第41曲:D.O.D
・・・サブタイトルにはルビふれないのね・・・ふりたかったなぁ・・・ルビ。
「ちょっと過保護過ぎたかな?」
夜目が利く方であるオレは、イクミが心配で顔を見せたわけじゃないけれど、城に入って行くイクミに姿を見せた。
向こうもばっちり確認したみただけれど・・・。
「それにしても形振り構わないね。」
迎えに来た女性に手を引かれ、腕に包帯をぐるぐると巻いたイクミ。
どこまで演技の幅を広げる気だろうね。
「まぁ、打つ手がある限り、地べたを這い蹲ろうがなんだろうが構わないというのは、オレも嫌いじゃないよ。」
いささか、言い方が上から目線になってしまったけれど。
別にイクミの姿を見るだけが目的じゃない。
『スフィールさんっていう侍女を見かけたら、連れ出して欲しい。俺も出来たらそうするつもりだから。』
昨夜、寝る直前にイクミはオレにそう言った。
多分、彼の手を引いていた彼女がそうなのだろう。
「それじゃ、オレも形振り構わず行くかな。」
オレは自分の横にある荷車と、それを曳いた馬の尻をぺしっと叩く。
イクミにならって、オレも一芝居するかな・・・と、彼が消えて行った裏口へと向かう。
「待て。」
「あ、どうも。」
案の定、門番の兵士に止められるの事になる。
「葡萄酒の納品に来ました。」
「いつもの奴はどうした?」
「あぁ、ちと他の配達が。ほら、最近評判の宿屋、あっちの仕入れが増えまして。」
まさか、イクミの演技でこんな事態にあるとは思ってもみなかったよ。
「あの宿か・・・。」
知名度抜群。
「えぇ。あ、今日は特別に皆様の分もありますよ?」
「何?!本当かっ?!」
「ほら、領主様ばかり飲むというのもねぇ。それに最近急に儲かり始めた事ですし、皆様に少し還元というヤツですよ。もっとも領主様用の程、高級とはいきませんがね。」
オレは荷台に被せてある布をめくると、大きな樽の横にある中くらいの樽を2つ見せる。
「なぁに、こっちは呑めて酔えりゃいいのよ。」
「そう言って頂ければ。今日はお客様はお一人だけと伺っておりますので、納品次第、皆様で呑めますよ。」
寧ろ呑め。
そして酔い潰れろ。
「ささっ、早く荷物検めを。」
「あぁ、いい、いい。さっさと"地下の蔵"へ入れろ。」
「はい。では先に皆様用の酒を降ろしますから、手伝って下さいますか?」
「しゃーねぇなぁ、ま、これもタダ酒の為か。」
ニヤリと笑って、門番の兵士は、中で待機している兵士2人を呼ぶと、樽を降ろして横にする。
中くらいの樽は、兵士がゆうゆうと担いで運んで行った。
この瞬間に倒しても良かったんだが・・・。
「では、私はこの樽を地下へ。転がして行けば、一人で大丈夫ですので。皆さんはどうぞ、お先に。」
樽を転がして、イクミに予め聞いていた回廊に。
「待て!」
「な、なんでしょう?」
オレ、今、なんかやらかしたか?
それとも、この先が地下じゃないのか?
近づいてくる兵士、コイツを倒す分には特に問題なく可能だ。
しかし、オレが騒ぎを起こすと、上階にいるだろうイクミの行動に支障をきたすかも知れない。
逆なら、注意を分散出来て、いくらでも派手に動いてやれるのだけれど。
「オイ、オマエ・・・。」
さて、どうしたものか。
「地下の鍵忘れてんぜ。全く、なにやってんだか、オマエもうよったりしてねぇか?なーんてな。」
・・・驚かせやがって。
ゲラゲラと笑いながら、兵士は鍵の束を投げてよこす。
「一番デケェのが、地下の鍵だぜ。」
「ども、慌しくてちゃんと引継ぎ出来なかったもので・・・。」
半ばしどろもどろになりながら、兵士に一礼して先を進む。
そこからは何も問題なく。
いや、正確にはこれから問題を起こすわけだけれど。
「さてと。」
言われた通りに一番大きな鍵で、地下室の蔵の扉を開ける。
「イクミの言う通りだな。」
葡萄酒と湿気とカビの匂い。
蔵としては普通過ぎる程の匂いの中に、異質な・・・血の匂い。
イクミは嗅ぎ慣れていないから、余計に気づいたのだろうか?
・・・嗅ぎ慣れている方が異常か。
「どちらにしろ・・・。」
オレは持っていた棒で、運んで来た樽を叩き蓋を抜く。
樽に満たされた葡萄酒に腕を突っ込んで。
「まさか、全く検めないとは思わなかったよ。」
たるんでるな。
兵士の練度の低さは予想はしていたけれど。
樽の中から紐を探し出して、引き上げると大きな袋が現れる。
この中に武器を隠しておいたのだけれど・・・こんな小細工しなくても、大丈夫だったと思うと、無駄な労力を使わされた気になって参った。
武器の状態を確認して、周囲を見回しながら身につける。
「あれかな?」
カビと埃の被った棚や床に対して、それらが全く見られなかったり、足跡が複数残っている地点が幾つかある。
恐らくそのどれかに、通路・扉・・・何かしらの仕掛けがある。
「・・・ところで、まさか、この鍵の束の中に、奥とか牢とかの鍵があったりしないよね?」
もしそうだったら、今度こそ、オレ、本気で呆れるよ?
逆に言えば、アンソニーの人格の良さが非常に浮きだってくるけれど。
「まぁ、他人の城の警備の心配をしていても仕方が無いか。仕事が楽になる分には大歓迎だ。」
被害を被るのはオレじゃないと。




