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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
18/54

第17曲:moment

「良かった・・・。」


 それはちゃんとした硫黄だった。

そうなると次は急いで硝石を削り出さなければ・・・。


「そんな物を一体何に使うんだ?」


 そう聞いてくるイリアさんの様子からして、鉱物・鉱石に関する知識はないのだろう。

もし、この知識があって、原料が大量に採取できるなら、こんな状況にはなってなかっただろうから。


「これが使えるようだったら、イクミの負担が減らせるかも知れないんだ。」


 それが決断の理由だった。

正直、あまり使いたくない。

以前、使用した時もそう思った代物だ。

でも、イクミの負担が多少なりとも軽減されるならば。


「そうか・・・。」


「気になる?イクミの事が?」


 実際、不思議なヤツだ。

でも、弟想いの良い兄だという事は解る。

実際、兄というのも兄なりに大変なのかも知れない。

・・・今更か。

兄上は今頃、更に立派な人になっているだろうな。


「そ、それはな!オマエ達のしでかす事が事だけにだな!」


 ・・・素直じゃないね。

残してきた人の一人もそうだったよ。

何か酷く懐かしい・・・。


「あぁ、イリアさん、後でこの硫黄と、あと木炭を粉状にしておいて下さい。オレは硝石を採りに行きますから。」


 あっさりと聞き流して、彼女に作業の一部をお願いする。


「う゛・・・解った。」


 一旦戻って、木炭の質とか量とかを確認しなければならず、オレは歩みを早める。


「て・・・。」 「ん?」


 遠目に入る光景から声が聞こえる。


「何か揉めてないかな、アレ。」


「そのようだな。」


 またロクでもない事じゃないだろうな。


「だから!どうしてそう安直なんだよ!」


 ・・・どう考えてもイクミの怒鳴り声だ。


「イクミ!」


 呼びかけようとしたオレより先に上げられた声。

それはイリアさんのもので・・・本当、素直じゃない。

でも、悪い人じゃないという事が解り易くていいとも思う。


「イクミ、どうした?」


「アルム、コイツ等ダメだ。俺の代わりになんか言ってやってくれ。」


 人だかりの中心にいるのは、イクミと・・・例のオレ達と戦って捕まえた人物だった。


「コイツ等、この人間を殺すっつーんだぜ?全く・・・。」


 アホらしいと溜め息をつくイクミ。

イクミは人を憎むという事が、どれだけ大変で労力がいるのか知っているようだ。

それに対して、周りのエルフ達はそうではない。


「確かにそう言いたくなる気持ちも解るね。」


 オレはその気持ちの全部を否定する事は出来ない。


「ヲイヲイ・・・。」


 イクミはオレがこの男を殺せという意味合いで言ってはいないという事を理解しているせいか、更に呆れている。


「だが、時にそれは最も浅慮で愚かな行為だ。」


 どちらかというと、オレもイクミに近い人間かも知れない。


「だがオレ達は当事者じゃないから、痛みや辛さは解らない。そうだろう?」


 オレはイクミとイリアさんを見る。

間違った事は言ってはいないという念を押す意味で。


「そうだな。」 「イリア!」


 イリアさんの反応に声をあげたくなるイクミの気持ちも解るよ・・・でも、君だって言っていただろう?

オレ達は漂流者でしかないんだって。


「あぁ、あぁ、そうかよっ。」


 お手上げとばかりに両手を上げて肩を竦めるイクミ。


「ま、じゃ、好きにすればいいんじゃね?」


「イクミ?」


 キレたかな?

よくないなぁ、キレやすいと言われる若者の短気は。


「自分達が傷つけられた、殺された。だから、相手を同じメに合わせる、殺す。それは道理かも知んねぇな。」


 "道理"

やられたら、やりかえす。

つまりそういう簡潔的な結論だ。


「それで気が晴れるっつーんなら、アリだな。そういう事なんだろう?イリア?」


 とうとうイクミはイリアさんを呼び捨てにして、彼女を睨みつける。

というか、イクミ?そういう視線は女性に向けるもんじゃないぞ?


「いや・・・私は・・・。」


「力で押さえ込む相手を、力で捻じ伏せる・・・か。」


 オレ的にも、そういう道理は遠慮願いたい。


「そうだな。そうやって殺し合って、殺し合って、殺し尽くして、滅んでしまえばいい。ただ・・・。」


 イクミは持っていたナイフを抜き、振り下ろすと男の自由を奪っていた紐を解く。


「立て、オラ。」


 襟首を掴んで男を立たせると、周りにいた皆を見回す。


「俺はこの件から一切、手を引く。り合うなら、自由になったコイツと、とことんり合えよ。」


「ぶっ。」


 思わず吹き出しそうになった。

というか、吹いた。

イクミの言っているコトもまた"道理"だ。

何処も、何ら問題はない。


「それと、アンタ達のやり方が気に食わなければ、俺は俺で好きにさせてもらう。例えばこの場にいる全員皆殺しとかな。」


「ヲイヲイ・・・。」


 今度はオレがイクミと同じように突っ込んでしまったじゃないか。

まぁ、ここにいるエルフ達の道理でいったらそうなってもおかしくはない。


「気に食わないから殺す。コレって、コイツ等と変わらんべ?」


 突込みどころは満載だが、人間達のやっている事も、エルフ達のやろうとしている事も、そしてイクミの言い分も大差ないと主張したいのだろう。

全くもってその通りだ。


「うん、ま、その理屈もそうだね。"殺す事には変わりない"という事だしね。」


 些か表現が過激だが。


「オマエ達?!」


 驚いているイリアさんには申し訳ないけれど、オレ達はそこまでお人好しにやっていられない。

心だって広いワケじゃない。


「何?一度、"敵"と認識したら俺はヤる。視界に入った者全てを。何より俺にはその力がある。」


 過激も過激。

過激だけれど、曲げられないモノがあるならば、それも致し方ないと言うしかない。

しかし、本当にその力があるのだから、目も当てられない。


「さて、敢えて自ら敵を増やすか、オレ達と共に来るか。どちらがいいのやら。」


 意外と楽観的だな、オレ達。


「何の騒ぎかしら?」


 緊張し、膠着していた場にエルザさんが、息を切らせたドルテさんと一緒に現れ、一応の騒動はなんとか終息したのだった。

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