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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅱ楽章:皇子の瞳が映すモノ。
30/54

第28曲:Wake up !!(アルム視点)

お待たせしました。

第Ⅱ楽章開演です。

「済まないね。」


「いえ。」


 段々と解ってきた事がある。

この世界の地方領主というのは、大幅な裁量権を持っていて、基本的には自治領のような状態になっている。

街という形態は、領主の城を中心として、城塞のように存在するのが典型のようだ。

典型ではあるが、街自体の形態は領主が自由に決定出来るらしい。


「しかし、この街は凄いな。」


 あれから半日以上かけて、最寄りの街、治療士がいる確率が高い場所()へ来ていた。


「調子はどうだい、イクミ?」


 街に入る直前、イクミは盛大に倒れた。

いや、転倒した。


「ダメ、痛ぇ・・・それに・・・。」


 瞳に痛みを覚えたイクミは、今は街の宿屋のベッドの上だ。


「まだ"視力"が戻らねぇ。」


 能力を過剰に使った反動か、はたまた無意識下の抑制か。


「治る見通しはありそうかい?」


「ん~、多分、2,3時間後くらいには・・・。」


 随分と具体的な気がする。


「今、弟が使ってる。」


 ベッドの上に横たわり、腕で顔の部分を覆ったまま、微動だにせずイクミは答える。


「弟?」


 確か、イクミが眼の力を使っている時は、弟さんは視力を失うんだったな。

という事は、つまり・・・。


「今は弟さんが使っているという事?」


「あぁ、不甲斐無い兄の尻拭いで大変らしくてさぁ。」


 目は見えていないが、顔をこちらに向けてイクミは苦笑している。


「物騒だな。」


「あ?いやいやいや、弟は兄と違って、マトモ過ぎる程マトモでさ。弟が使うのは、俺とは全く違う力だぜ?」


 そこは双子でも似なかったという事か。

オレも兄上と中身どころか外見が違うから、人の事はとやかく言えないか・・・。


「弟の力は、"世界を見渡す力"・・・まぁ、なんだ、探し物・失せ物を見つけさせたら、百発百中、お茶の子サイサイ、何でも朝メシ前ってな。」


 弟さんに対する評価がやたら高いな。

・・・兄弟って、何処もそんなものなのだろうか?

そういうのは、自分のところだけで、例外中の例外かと思っていた。


「仕方が無い。その間オレはアンソニーと一緒に情報収集と買い物をしてくるさ。」


「悪いな。自業自得なんだけど、頼むわぁ~。」


 緊張感の欠片もないというか・・・。

出来る事が休養と解っているという事だな。

こうやって、自分のやるべき事をきちんと見つけられて実行出来るのが、イクミの長所だ。


「行こう、アンソニー。」


「はい。」


 この世界での身分がないオレ達は、常にアンソニーと行動を共にしている。

街に簡単に入れたのも、彼のお陰だ。

彼の騎士としての身分は、しっかりしたものであり、オレ達は彼の従卒者扱いで街に入る事を許可されていた。


「都市を4つに区切るか・・・。」


 街に入って、一度アンソニーと一緒に回った時に確認した。

円形の街の中央に商業区と人間の住居区。

その円形の外周を内と外の二重の外壁で包んだのがエルフの居住区。

果物の実と皮というイメージをすると解り易い。

エルフの居住区が2つあるのは、男女を別々に"収監"する為らしい。

それはそうだろう。

増え過ぎても、減り過ぎても困るからな。

やはり、何らかの利益があるという事だ。

それも調べなきゃならないんだが・・・さて・・・。


「ねぇ、アンソニー?」


 準備段階として、その前にやらなければならない事がある。


「なんでしょうか?」


「・・・少し、お金を貸してくれない?」


 ほとほと情けない話なのだけれど・・・当然、オレ達はこの世界の通貨は所持していないわけで・・・。


「自分も持ち合わせはさほどないのですが、一体何を買うおつもりですか?」


 イクミには悪いと思う。

彼の優しさは美点だ。

だけど、オレはそれよりも彼のその優しさを護りたい。


「アンソニー、君には兄弟はいるかい?」


「?・・・いいえ。」


「そうか・・・イクミは本当の自分っていうものを探している。」


 これはオレなりの分析・解釈だ。


「彼には弟がいて、弟から見た理想の兄というのが、今までの自分という存在だった。そういう意味では、"この前の彼"が本来の自分に一番近いのだと思う。」


 ある意味、ゾッとする話。

ゾッとする話ではあるけれど、今のイクミを見ているとそれも違う気がしてきた。


「けれど、彼はそれもよしとしない。その先に自分が自分らしくいられる理想の姿を探しているんだ。」


「はぁ・・・。」


 突然過ぎたかな?

それともイマイチ理解出来ないか。

では。


「君は・・・良き騎士になりたいと思うかい?」


「勿論です。」


 即答。

まっすぐとした瞳。


「でも、君は既に騎士なのだろう?それはこの街に入った時にも認められている。しかし、今の君は自分が納得出来る理想の騎士ではない。そこに辿り着いた時、君は初めて胸を張って、己が騎士だと言える。違うかい?」


「そう・・・かも。」


「つまり、イクミもそれと同じ事さ。」


 だから、この旅もその一環。


「と、まぁ、前振りが長いけれどさ。そう考えると・・・やっぱりオレもそれ相応の覚悟とそれ相応のオレにならなければいけないよね、と。少しでも彼と同じ位置にいる為に。彼の目的を助けられるようにしないとね。」


 アンソニーは首を傾げたままだが。

オレの場合は、イクミと別で・・・少しでも以前のオレに戻りたい。

この2年で成長した部分はあるが、そういったものを除いた一部分のオレに。


「で、ちょっと買いたい物が出来てしまってね。困った事に返せるアテはなかったりするんだが・・・。」


 無利子・無担保で金銭を貸せというのだから、不躾な願いもあったものだね。


「足りるかどうかは解りませんが、一体何を?」


「うん、あの辺りのを・・・。」


 オレは街の一角の店頭に出ている、ある商品を指さす。


「あぁ、成程。」


「を、3つ、4つ。」


「はぃ?」


「う~ん、やっぱりそれくらいあるといいなぁ。」


「アルムさん?」


「やっぱり心もとないからね、こういうのは大事だよ、大事。」


 オレは唖然としているアンソニーに微笑みかけた。

イクミは自分の目的と同時にオレの目的をも果たそうとしてくれている。

そういう彼だからこそ、オレはそうしなければならない。

懐かしいスタイルに戻りつつあるアルム君でした。

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