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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
27/54

第26曲:My heart draws a Dream(アルム視点)

「3つくらい確認したい事があるんだ。」


 アンソニーの治療に関しては、特に異論はない。

彼はきちんと命というモノがどういうものかを理解している。

善・悪の判断を自分でしっかり出来ている・・・というより、騎士としての自立というのか。

基本的には敵ではないという認識でいいだろう。


「何でしょう?」


 ・・・何故、オレには丁寧語?

まぁ、いいか。


「君はさっき、"血中魔力"を使用すると言ったね?」


「はい。」


 これはつまり、この世界の"術"と呼ばれているモノは、生物の血液中に内在する魔力と呼ばれる"何"かが、必要だという前提だ。


「そして、君は、"流石、エルフの血"と言った。」


「それも言いました。」


 正直なところ、自分の仮説を補完したいだけなのだけれど・・・仮説が外れて欲しいとも思う。

こういう時、自分の想像力というか、妄想というか、そういうのが豊かな事を呪いたくなる。


「んで、君は自分の血中魔力を買われて、国に登用される事になり、今に至ったと。つまり、それは"それだけ評価される"モノなんだね?」


「えぇ、まぁ。自分はそこまで強くありませんが。」


「はぁ・・・。」


 困ったもんだ。


「今の確認の一体何が?」


 問題でもあるのかと聞いてくるアンソニー。

君に問題があるわけじゃないんだよ・・・。


「えぇと・・・アルム、もしかしなくても嫌な流れ?」


 なんとなく察したイクミが、訝しげにオレを見る。

このなんとなくでも察する事が出来るのが、イクミの頭の良さだと思う。


「いや、ちょっと、キレそうなだけ。」


 キレないけれど。

どちらかというか、呆れるというか・・・何処の特権階級というのもそんなものなのかな。


「どうやら、エルフに安息の地を見つけるのは難しいかも・・・。」


「は?」


「いや、ある意味では簡単なんだけれどね、うん。」


 この世界の協力者が最低でも一人、しかも高度な条件付きが必要ではあるが。

ただ・・・。


「ん?」


 ちょいちょいとオレはイクミを手招きする。


「なんね?」


「いいから。」


 近づいて来るイクミの首に手を回し、アンソニーに聞こえないように背を向けて、彼の耳元で囁く。


「いや・・・下手したら、オレ、この国、滅ぼすかも。」


「はぁっ?!」


「声デカい。」


 まさか人生で"2回も"傾国を考える事になるとは思わなかったよ、オレだって・・・。


「とりあえず、整理すんぞ?」


 自分の指でこめかみを押さえつつ、眉間に皺を寄せるイクミ。

目つき悪いなぁ・・・。


「うん。」


「アルムが聞いたのは魔法?それの必要要件と特殊性だろ?」


 魔法の必要要件は、血中内に魔力を持っているコト。

特殊性というのは、術を使える人間、或いはその資質を持つ者は、国が重用する事がほとんどだというコト。

あの治療術を見れば、その貴重性が理解出来る。


「その通り。」


「まぁ、アレはスゴいよな。ドルちゃんの中に魔力があって良かっ・・・あ゛。」


 気づいたか?

意外と早い・・・いや、元々イクミは頭の回転が速いんだから、こんなものか。

発想力さえあれば、簡単に辿り着くつけるだけの能力がある。


「もしかして・・・エルフも魔法使えたり・・・する?」


「するんだろうね、きっと。」


 それも人間が流石と唸るくらいの規模の魔力量で。


「えぇと、アンソニーくん?もしかして、エルフをこうやって隔離するのは、国の方針だったりするのかな?」


 イクミがチラリとアンソニーの方を向き、オレがしたかった"最終的"な確認をする。


「他国はどうか解らないが、我が国ではそうだ。ただ・・・。」


「ただ?」


「その方法は各領地を任されている貴族に一任されている。」


 決定的かな、コレは。


「ちなみにこの地の伯爵様は?」


「・・・"例外中の例外"だ。」


 良かった。

ここまで扱いが悪いのは、他には聞かないという事だ。

もっとも、聞かないというだけで、実際はどうかは解らない。

悪評なんて、誰もが外に漏らさないように工作するだろう・・・わざと広めるという計略でない限りは。


「と、いう事は、やはりエルフの隔離政策は、外界からの情報を得られないようにする為か。」


 面倒。

・・・昔の口癖が思わず出そうになった。


「人間より高い魔力を持つエルフが、魔法を得てひいては人間よりも優位に立つのを防ぐ為に。」


 その為に各地に小分けにしているのだろう。

男女を分けるのも出生率を上げないようにする為なのだろうか?


「あ~、やっぱ、ブッ飛ばしときゃ良かったか?伯爵様とやら。」


 ・・・本当、物騒だな。


「ん?でもさ、それだったら、こんな面倒なコトをするよりも、虐殺の方が楽じゃね?今はこれだけ人間が優位なんだし。」


 排斥だけなら、確かにその方が手間が少ないな。

イクミの言う通りだ。

今なら、人間の方が数も力も優位にある。

危険性を排除するなら、今のうちにしておくべきだ。


「そうだね。つまり、何か利益があるってコトだね?」


「労働力・・・なわきゃないか・・・一番は・・・。」


 イクミが考えながら、空を見る。


「一番は?」


「やっぱ魔力かなぁ?」


「魔力。」


「隔離する理由が魔力なら、利益になんのも魔力だべ。」


「一番単純、且つ明瞭だな。」


「だべ?」


 コイツはちょっと腹を括らなければ・・・ならないかな・・・。

思った以上に大事おおごとになって、思った以上にこの世界に干渉するコトを・・・。


「はぁ、まぁ、とにかくだ。アンソニーくん、ここから3日以内で行けて、治療術が使えそうな人がいる確率が一番高いのは何処かね?」


 イクミの言う通りだ。

今は目先の命を救う事が先決だ。

エルフの魔力云々の問題は、まだオレ達がどうこう出来る問題じゃない。

ただ・・・あの男・・・アンソニーの上司。

アイツの出方が気になる。

あの男の隠していた殺気が。

一切出さないように隠していた。

それ以上の何かも確実に。

オレにはその確信だけはある。

それが・・・ロクな事にならなければいいが・・・。

次回、第Ⅰ楽章ラストです。

打ち切るとしたら、このタイミングですかね?(トオイメ)

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