第29曲:憲法22条の歌
ちょっとタイトルがそぐわない気がしたけれど・・・。
とりあえず、補足で歌っておこう・・・職業選択の自由♪あははんっ♪
「探しモノは見つかったか?」
誰もいない宿屋のベッドの上で上半身を起こして、俺はそう呟いた。
弟のサクが進んで力を使うなんて事は、今まで数えるくらいしかない。
数えるくらいの全てにきちんとした納得出来る理由付けがあって、その場合は大抵、自分以外の人間の為だったりするんだが、更に俺にお伺いもたてる。
弟は力を"俺から授かった"、元々持っているモノじゃないっつー考えがあるかんな。
今回も当然、それはあった。
俺に感じられたのは、微かだが・・・。
「確か・・・。」
『これもバカ兄貴のせいなんだから、力を貸せ!』だったかな。
「て、コトぁ、俺が原因なんだよなぁ・・・。」
なんつーか、兄としてのメッキが剥がれてきたカンジ?
しかもK10くらいの超安い金メッキ。
「あイタぁ~。」
ぺしっと自分の額を叩く。
でも、俺にとっては痛い事でも、弟のサクにとっては悪い事じゃない。
「うけけ。大いに悩め、考えろ青少年。」
一度剥がれちまえば、後がラクだ。
ま、薄々は勘付いていたんだろーけど。
「さて、寝るのも飽きてきたな。」
視力は完全に戻ってきてないけど、明暗くらいははっきりと解るようになった。
物の形もおぼろげながら。
じゃあ、俺も情報収集でもって思ったんだけど・・・宿の1階の所にバーみたいな食事スペース?ラウンジ?あったみたいだったな。
人の気配も多かったし、アルコールの匂いもした。
そこなら・・・。
-コンコン-
「?」
ふいに何かを叩く音。
多分、扉をノックする音だと思うんだけれど・・・。
「お客さん、夕食の件だけど。」
「あぁ、済みません。今、連れが出てて・・・あだッ?!だッ!」
ベッドから降りて、ノックされた扉に近づこうとしたら・・・コケた。
あー、もー、嫌。
こんなんばっか。
「お客さん?!どうしたんだい?」
「あはは、ちょっとけっつまづいちゃって。」
「ちょっ、ちょっと大丈夫かい?」
ちょっぴりアゴを打った・・・ヒリヒリする。
「あ~、もぅ、いえね、ちょっと目が不自由なもんで。」
もぞもぞと這い蹲りつつ、なんとか扉を開ける。
「そうなのかい?あー、顎擦りむいちゃってるねェ。」
年の頃・・・50代前後かなぁ、おばちゃんの声。
歩く音の重さから、ちょっぴりひま・・・いや、中年相応の体型なカンジ。
なんとか、おばちゃんの手を借りて立ち上がる。
「あぁ、お手数をおかけしまして・・・。」
「こんな身体でここまで旅するの大変だったろう?ここへは仕事かい?」
・・・仕事・・・ねぇ?
「いや、えぇ、そんなところで。でも、ほら、この身体でしょう?出来る仕事なんてたかが知れてて・・・。」
知れてて・・・え~と、どうすべ?
「まぁ、そうだろうねェ。」
「あ!あ、そうそう!出来る事なんて、人の身体のコリを揉みほぐす事くらいで。それで以前から小銭を稼いでるんスよ。」
盲目の方がやる職業は、按摩師くらいしか思い出せなかったデス。
あと・・・座頭市?って、それは職業じゃないか。
・・・ん?あの人も一応職業は按摩師か・・・。
発想が貧困で申し訳ありません。
点字なんて、この世界ないだろうしなぁ。
「そりゃあ、また。そんなんじゃ、たいして稼げないだろ?」
この世界じゃ、国家試験とか、そういう資格とか必要じゃないだろうしな。
て、もしやこれはチャンスなのでわ?
「ま、そりゃあそうなんスけど、こういう宿屋で部屋を取ったりですね、片隅でやらしてもらうんスよ。」
嘘八百。
でも、移動手段が瞬間移動でもない限り、機械文明にあるような乗り物がないこの世界なら、旅は相当の疲労を蓄積させるはずだ。
リラクゼーションなんつー言葉はないと思うしな。
「どうでしょ、女将さん、ちょっと体験してみては?あぁ、勿論、お代はいらないです。」
「今かい?」
夕飯の伺いをしに来たんだ、これから忙しくなるのだろう。
でも、ここで押しとかないと。
「すぐに済みますから、ささっ。」
俺は女将さんを部屋の中へと促す。
「席に座って頂いて、揉んでもらいたい所・・・あー、時間もないし、肩でいいっスかね?そこに手を持っていって頂ければ。あぁ、もう充分っス。」
なんか、喋り方が変なキャラになっているが、まぁ、いいや。
俺の中の小間使いキャラは、これで。
ではでは、俺様のテクニックを見せてやろうではないか。
マッサージは、兄弟での罰ゲームから、同級生等のご機嫌取りまで、今まで何度となくこなしてきた事かっ!
・・・・・・あ、今、ちょっぴり泣きたくなったわ、俺。
「では。」
ゆっくりと肩全体を手の平で、2,3度撫でるように揉んでから、首筋を指の腹で押す。
揉むというより、圧力をかけたり抜いたり。
「あぁ、やっぱり凝ってるっスね、立ち仕事ばかりだからっスよ。」
俺、意外とこれでイケるかも。
「アンタ、うまいねぇ。」
女将さんの感嘆の声。
「俺の故郷では、指圧の心は母心と言いまして、母の深い慈しみの心の如く揉みなさいという有名な教えがありまして。」
今は安眠枕も作っています。
いや、本当、すみません。
嘘をついているわけじゃないので、許して下さい。
「そりゃ、いい教えだわ。」
俺もそう思います。
いや、マジで。
しかし、これは我ながら、なかなかにしてアリだな。
「なかなかにいい腕だねェ、アンタ。」
「はぁ・・・まぁ、これが稼ぎの中心ですから。」
チャーンス(ニヤリ)。
「どうです?今夜、下で営業ってのは?あぁ、勿論、場所代は払います。えっと、一人辺り・・・。」
俺は指を3本立ててみせる。
と、その指が掴まれ、握った指をぐぐぐっと1本追加で立たせられた。
・・・いや、まぁ、そこまで儲けようとは思ってないけどさぁ・・・。
「その代わり、近所の御婦人方も呼んでやるさ。」
・・・確かに儲けよりは、多種多様な人間を相手にする方が、大事っちゃ大事なんだけどさぁ・・・。
うぅ・・・やっぱり素人の付け焼刃だけの商売はダメか・・・。
「お願いします・・・。」
「あいよ。」




