表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
40/54

第38曲:刃(アンソニー視点)

「一体、何を?」


 イクミは夕食を片手に休む事なく、筆を走らせる。

それにしても上質な紙と筆だ。

今までこんな純白の紙を見た事はない。

筆も一度もインクに付けずにかすれる事なくすらすらと書き続けている。

とはいえ、本来なら夕食を口にしながらの行儀の悪さを注意すべきなのだが。


「出来た。二人とも見てくれ。」


 書いた紙を数枚並べると、イクミは自分達に見せる。


「城の横に正門以外の入口がある。歩いた距離からして、正門はこの辺り。」


 イクミが並べたのは、簡易的な地図だ。

城内の見取り図。

憶測が混ざっている所は、位置取りしかしてないが、距離的な比率は恐らくかなり正確だと思える。


「全部覚えたのか?」


「だから、忘れる前に一気に書いたんだろ?」


 片手に食器を持ったまま笑うイクミ。

喋るか食べるかどちらかにして欲しいところだ、というよりまだ食べる気なのか?


「入口から、ちょい歩いたここだ。」


 イクミは地図の一点を指す。

入口から進んで分岐した道。

左へ向かうと上階へ繋がる、右へと続く道は何も書かれてはいない。


「アルムはこの先を調べてくれ。」


 調べるという事は、そこへは行ってはいないが、何かがあるという確率が高いという事だ。


「解った。」


 アルムさんは最初から何の疑問も異議も言わず了承している。

信頼関係があるというのは、悪い事じゃない。

寧ろ、自分もそういう同僚がいればまだマシだったのかも知れないと思う。


「その先が怪しい根拠は?」


 そう思ったら、つい問いただしてしまった。

彼等を信用できないわけではない。

だが、まだ自分は彼等と信頼関係を築けてはいない。

何処かしらでそう思ってしまう。


「聞きたいか?その代わり、俺が決めた役割に変更とかの異論を唱えるなよ?」


 交渉のつもりだろうか?

いいだろう、どのみち誰かが何かしらの役割をやらなければならないのだ。

それを承知で、自分は彼等と一緒に来たのだから。


「匂いがしたんだ。」


「匂い?」


「ここの領主のデトビアが、美容の為に飲んでいた葡萄酒の匂いだ。」


 葡萄酒?

確かに貴族がよく好み、身体にいいと評判の酒だ。


「葡萄酒など、貴族なら誰でも・・・。」 「それが!この先の通路から匂ってきたんだ。」


 自分の言葉を遮って言葉を続けるイクミの瞳は鋭く自分を睨む。

"あの時"よりは幾分マシだが、それでも彼の眼差しは鋭い。


「イクミ、続けて。」


 アルムさんは平然と先をアルムに促す。


「俺はさ、つい最近これと同じ匂いを嗅いだ気がしたんだ。それは何処だろうってずっと考えてた。」


 自分を見つめたまま言葉を続けるイクミ。


「その正体が何か、イクミは宿に帰って来て思い出したんだね?」


「あぁ。宿に帰って女将さんから同じ匂いがした。女将さんは『豚を丸々1頭仕入れて解体した』んだってさ。」


 豚?食料の匂い?


「血か・・・。」


 アルムさんがぽつりと呟く。

何時の間にか彼の表情も険しいものに変化している。


「血?」


「確かに最近嗅いでた匂いだった。豚と・・・ドルテっていう"エルフの血"の匂いをな。」 「なっ?!」


「あのクソババア、エルフから血を絞り取って飲んでやがる。」


 ギリっと歯軋りをするイクミ。


「しかし、それがエルフの血だと何故解る?」


「何か他に理由があるんだね?」


「あぁ・・・。」


 アルムさんも静かだが、内心は違うのだろう。

自分もそうだ。

血を飲む?

なんておぞましく野蛮な!

たとえそれがエルフの血でなかったとしてもだ。


「確かエルフ同士の婚姻や出産も管理下に置かれているはずだったよね?」


「はい。」


 自分にはそう答えるのが精一杯だった。

同じ国の人間として。


「解ったよ、イクミ。この先はオレが調べる。必要ならば、捕らわれている者達はなんとしても解放するから。」


 怒りを顕にしているイクミをいたって冷静になだめている。

これが器の違いだろうか?

アルザック隊長と同じ、将たる器を持つ人間・・・。


「アンソニーは必要と感じたら夜中までにエルフを街の外壁側に集めさせてくれ。それと俺達が逃げる為の馬をこれで買って来て。」


 懐から自分に向かって無造作に革袋を放る。

中を覗いてみると、かなりの大金が入っている。

イクミはこれを一人で稼いだのか・・・自分の給金の倍以上はある。


「解った。しかし、肝心の治療士はどうする?」


「それは俺がなんとかする。その作戦も考えてある。悪い、二人とも使いっパシリで。」


「構わないよ。イクミに従う。今はそれが時間的にも確率が高いからね。」


「明日の夜、アルムをは捕らえられていると思うエルフ達を。アンソニーはエルフ達の誘導と逃走手段の確保を。俺は治療士と街の門と壁をブチ破る。」


 イクミは、彼はあの壁すらも破壊出来るというのだろうか?

しかし、アルムさんが反論しないのだから、事実可能なのだろう。

ドルラス領の時も彼はこうだったのだろうか・・・怒りと悲しみを抱いて、戦いを決意した・・・。


「了解した。あとは追手か・・・。」


「それはオレがなんとかしよう。アンソニー、そのお金余りそう?買いたい物があるのだけれど?」


 またか。

今度は一体何を買おうと言うのだろう。

この二人の考えは、奇抜過ぎてついていけない。


「かなり余ると思いますが?」


「それなら良かった。じゃあ、明日は忙しくなるね」


 今更になってだが、先程、自分にイクミが言った言葉を思い出す。

その意味も。

"役割の変更はない"

そうしなければ、恐らく自分は城へ行く方を望むだろう。

そしてきっとデトビア伯をこの剣で・・・。

だからイクミは先に断りの言葉を述べたのだ。


「あ、悪い、アンソニー、この食器を下に持ってって女将さんに返しておいてくんない?ほら、俺、見えない設定だからさぁ。」


 ・・・いいだろう。

それくらい、今回だけは。

そろそろ、どうにも疲れが出てきました・・・(トオイメ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ