第24曲:君がいたから
「アルム・・・。」
ようやく冷静になれた・・・というか"本来の俺"から戻って、前を行くアルムの背に声をかける。
「アルム?」
彼の背は何も応えない。
振り返ろうともしない。
「聞こえない。」
あ、返ってきた。
でも、よりによって・・・。
「聞こえないって・・・。」
返事している時点で、なぁ。
「聞こえないし、聞きたくない。今は、皆が隠れた森へ行くのが先。」
怒ってる。
怒ってるよな、そりゃあ。
「イクミ。」
アルムは振り向かず、歩みも止めず、言葉を続ける。
「少しは自覚してくれ・・・君がいないとオレは"二度と帰れない"。」
「返す言葉もございません。」
俺とアルムの目的は全然違う。
アルムには確固たる目的があって、俺にはそれは曖昧にしかない。
ただ今だけ、同乗しているだけだ。
「まぁ、そんなのはどうでもいいとして。」
「どうでもって・・・。」
目的があるんじゃないのかよ。
「いいか、自分で考えた行動だ、それは誰にも止められないよ。けどね、イクミ、君の行動一つで、今はオレもエルフ達も危険に晒されるかも知れない。一人とは違う、人と共に生きていくには、それも考えて動かないとダメなんだ。」
逆に、一人だけで孤独に野垂れ死ぬ分には構わないってコトか。
ただそれによって、何が起きて、どういう影響が出るかを考えて、責任くらい取りやがれと。
「確かに、そこまでの責任を負えというのは、酷かも知れないけれどね。でも、時にはそういう事を見据えて動かないと。」
アルムは、常にそれを見据えて生きてきたから、それが出来るって事なんだろうな。
「・・・と、言っても、イクミが"ああなる"事を見越せなかった、咄嗟に止めきれなかったオレも悪い。全く以って不甲斐ないのだけれど・・・。」
「・・・どんだけ万能目指してんだよ。」
人の感情を全て見通せるなんてできっこないし、何もかも見越すことなんかも出来ない。
それは"俺達の能力"でも・・・。
「解っているけれど、それでも腹が立つんだよ、自分に。」
「ヲイヲイ・・・。」
そこはどちらかというと、俺に腹を立てるべきだろう。
つか、普通はそういう展開になるべさ。
「なんにせよ、止めてくれてサンキュな。」
あのままいったら、俺は伯爵の"魂ごと"消滅させるまで止まらなかったと思う。
いや、それでも止まったか・・・それと弟の事も。
「イクミが戦った相手を"誰一人殺めてなかった"から、まだ止められる・・・そう思っただけだよ。じゃなければ、怖くて近づけやしない。」
俺の見る背の向こう側が、少し笑っている気がする。
「あぁ・・・声がね、してたんだ・・・。」
「声?」
あの声だけは聞き間違えるはずがない。
『ダメだ!』
「ずっと聞こえてた。」
アルムがようやく俺に顔を向ける。
『ダメだ"兄貴"!』
「・・・弟の声。俺を止める、一線を越えさせない為に。」
「そうか・・・想われているんだな、イクミは。」
アルムの言っている事は一理あるっちゃ、あるんだが。
「俺の能力は、弟との密接な関係というか、バランスで成り立ってんだ。」
だから、場合によっては、互いの身体の状態がある程度把握出来る時がある。
というより、モロに影響したりする。
「互いに綱引きをして、わざと綱を張ったままを維持して力を共有しているようなもんだな。だから、どちらかが強く力を使うと、もう一方に影響が出る。」
「能力を連続使用出来ないのは?」
「それが例外でさ、二人同時に使えないんよ。俺が力を使っている間は、弟はほとんど目が視えなくなるんだ。」
だから、俺が能力を発動させた事は、弟にはすぐに解るだろう。
そして、さっきの身体の事も。
「今回の場合も?」
恐らくそれ以上だ。
俺と弟の場合、互いに綱引きをしていると言っても、引っ張る力は圧倒的に俺の方が強い。
「・・・多分・・・いや、きっと、身体に激痛どころか、瀕死状態・・・だろうな。」
今回はそれぐらい弟の分まで能力を発揮しちまったから・・・我ながら情けない。
「つまり、それだけ兄想いなんだね。」
「は?」
「そうだろう?瀕死状態になってまで、兄を諫める弟なんて、よっぽどじゃないか?」
確かに・・・あれだけ大量に力を"引き戻せ"ば、弟の声も聞こえるだろうってのはあるけど。
「自分に迫る死よりも、兄が愚考を起こさないようにする事を優先するなんてね。」
「あ~、アルム?」
「ん?」
「それは"兄想いな弟"というんじゃなくてな、"兄より優秀な弟"と言ってくれ。しかも、とびきり優秀な。」
マジで、俺が居た堪れなくなるから。
「あぁ、ふむ・・・済まない、兄より優秀な弟という発想が、オレ自身の中で無くて。」
・・・どんだけすげぇんだよ、アルムの兄さんて。
アレか?素手で島ぐらい持ち上げられんだろか?
それとも、こー、30ケタ同士の掛け算くらいをお茶の子サイサイで暗算出来るとか?
・・・それじゃ、ただの万国ビックリ人間ショーか。
「とにかく。頼むよ、相棒。」
「え?あ、あぁ。」
自分の発想の貧困さの隙をついて言われた言葉に、俺は頷くだけだった。




