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第48話 事態、動く時 二

初心者マーク付きの作者です。

暖かい目でご覧ください。


「……全て、死体だったそうです」


 予想に無かったニアの報告に、レイドヴィルの目が細められる。

 そこに思考停止はなく、真っ先に気になったのはその死体達の死因についてだった。


「死体の死因については分かってる?」


 魔術の負担からふらつくムーナの肩を支えつつ、レイドヴィルは思考した事と同じ台詞をニアに投げ掛ける。


「いえ、まだ詳しくは分かっていないと。ただ致命傷と思われる外傷が無いのと、死体の殆どが鼻から血を流しているので、恐らく毒殺ではないかとのことです」


「――毒。また毒。もしかしてそういう事なのか」


 口元に手を当て、獲得した情報をもとに推測を組み立てていく。

 幾つか確かめなければならない事はあるが、それが合っていさえいれば見えてくるものがある。


「――突入班と合流しよう。拠点はもう制圧した後なんだろう?ムーナもゆっくり休ませたいしね」


 ―――――


「レイドヴィル様、ムーナの様子は……」


「少し疲れて眠ってるだけだよ。ここにベッドがあってよかった。出発までに少しは休めると思うから安心して」


「そうですか、それは良かった。彼女にはいつも助けられていますからね」


 そう言って息を吐いた騎士は、どこか情けなさそうな苦笑を見せた。

 作戦とはいえ、一人の女の子に負担を掛けてしまった事に不甲斐無い思いがあるのだろう。

 一応の終結を見せた作戦に、レイドヴィル達は盗賊が拠点としていた建物に集合する事を決め集まっていた。

 今は魔術回路の疲弊したムーナをベッドに寝かせ、その世話をニアに任せてレイドヴィルと突入班班長の騎士とが報告会を開いている所だ。


「それじゃあ今回の作戦結果について報告しようか。こっちは盗賊十四人を盗伐、その内五人を生け捕りにしたから証言はそこから取れる。まあ報告って言ってもそれくらいなんだけどね。僕が聞きたいのはそっちの話だから」


「勿論分かっておりますよ。――盗賊の拠点に侵入した我々は当初の想定通りの範囲を捜索、盗賊を順次盗伐していきました。しかしすぐに敵の数が少ない事と、この建物に地下がある事に気付きました。それから捜索範囲を広げてみた所、すぐに大量の死体が見つかりました。こっちです」


 騎士に案内された先には、広間の床一面に死体の広げられた光景が広がっていた。

 死体、死体、死体、地下から運び出された盗賊だった者達が、騎士達の手で並べられていたのだ。

 悪臭もきつく思わず目を背けてしまいそうな光景だが、レイドヴィルは眉一つ動かさず手近にあった死体の検分を始めた。

 頭髪、眼球、口内、手の爪、血……。

 おおよそ毒殺された死体の特徴として出やすい箇所を、時折必要に応じて死体に触れつつ確認していく。

 死体に触れるといっても、魔術で手の表面に圧縮空気を纏って触れている為、衛生面には気を使っている。

 毒殺された死体というのは、毒にもよるが死後も周囲に影響を及ぼす場合があるからだ。

 無論、それで死体に触れる不快感が消えるものではないが。


「地下に吐瀉物は落ちてなかった?」


「いえ、そういったものは特には。今から調べに行かせましょうか?」


「いや、大丈夫。見える位置に無かったのなら無いと思う。それに、今ので大体分かったからね」


 しゃがみ込んでいたレイドヴィルが立ち上がり、確信を表情に乗せて振り返る。


「まず死因が毒って事は間違いないと思う。鼻の血と頭や顔の打撲痕、多分即効性の高い毒だったんだろうね。受け身も取れず倒れたんだと思う。死んだのは少なくとも昨日より前、いつ僕らの計画がバレたんだか――これは口封じだ」


「っ!」


 レイドヴィルの告白に騎士が息を呑んだ。

 この惨状が口封じの結果ならば、首謀者あるいは黒幕を取り逃した事になる。

 そしてその事実は、この任務の失敗を意味する事にもなりかねない。

 盗賊のリーダーを捕らえ、黒幕が居るのならば探し出して捕らえて、初めてこの任務は成功となるのだ。


「であれば残党の事情聴取を最優先に、地下に残された資料がないかを捜索します」


「望みは薄いけど、そうだね……。なら僕とニアは先に家に戻るよ。それで援軍を呼んで、人員を揃えてからこの建物を洗い直せばいい。僕とニアは週明けには学園に戻らないといけないし、丁度良い」


「確かに……ではお願いできますか。それから毒に詳しい者を呼んでください」


「了解、任せておいて。悪いね、途中で放り出す形になってしまって」


「いえ、レイドヴィル様の今のご身分をお忘れ無きよう。ここは我らの本分です」


 それからレイドヴィルは広間を後にし、ニアに結果を報告した後これからの予定について話をしていた。


「畏まりました。ではムーナの世話は引き継いで帰るのですね?」


「そうなるね。後でムーナにお別れを言っておかないと」


 二人は屋敷に戻る為に、荷物を纏めながら会話をしていた。

 行きは武器と食料くらいで済んでいた荷物だが、帰りは現在見つかっている資料等を持ち帰る為、整理の必要が出てくるのだ。

 それから死体の幾つかを持ち帰る事になっているのだが、流石にニアに手伝ってもらう訳にはいくまいと、レイドヴィルが既に済ませておいた。

 と、


「あの……レイドヴィル様」


「ん?どうしたのニア」


 レイドヴィルが荷物を纏めている最中、ニアがふと声をかけてきた。


「先程の毒の件なのですが……偶然でしょうか?どうしてもクラーラを脅していたあの男の事が浮かんでしまって」


「そうだね。皆に聞いても最近毒殺事件が多いらしいし、無関係じゃないと思ってる」


「全てその男の仕業だと?」


「流石にそこまでは分からない。けど、これ以上被害を出す訳にはいかないしね」


 そこで言葉を区切ったレイドヴィルは、目に意思を込めて決意した。


「――ニア、手回しを手伝ってくれ。全部終わらせる」


 ―――――――――――――――――――――――


「ヴィル」


 暮れなずむ空の下、名前を呼ばれた青年が実在を疑う美貌で振り返る。

 それは美しいを通り越して恐怖すら覚える完璧な顔立ちで、銀髪の髪はオレンジの陽光に照らされ恐ろしく絵になっている。

 実際通りすがりの通行人は、男女を問わず見惚れて足を止めてしまう程だ。

 しかし、声を掛けた少女の目は揺らがさず、ただ真っ直ぐにヴィルの瞳を見つめている。

 少女の目は様々な色が綯い交ぜになった感情で溢れ、それがかえって思考の窺えない表情を作り出していた。


「やあ、クラーラ。そろそろ声を掛けてくれる頃だと思ってたよ。最悪こっちから声を掛けようと思ってたから、助かった」


 柔らかな、目を細めるだけの笑みでも向けられれば心が揺れる。

 恋愛感情は無い、異性に興味は無い、ただヴィルの生まれ持ったモノが、不可抗力的に動揺を引き起こす。

 その圧倒的な存在感に、クラーラは自身の敵愾心が萎んでいくのを自覚するが、ヴィルの自分を見通すような視線を見て、再度意思を燃え上がらせる。

 意志に敵意を、体に魔力を、足に力を、手は直ぐにでも剣を抜けるように、万全を期す。

 対するヴィルもクラーラに並々ならぬ覚悟を感じたのか、いつも通りの微笑だけはそのままに気配をより剣呑なものへと変えた。

 自分が敵意を向けたせいではあるが、返された鬼気にクラーラが気圧され、それを否定し誤魔化すように、また無理に負の感情を押し出していく。

 ――やはり、ヴィルは油断ならない相手だ。


「……来て」


 これ以上は惑わされまいとヴィルの意思も返事も聞かず、本番で失敗しない為に何度も往復して見知った路地へと入っていく。

 クラーラの態度といい言葉といい、通常なら付いていく事を躊躇うものだが、クラーラにはヴィルが付いてくるという確信があった。

 それは周囲の人間の評価であり、日頃の調査の結果であり、そして友人としての信頼でもあった。

 そしてヴィルはクラーラの確信通り、隙を探る様子も見せず大人しく後ろを付いて来ている。

 付かず離れずを維持する気配に安堵しつつ、反面背中を晒している現状に否応なく顔が強張ってしまう。

 だが警戒するのも仕方がない、ヴィルの実力は嫌という程よく知っている。

 能力測定で見せた尋常ならざる速度、模擬戦でバレンシアを倒した流麗な剣技、模擬戦まで実力を隠し通した得体の知れない技術――そして、何より恐れるべきはそれらを操る理知。

 最初は顔が良いだけの生徒だと思っていた。

 入学式で周りの生徒が噂しているのを聞き、実際にその目で見て、クラーラも同意見だと思った。

 まさか同じSクラスにいるとは思わなかったが、何か珍しい能力でも持っていて、それでSクラスに入れたのだろうと。

 それから調査を命じられて調べていく内、あまりの遭遇率にヴィルを疑う事もあった。

 けれど毎度会う度に明るい表情を見せるヴィルに邪気は見当たらず、結局有耶無耶なまま考えないように逃げていた自分が居て、そんな自分を、クラーラは今全力で恨んでいる。

 あれは最後にヴィルを見かけた翌週の学園での事、クラーラは先週と変わらずヴィルを観察しようとしていた――今度は調査ではなく、行動を起こす為にだ。

 クラーラはヴィルを殺す事に未だ葛藤を抱えていたが、その手段についてはおおよその決定をしていた。

 ヴィルを呼び出し誘い込み、一対一で倒す。

 単純だが権謀術数でヴィルに勝てる気はしなかったし、あの男からの指示でもあったし、何より一対一の不意打ちならばヴィルに勝てるという自信があったというのが大きい。

 そう考え、何度も何度も場面を想像し、意を決して二人で会いたい旨を伝えようとした。

 だが驚くべき事に、先週あれだけ見かけたヴィルの姿を、ただの一度も見る事が出来なかったのだ。

 始めはまた偶然だと思った、この間までの異常な遭遇率の運が、悪い方向に働いてしまっているのだと。

 だから学園中を探し回った。

 先週はクラーラが何も行動せずあれだけ会えたのだ、今度は自分から行動すればまた会えると、そう。

 ――なのに、たったの一度も見つからないとは、一体全体どういう事なのか。

 一度も見つからないとは言っても、当然授業中は普通に出席しているのだ。

 席はクラーラの左斜め後ろ、全授業無遅刻無欠席の皆勤……とはいっていないが、前に教室の窓から飛び降りて消えた時以来、ヴィルは全ての授業に出席していた。

 学園に入学して一週間しか経っていないのだから、当然ではあるが。

 問題はその後、授業後に教室で声を掛けようと思えば、ある時はニアがヴィルを引っ張ってどこかへ行き授業開始丁度に戻ってき、ある時はザックやクレアに連れられ昼食に行って消え、ある時はトイレに行くヴィルを尾けるも曲がり角でまた消え……。

 登校前、学園内、下校時、寮内その他と隙が無く、一週間の大半を無駄にした徒労感だけがクラーラに残されていた。

 かと思えば今こうしてヴィルと二人、夕日の差し込む路地裏を歩いている。

 また一週間も終わりこのままではと、そう思っていたのに、出会うとは思っていなかった時間と場所で出会ったという事実。

 これら事実が、ヴィルへ募っていた不信感を完全なものへと押し上げていた。

 恐らくこれまでの遭遇率は、全てヴィルが意図的に操作をしていたのだ。

 ここに来てようやく気付く事の出来た事実だが、何故そんな事をしていたのか理由は分かっていない。

 クラーラがヴィルを狙っている事に気付いたのか、しかしヴィルから敵意を感じない事の説明がつかない。

 だがクラーラが考えてどうにかなるものでも無い、その理由について考える必要は無いと、そう思う。

 ――覚悟は決めた、もうヴィルと答え合わせをする機会は無いだろう。

 やがて辿り着いた地下への入り口を背に、クラーラは――


「こっち。ヴィルに、話したいことがある」


 話したい事など何も無いのに、クラーラは終わりの言葉を投げ掛けた。


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