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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
32/54

第30曲:夢の中へ

「・・・・・・イクミ、これはなんだい?」


「いやぁ、お客さん、何だかんだで凝ってますよ。やっぱりアレですよ、鎧なんざつけてずっと立ち仕事だから。」


「・・・イクミ。」


「あ~、はいはい、大丈夫っスよ、奥さんみたな美人なら何時でも何度でもって、え?美人がどうかも目が見えないじゃんかって?も~、奥さんみたいな人は声だけで美人だって解りますって。」


「イクミ。」


 ・・・流石にそろそろ返事しないとヤバいか?

ちょっぴり青筋立ってたりして。


「ん?その声はアルムか?」


 一応、目が不自由な按摩師という設定を自分で作ってしまった手前。

こういう反応しか出来ない。


「・・・あぁ。」


 かな~り、不服そうだが、俺の言い回しをすぐに察して、乗ってくれるのはアルムらしいっちゃ、アルムらしい。

・・・こりゃ、後で尋問かな?


「今日は宿屋の軒下で営業だ。こちらの美人な奥様の凝りをほぐしたら、部屋に戻るから。」


 ちなみに、この奥様が本当に美人かどうかは、ご想像にお任せする。

営業が終わってからも、翌日の予約を(なんと朝から)取って、女将さんに声をかけて部屋に戻る。


「日々の労働お疲れさんてな。」


 部屋に戻った俺をアンソニーが冷たい視線で迎え入れた。


「まぁ、怖いおメメ。何か言いたい事があんのは解るから、そんな目で見んなや。」


 ヤだね、真面目一辺倒な人間てのは。

融通が利かない。

俺がいた学校のクラス委員長のがよっぽど融通が利くぜ?

て・・・アレはただの楽観主義か・・・。

それに冗談が微妙に通じないし。


「アンソニー、イクミの話をまず聞こう。確かにイクミは調子に乗りやすそうに見えるけど、そこまで馬鹿じゃない・・・と、思う。」


 あのなぁ・・・。

言うに事欠いてソレかよ。


「褒めるか貶すか、どちらかにして欲しい。まぁ、貶されるのは遠慮したいけど。」


 大体においてだ、アルムは別として、アンソニーは俺をどうしようもないヤツとしか思ってないよな、絶対。

そういう思い込みみたいなのは、視野を狭めますよ、ホント。

本人には言えないけど。


「で、何か収穫は?」


 色々な人間と交流する事で、情報を収集しているのを知っていて、アルムさんはそういう事を言ってましたか。

そうですか・・・。

調子に乗り易いのはどちらなんですかね?


「ん~、とりあえず、ここの領主は女性みたいだな。」


「それは知っている。」


 アンソニー、人の話を最後まで聞けよ。

子供の頃、習わないのか?この世界では。

なんだよ、そんな腕を組んで偉そうにしちゃってさー。

それが、人の話を聞く態度かね、全く。


「お目当ての治療士らしき人ってのは、領主に召抱えられてて、"一般人"の治療はしてないそうだ。」


 どうやら、この世界の治療士さんとやらは、思ったより貴重な存在らしい。

まぁ、そうか。

俺の世界の医者というか、技術職ってのは高給取りだしな。


「一般人という事は?」


 アルムが問いかけてくる。

そんな事を言わなくても、アルムなら解るだろうに。


「"特権階級"ってなんなんかね?」


「稀少品・嗜好品は下々に回らない世か・・・。街の造りを見るからには、多少マトモだという印象があったのだけれどね。」


「表と裏があんのは、普通なんじゃね?」


 人間だってそうなんだ。

その人間が作るシステムは、常に完璧なワケがねぇべさ。


「一般人は駄目という事は、アンソニー、騎士ならばどうだろう?」


 確かに騎士は国に所属している。

正確には違うけれど、公務員みたいなものだから、完全な一般人ではないなぁ。

俺は仕返しとばかりにアンソニーをじっと見つめる。


「残念ながら・・・。仰る通り騎士は正確には一般人とは言えませんが、特権階級ではありません。面会を求める程度は可能ですが、誰かの遣いならまだしも、個人の面会となると、お会い出来るのは何時になるか・・・。」


 真面目なヤツだなぁ、ホント。

そんなに意気消沈せんでも・・・。

オマエ1人で、全部を解決しようとは思ってねぇのに。


「じゃあ、アンソニーは明日面会の手続きだな。」


 いつになるかは解らないという事だが、そんなのは向こうの都合と匙加減だ。

とりあえず、面会の申請をするだけしておくのに越した事はない。


「あぁ・・・ついでにアルムも一緒に。」


「オレもか?この外見は少し目立つのだけれど?」


 そうなんだよ。

ここでも俺達のような黒髪・黒い瞳の人間は見かけなくて、珍しい部類だった。

別に俺みたいなアジア系の顔立ちの人間がいないわけじゃない。

じゃないんだが、何故か黒髪じゃないんだよなぁ、皆。


「だから、いいんだよ。ここの領主は珍しい・新しいモン好きらしくてな。アルム、オマエ、いっちょ珍獣にでもなって来いや。」


 そんでもって領主に会えたら、その無駄に整ったツラで誑かしてくるといい。

面倒がなくて楽だ。


「そっちはどうするんだ?」


「俺?」


 アンソニーの質問ももっともで・・・。

俺ねぇ・・・。


「アンソニー、イクミはいいんだ。」


「?」


「ここでの彼は盲目という設定だしね。それにどうやらこれはこれで、ちゃんとした情報収集になっているみたいだし。だろう?」


 これが困った事になるんだな・・・。

俺としてはちょっとした小遣い資金稼ぎと、井戸端会議程度の情報収集のつもりだったんだが・・・。

意外と、これが馬鹿にならなかったりする。

明日の昼間になって、オバちゃん達が井戸端会議を拡大したら、尚の事。

いやぁ、ほんと、オバちゃんの連絡網舐めたらあかんよ。


「そうなのですか?」


「客の中に兵士もいたし、ご婦人もいた。多種多様の人間と接触出来るのは、悪くない。それに目が見えないという設定なのもいい。」


「なにがです?」


「視覚から情報が得られないという事は、相手が必ず何かを喋るという事だ。だが、人は嘘をつく生き物、でもこちらは本当は見えているからね。嘘をつく人間か否かはある程度確かめられる。」


 例えば、外見に関して質問をして、実際とは全く違う返答をすれば、口に出せない何かの事情を抱えている、とかな。

まぁ、質問の仕方次第なんだが。


「何より、目が見えないから、個人を特定しにくく、情報が漏れにくいと思うのが人間の感情だ。しかもここは酒も飲める。その分の隙が生まれ易い。」


 ニヤリとアルムは俺とアンソニーに微笑みかけた。

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