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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
21/54

第20曲:前へ

「さて、何時まで誤魔化せるかな。」


 アルムの呟きは、特に引っかかる事もなく俺の脳ミソを絶賛素通り中・・・。

マジで眼が痛ェ。

それどころじゃねぇっての。

結局、能力を使って壁を壊したんだが・・・。


「大丈夫か?」 「いや、痛イ。」


 正直に言う。

強がったところで、何が変わるわけでもない。

いや、言ったって何が変わるわけでもないんだけれど、なら言った方が気分的にはいい。

あくまで気分の問題なんだけど。


「そうか・・・。」


「なぁ、アルム?」


「何?」


「アンソニーのヤツ、ちゃんと忠告聞いたかな?」


 心配したところでどうなるワケじゃないっつーのは解るケドね。

どうしても、お兄ちゃんって心配性な生き物だったりするのですよ。


「気をつけはするとは思うよ。意外と心配性。」


「うぐっ。た、大概のお兄ちゃんはこんなもんよ?」


 なんとか軽口を叩く余裕は出てきた。

現状はそんなに余裕ブッこいてられる状態ではないんだけどさ、そうもしてないとやってられん。


「しかし、物騒な物を作るなぁ、アルムは。」


 アルムが硝石と硫黄と+αで作り上げたのは、黒色の・・・所謂、火薬玉だった。

ソイツを大門が開いた時に、火と油の近くにつっかえ棒にしていた木を伝って落ちるように細工した。

さっき爆音がしたので、大門が開いたか、それだけ火が大きくなったという丁度良い合図代わりだ。

つまり、あっちはもう大体の事情が掴みかけている事だろう。

ちなみに火薬の調合比率は秘密らしい。

良いコは真似しないでね?


「また作る事になるとは思わなかったよ。それより、イクミの方がエグいよ。」


「そうか?単純な仕掛けだろ?」


 大門に香油をブチ撒いて、焚き火しただけなんだが・・・。


「大門は必ず通らなければならないから、ほぼ成功する罠だ。」


 罠という程ではないけれど・・・。


「前にテレビで見た話の拷問に似ているなぁと。」


「・・・・・・アルム、オマエ、なんの番組視てんだよ・・・。」


「いやぁ、オレの世界にはなかった娯楽だったもので・・・。」


 異世界人、テレビにハマる・・・とか、どうよ?


「TV好きなのは現代っ子の象徴だな。」


「それだって馬鹿に出来ないだろう?あの豚とか。」


「あぁ、アレね、悪いコトしたわ、豚さんに。」


「麻袋に骨と肉を詰めて人型に焼くという案は、時間稼ぎとして悪くはない。」


「人の皮膚組織として代用していた時代もあったらしいから、イケるかなって。受け売りだぞ?」


 大体、それ自体がうろ覚えだし、恐らくすぐバレる。

髪の毛とか爪とか人間にあるものが、含まれてないから。


「この場合、大事なのは、その知識が必要な時に出てくるか、応用出来るかだよ。」


「そういうもんかねぇ・・・。」


「少なくともぱっと見て、人型のモノが焼けていたら、調べないわけにはいかない。時間稼ぎとしては、これでも充分。ただ・・・。」


「ただ?」


 神妙な面持ちを更に深めながら、俺に詰め寄るアルム。

何か、問題があったか?


「出来るなら、残さず食べて欲しい。」


「・・・・・・良いコトを言っていると言うべきか、ふざけてる場合かと突っ込むべきか・・・。」


 俺は今、激しく悩んでいるゾ。

しかも、とてつもなく。


「何を言っている、勿体無いだろう?あれが一体何人前あるとイクミは思っているんだ。」


 ・・・勿体無いって・・・アルム、意外と貧乏性・・・?

いや、倹約家なんかもなぁ・・・。


「なんだ?」


「いや、本当にぶざけてないんだなって・・・。」


「当然だ。」


 うわっ、マジだ。

本当に本当でマジだよ、この人。


「オマエ達・・・。」


 ん?


「どうしたのイリアさん?」


 すっかり二人だけの会話になってしまったけれど、当然今の俺達は逃亡の最中なぅ。

会話しながらも、常に移動していた。

眼が痛い俺は、夜道を歩くのがキツくて、集団のほとんど後ろになってしまったけど。

既に1時間以上は歩いているが、安心は出来ない状態だ。

馬なら30分もしないうちに簡単に追いつかれる。


「どうしたもこうしたもあるか!」


 なにやら怒ってらっしゃるが・・・。


「俺のせいじゃないぞ?アルムが途中からアホなコトを言い出したんよー。」


「あ、アホって・・・酷いな。」


 全然責任転嫁とかじゃない。

緊張感ない事を言い出したアルムが悪いと俺は思うぞ、うん。


「そうじゃない!そんな事はどうでもいい!」


「どうでもって、それも酷いなぁ。」


 う。

エラい剣幕だ。

それ以上に、その剣幕に対して口ではああ言っているけど、さらりと言って流すアルムも大概だ。


「じゃあ、何が問題なんよ?」


 どうもこのテの女性のヒステリック・・・と言ったら大ゲサだけれど、なんつーか怒り出すポイント?ってのは俺には解らない。

いや、女心という意味じゃ、男には一生解らんもんなのかも知れんけど。


「一体、オマエ達は何者なんだ?!」


 何者?

何者と言われてもなぁ。

言われてもなぁ・・・。


「えと、俺は堂上 郁実で・・・。」


 俺はチラリと隣の相棒を見る。


「オレはアルム。」


 流石、相棒。

二人して真面目に自己紹介再びの図。


「そういう事を言ってるんじゃない!」


 ですよねー。

もうお茶目なんだから♪


「ほら、違うってさ、アルム。」


「またオレか・・・。」


「いや、なんとなく?」


 第一、イリアさんは何を指してそう言ってるのか、しっかり言わないんだもんなぁ。


「一体なんなんだ?何者なんだ?アルムはあんなに凄い見た事もない物を作れて、イクミは変な力で壁を壊して・・・いや、それだけじゃない!リルに使った薬も、外からの人間達を倒した技量、武器も!」


 興奮して一気にまくし立てるイリアさん。

それはそうか。

彼女が見たモノのほとんどが未知なるモノだったんだろう。

というか、この世界には火薬も刀・バットという形状の武器も、魔法のような超常のモノもないらしい・・・単純にあの壁の中じゃ見た事ないだけかも知れないけど・・・ね。

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