表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
49/54

第47曲:疾走(アンソニー視点)

「あれがアルムさんの戦い・・・。」


 ドルラス領で一度はアルムさんの戦う姿は見ていた。

アルザック隊長の剣をいともた易く片腕で受けたり、一撃のもとで自分を倒した事実から、その腕前は充分高いと知ってはいたが・・・。


「なんて速さなんだ・・・。」


 自分に相対した時よりも速い。

そして、しなやかだ。

相手の剣を逸らすように受け、捌いた頃にはその相手が倒れ、もう次の剣が誰かの剣を受けている。

流麗にして、一撃は必殺・・・殺してはいないようだが。

いや、逆に考えればみれば、人を殺さずに一撃のもとで無力化しているとなると、恐ろしいものを感じる。

この人の全力、本気とは何処に位置する遥かな高みなのだろうか?


「心配するな。皆、峰打ちだ。だが、オレ達が去るまでの間、邪魔立てするならば即、首が飛ぶ事になるよ?」


 自分はふと腰に下げている剣を、ほんの少しだけ抜いてみる。

この国で売っている、ありふれた型の剣。

一般的に流通しているそれよりは出来はいい。

だが・・・。


「これの"峰"って何処だ?」


 アルムさんと同じ両刃の直剣を見て、思わず首を傾げた。


「アンソニー!なに、ぼっとしてんだ!早く外へ出ろ!」


 驚くと言えば、自分に向かって声を荒げている彼、イクミもだ。

彼の言う通り、外へ出ようとしていた自分達を阻んでいた門はもう無い。

イクミがその手を振るって、掻き消してしまった。

彼の力も以前見た事はあったが、鎧だけでなく、あんなに大きな門まで消し去るとは、デタラメにも程がある。

更に驚嘆するのは、その手法。

もし、仮に彼が魔力を以ってそれを成しているとすれば、一つ疑問が残る。


「解っている!今、行く!」


 イクミの叫ぶ声に応えて、彼と一緒に馬を操って街の外へ出る。


「アンソニー、他のエルフ達は?」



「左右の隔離された地点、門から最短距離だ。」


「流石。」


 門から出て街を取り囲む左右にある城壁の側面。

それを外側から破る事が出来れば、自分達の逃走を含めて効率的だと考えた。

エルフ達も、デトビア伯の猟奇的な措置に耐えかねて逃げる事には異存は無く。

自分の答えを聞いて、イクミは躊躇う事もなく、女性のエルフが待機しているであろう側から優先させる。


「ヤベェ・・・。」


「どうした?」


「ちょっち時間、かかるかも・・・。」


「早くしろ。アルムさんだとて、そう長くは・・・。」


「わーってるよ!」


 そう叫ぶとイクミは次々に城壁の煉瓦を一つ一つ光に変えていく。

これが一つ残っている疑問。

魔力を使って破壊を行っているならば、何かしらの痕跡が残るはず。

溶かす、砕く。

どちらにしても、周りに影響が残る。

コゲた煉瓦や、砕かれて粉になった煉瓦等だ。

しかし、彼のこの力は、何の痕跡も見受けられない。

あたかも対象が、"元から存在していなかった"かのように消滅してゆく。

そんな魔法、聞いた事もない。

いや、自分が知らないだけだという事も考えられる。

特に、辺境の田舎騎士の自分が、知れる事などたかが知れている。

しかし、イクミの腕を見る限り、魔力を使用している様な形跡はない。

魔力を使っている時の特有の紋様が浮き出ていない。


「ッ~。アンソニー!中の人の誘導を!」


 何より魔力を使う事であのように瞳が変色して輝く事はない。


「了解した。皆、話はいっていると思う。各自散開して目的地を目指してくれ。無事に自由の徒となれる事を祈ってる。」


 誘導もなにもない。

既に話はつけてある。

ここからエルフ達は、自由になる為の逃亡を各々で計る事になる。

その方が、途中の犠牲が少ない。

そして、我々の目的地であるドルラス領の外れ、例の森に合流をしても良いし、そのまま逃亡を続けてもいい。

我々が確固たる安全を確保してやれるわけではないからだ。


「彼の・・・キレイ・・・。」


 自分の後ろで、今までずっと黙っていた女性が呟く。

綺麗か・・・女性の考える事はどうにも解らない。

自分にはアレには綺麗というより、畏怖を感じる。


「イクミ!大丈夫か?!」


 休む事なく反対側の壁にも穴を開け、エルフ達を解放した頃、アルムさんが門のあった場所に向かって駆けて来るのが見えた。


「大丈夫に決まってんだろ!そっちこそ凄ぇコトになってんぞ~!」


 イクミはけらけらと笑いながらアルムさんを指差す。

全く、礼儀がなってないな。


「早く越えろ!」


 数は多少減ったが、未だ追手はかなりの数がいる。

これは自分の出番も回ってくるだろう・・・。

ん?


「越えろ?」


 何の事だろうか?

イクミの言葉の意図を彼に聞き返そうとした、丁度その時、門の跡地前に立つ彼とアルムさんがすれ違う。

指は門のあった地点を指したままだ。


「くっずれっるぞ~。」 「馬鹿。」


 そのままイクミに体当たりするかの勢いで、アルムさんは彼を肩口に抱え上げ、一切後ろをかえりみずに駆け抜けると・・・。


「城壁が・・・。」


 門の無くなった出入口に向かって、城壁が左右から雪崩れ落ちていく。


「デタラメだ。」


 他にどう形容すれば良かっただろうか?

後に、何度思い出しても、自分には他に表現する言葉が思い浮かばなかった・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ