第21曲:I call your name(イリア視点)
二人の人間の男は別人だった。
リルを助けた時も、外から来た人間を撃退した時も、二人は全く違う顔をしていて・・・一体どれが本当なのか・・・。
そう考えると、私は二人の事をほとんど知らない。
人間という生き物自体をよく知らないのだから、それは当然と言えば当然だ。
外から来た珍しい髪色の人間の男で、二人ともお人好し・・・いや、マヌケだ。
だが脱出の際も、二人はまた違った顔を私に見せた。
『これでよし。』
『なんなんだそれは?』
『秘密。知らないのなら、知らないままでいいものだよ。』
そう言ってアルムが作った黒い小さな玉を幾つも作った"ソレ"は、轟音とともにとてつもない衝撃と火を生み出す。
そういう"武器"らしい。
そんなモノは聞いた事がない。
ましてや外の人間が使っているところも見た事がない。
それにイクミもだ。
『豚を解体して、肉と骨を小分けに人形になるように袋に詰めてくれない?あ、内臓はひとまとめで。顔はいらないよ。』
こんなものを何に使うのかと思ったら、焼死する私達の代わりだという事らしい。
そういう"策"だと・・・。
それよりも。
『映し出せ・・・刻の終わりを・・・。』
壁の一角に向かってイクミが呟き、手にした短剣をかざすと、壁は砂のように崩れ消え去っていた。
まるで初めからそんなモノは存在しなかったかのように。
『さぁ、逃げよっかね。』
微笑んだイクミの言葉に・・・なにか・・・そう希望のようなモノを感じたのかも知れない。
それと同時に彼等の事を何も知らないという事実を突きつけられた。
「一体、オマエ達は何者なんだ?!」
私はここに至ってというのも、なんともいえないが、初めて彼等の事を知りたいと思った・・・のではないかと。
疑問形なのは、まだ私自身の心がはっきりしてないからだろう。
どんな顔の彼等も。
「何者と言われてもなぁ?"人間"としか言いようがないんだけど・・・。」
苦笑するイクミ。
コイツは・・・。
「馬鹿にしてるのか!」
人が真面目に聞いているというのに!
「馬鹿にしているわけじゃないよ。オレもイクミも、ただの人間だよ。」
穏やかな口調でアルムには、イクミと違って真摯さが感じられる。
だが、私が聞きたいのはそんな事じゃないんだ。
「はぁ・・・だからさ、他の人より、ちょ~っち色んな事を知ってたり、ちょこっと力があったり。でもさ、それって誰だってあるだろ?大なり小なりの差異がさ。」
「その程度で済まされる範囲の問題ではないだろう、オマエ達は・・・。」
「それでも人間だよ。イクミも言ったでしょう?誰でも大なり小なりある差異、個体差。それがほんのちょっとイクミには顕著にあるというだけ。もし、それからも逸脱してしまったら、もはや人間には戻れない。」
最後の言葉は恐らく、私ではなくイクミに向けたモノなのだろう。
「ね?」
首を竦めるイクミ。
表情には悪戯をする前に、その仕掛けが見つかってしまったような子供の顔に似ている。
「だから人間でいたいんよ。こんな力、使わんにこした事ない。オレは弟の自慢の兄でいられれば、それで良かったんだからさぁ。」
これ以上は突っ込んで聞けないか・・・。
聞く資格は私には"まだ"無い。
そういう事だ。
「ま、どうしようもなくなったら、使うケド。」
「今までの前振り、台無しだな。」
・・・近くにいる事で知ってゆくしかないか。
「そう言えば、オマエ達はこの後はどうするんだ?」
私達が自由になれるかどうか解らないが、最後まで付き合う必要も義理も彼等にはない。
もし、自由になれたとして、この後、彼等はどうするのだろう?
「どうするって・・・イクミ?」
「あぁ、多分、旅をする事になるんじゃないかねぇ。」
旅・・・。
「その旅は・・・目的地があるのか?」
「・・・あると言えばある、かな、うん。」
何故、そんなに曖昧なんだ?
「その旅は・・・。」
もしかしたら、私も・・・。
「さてと、もう少し急がなければ、そろそろ追っ手が来る頃だね。」
一緒に・・・。
そう言おうと思った一瞬をアルムが遮る。
「アルム?」
ごそごそとしているアルムにイクミが問いかけると、その手には変な形状の木の棒を握り込んでいた。
「誰かが殿を持たなきゃならないでしょう?」
「・・・まぁ、言い出しっぺだしなぁ、俺等。」
イクミはイクミで更によく解らない銀色の筒のような棒を握っている。
「とにかく急ぐぞ。」
進行速度を上げれば、二人が無謀な戦いをせずに済む。
なによりまだ自由を掴めていない・・・彼等にその瞬間を見せてはいないから。
「私は・・・・・・オマエ達に傷ついて欲しくはない・・・。」
たとえ何処の誰だか、どんなヤツなのか詳しい事をほとんど知らないとしても。
彼等がここまで私を、私達を連れ出してくれた事には違いない。
「ははっ、イリアさんは優しいなぁ。だから、頑張っちゃうんだよな、俺は。」
不敵に笑っている彼の笑顔に思わず見とれてしまう・・・。
誰かに優しいと言われたのは久し振りだ。
「イクミ、酷くないか?」
「あん?」
「"オレ達"ってそこは言ってくれないと。」
「いやぁ、カッコイイネ、アルムくん。」
「言ってろ。」
どうしてこの二人はこうなんだ?
こんな状況になっても、当然のように自然に。
「そこに・・・偽りがないからか・・・。」
「ん?」 「あ?」
私の呟きに示し合わせたように同時に二人の視線が向く。
「なんでもない。」
「何か、変なのイリアさん。」
「うるさい。」
どうして、こんな事で、こんな事で私がいちいち喜んだりしなければならないんだ!
ただ、何故だか、この二人がとても羨ましく思えて・・・。
「いいな、二人とも。」
「何が?」
「イリアさん、熱でもあるの?」
「・・・もう二人とも黙れ!」
自然体なのもいいが、緊張感が無さ過ぎだ!




