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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
23/54

第22曲:風の中の花のように

 俺はいいとして・・・なんでアルムはこうもお人好しなんかねぇ。

まぁ、次元を渡る為に、俺に死なれちゃ困るってのは解るんだが、そこまで付き合わんでもいいのになぁ。

第一、この世界にどこまで干渉していいのか、それがどんな結末をもたらすのかも解らないのに。


「でもなぁ、乗りかかった船か。」


 納得がいかないモノは、納得がいかない。

そういう性分なのだから、しゃーない。


「なぁ、アルム?」


「ん?」


 なんとなく聞いてみたくなった。

うん、なんとなく。


「アルムのいた世界ってのも、やっぱり奴隷とか戦争とか、あった?」


 同じように人型やエルフがいる世界なら、或いはもしからしたらと淡い期待を寄せる。

楽園なんてあるワケないのに・・・。


「・・・ある。」


 やっぱりあっさりと期待は壊されたか・・・。


「所詮は人間だもんな。」


「あぁ、否定はしないよ。でもね、イクミ。やっぱりオレの世界でも、そんなのは間違っているという人もいたよ。」


「そうか・・・。」


 つくづく平和ボケしたジャパニーズだな、俺。


「どうせなら、"そっち側"の人間でいたいよなぁ・・・。」


「そうだね。オレの義娘むすめだって、一時期奴隷だったし。」


「は?」


 今、なんだって?

なんか、凄いフレーズが、爆弾が投下されたような。


「一時期奴隷だったって・・・。」


「いや、それも凄い内容だけど、その前。」


 絶対、今すんごい事を口走ったよな?


「間違っているという人間も・・・。」


「ちゃうわ、ボケェ!今、"オレの娘"とか言わんかったか?」


「ん?あぁ、可愛い義娘むすめがいるよ?オリエっていう。」


 空耳じゃなかった件について!


「おまっ、ちょっ、既婚者?!子持ち?!」


 オレとそう年が変わらないように見えるのに?!

いや、確かに俺の国でも法律上は、婚姻出来る年だけどさ!


「あ・・・そうか。いや、違うよ。結婚はしていない。オリエは養女だ。あ、いや、妹か?奴隷だったのを解放して、一緒に暮らしていたんだ。」


 ・・・焦ったわ。

しかし、養女っていうのでも驚きだな。

そりゃあ、次元を渡って帰りたくもなるか・・・。


「2年か・・・見違えているだろうな・・・もう、オレの顔を覚えていないかも。」


「アホッ。親の顔を忘れるガキがいるか。しかも自分に自由をくれた人間だぞ?」


 俺だったら死んでも忘れんし、忘れないようにするさ。


「ありがとう。」


 そう一言だけアルムは俺に呟いた。

苦労してんだな、アルムも・・・子持ちなんて。


「お二人とも、こんな後ろにいたんですか?」


「あれ?ドルちゃん、どったの?」


 少しよたついた足取りで、こちらに向かってくるドルちゃん。

結構歩いたもんな、そりゃあの壁の生活範囲じゃ足にもクるか。


「もう少しで隠れられそうな森に入りますよって、言おうと・・・。」


 森か・・・夜になって、そこに入れば逃げ切れる確率も生存の確率も上がる。

・・・森の中が危険じゃなければだけど・・・。

こぅ、あるじゃん?

ファンタジーの世界お決まりのモンスターとか?

だって、俺の目の前にいるのはエルフなんだぜ?

不思議じゃない。


「そっか、わざわざ教えてくれてありがと、ドルちゃん。」


「いえ、私は伝言を頼まれただけですから、お礼を言われる程では・・・。」


 顔を赤くしたドルちゃんが、近寄ってくる。

大体、足をフラつかせながらも、わざわざ言いに来てくれたんだ、感謝せないかんだろ。

それにしても、可愛ぇなぁ・・・このコが俺のお嫁さんかぁ・・・て、何を考えてんだか・・・。

我ながら呆れる。

それもこれも、アルムが変な話をするからだ。


「イクミさん、どうしたんですか?」


「いや・・・。」


 訝しげに顔を覗き込む、ドルちゃんがラブリーだからです。

とは、言えないよなぁ。

なんだろ、参ったね、コリャ。


「二人共!伏せろッ!」


 へ?

声に出して反応する暇も無いアルムの突然の叫び。

それが何に対しての声だったのかも理解出来ないまま・・・。

呆然と、呆然と。


「ぁ・・・。」


 ただ目の前のドルちゃんが崩れ落ちるのを見ていた・・・。

ゆっくりと花びらが散るかのように、ふらりと。

胸に大輪の紅の華を咲かせて。


「ドルテ!」


 ドサリと倒れた彼女を抱き止める。

その胸には、一本の矢が生えて・・・。


「また・・・失敗・・・しちゃ・・・。」


「下手に喋るな!イリアさん!ドルテが!」


 彼女の声を遮って、とにかく大声でイリアさんを呼ぶ。

いや、イリアさんでなくてもいい、誰か!


「ごめ・・・ん・・・なさい・・・。」


 なんでだ?!

何で彼女が謝るんだ?!


「な・・・たの・・・お嫁さ・・・ん・・・なれなく・・・て。」


「ドルテ!」


 ゆっくりと彼女の身体から力が抜けていくのと、アルムの声でイリアさんが俺達の所へ駆け寄って来るのは、ほぼ同時だった。


「イリアさん、彼女を早く森へ!追っ手が来ます!」


 俺は・・・彼女の手を取ってやれなかった・・・。

俺から引き剥がされていく彼女・・・手の中に残る温もりが消えていく・・・。

彼女は俺と出会わなければ、こんな事にならなかった・・・でも・・・。


「どうして・・・。」


「イクミ?」


 だとしても、何故、彼女じゃ、ドルちゃんじゃなきゃいけないんだ?


「悪ィ・・・アルム・・・。」


 甘かった。

何もかもが。


「俺ァ、無理だわ。」


 心の中で、何かが叫んでいるのが判る。


「イクミ、落ち着くんだ、まずは森に。」


「大丈夫、冷静だよ・・・ただ、もう限界・・・なんだ。」


 どうしても、自分の中から溢れ出るソレを止められない。

止めたくないと、そう思う。

・・・もうどうでもいいとさえ。

あるがままの己を"吐き出せ"ばいい、"揮え"ばいいと。


「そりゃあさ、世の中、不公平で理不尽なコトはわんさかあるさ。そんくらい解る。でも、もう我慢とか黙ってるだけとか、意味わかんねぇ。」


 わかんねぇよ・・・。

眼が痛い・・・カラダが熱い。

カラダの中心にある蓋が少しずつ開いて、溢れ出た何かが隅々まで浸透してゆく。

急激に軽くなる躯体くたい、全ての矛先は遥か先だが、はっきりと俺には見える。

"人間共"だ。


「イクミッ!」


 アルムのその声の意味が解らない。

自然と俺は、迫り来る存在に向いて、そして駆け出した。

躊躇いなく力を、目の前の"敵"を駆逐、排除する為に。

誰がなんと言おうと、だ。

今の俺を止められる存在がいるとしたら、いつもの日常にいる弟と・・・"ドルテ"だけだ。


俺はこの世界に干渉する。



恐らく圧倒的に近しいだろう力で・・・。

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