第25曲:めぐりあい
「ドルちゃん・・・。」
皆が待機していた森に俺達が辿り着いて、再会した彼女はまるで死人のように真っ白だった。
死体を見た事は、祖母の葬式の時だけだったけど。
ただ、その時よりは大分生々しいというか、瑞々しい。
「傷穴は塞げても、出血して失ったは戻らない。呼吸もあるし、即死じゃないから、心臓と肺は無事だと思う。骨折もしていない。他の部分はどうか・・・。」
そう告げるアルム。
確かに死んではいないし、無事とも言えない状態だな。
大体さ、胸辺りを射抜かれてんだもんよ。
しかも、俺の目の前で。
「剣さえあれば・・・。」
小さく呟くアルム・・・こんな時に剣?
何かあるのか?
「なぁ、ドルちゃんさー。」
ゆっくりと横たわる彼女の傍らに座り込む。
「マジ勘弁。俺、泣いちゃうよ?弱虫なんだからさ。」
弟から逃げ出しちゃうような無責任だしな、俺。
「折角、まー、他種族だけど?異性にモテたってのに。何?結婚してくれちゃったりするんじゃなかったん?」
「イクミ。」
生まれてこの方、気になった異性なんざ、せいぜい2,3人がいいとこだ。
悪いかコノヤロォ。
アルムみたく俺は美形じゃないんじゃぃ。
「あー、もー、くっそぅ・・・考えろ、何か考えろ、俺!」
無い脳ミソ使っても、本当は解る。
俺にあるのは、視る力だけ、破壊・・・いや、滅する力だけだ。
それ以外は・・・あるけど、ナイ。
こう考えている間にも、ドルテは弱っていく。
時間なんざ・・・もう・・・。
「イクミ!アルム!」
完全に手詰まりになった俺の名を叫ぶ声。
「怪我人か?!イクミ、どいて!」
俺の視界に身体ごと割り込んで来たのは、アンソニーの横顔だった。
「これは酷い・・・でも・・・。」
でも?
今、でもって言ったよな?
俺の横で自分の革手袋を止めているバンドを外し、素肌を晒すように服の袖を肘辺りまで捲くるアンソニー。
「流れ出ている彼女の"血中魔力"を使う!」
俺を促した後、たっぷりと血を含んだ服をわし掴んで、傷口に手をあてる。
「?!」
アンソニーの腕が光っている・・・?
違うな、腕に線が走っている。
「血管か・・・。」
あ。
アルムの指摘で俺にも解った。
血管に沿って光っているのか、アレ・・・。
腕の一定以上の位置まで光った線は、次の瞬間何かに押し出されるかのように手の先へ・・・。
光は指先へとどんどん加速し、収束してゆく。
「流石、"エルフの血"・・・。」
「・・・終わったのか?」
「えぇ。」
確かに心なしか、ドルちゃんの顔の青白さは良くなったように見えなくもない。
けれど、一向に目を覚ますような気配は・・・。
「自分の資質だと、傷を直すまでが限界だ。意識を覚醒させるまでには至らない。」
「傷は確実に?」
「治っている。」
顔色の違いを見れば、説得力はあるけど。
「流れ出した血は作り出せない。」
あくまで傷だけか。
致命傷ってヤツからは回避出来たけど、現状が良好というわけでもない。
「このまま昏睡状態ってのは厄介だよな?」
通常状態とは程遠いし。
「当然だ。このままでは、生きる為の栄養摂取すら不可能だから・・・。」
そうか、点滴なんて器具があるわけじゃないんだもんな。
寝たきりの人間の延命とか栄養補給なんて土台無理か。
一応、栄養剤もバッグには入っているが、それではモノが足りないだろう。
「自分より上の術士・・・本国に近い街に行けば或いは・・・。」
アンソニーが下唇を噛んで呻く。
コイツ、イイヤツだなぁ。
「アンソニーの本国には、強い術士がいるのか?」
「そもそも自分は騎士であって術士じゃない。確かにこの資質を見出されたのが従卒者になったきっかけだが。」
人より優れた資質があれば、戦力として国は抱え込みたがるか。
というコトはだ、アンソニーはそこそこ見込みある騎士だってコトなんかな?
「経験則からするとこのままの状態を、維持出来たとして・・・7日もつか・・・。」
「7日以内か・・・。」
厳しいな。
ドルちゃんを動かす事は出来ない。
てコトぁ、実質3日半・・・1日余裕をもって3日以内が片道圏内ってワケで・・・。
仮にドルちゃんを動かせたとして、彼女の状態からして移動速度が出せない。
これって、アレか?ジレンマってヤツか?
「で?」
俺はさっきから一言も言葉を発する事なく思考したままのアルムに話を振ってみた。
「ん?」
俺、アルムに頼り過ぎかね?
「なにか、言う事とかがないのかとですね、聞いてみたいと思いましてね、アルムさんにご意見を求めた次第でありますよ。」
この際、意見とか提案じゃなくてもいい。
アルムがどういう視点で、何を見て、聞いて、考えているかを多少なりでも知っておきたい。
もし、俺独りで旅を続けるようになった時に役に立ちそうだ。
じゃないと、即日に野垂れ死んだり、誰かに利用されちまいそう。
なんてね。
ただアルム並みとは思わないけど、ちょっぴり、な。
「あ、あぁ、じゃあ、ちょっといいかな?」
俺に促されたアルムは、手を上げてアンソニーを見た。
前作は、魔法自体の存在が希薄な世界だったのですが、果たして今回は・・・。




