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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
47/54

第45曲:SMILE(スフィール視点)

 部屋に響き渡る二つの叫び声。

私はその光景を眺めている。

彼がその拳を振り下ろす度に、光の粒子が宙に舞う。

彼が拳を振り下ろす度に、彼女の身体が消えてゆく。

これは彼の魔力が起こす技なのだろうか?

でも、私は・・・それがとても綺麗だと思った。


「とりあえず・・・アンタ、醜いな・・・。」


 肩で息をしながら、彼女を見下ろしてそう呟く彼。

私は、自分の頭がどうかしてしまったのではないかと思った。

私の、"こんな私"の目の前に、ようやく私を解放してくれる存在が現れた。

まるで神の降臨を見たかのような・・・。


「さぁ、外に行こうか。」


「あっ・・・。」


 私に向き合った彼の瞳は、さっきまでの瞳の色と違って真紅だった。

血のように紅い・・・そんな瞳で、私に手を差し伸べる。

けれど、彼はすぐにその手を私が掴む前に引っ込めた。


「時間がない。急ぐよ?」


 もし、私が彼の手を掴んだら、私もあんな風に光の粒になるのだろうか?

人とエルフの間に生まれ、人でもなく、エルフでもなく、こんな中途半端な私でも?

どちらでも、何者でもない、こんな醜い私でも、あんな綺麗な光になれるのだろうか・・・?

私を促し、先を行く彼の手。

彼の歩みと一緒に規則正しく揺れるその手を掴んでみたいと、思わず凝視してしまう。


「やっぱり、スフィールさんは優しい人だったなぁ。」


 振り向かないまま、彼は突然変な事を言う。

これまでも何度か同じような褒め言葉を言っていたけれど、それは何の根拠も無いデタラメだ。


「スフィールさんの移植した皮膚の部分は消せなかった。元々、相性が良かったのかも知れないけど・・・でも、俺はスフィールさんがデトビアを恨んだり、憎んだりしてないからだって思いたい。」


 彼女を恨んだり、憎んだ事は、彼の言うとおり一度も無い。

私には、あそこ以外の居場所が無かったから。

生きる価値も見出せなかったから。

私は、そういう存在として生まれたのだと。


「俺なんか、ブチギレてあのザマだし。そりゃあ、デトビアの命まで取らなかったけど、それはスフィールさんのお陰だもん。」


「私の?」


 私が何をしたというのだろう?

私は何も考えず、何もせず、ただ息を潜めているだけの日々だったのに。


「スフィールさんは、何も奪おうとしなかった、恨まなかった。だからデトビアは生きている。デトビアの命を救ったんだ。それってすげぇ事だよ。」


 そんなつもりは全くない。


「屁理屈だわ。私は何もしなかっただけ、何もかも諦めていただけ・・・。」


 だから何時、何処で死んだとしても良かった。

どうせ何者にもなれない私だから・・・。


「そぉ?」


 地階に降り、裏門へと続く扉の前で、ピタリと足を止めて私に振り返る。

今度の彼の瞳は、会った時と同じく黒い瞳だった。

・・・不思議な人・・・。


「だって・・・。」


「俺が出会って感じたスフィールさんは、優しい人だと感じたよ?うまく表現出来ないけれどさ、全てを投げ出していたって、スフィールさんは顔に出てたよ?」


 にこりと笑う彼が、私の手をしっかりと掴む。

私の身体は光にはならない、ならなかった。


「だって・・・何も無いもの・・・。」


 私には、私には・・・光になる価値すらない。


「う~ん・・・んでもさ、スフィールさんに手を引いてもらった時、嬉しかったし、温かいなぁって思ったぜ?それに何もないってんならさっ!」


 彼は外へと続く扉を、蹴り飛ばして開く。


「外に出て、世界の広さとか、美しさを感じてみるってのも、アリかもよ~?」


 けらけらと笑う声。


「今日は空も綺麗だしなぁ、オイ。」


 空?

そう言えば、空なんて見上げたのは何時以来だろう?

城の中ではほとんど空は見なかったし、街へ出る時も目的地との往復だけで、空を見上げた事なんてなかった。


「・・・キレイ。」


 夜空。

何もかもを覆い隠す闇夜、黒の中に散りばめられてる光の粒。

それが絶え間なく瞬いている。


「絶妙なバランスやね。"俺のいたトコ"じゃ、中々味わえない光景だ。さて・・・。」


 彼は一体何処から来たのだろう?

ふと、何も無かった自分の中に、一つだけ気になるモノが出来ている事に気づく。

彼を・・・彼の事をもっと知りたい。


「いい?スフィールさん?俺に味方は2人。俺と同じ髪と瞳の色したアルムっていう"無駄に"美形のあんちゃんと、ツンツン茶髪で"無駄に"眉間に皺寄せてるアンソニーって騎士の堅物だけだからね?あ、治療士のおっさんもいるか。」


 簡潔な説明だったけれど、私には充分この人も変な人の部類のような・・・。

でも、私は彼について行って、彼を知りたいと思ってしまった。

何も持たない私が、今唯一持ったモノ・・・。

醜さと美しさは何も外面、目に入るものだけじゃないという・・・。

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