第26曲:My heart draws a Dream(アルム視点)
「3つくらい確認したい事があるんだ。」
アンソニーの治療に関しては、特に異論はない。
彼はきちんと命というモノがどういうものかを理解している。
善・悪の判断を自分でしっかり出来ている・・・というより、騎士としての自立というのか。
基本的には敵ではないという認識でいいだろう。
「何でしょう?」
・・・何故、オレには丁寧語?
まぁ、いいか。
「君はさっき、"血中魔力"を使用すると言ったね?」
「はい。」
これはつまり、この世界の"術"と呼ばれているモノは、生物の血液中に内在する魔力と呼ばれる"何"かが、必要だという前提だ。
「そして、君は、"流石、エルフの血"と言った。」
「それも言いました。」
正直なところ、自分の仮説を補完したいだけなのだけれど・・・仮説が外れて欲しいとも思う。
こういう時、自分の想像力というか、妄想というか、そういうのが豊かな事を呪いたくなる。
「んで、君は自分の血中魔力を買われて、国に登用される事になり、今に至ったと。つまり、それは"それだけ評価される"モノなんだね?」
「えぇ、まぁ。自分はそこまで強くありませんが。」
「はぁ・・・。」
困ったもんだ。
「今の確認の一体何が?」
問題でもあるのかと聞いてくるアンソニー。
君に問題があるわけじゃないんだよ・・・。
「えぇと・・・アルム、もしかしなくても嫌な流れ?」
なんとなく察したイクミが、訝しげにオレを見る。
このなんとなくでも察する事が出来るのが、イクミの頭の良さだと思う。
「いや、ちょっと、キレそうなだけ。」
キレないけれど。
どちらかというか、呆れるというか・・・何処の特権階級というのもそんなものなのかな。
「どうやら、エルフに安息の地を見つけるのは難しいかも・・・。」
「は?」
「いや、ある意味では簡単なんだけれどね、うん。」
この世界の協力者が最低でも一人、しかも高度な条件付きが必要ではあるが。
ただ・・・。
「ん?」
ちょいちょいとオレはイクミを手招きする。
「なんね?」
「いいから。」
近づいて来るイクミの首に手を回し、アンソニーに聞こえないように背を向けて、彼の耳元で囁く。
「いや・・・下手したら、オレ、この国、滅ぼすかも。」
「はぁっ?!」
「声デカい。」
まさか人生で"2回も"傾国を考える事になるとは思わなかったよ、オレだって・・・。
「とりあえず、整理すんぞ?」
自分の指でこめかみを押さえつつ、眉間に皺を寄せるイクミ。
目つき悪いなぁ・・・。
「うん。」
「アルムが聞いたのは魔法?それの必要要件と特殊性だろ?」
魔法の必要要件は、血中内に魔力を持っているコト。
特殊性というのは、術を使える人間、或いはその資質を持つ者は、国が重用する事がほとんどだというコト。
あの治療術を見れば、その貴重性が理解出来る。
「その通り。」
「まぁ、アレはスゴいよな。ドルちゃんの中に魔力があって良かっ・・・あ゛。」
気づいたか?
意外と早い・・・いや、元々イクミは頭の回転が速いんだから、こんなものか。
発想力さえあれば、簡単に辿り着くつけるだけの能力がある。
「もしかして・・・エルフも魔法使えたり・・・する?」
「するんだろうね、きっと。」
それも人間が流石と唸るくらいの規模の魔力量で。
「えぇと、アンソニーくん?もしかして、エルフをこうやって隔離するのは、国の方針だったりするのかな?」
イクミがチラリとアンソニーの方を向き、オレがしたかった"最終的"な確認をする。
「他国はどうか解らないが、我が国ではそうだ。ただ・・・。」
「ただ?」
「その方法は各領地を任されている貴族に一任されている。」
決定的かな、コレは。
「ちなみにこの地の伯爵様は?」
「・・・"例外中の例外"だ。」
良かった。
ここまで扱いが悪いのは、他には聞かないという事だ。
もっとも、聞かないというだけで、実際はどうかは解らない。
悪評なんて、誰もが外に漏らさないように工作するだろう・・・わざと広めるという計略でない限りは。
「と、いう事は、やはりエルフの隔離政策は、外界からの情報を得られないようにする為か。」
面倒。
・・・昔の口癖が思わず出そうになった。
「人間より高い魔力を持つエルフが、魔法を得てひいては人間よりも優位に立つのを防ぐ為に。」
その為に各地に小分けにしているのだろう。
男女を分けるのも出生率を上げないようにする為なのだろうか?
「あ~、やっぱ、ブッ飛ばしときゃ良かったか?伯爵様とやら。」
・・・本当、物騒だな。
「ん?でもさ、それだったら、こんな面倒なコトをするよりも、虐殺の方が楽じゃね?今はこれだけ人間が優位なんだし。」
排斥だけなら、確かにその方が手間が少ないな。
イクミの言う通りだ。
今なら、人間の方が数も力も優位にある。
危険性を排除するなら、今のうちにしておくべきだ。
「そうだね。つまり、何か利益があるってコトだね?」
「労働力・・・なわきゃないか・・・一番は・・・。」
イクミが考えながら、空を見る。
「一番は?」
「やっぱ魔力かなぁ?」
「魔力。」
「隔離する理由が魔力なら、利益になんのも魔力だべ。」
「一番単純、且つ明瞭だな。」
「だべ?」
コイツはちょっと腹を括らなければ・・・ならないかな・・・。
思った以上に大事になって、思った以上にこの世界に干渉するコトを・・・。
「はぁ、まぁ、とにかくだ。アンソニーくん、ここから3日以内で行けて、治療術が使えそうな人がいる確率が一番高いのは何処かね?」
イクミの言う通りだ。
今は目先の命を救う事が先決だ。
エルフの魔力云々の問題は、まだオレ達がどうこう出来る問題じゃない。
ただ・・・あの男・・・アンソニーの上司。
アイツの出方が気になる。
あの男の隠していた殺気が。
一切出さないように隠していた。
それ以上の何かも確実に。
オレにはその確信だけはある。
それが・・・ロクな事にならなければいいが・・・。
次回、第Ⅰ楽章ラストです。
打ち切るとしたら、このタイミングですかね?(トオイメ)




