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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
43/54

第41曲:D.O.D

・・・サブタイトルにはルビふれないのね・・・ふりたかったなぁ・・・ルビ。

「ちょっと過保護過ぎたかな?」


 夜目が利く方であるオレは、イクミが心配で顔を見せたわけじゃないけれど、城に入って行くイクミに姿を見せた。

向こうもばっちり確認したみただけれど・・・。


「それにしても形振り構わないね。」


 迎えに来た女性に手を引かれ、腕に包帯をぐるぐると巻いたイクミ。

どこまで演技の幅を広げる気だろうね。


「まぁ、打つ手がある限り、地べたを這い蹲ろうがなんだろうが構わないというのは、オレも嫌いじゃないよ。」


 いささか、言い方が上から目線になってしまったけれど。

別にイクミの姿を見るだけが目的じゃない。


『スフィールさんっていう侍女を見かけたら、連れ出して欲しい。俺も出来たらそうするつもりだから。』


 昨夜、寝る直前にイクミはオレにそう言った。

多分、彼の手を引いていた彼女がそうなのだろう。


「それじゃ、オレも形振り構わず行くかな。」


 オレは自分の横にある荷車と、それを曳いた馬の尻をぺしっと叩く。

イクミにならって、オレも一芝居するかな・・・と、彼が消えて行った裏口へと向かう。


「待て。」


「あ、どうも。」


 案の定、門番の兵士に止められるの事になる。


「葡萄酒の納品に来ました。」


「いつもの奴はどうした?」


「あぁ、ちと他の配達が。ほら、最近評判の宿屋、あっちの仕入れが増えまして。」


 まさか、イクミの演技でこんな事態にあるとは思ってもみなかったよ。


「あの宿か・・・。」


 知名度抜群。


「えぇ。あ、今日は特別に皆様の分もありますよ?」


「何?!本当かっ?!」


「ほら、領主様ばかり飲むというのもねぇ。それに最近急に儲かり始めた事ですし、皆様に少し還元というヤツですよ。もっとも領主様用の程、高級とはいきませんがね。」


 オレは荷台に被せてある布をめくると、大きな樽の横にある中くらいの樽を2つ見せる。


「なぁに、こっちは呑めて酔えりゃいいのよ。」


「そう言って頂ければ。今日はお客様はお一人だけと伺っておりますので、納品次第、皆様で呑めますよ。」


 寧ろ呑め。

そして酔い潰れろ。


「ささっ、早く荷物検めを。」


「あぁ、いい、いい。さっさと"地下の蔵"へ入れろ。」


「はい。では先に皆様用の酒を降ろしますから、手伝って下さいますか?」


「しゃーねぇなぁ、ま、これもタダ酒の為か。」


 ニヤリと笑って、門番の兵士は、中で待機している兵士2人を呼ぶと、樽を降ろして横にする。

中くらいの樽は、兵士がゆうゆうと担いで運んで行った。

この瞬間に倒しても良かったんだが・・・。


「では、私はこの樽を地下へ。転がして行けば、一人で大丈夫ですので。皆さんはどうぞ、お先に。」


 樽を転がして、イクミに予め聞いていた回廊に。


「待て!」 


「な、なんでしょう?」


 オレ、今、なんかやらかしたか?

それとも、この先が地下じゃないのか?

近づいてくる兵士、コイツを倒す分には特に問題なく可能だ。

しかし、オレが騒ぎを起こすと、上階にいるだろうイクミの行動に支障をきたすかも知れない。

逆なら、注意を分散出来て、いくらでも派手に動いてやれるのだけれど。


「オイ、オマエ・・・。」


 さて、どうしたものか。


「地下の鍵忘れてんぜ。全く、なにやってんだか、オマエもうよったりしてねぇか?なーんてな。」


 ・・・驚かせやがって。

ゲラゲラと笑いながら、兵士は鍵の束を投げてよこす。


「一番デケェのが、地下の鍵だぜ。」


「ども、慌しくてちゃんと引継ぎ出来なかったもので・・・。」


 半ばしどろもどろになりながら、兵士に一礼して先を進む。

そこからは何も問題なく。

いや、正確にはこれから問題を起こすわけだけれど。


「さてと。」


 言われた通りに一番大きな鍵で、地下室の蔵の扉を開ける。


「イクミの言う通りだな。」


 葡萄酒と湿気とカビの匂い。

蔵としては普通過ぎる程の匂いの中に、異質な・・・血の匂い。

イクミは嗅ぎ慣れていないから、余計に気づいたのだろうか?

・・・嗅ぎ慣れている方が異常か。


「どちらにしろ・・・。」


 オレは持っていた棒で、運んで来た樽を叩き蓋を抜く。

樽に満たされた葡萄酒に腕を突っ込んで。


「まさか、全く検めないとは思わなかったよ。」


 たるんでるな。

兵士の練度の低さは予想はしていたけれど。

樽の中から紐を探し出して、引き上げると大きな袋が現れる。

この中に武器を隠しておいたのだけれど・・・こんな小細工しなくても、大丈夫だったと思うと、無駄な労力を使わされた気になって参った。

武器の状態を確認して、周囲を見回しながら身につける。


「あれかな?」


 カビと埃の被った棚や床に対して、それらが全く見られなかったり、足跡が複数残っている地点が幾つかある。

恐らくそのどれかに、通路・扉・・・何かしらの仕掛けがある。


「・・・ところで、まさか、この鍵の束の中に、奥とか牢とかの鍵があったりしないよね?」


 もしそうだったら、今度こそ、オレ、本気で呆れるよ?

逆に言えば、アンソニーの人格の良さが非常に浮きだってくるけれど。


「まぁ、他人ひとの城の警備の心配をしていても仕方が無いか。仕事が楽になる分には大歓迎だ。」


 被害をこうむるのはオレじゃないと。

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