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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
34/54

第32曲:Sky chord (アルム視点)

 朝一番で、オレとアンソニーは領主の館へ向かった。

他に領主に用がある者達よりも、少しでも早く面会の申請をする為だ。


「オレ、髪とか隠した方がいいかな?」


 身体は防寒具にもなる外套で隠したが、特徴的な黒髪は出たままだ。


「自分の従者としてこの街に入れているのですから、気にも止めませんよ。」


「そういうものかな?」


「はい。」


 アンソニーがそういうのだから、真実そうなのだろうという事で従う事にしよう。


「次、何の用件だ?」


 朝一番に来たのが功を奏したか、オレ達の前に待つ者は数組だった。


「自分は騎士のアンソニー・ロベルトと申します。」


 アンソニーは、そう言うと懐から騎士章だろう金属の板と、自分の剣の柄を門番に見せる。

ちなみに、これと同様の方法で街にも入った。


「騎士が何のようだ?」


「主の命により、各地の領を巡回しております。是非領主様に面会致したく・・・。」


「ダメだ。今の時期は、商人のみの拝謁が可能だ。」


「そこを何とか・・・。」


 アンソニーはすかさず門番の男の手に"何か"を握らせる。

・・・なんというか、何処の世も、だね。


「う、うぅむ・・・通してはやるが、中でどうなるかは知らんぞ?」


「はい、ありがとうございます。では、行きますよ?」


「はい、アンソニー様。」


 オレは従者らしく、彼の後ろにつき従う。


「・・・軽蔑しましたか?」


 歩きながら、ぽつりとアンソニーが声を漏らす。

全く、彼の誠実さときたら・・・。


「いや。オレは君が誠実な騎士と知っているよ。寧ろ、その君が"賄賂"まで贈る程、自分を曲げてくれたことに感謝しているよ。」


 賄賂で、君を通した門番は軽蔑するけれどね。

地方の末端の役人なんて、あんなものなんだろう。

そう納得できるような国みたいだし。

もし、これが本国の役人も同じというならば、頭を抱えたくなるが。


「曲げるも何も、今は領主に会うのが先決ですから。」


「そうか。」


 確かに目的の為に手段を選ばないのは問題だが、物事に優先順位をつけるのは大事な事だ。


「ところで・・・次の係の人は何処かな?」


 一向にそれらしき部屋に着く気配がない。

オレ達の前にいた商人の姿も見当たらない。


「罠・・・ですか?」


「解らない。どころで、アンソニー?ちなみに何人くらいまでイケそう?」


 オレはふいにそう聞いてみる。

アンソニーの実力は、ある程度は把握しているけれど、それは自分の中の基準であって、相対的なモノではない。

彼の答えを聞けば、オレのこの世界での戦力の換算も出来る。


「練度にもよりますが、地方の騎士位でない者なら、20名前後。多くて・・・30いけるか・・・。」


「成程。そうすると、2人で、7,80人程度か・・・。」


「え?」 「ん?」


 何か今、計算おかしかっただろうか?


「今なんで?」


 アンソニーが驚いたようにオレを見て聞き返す。

やっぱり、何か間違えただろうか?


「あれ?オレ、騎士位くらいの実力・・・ない?」


 だとしたら、計算は根本的に狂うのだけれど・・・。

困ったな。

騎士の練度は、そんなに高いのか?


「いえ、騎士位程の実力は、ゆうにあります。何より自分より強いわけですから・・・。」


 あぁ、びっくりした。

じゃあ、何が問題なのだろう?

ドルラス伯爵領の時とは違って、今のオレはきちんとした武装だ。

両腕に頑強な手甲、その上から更に円盾を両手につけ、胸だけを覆う鎧に剣帯がついた腰宛。

そして、具足。

比較的、軽装で身体の末端を保護する装備。

オレは速さと手数で勝負する型なので、どうしても末端が危険になる。

そして、腰の剣帯には、左右に長剣が一振りずつ、二本。

更に、背中側の腰には、長剣より少々短めの剣が二振り。

左右の手で抜けるように互い違いに固定してある。

これも速さと手数を重視する為の選択だ。

間合いや戦う場所によって使い分ける。

全て、昨日アンソニーに借りたお金で買い揃えた物だ。


「今が一番戦うに適した装備だkらね。」


「それが・・・ですか?」


「うん。」


 この格好は以前いた所、といってもイクミがいた世界ではなく、オレの元々いた世界で試行錯誤の末に辿り着いた形だ。

当時とは武具の質にかなりの差があるが、致仕方ない。

無い物を求めてもどうにもならないし。


「一体、貴方の故郷は、どんな所なのでしょうか?」


「普通の・・・平和な国だよ?騎士団の稽古は死ねるけれど。」


 ちなみに本当に半殺しのメには合った人間はいると思う。

本当に本当。


「そんなに・・・どうりで・・・。」


 ・・・もしかして、アンソニーは、オレを騎士かなんかと勘違いしているのかな?


「アンソニー、オレは国で騎士とかじゃないからね?騎士の訓練とか受けた事ないし。」


 戦闘訓練は受けているけれど、それは個人的に教えてもらったもので、相手は引退した騎士だったけれど・・・。

あれは思った以上に・・・例外だ。


「まぁ、逃げるだけなら、なんとかなるかな。」


 形振り構わず事に当たれば、と思う。


「はぁ・・・そういうものですか・・・。」


 全然納得しない表情で、アンソニーは渋々頷いているようにしか見えなかった。

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