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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
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第16曲:罠

「・・・イクミ、意外とエグいな。」


「時間が勿体無い。」


 アルムが最後の三人目に情けをかけるのは構わない。

でも、どちらにしろ、これで選択肢は無くなって、オマケに時間制限が発生。

なんだ、急に難易度が上がったな。


「アルム、オマエさっさとイリアさんに頼んで硫黄を探しに行けよ。」


 今、コイツ等を撃退したという事は、俺達の存在は完全にバレてしまう。

口封じ・・・しても、様子を見に第二陣が来るだけだろう。


「解った。イクミはどうする?」


「まずこの二人をフン縛ル。」


 エルフに襲い掛かっていた二人は、どう考えても下衆だ。


「こっちの男は?」


「縛ってイリアさんの家で話を聞く。」


 先の二人を下衆だというのは俺の考え。

参加こそしてなかったが、それを止めようとしなかったヤツも同罪だと思うんだが。

結局、これも俺の考えで、俺の日本社会で培った倫理観。

でも、アルムは違うワケで・・・。


「あー、面倒。オマエさっさと行けよ。それと君、エルザさんに豚を全頭集めるように伝えて。んで、また戻って来て、木を切る道具と油を持てる分デカいの持って来て。」


 無い知恵は、無い知恵なりに絞るしかねぇんだよな。

コクコクと頷いて走り去って行ったエルフの背中を見て溜め息。


「どうして彼だけ別なんだ?」


 アルムが苦笑の表情を浮かべている。


「アルムが、ソイツは違うって判断したら、そうなんだろうよ。」


 肩を竦めて出した答えは簡単だ。

それがアルムの中の倫理観だったり、培ってきたものだってんだろ?

面倒なコトだ。


「ありがとうイクミ。」


「べっつにぃ~。それに使えるモンはなんだって使う。」


「豚もか?」


「知ってるか?豚さんて、結構優秀なんだぜ?」


 科学的な話では、豚というのは人の組織に酷似している部分があるんだそうだ。

あくまで科学的な話。

なんかのテレビ番組でやってた。

視ていたのは弟の方だけれど。


「はい、無駄話おしまーい。」


「そうだな、ここからは効率重視だ。」


「おぅよ。」


 そう言って、アルムは軽く手を挙げて挨拶すると、イリアさんがいる集落へ駆けて行った。


「足、はえぇなぁ。」


 さっきの戦闘でも思ったが、アルムの速ぇコト速ぇコト。

俺、益々足手まといカモ・・・。


「なぁ~んて、ヘコむだけだから止めよーっと。」


 男達をさっさと縛って転がす前に、俺はソイツ等が持っていた唯一の武器を(ものすんごい嫌だったが、ボディチェックをして)拾いあげると、一振りを残して鞘に納めて、バットが入っていたケースに収納する。

ラッキーなコトに、コイツ等自身がロープを持っていたので、それで縛らせていただいた。

自分の持っているロープで自分が縛られるとかな、なんてアホなヤツ等。

そして、おもむろに大門へとぷらぷら歩く。

地図を作る過程で、この大門周りは俺自身も念入りに調べた。

現状は籠の鳥のような状態だが、考えようによっては楽だ。

なにしろ、まず最初の相手の出方が解っている。

目の前のコイツだ。


「乗りかかった船どころか、完全に乗っちまったなぁ。」


 自業自得。

自分のケツは自分で拭けってな。

俺は以前から何度かここに足を運んでいた。

アルムも何かを考えてたようだけど、俺も一応、な。

少しずつ貯めてあった木々の枝なんかを大門の脇に置く。


「あぁ、力が大味過ぎるってのも問題だよな。」


 規模の問題ではなく、出力の問題。

外から来たヤツ等が持っていた剣を近くの樹木に向かって叩きつける。


「いや・・・マジ使えねぇ。」


 俺の扱い方が悪いだろう、その剣は斧の代わりには全く向かなかった。

無いよりはマシだけど。

でも、かといって、この木に力を使うと、多分丸ごと一本消滅する。

それにここで力を使ってだ、後々必要な状況になった時に使えなくなるのも嫌だ。

結局は、地道が一番、そういう事やね。


「ソーイヤッ!」


 う~ん、鈍い音だコト。

それでも少しずつくの字に切り込みを深くしていく。

非常に、非常にゆっくりとした進みですがね!


「お待たせしました!」 「ん?」


 大嫌いな地味な作業をしていた俺の目の前に現れたのはドルちゃんだった。


「何故にドルちゃん?あ、まぁ、怖いメに合ったから、代わりに誰か来るか、フツー。」


 駅弁売りの少女のように首からかけた紐の両端が、木の盆にくっついているようなヤツに壷がいくつか乗っている。


「まぁ、いいか。ありがとう。」


 俺はドルちゃんの持ってきた壷を取り、地面に次々降ろしていく。

俺の頭サイズ4,5個。


「どうするんですか?」


「うん、まぁ、コレはね・・・。」


 手に取った壷を勢い良く(恐らく)鉄製であろう大門にめがけて投げる。

なるべく上の方に向けてだ。


「燃やすんですかっ?!」


「まさか。」


 壷の中の油を使ったとして、どう考えても鉄の溶解温度には達しない。


「おまじないみたいなもんだから。あー、ドルちゃんはさ、ここから出たらどうしたい?」


 二個目の壷を投げる。

ドロリと壷の中の液体が下に向かってゆっくりと垂れて流れ落ちていく。


「イクミさんは・・・どうしますか?」


「ん?俺ー?また旅に出るかなぁ。」


 この世界の外でもいいが、まずは中だろうな。

移動に適した場所を見つけなくちゃ。


「そう・・・ですか・・・。」


 三個目の壷が派手な音を立てて割れる。


「んで、ドルちゃんはー?」


 壷の中の全ての油をブチ撒けた後は、彼女の腰から下げた手斧を取り、再び地味な作業へと・・・。

この辺りの金属器は持たせられてるんだな。

自分で量産出来ないからいいのか。

中で死なれても困るってコトか・・・でも、そんなに困るコトなんか?


「私は・・・・・・解らないです。外がどんな所かも知らないです・・・し。」


「ふむ。」


 そうだよな、一理ある。

いきなり世界が広がったんじゃ、誰だって戸惑うわな。


「あの、もし・・・。」


 全力で、斧を木に打ちつける。

こんな地味な作業なのに、時間勝負とかもぅ・・・。

連続で木二本分、切り口を大きめにつけてとりあえず終了。

結局、30分以上時間を使ったか?


「ふぅ・・・で、ドルちゃん、何か言った?」


「いえっ。」


 ふぅむ。

次は、この気絶している男達を運ぶのか・・・こんな時にサクがいればなぁ。


「よし、ドルちゃん、帰るよ。」


 アルムは無事に硫黄を手に入れられただろうか?

・・・硝石と硫黄って、ナンかどっかで聞いた事のある組み合わせのような・・・なんだっけ?

重い男を引きずりながら、俺は唸り声をあげた。

硫黄+硝石・・・前作を読んでいる方には懐かしい響きですよね?(苦笑)

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