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皇子達に福音の鐘を鳴らせ!  作者: はつい
第Ⅰ楽章:皇子は再び旅立つ。
13/54

第12曲:Rolling Star(エルザ視点)

 突然の提案。

まるで天から降ってきたかのように。


「ここにいても、最後は同じ・・・。」


 死への多少の猶予があるだけ。

犯されても、殺されても文句は言えず、ただ生きるだけ。

或いは・・・。


「全くなんてヤツだ!」


 未だに答えを出せずにいる私の前に、頭から湯気が出そうな程に不機嫌なイリアが入ってくる。


「どうしたの?あの二人は?」


「知らん!」


 ・・・相当・・・怒ってるわね。


「まぁ、放ってきちゃったの?」


「ドルテが世話をしているだろうよ!」


 どっかりと行儀悪く椅子に座り、水さいから乱暴に水を注いで一気に呷るイリア。

彼女は短気な方だけれども、こんなに怒るのは本当に久し振り。

こんな感情を顕にする出来事なんて、ここにはないもの。


「なんだ?」


「別に。ただ珍しいなぁ~と。」


「フンッ。」


 あらあら。


「・・・・・・触れてた。」


「なぁに?」


 昔から、私が何も聞かなくても、じぃっと彼女の瞳を見つめれば、必ず最後には話してくれた。

ずっと一緒にいれくれた。


「イクミとかいうヤツが、ドルテの耳を触ってたんだ!」


 ・・・イクミというのは、さっきのアルムという人間が言っていた方ね。

彼の言い方だと、随分と変わった人のように感じたけれど。


「ふふっ。」


「何がおかしい!」


 男女の事で、イリアが怒る日が来るなんて思わなかったわ。

本人の前ではけっして口には出せないけれど。


「いいじゃない、この壁の中で誰か好きな人を見つけて結ばれる事くらい。」


「それは・・・。」


 私にはそんな人、もうこの世にはいないもの・・・。

ここじゃ、どうせ子供は作れない。

産んだとしても、その子供すら産まれた時から家畜扱い。


「そうね。子供の未来という観点からなら、ここから逃げ出すという選択肢もアリね。」


「エルザ・・・。」


 イリアはどんな時でも優しい子。

優しくなれる子。


「ところでイリア?ちゃんと事情は聞いたの?」


「誰に?」


「そのイクミさんに。」


「そんな必要あるか!」


 本当に珍しいわね。


「事情も聞いてないのに怒っているの?」


 困った子。

そういった視線をイリアに向ける。


「ドルテには聞いた。イクミから彼女の耳に触れたいと言ったと。どの状況は私も見た。」


 しゅんと意気消沈するイリアを尻目に、私は笑みしかこぼれてこない。

でも耐え切れなくなって、やっぱり声を上げてしまう。


「なんでさっきからそんなに笑うんだ?」


「だってイリア、彼は人間よ?」


「だからなんだ?」


「私達エルフのしきたりや儀式を、そこまで詳しく知ってるのかしら?」


「あ・・・。」


 ふふっ、頭に血が昇り過ぎて、そこまで考えが回らなかったのね。


「そう言えば・・・アルムの方は白い肌のエルフは見た事なくて、自分の国には黒い肌のエルフしかいないと言っていたな。」


「それに、イクミさんという方は、私達の存在自体に興味があるみたいだったわよ?」


 私の耳もイリアの耳も見ていた気がした。


「そうなのか?」


「ご自分と違う種族自体が珍しいのかしらね。」


「そうか・・・。」


「安心した?」


「うん・・・・・・いや、何がだ?!どちらにしろ失礼なヤツなのは変わりない!」


 ・・・あながち、アルムさんの提案(?)はイイトコロいっているのかも知れないわね。

恋に目覚めたイリア・・・か・・・。

私も周りから見れば、あんな感じだったのかしら?


「それじゃあ、イリア、引き続き彼等の世話をよろしくね。」


「う゛・・・。」


「"イリアちゃん"?」


「解った!解ったから、"ちゃん"はヤメロ!」


 ついこの前までは、ちゃん付けで呼び合っていたのに・・・つまんない。


「・・・それにしても。」


「ん?」


「彼等は一体なんなのかしら・・・。」


 ある日突然現れて、私達に共に逃げないかと手を差し伸べた。


「他種族、しかも人間に手を差し伸べられる日が来るなんて・・・。」


「・・・悪いヤツではない・・・と思う。」


 イリアの結論は、現段階だとそういう事なのね。

じゃあ、私は・・・?


「リルを治療している姿は、嘘偽りだと私は思いたくないだけなのかも知れない。」


 続いて出た言葉はソレだった。


「そうね。それに・・・何一つ信じられなくなってしまったら、お終いだわ。この壁の中では。」


 それは壁の外だろうと同じなのかも知れないけれど・・・。


「乗るのか?アイツ等の提案に?」


「乗ったとしても、彼等の作戦内容次第だわ。」


 多少の無茶は、この状況を打破する為には必要だったとしても、無策過ぎては乗れない。

乗る事は出来ない・・・私は皆の命を預かっているのだもの。

今生きている命も、失ってしまった命の分も・・・。


「そうか・・・。」


「準備する時間もあるし・・・イリアにもね?」


「私?なんのだ?」


「何って、婚姻の準備に決まっているじゃない。成功して逃げられたら、イリアちゃんとイクミさんは何の障害も無く晴れて夫婦めおとなのだし。」


「は?いや、ちょっと待て!障害だらけだろう!いや、そうじゃない!何時、婚姻という話まで発展した!って、ちゃんはヤメロ!」


「あら、アルムさんが言っていたでしょう?"恋人か嫁"にって。」


 慌てるイリアも可愛い♪


「いや、言ってはいたが、そ、そのイクミの気持ちはどうなる?!あれは別にイクミがそう言ったというワケじゃ・・・。」


「そう、イクミさんがそう望んで言ったら、イリアちゃんは問題ないのね?」


「そういう意味じゃない!というか、だから、ちゃんはヤメローッ!」

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