第12曲:Rolling Star(エルザ視点)
突然の提案。
まるで天から降ってきたかのように。
「ここにいても、最後は同じ・・・。」
死への多少の猶予があるだけ。
犯されても、殺されても文句は言えず、ただ生きるだけ。
或いは・・・。
「全くなんてヤツだ!」
未だに答えを出せずにいる私の前に、頭から湯気が出そうな程に不機嫌なイリアが入ってくる。
「どうしたの?あの二人は?」
「知らん!」
・・・相当・・・怒ってるわね。
「まぁ、放ってきちゃったの?」
「ドルテが世話をしているだろうよ!」
どっかりと行儀悪く椅子に座り、水さいから乱暴に水を注いで一気に呷るイリア。
彼女は短気な方だけれども、こんなに怒るのは本当に久し振り。
こんな感情を顕にする出来事なんて、ここにはないもの。
「なんだ?」
「別に。ただ珍しいなぁ~と。」
「フンッ。」
あらあら。
「・・・・・・触れてた。」
「なぁに?」
昔から、私が何も聞かなくても、じぃっと彼女の瞳を見つめれば、必ず最後には話してくれた。
ずっと一緒にいれくれた。
「イクミとかいうヤツが、ドルテの耳を触ってたんだ!」
・・・イクミというのは、さっきのアルムという人間が言っていた方ね。
彼の言い方だと、随分と変わった人のように感じたけれど。
「ふふっ。」
「何がおかしい!」
男女の事で、イリアが怒る日が来るなんて思わなかったわ。
本人の前ではけっして口には出せないけれど。
「いいじゃない、この壁の中で誰か好きな人を見つけて結ばれる事くらい。」
「それは・・・。」
私にはそんな人、もうこの世にはいないもの・・・。
ここじゃ、どうせ子供は作れない。
産んだとしても、その子供すら産まれた時から家畜扱い。
「そうね。子供の未来という観点からなら、ここから逃げ出すという選択肢もアリね。」
「エルザ・・・。」
イリアはどんな時でも優しい子。
優しくなれる子。
「ところでイリア?ちゃんと事情は聞いたの?」
「誰に?」
「そのイクミさんに。」
「そんな必要あるか!」
本当に珍しいわね。
「事情も聞いてないのに怒っているの?」
困った子。
そういった視線をイリアに向ける。
「ドルテには聞いた。イクミから彼女の耳に触れたいと言ったと。どの状況は私も見た。」
しゅんと意気消沈するイリアを尻目に、私は笑みしかこぼれてこない。
でも耐え切れなくなって、やっぱり声を上げてしまう。
「なんでさっきからそんなに笑うんだ?」
「だってイリア、彼は人間よ?」
「だからなんだ?」
「私達エルフのしきたりや儀式を、そこまで詳しく知ってるのかしら?」
「あ・・・。」
ふふっ、頭に血が昇り過ぎて、そこまで考えが回らなかったのね。
「そう言えば・・・アルムの方は白い肌のエルフは見た事なくて、自分の国には黒い肌のエルフしかいないと言っていたな。」
「それに、イクミさんという方は、私達の存在自体に興味があるみたいだったわよ?」
私の耳もイリアの耳も見ていた気がした。
「そうなのか?」
「ご自分と違う種族自体が珍しいのかしらね。」
「そうか・・・。」
「安心した?」
「うん・・・・・・いや、何がだ?!どちらにしろ失礼なヤツなのは変わりない!」
・・・あながち、アルムさんの提案(?)はイイトコロいっているのかも知れないわね。
恋に目覚めたイリア・・・か・・・。
私も周りから見れば、あんな感じだったのかしら?
「それじゃあ、イリア、引き続き彼等の世話をよろしくね。」
「う゛・・・。」
「"イリアちゃん"?」
「解った!解ったから、"ちゃん"はヤメロ!」
ついこの前までは、ちゃん付けで呼び合っていたのに・・・つまんない。
「・・・それにしても。」
「ん?」
「彼等は一体なんなのかしら・・・。」
ある日突然現れて、私達に共に逃げないかと手を差し伸べた。
「他種族、しかも人間に手を差し伸べられる日が来るなんて・・・。」
「・・・悪いヤツではない・・・と思う。」
イリアの結論は、現段階だとそういう事なのね。
じゃあ、私は・・・?
「リルを治療している姿は、嘘偽りだと私は思いたくないだけなのかも知れない。」
続いて出た言葉はソレだった。
「そうね。それに・・・何一つ信じられなくなってしまったら、お終いだわ。この壁の中では。」
それは壁の外だろうと同じなのかも知れないけれど・・・。
「乗るのか?アイツ等の提案に?」
「乗ったとしても、彼等の作戦内容次第だわ。」
多少の無茶は、この状況を打破する為には必要だったとしても、無策過ぎては乗れない。
乗る事は出来ない・・・私は皆の命を預かっているのだもの。
今生きている命も、失ってしまった命の分も・・・。
「そうか・・・。」
「準備する時間もあるし・・・イリアにもね?」
「私?なんのだ?」
「何って、婚姻の準備に決まっているじゃない。成功して逃げられたら、イリアちゃんとイクミさんは何の障害も無く晴れて夫婦なのだし。」
「は?いや、ちょっと待て!障害だらけだろう!いや、そうじゃない!何時、婚姻という話まで発展した!って、ちゃんはヤメロ!」
「あら、アルムさんが言っていたでしょう?"恋人か嫁"にって。」
慌てるイリアも可愛い♪
「いや、言ってはいたが、そ、そのイクミの気持ちはどうなる?!あれは別にイクミがそう言ったというワケじゃ・・・。」
「そう、イクミさんがそう望んで言ったら、イリアちゃんは問題ないのね?」
「そういう意味じゃない!というか、だから、ちゃんはヤメローッ!」




