第32曲:Sky chord (アルム視点)
朝一番で、オレとアンソニーは領主の館へ向かった。
他に領主に用がある者達よりも、少しでも早く面会の申請をする為だ。
「オレ、髪とか隠した方がいいかな?」
身体は防寒具にもなる外套で隠したが、特徴的な黒髪は出たままだ。
「自分の従者としてこの街に入れているのですから、気にも止めませんよ。」
「そういうものかな?」
「はい。」
アンソニーがそういうのだから、真実そうなのだろうという事で従う事にしよう。
「次、何の用件だ?」
朝一番に来たのが功を奏したか、オレ達の前に待つ者は数組だった。
「自分は騎士のアンソニー・ロベルトと申します。」
アンソニーは、そう言うと懐から騎士章だろう金属の板と、自分の剣の柄を門番に見せる。
ちなみに、これと同様の方法で街にも入った。
「騎士が何のようだ?」
「主の命により、各地の領を巡回しております。是非領主様に面会致したく・・・。」
「ダメだ。今の時期は、商人のみの拝謁が可能だ。」
「そこを何とか・・・。」
アンソニーはすかさず門番の男の手に"何か"を握らせる。
・・・なんというか、何処の世も、だね。
「う、うぅむ・・・通してはやるが、中でどうなるかは知らんぞ?」
「はい、ありがとうございます。では、行きますよ?」
「はい、アンソニー様。」
オレは従者らしく、彼の後ろにつき従う。
「・・・軽蔑しましたか?」
歩きながら、ぽつりとアンソニーが声を漏らす。
全く、彼の誠実さときたら・・・。
「いや。オレは君が誠実な騎士と知っているよ。寧ろ、その君が"賄賂"まで贈る程、自分を曲げてくれたことに感謝しているよ。」
賄賂で、君を通した門番は軽蔑するけれどね。
地方の末端の役人なんて、あんなものなんだろう。
そう納得できるような国みたいだし。
もし、これが本国の役人も同じというならば、頭を抱えたくなるが。
「曲げるも何も、今は領主に会うのが先決ですから。」
「そうか。」
確かに目的の為に手段を選ばないのは問題だが、物事に優先順位をつけるのは大事な事だ。
「ところで・・・次の係の人は何処かな?」
一向にそれらしき部屋に着く気配がない。
オレ達の前にいた商人の姿も見当たらない。
「罠・・・ですか?」
「解らない。どころで、アンソニー?ちなみに何人くらいまでイケそう?」
オレはふいにそう聞いてみる。
アンソニーの実力は、ある程度は把握しているけれど、それは自分の中の基準であって、相対的なモノではない。
彼の答えを聞けば、オレのこの世界での戦力の換算も出来る。
「練度にもよりますが、地方の騎士位でない者なら、20名前後。多くて・・・30いけるか・・・。」
「成程。そうすると、2人で、7,80人程度か・・・。」
「え?」 「ん?」
何か今、計算おかしかっただろうか?
「今なんで?」
アンソニーが驚いたようにオレを見て聞き返す。
やっぱり、何か間違えただろうか?
「あれ?オレ、騎士位くらいの実力・・・ない?」
だとしたら、計算は根本的に狂うのだけれど・・・。
困ったな。
騎士の練度は、そんなに高いのか?
「いえ、騎士位程の実力は、ゆうにあります。何より自分より強いわけですから・・・。」
あぁ、びっくりした。
じゃあ、何が問題なのだろう?
ドルラス伯爵領の時とは違って、今のオレはきちんとした武装だ。
両腕に頑強な手甲、その上から更に円盾を両手につけ、胸だけを覆う鎧に剣帯がついた腰宛。
そして、具足。
比較的、軽装で身体の末端を保護する装備。
オレは速さと手数で勝負する型なので、どうしても末端が危険になる。
そして、腰の剣帯には、左右に長剣が一振りずつ、二本。
更に、背中側の腰には、長剣より少々短めの剣が二振り。
左右の手で抜けるように互い違いに固定してある。
これも速さと手数を重視する為の選択だ。
間合いや戦う場所によって使い分ける。
全て、昨日アンソニーに借りたお金で買い揃えた物だ。
「今が一番戦うに適した装備だkらね。」
「それが・・・ですか?」
「うん。」
この格好は以前いた所、といってもイクミがいた世界ではなく、オレの元々いた世界で試行錯誤の末に辿り着いた形だ。
当時とは武具の質にかなりの差があるが、致仕方ない。
無い物を求めてもどうにもならないし。
「一体、貴方の故郷は、どんな所なのでしょうか?」
「普通の・・・平和な国だよ?騎士団の稽古は死ねるけれど。」
ちなみに本当に半殺しのメには合った人間はいると思う。
本当に本当。
「そんなに・・・どうりで・・・。」
・・・もしかして、アンソニーは、オレを騎士かなんかと勘違いしているのかな?
「アンソニー、オレは国で騎士とかじゃないからね?騎士の訓練とか受けた事ないし。」
戦闘訓練は受けているけれど、それは個人的に教えてもらったもので、相手は引退した騎士だったけれど・・・。
あれは思った以上に・・・例外だ。
「まぁ、逃げるだけなら、なんとかなるかな。」
形振り構わず事に当たれば、と思う。
「はぁ・・・そういうものですか・・・。」
全然納得しない表情で、アンソニーは渋々頷いているようにしか見えなかった。




