぇいっ!


「その事ですが、姫さん、面白い奴を見つけまして・・・。」


 すまんな、アンソニー。


「面白い方?」


「はい。一人は私の"跡継ぎ候補"で、もう一人はもしかしたら"七振り目"の所有者になれるかも知れません。」

 現状で、あのアルムとかいう青年は、私達と実力がそう変わらないハズだ。

もしかしたら、私より上かも知れない。

その時点で、私は戦うのは断るがね。


「七つ目の?確かに力の波動のようなものは、最近感じる事がありましたけど・・・お一人だけ?」


 う・・・。

そうだった。

姫さんには、この"力"があったのだった。


「もう一人は・・・我々と力の質が違います。」


 イクミとかいう少年は、もはや人としての次元が違う。

推し量ろうというのも馬鹿馬鹿しいくらいに。


「そうなのですか?ならば余計に興味がありますわ。お茶に誘えないかしら?」


「おひぃ様?!」


 ぷっ・・・。

流石、姫さん、面白過ぎる。


「大丈夫よ。私はここから出られないもの・・・見聞きは貴方達に頼らなければならないのですから。」


 彼女は表面的はどうであれ、幽閉されているも同じ。

それが私には面白くない。

ただそれだけで仕える側を選んでしまったのだから。


「で、姫さん。呼び戻した用件は?」


「報告を聞きたかったのと~。」


「と?」


「お茶でもどうかしらと思って・・・。」


 ・・・帰ってこなければ良かった。

姫さんはどう考えても本気で言っている。

思わず隣の鉄仮面を見ると、視線をあらぬ方向に逸らしている。

何処が目か解らんが、鉄仮面ごと逸らしているのだから、そういう事なのだろう。


「それと・・・。」


「それと?」


「あなたが置いて行った剣の"封印"を解きます。」


「・・・そいつはまた・・・。」


 大事おおごとになってきたな。

物騒なのは、隣の鉄仮面の模様だけでいいんだが。


「"兄上の剣"が動きました。行き先は、私が感じた方達の方角です。」


 あぁ・・・そうきたか。

足し算と引き算が出来るなら、解る事だな。


「逆戻りか・・・仕方ないな。」


 アンソニーを生贄に捧げても、たいして変わらなかった。


「拙者も参りましょう。」 「断る。」


 ただでさえ剣を持って行くだけで面倒なのに、これ以上の心労を重ねたくはない。


「即答したな。まぁ良い。拙者は拙者で独自について行くとしよう。」


 結局来るのか・・・ヤレヤレ。

とりあえずは、ここで第Ⅱ楽章終了です。

毎回サブタイトルに困る今日この頃。

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