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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
15/54

第14曲:透明だった世界。

「何をしている?」


 集落の中央部より少し奥側、あ~、例の門側を手前として、とにかくその位置で俺は羊皮で作られたそれを眺めていた。


「見てわかるだろ?」


 声をかけてきたイリアさんに視線を移す事なく、それを眺め続けたまま返事を返す。


「いや、全く。意図も意味も解らないぞ。」


「見ての通り、地図を作りつつ作戦を考えてるんだよ。」


 羊皮紙には、この円周内の地図、樹木のある程度の分布図等が半分程描いてある。

半分なのは、まだ完全に探索していないってワケだ。


「そうなのか?いや、しかし、それとその状態の関係性が見えない。」


「んぁ?」


 今の状態?


「何故、そのだな、"リル"を背負っているんだ?」


 地図を眺める俺の背には、例の怪我した女の子、リルちゃんが乗っかっている。

あの時から、地球時間で約5日程。(やっぱり1日が24時間じゃなかったから)

彼女は順調に回復していった。

一時期は感染症の心配があって、高熱も出たが・・・何故か、この世界で例の薬の存在と効果は偉大だった。

流石、半分は優しさで出来ているだけある。って、なんのこっちゃ。


「あぁ、リルちゃんまだ歩くのしんどそうだしさぁ。"俺達"の背に乗って移動。な~?」


 俺がそう同意を背中に求めると、こっくりと頷くリルちゃん。

元来が無口なコらしい。


「しかも、筋肉の鍛錬にちょうどいいという利点つきだ。」


「はぁ・・・リルも嫌がっていないように見えるから、特に問題はないが・・・。」


 これが意外に効率がいいんだわ。

リルちゃんは、俺に行きたい所とか、やりたい事を耳元で言う(ちょっとくすぐったい)。

俺は、この地図に書き込んだ情報や、見落とした点をリルちゃんから聞いたり、確認したりできる(それもやっぱりくすぐったい)。

彼女は周りの手伝いをよくするコで、この辺りの色んな所を出歩いているらしい・・・だから、今回はエルフ狩りなんてメに合ってしまったんだが、彼女の地形に関する知識にかなり助けられてるってワケ。

こういうのなんて言うだんだっけ?"共生"だっけ?


「って、俺は寄生体かっ!」


「な、なんだ?!唐突に大きな声を出して?!」


 思わず声に出してセルフツッコミしちまった。

イリアさんを驚かせちゃったな。


「いや、あ、次、イリアさんも背負ってあげようか?」


「ばっ、馬鹿か!!」


 そういう反応だよな、フツー。

ゴマかせて良かった。


「相変わらず、仲が良さそうで良かったよ。」


 ニコニコしながら、俺達の会話に入って来たのはアルムだ。

コイツには地図を作る為に外周付近を回ってもらっていた。


「お疲れさん。いいじゃんか、仲が悪いよりは。んで、なんか収穫あったん?」


「あると言えばあるが、使い道が見出せるか・・・。」


 珍しく言葉を濁しながら、アルムは地図の空白部分、まだ記入されていない位置をトントンと指で叩く。


「ここに大きな岩の塊があったんだが、そこに少量の硝石が含まれていた。」


「硝石?」


 よくわからんが、地図に硝石と書き込む。

書き込んでいる途中で、あぁ、なんか理科でそんな鉱物?鉱石?でありましたな、と。


「これと・・・う~ん、あと硫黄があればなんとかなるんだけれど・・・。」


 硫黄。

硫黄ねぇ・・・。


「リル、知ってるかい?」


 アルムの問いかけに・・・あ、知らないワケね。

リルちゃんは首を傾げる。


「知らないか・・・。」


 マテよ?

そもそもそれがどういうもので、何て名前か知らない場合だってあるワケだ。

あっても、この世界じゃ違う名前だったりとか。


「えーと、地面とか岩の隙間から、温かい水・・・あ、お湯ね、湧いてる所ない?臭いがきつかったり、んーと、白っぽいとか黄色っぽいの粉というか、結晶というか、そういうのがそこにこびり付いていたり・・・。」


 硫黄泉なら、解り易くていいかも知れない。

それに、俺の脳ミソにはこれ以上の知識が無いのデスヨ。

でも・・・。


「知らないか。」


 返ってくる答えはNOだった。

ないものは仕方ないもんなぁ。


「黄色がかった砂なら知っているぞ?」 「本当か?!」


 俺達のやり取りを遠巻きに見ていたイリアさんが声を上げ、アルムが速攻で食いつく。


「あぁ、と言っても、やや濁った黄色味だが。」


「アルム。」


「あぁ。どの辺りかな?出来れば教えて欲しい。」


 ダメもとでもなんでもいい。

確認出来る事は全部して、少しでも有利になるような事はやらないとな。

なんつったって、俺等、挑戦者側チャレンジャーなんだし。


「それじゃあ・・・早速?!」


「イリア!リルを頼む!」


 俺は背中のリルちゃんを慌ててイリアさんに預ける。

その間にアルムはもう走り出していた。


悲鳴。


それが今の俺達を動かしたモノの正体。

イリアさんに抱かれ、恐怖で表情を引きつらせたリルちゃんの頭を優しく撫でると、近くに置いてあった幅広のケースを粗雑ぞんざいに掴んでアルムの後を追う。


「アルム!」


 先行するアルムの速さに追いつくの諦めて、ケースの中から取り出したソレをアルムに向かって投げる。


「いいか!オマエは"もう誰も"殺すな!」


 俺がアルムに投げたのは"木刀"だ。

これでも当たり所が悪けりゃ、人は死ぬ。

俺は・・・甘いかも知れないが、アルムに誰かを殺すなんてコト、して欲しくない。

馬鹿な俺にだって判る。

アルムはきっと人を殺したコトがある。

自分を守る為だったのか、誰かを守る為だったのか。

どちらにしろ、アルムは好き好んで誰かを傷つけるようなヤツじゃない。

そこには居た堪れない事情ワケがあったんだと俺は思いたい。

だから、誰かを守る為に誰かを傷つけ、そして自分すらも傷つける。

そんな風になってもらいたくないんだ。

もし、どうしてもそうならなければいけない状況になったとしたら・・・。


・・・・・・俺がる。


この旅に利害の一致があったとはいえ、巻き込んだのは俺だ。

アルムを旅の相方に選んだのも俺。

だったら、それは俺が引き受けるべき、支払うべき代価だ。

俺はケースの中からもう一本。

金属バットを取り出すと、グリップを確かめるように強く握る。

俺は戦闘に関しては素人だ。

だったら、質量に任せて攻撃できる鈍器、これでブン殴るのが、一番確実性が高い。


「急ぐぞ!」 

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