表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/233

父子の絆

 魔石を持って戻ってきたザハリが加工した腕輪は、見事な出来栄えだった。


「さすが年季が違うな」


 ジオが関心してまじまじと覗き込む。ジオはすっかりザハリの腕に惚れ込んでしまった様で、ヒースたちが戻るまではこの集落に留まり、ザハリの下で鍛冶を続けていくことにしたらしい。


 ザハリはずっと蒼鉱石の剣ばかり作っていて、実用品は作る余裕がなかった。ティアンに頼めば通常の材料も手に入れられることが分かったので、この後暫くは二人で集落に不足していた農作業や調理に必要な物を作成していくことになったらしい。


 ジオはジオで、蒼鉱石のツルハシが欲しかったようで、これで掘り出すのが楽になるぞとごつい身体でワクワクしている姿は、師匠だというのに何だか可愛らしかった。


「ヒース、今夜は俺の所に来い」


 ジオが、眉間に皺を寄せたまま、ヒースに言う。聞けば、ジオは現在空き家屋にシオンと二人で過ごしているらしい。ひとまずあの森には帰らずここに居続けるつもりらしいので、安心した。妖精王が手出しをしてくるとは限らないが、何はともあれ最強の魔力を誇るアンリの近くにいれば、万が一何かあってもどうにかなると思いたかった。


 なのに、ジオはぶつくさと続ける。


「アンリの面倒は、他の奴に任せときゃいい。お前を切り捨てろなんて言う奴の所で寝泊まりする必要はねえ」


 どうやら、ジオはすっかりアンリのことを敵対視してしまったらしい。


 アンリは、ジオが聞いた内容がそのままそうだったら、多分大切な師匠の忘れ形見であるニアを危険な目に遭わせたくないが故の発言だと思う。


 ヒースが魔法を使ってそれがどうやってニアを危険な目に遭わせるのかは検討がつかないが、それは道中ニアに尋ねればいいだろう。例えシオンには何も答えずとも、きっとヒースには話してくれる。なんせ、ヒースはニアの恋人だから。


 恋人。いい響きだった。


「別に悪い人じゃないと思うよ」


 ヒースが腕に作ってもらったばかりの腕輪をはめながら、一応はそう伝える。


「いい人かどうかはどうでもいいんだよ」


 ジオは、不貞腐れ顔のまま、今日は(しま)いだと片付けを始めた。


「どうでもいいって……大事なことだろ」


 顔は怖いがいい人の代表の様なジオにしては、随分と厳しい言い方だ。ヒースが首を傾げていると、後ろからポコンと頭を小突かれた。呆れた様にザハリが笑っている。


「ばーか。ジオはお前が大事なんだよ」

「おい」


 ジオが反論しようとするが、ザハリはお構いなしだった。


「なんだよ、合ってるだろ? ジオはここに来てから、もうずっとヒースヒースヒースだからな」

「え、そうだったの?」


 驚いてジオを見たけど、ジオはそっぽを向いてしまって答えてくれない。これは照れているな、とちょっとおかしくなる。


「お前が巻き込まれてどんどん危険な方に行ってる、大人が止めないと駄目だろうと毎日ぶつくさ言いながら金槌を振ってるから、聞き飽きたよ」

「おい、ザハリ!」

「ジオはな、ヒース」


 ザハリは、またもやジオを無視して話を続ける。ミスラへの態度も大分強引だなと思っていたけど、ミスラ以外にも強引らしい。確かに、族長の部屋に勝手に入り込んで酒を勝手に飲んでいる様な人だ。始めから勝手な人だった。


 でも、ヒースはこの自由な人が憎めなかった。なんだかんだで面倒見はいいし、人として大事なものはちゃんと持っている。ザハリから見たら小僧のヒースにそんなことを思われてるなんて知られたら、ぶつくさ言われそうだが。


「お前を自分が巻き込んだって、そう思ってるんだよ」

「ジオ、まだそんなこと言ってるのか?」


 ヒースたちをあの森へ置いていこうとした時も、そうだった。ここに向かっている途中も、まだ抵抗していた。


 ヒースの呆れ顔に、さすがにカチンときたらしい。ジオは眉間にそれは深い皺を作ると、ボソボソと言い訳を始めた。


「だってそうだろうが」


 ザハリが揶揄う様に言う。


「ジオ、言っちまえよ。ヒースが可愛くて仕方ねえってさ。子供なんていないのに自分の子供みたいに思ってるってさ!」

「ザハリ!」


 ジオが、真っ赤になって怒鳴った。


「……子供? 俺が?」


 聞いた瞬間、夢みたいだと思った。だって、親子と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、いつものあの場面。父が血を流し絶命するところと、母がヒースを見捨てて魔族に見惚れ、従おうとするところだから。


「……おいくそ、制御足りねえんじゃないか」


 ザハリが目を押さえ、後ろを向いた。何を言っているのか、ヒースには分からない。制御とは、何の制御のことか。


「嬉しくて泣きたい時は、素直に泣け。馬鹿」


 ザハリが、そう言ってその場から去っていく。泣きたい? 誰がだろう?


 ザハリの鼻を啜る音。なんだなんだ、そう思っていたら。


 分厚い腕が、ヒースの頭を抱えた。滅多にない、ジオの抱擁だった。


 ジオが、絞り出す様に言う。


「そうだよ、お前は俺の子供みたいなもんだ。お前に何かあるかと思うと心配で仕方ねえ」


 すう、と息をひとつ吐いた。


「――この馬鹿息子が」

「……!」


 我慢出来なくなって、ヒースもジオを抱き締め返す。今、馬鹿息子と言われた。馬鹿は余計だけど、でも確かに息子と言った。


「ジオ、必ず無事で戻るから……!」

「当然だ、阿呆」


 今度は阿呆だ。でも、ジオにだったら言われてもいい。心配ばかりかける馬鹿息子なんだから、阿呆と言われても何も問題はなかった。


挿絵(By みてみん)


「……お前は、俺が鍛えた剣を持っていけ」

「うん」


 ジオの力は強い。だからぎゅっとされていると苦しかったが、これがずっと欲しかったのだ。


「うん、うん――お父さん……!」


 ジオが抱き締める力が、更に強まった。



 その夜は、ジオと語り明かした。シオンは、その様子を見てにやにやしていただけで、何も言わずに先に寝る、と別室に行ってしまう。


 シオンが待ってるんじゃないの? と尋ねると、「馬鹿野郎」とまた頭をぽかりとやられた。


 ジオは、ひたすらヒースに注意するべきことを言い聞かせてきた。あれに気を付けろ、これに気を付けろ。何かあったらすぐに帰ってこい、なんて過保護だなと思った。でもそれが、心から嬉しい。


 そういえばニアとキス以上のことをするつもりだったことを思い出した。この機会を逃すと、次はいつになるか分かったものじゃない。


 だけど、それは焦らなくてもいいかなと思えた。ニアの禁断の果実は勿論触りたいけど、今日はヒースに生きている父親が出来た記念すべき日だったから。


 翌朝、皆に見送られ、集落を出た。


 涙目のジオに、シーゼルを見て同じ様に涙目になっているヨハン。アンリは来なかった。


 ザハリは、ミスラの肩を抱きながら手を振ってくれた。二人の指には、シオンの魔石がまぶされた指輪がはまっている。ザハリがミスラを好きなことを疑わなくていい様に、嘘をついたら分かってしまうものを自分で作り上げた。


 二人は、この後結婚の義を行なうことになっているそうだ。お前たちがいない間で悪いけど、もう我慢出来ないんだよ。そう笑って言われれば、お幸せにという他はない。


 リオは相変わらずで、「怪我するなよー!」と心配そうに言いながら、抱きついてきた。リオの中ではヒースはいつまで経っても愛玩動物の様だけど、好きでいてくれるのが分かるからそのままでいいと思う。


 カイネが、外套の頭巾を深く被りながらヒースに伝える。


「砂漠は暑いぞ。しっかり被っておけ」


 ヴォルグが頷く。


「お前もニアも肌が白いからな。赤くなるぞ」

「分かった」


 ニアも、ヒースと目が合うと頷いた。


 ここから先は、正真正銘の魔族の世界だ。


「――行くぞ」


 カイネが全員に向けて言う。


 新たな旅の始まりだった。

第一部は、ここで終了となります。


最初はほぼ毎日更新していたこちら。最近は週一更新でなかなか話が進んでいなかったんですが、原因は明らかで枚話つけていた挿絵が終わらないからでした。


これではいつまで経っても話が進まない(のんびり進めている作者に原因はありますが)ので、第二部より、挿絵は不定期に変更し、現在の文字数1話3000字を少し減らして投稿スピードをあげていこうと考えています。


後で挿絵を付けた場合は、活動報告またはその日の投稿あとがきででもお知らせする予定です。


第二部は、少しストックをため、九月中に投稿再開の予定です。


時間が空いてしまいますが、引き続きよろしくお願いします。


ミドリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ジオとヒースはもう親子だね( ;∀;) 家族の記憶=つらいものだったけど これからは思い出すたび幸せなものになるよ 帰りを待つ人がいる ぜったい無事に帰らないと! 第二部も楽しみにして…
[良い点] 魔族の世界、どんな展開になるのか楽しみです(∩´∀`)∩
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ