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離れる不安

今回、挿絵のタッチを変えて描いてみました。

 翌日は快晴。アンリが住んでいる小屋から出ると、眩しい木漏れ日が揺れていた。


 鼻孔を擽る深い緑の香りは、ジオと過ごした妖精の泉がある森を思い起こさせる。ヒースはスウーッと大きく深呼吸した。その場でぴょんと跳ねてみたが、昏倒から目覚めた後にひと晩ぐっすりと寝て、身体はかなり軽くなっている。


「じゃあアンリ、朝ごはん取ってくるから」

「んー」


 ヒースが起き上がったことは何人も目撃しているのでもう知れ渡っているだろうが、アンリが目覚めたことはヒース以外は誰も知らない。言わなければ、アンリの朝食が用意されないかもしれない。その為、こうして早起きしてミスラの元へと向かうことになったのだ。


 アンリの影響を全く受けないことが判明して以降、すっかりアンリの世話係になっているヒースだった。


 ちなみに、ヒースはもうすっかり具合がよくなったが、アンリはまだ起き上がって彷徨くほどの気力が湧かない様だ。元から食が細い様なので、よく食べるヒースよりも回復の速度が遅いのかもしれない。


 まあ、ヒースの場合はニアとクリフからの魔力の供給があった所為もあるだろうが。


 あまりそこを深く突っ込むと、また昨日の様にアンリがいじけてしまう。いじけたアンリは、何故かヒースに甘える素振りを見せるから嫌なのだ。


 自分よりも大人の男性に甘えられても嬉しくも何ともないヒースとしては、アンリには早く元気になってもらい、さっさと魔力がない女性を見つけて楽しい人生を歩んでもらいたかった。


 家屋が密集している方向へと足を向ける。鳥の鳴く声も軽やかで、これからいい一日が始まりそうな予感を起こさせた。


挿絵(By みてみん)


 今日は、ニアがヨハンを説得してくれる日だ。これが終われば、いよいよ魔族の国へ向けて出発となる。ニアは置いていくなと泣いていたが、実際問題連れて行ける可能性は低いだろう。


 ニアとはずっと隣にいたい。それは事実だ。だけど同時に、魔族の国に女性を連れて行くのはあまりにも危険過ぎた。


 妖精族と魔族との間に子供が生まれることはないと以前ニアに説明されたが、妖精族にとってそれは常識であったとしても、魔族にとっての常識かどうかは未知数だからだ。


「……後でヴォルグに聞いてみよう」


 どうもカイネは色々と知らされていないことが多いようだが、次期族長のヴォルグはこの集落の中ではかなり物事に詳しい方だ。


 本当はティアンに直接聞けると早いのだろうが、どうもティアンには話しかけにくい。基本家族のことしか頭になく、ぼーっとしている様に見える。なのに時折急に鋭いことを指摘してきたりするから、正直言って苦手だった。


 ティアンの表情はあまり変わらない。それに魔力も少ないのか、殆ど感情が流れ込んでこない。端的に言えば、読めない人、それがティアンだった。


 ちなみに、ニアもある意味行動が全く読めない人だが、表情がころころ変わるから、魔力で感情を読み取ることは出来なくとも怒ってるか泣いているかくらいは分かる。今どういうことを考えているのかな、なんて想像することすら楽しいと言ったら、またアンリ辺りが不貞腐れるだろうか。


 ひとりでいると、考えが研ぎ澄まされていく。残された時間でやるべきこと、ヒース達が発った後に誰に何を任せるのかも、これを機に整理しておきたかった。


「あ、それにシオンに魔石を作ってもらわないと……」


 ひとつの魔石を作るのにどれくらい時間が掛かるかは分からないが、それを指輪か何か小さな物に打ち込めばひとつの石からかなりの個数の物を作り上げることが出来る。


 ヒースが寝ている間に多分ジオか、それに魔石を欲しがっているザハリあたりも話をしているとは思うが、あれ以来ジオがどこで何をしているのかさっぱり分からない。昨日ニアに聞いておけばよかったのだが、思いもよらないニアの告白に浮かれてしまい、そんなことはすっかり忘れていた。


 師弟なのに薄情だとジオ辺りにぽかりとされそうだなと思ったが、それでも苦笑いしながらジオは許してくれるのだろう。


 早くジオにも会いたかった。今、一体どんな顔をしているのだろうか。長年恋い焦がれた相手が、自分の為に世界を捨てて目の前にいる。それはどれほどの喜びなんだろう。


 でも、考えてみたらヒースだって同じだ。


 ニアは、アシュリーの元に戻るとはひと言も言わなかった。あちらに家族がいるだろうに、戻りたいという素振りすら見せなかった。シオンがこちら側に来るからその面倒を見なければという忠義は勿論あるのだろう。


 だけど、ヒースがこっちの世界にいるから。少しはそんなことも思ってくれたんじゃないかと思うのは、調子に乗りすぎだろうか。


 ヒースが昏倒した後に猛獣の様に味方を襲ったニアの話については、周りの人達は呆れてというか引き気味だった。だが、ヒースは嬉しかった。何故なら、それがニアの本心からくるものだと分かったからだ。


 味方から魔力を吸ってでもヒースを助けたい。ニアが咄嗟にそう考え判断してくれたことで、ニアの中で占めるヒースの割合がかなり多いことを知った。


 優先順位の高さは、それだけニアにとってヒースが大事だからなんじゃないか。


 それが嬉しかった。だから本当は、ニアの為にもう少し何かしてあげられないかとも思う。


 妖精界のことは、正直言ってよく分からない。それに、いくら妖精界の要人がこちらに集合しつつあるからといって、ヒースに何が出来る訳でもないだろう。


 アシュリーが父親である妖精王と対峙することを明確にした以上、これから妖精界は荒れる。それくらいは予想できたが、だから余計にニアを向こうに行かせるつもりはなかった。本当はきっと、アシュリーにも家族にも会いたいと思っているだろうけど。


「……あ」


 ヒース達と一緒に魔族の国に行けば、突拍子もない思いつきで妖精界に戻ってアシュリーの右腕に復帰しようなんてことも考えないんじゃないか。


 そう考えると、危険ではあるが魔族の国へ共に行った方が、見ていられるから安心かもしれない。


 そう、ヒースはまだ全然自信がなかったのだ。魔族の国に行って竜人族に会うのはいい。だけど、そこからアイネが素直に帰ろうとするかは未知数だ。


 アイネの説得ばかりは、部外者のヒースが行なう訳にはいかない。アイネの許嫁であるヴォルグがやらねば、きっとアイネは動こうとはしないだろう。


 だけど、あの口下手の大体いつも不機嫌そうな顔をしているヴォルグに、自分を説得して連れ戻してほしいと願う乙女心を理解した上で説得出来るかと考えると、正直難しいと思う。口数が少ない癖に、絶対余計なことを言う。それがヴォルグだ。


 ここに戻ってくるまで、どれくらい時間が掛かるのか。ひと月ふた月ならまだいい。だけど、下手をしたらもっと掛かるんじゃないか。


 そしてその間に月の花が十分に魔力を蓄え、また接点が開いたら。その時、アシュリーが不利な立場に陥っていたら。そしてニアがそれを知ってしまったら。


 横にヒースがいないことで、妖精界に戻ることを勢いで決心してしまうんじゃないか。


 そのことが怖かった。


 自然と、駆け足になる。


 やっぱり、隣にいてほしい。近くで見ていないと、本当に何をするか分からない恐ろしさがニアにはあった。


 ミスラの家、つまりヴォルグの家の前で急停止すると、ドアをどんどんと叩く。すると、暫くしてドアが開き、お玉を持ったミスラが顔をひょっこりと出した。


「おはようヒース、早いね!」

「おはよう! 入っていい!?」

「え? うん、いいけど……」


 ミスラが戸惑った表情を見せているのにも構わず、ヒースはずんずんと中へ入る。すると、入ってすぐの居間に入ってきたばかりのニアと目が合った。


「……ニア!」

「え? ヒースおは……ひっ」


 ニアの元に駆け寄ると、その細い身体を腕の中に閉じ込めた。ニアがワタワタしているのは分かったが、怖くて離すことが出来ず、ヴォルグが来て訝しげな表情でこちらを見るまで、ニアを抱き締め続けていたのだった。

次話は月曜日投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニアを目の届く範囲に置いておきたい でも危ないところに連れて行きたくない そうだよねぇ〜( ̄▽ ̄)
[良い点] ニアも連れて行くんですね(*´ω`*)
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