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繋がった接点

 接点である蒼鉱石の円盤は白い光を放ち、縁にしゃがみ込んだアンリのただでさえ白い顔を更に白くさせていた。


 アンリがヒースを見上げ、同じようにしゃがむよう手で促す。アンリの横に膝をついてしゃがむと、アンリが片手をヒースの前に出した。


「乗せて」

「何を?」

「ヒースの手を」


 男と手を繋ぐのか。一瞬躊躇したが、円盤の反対側に立っているジオが不安そうな顔をしているので、それ以上迷うのはやめた。ぎゅ、と上から手を重ねると、アンリが目を細める。


「ああ、やっぱり同じ属性だ。凄く馴染む……」


 まるで酔ったかの様な言い方に、ヒースはこの人本当に大丈夫か、と不安になった。王族だとはいえ、ニアと同種の研究馬鹿であることに代わりはない。どさくさに紛れて突飛なことをしないかだけ、きちんと事前に確認しておいた方がいいかもしれない。


「あのーアンリ? 普通にやってね?」


 何が普通かは勿論ヒースには分かり得ないことであったが、この際詳細はいい。とりあえず無事にシオンをこちらの世界に連れて来るのが第一だ。


 ヒースの意図が伝わったのだろう。アンリはむっとした顔になって抗議を始める。


「あのねえ、僕だってシオンおば様の幸せを願っているという意味ではヒースの師匠と変わらないよ。そんなはなから疑いの目で見なくったっていいじゃないか」

「変なことしないならいいんだよ別に」

「まるで人がこれまで変なことをしたような言い方じゃないか」


 よく言う。初めて会った時に人のことを実験体の様に好奇の目で見ていたのはどこのどいつだ。あの時はヴォルグが止めてくれたが、その後はハンを落ち着かせる為にメロメロにさせたし、人にあーんをしろと強要したり、結構色々やっている。


「全く……僕を誰だと思ってるんだよ……」


 ぶつぶつと隣から聞こえるが、無視することにした。


 そうこうしている内にも、月の花から発せられた光の粒子がどんどん接点へと集結している。それが徐々に明るくなってきたかと思うと、水面(みなも)の様に揺らぎ始めた。


「――ヒース、余計なこと考えないで力を抜いていて」

「分かった」


 魔力に関しては、どう考えたってアンリの方が何倍も上手だ。ヒースはただ魔力を沢山持っている何も知らない素人に過ぎない。アンリが、接点の上に繋いでいない方の手を翳す。すると、ゆらゆらと不安定に揺れていた面の中心から、光の筋が天へとスーッと差した。


「始まったよ」


 アンリが目を細めながらじっとその様子を見つめている。ずずず、と体内の何かがアンリの方に引き寄せられていく感覚が、ヒースを襲う。これは――魔力が移動しているのか。


 怪我を負い皆の無事を祈った時と似た感覚だった。ただ、抜かれた分、身体の中に空虚が出来始めている気がする。


 光の筋は、円になって波紋の様にゆっくりと中心から外へと向かって広がっていく。天に繋がっているかのような光景に、ヒースは圧倒された。口をあんぐりと開け、円がやがて円盤の端までくるのをただ眺め続ける。


挿絵(By みてみん)


 すると、唐突に光が天から降り、円盤へと急速に吸い込まれていった。一瞬、シン、となった円盤が、次の瞬間本来ただの金属板であれば映る筈のない光景を映し始める。


 闇の中に浮かぶ星々。間に透き通る絵の具でピッと横に薙ぎ払ったのかの様な、暖色の線が星の隙間を埋めていた。あんな光景、見たことがない。妖精界の夜空はあんなに美しいものなのかと、ヒースはその光景に釘付けになっていた。


 妖精の泉では、こちらが覗き込む方で、向こうは鏡なのか正面を向いていた。接点が設置された角度によって見える背景が違うんだな、と納得したのはもう大分前の話だ。


 夜空が見えるということは、こちらもあちらも接点は床にあり、覗き込む形になっているのだろう。


「――シオン?」


 ジオが、円盤の中の夜空に向かって声をかける。ジオのこんな切ない声なんて、初めて聞いた。不安げなそれは、ヒースの心をきゅっと締め付けていく。


 アンリが小声で注意する。


「ちょっと、我慢して。もらわないでくれよ」

「――え?」

「それは君の感情じゃないでしょう」

「あ」


 どうやら、また無意識に人の感情を感じ取っていたらしい。ということは、この不安からくる苦しい思いは、ジオのものだ。


 これまでジオの感情を感じたことはなかったので、ヒースの封印が解けたこととジオがあまりにもその思いに強く囚われている所為で、そこまで魔力量が多いとはいえないジオの影響を受けてしまっているのだろう。


「僕にも影響くるからやめて」

「やめてって言われても……」


 一体どうしたものか。そこで、以前シーゼルにかなり大変な特訓を受けた時のことを思い出した。想像である。あの時は、剣に鞘を被せる想像をすることでそれ以上の魔力の放出を防いだ。


 ということは、遮断できる壁を想像すればいいかもしれない。


 ヒースは、苦しそうに接点に向かって繰り返しシオンの名を呼び続けるジオと自分の間に見えない壁を想像してみた。すると。


 不安な気持ちが、すーっと消えていくではないか。


 アンリが横目でチラリとヒースを見る。少しだけ、笑みが見えた。及第点らしい。


 再びジオを見る。シオンはまだだろうか。ヒースの中の魔力が、段々と減っているのが分かる。このままだと、早々に尽きてしまうのではないか。


「――シオン!」


 ジオが叫ぶ様に呼んだ。


「ジオ様! お待たせ致しました!」

「――え」


 ひょこん、とジオの前に顔を覗かせたのは、アシュリーだった。


「アシュリー!」


 ジオが声を上げる。ヒースは思わず振り返り、ニアを探した。いた。階段の少し上の方で、こちらの様子を興味津々で眺めている。アシュリーが来たことに、気付いていないのかもしれない。


「ニア! アシュリーだよ!」


 ヒースが知らせると、ニアは「え!?」という顔になった後、階段を転げ落ちそうな勢いで降りて来た。


「アシュリー様!」


 ジオの背後に立つと、泣きそうな顔でアシュリーの名を呼ぶ。アシュリーは一瞬目を大きく開いたが、すぐに柔和な笑顔になった。


「ニア、元気そうですね。よかったです」

「アシュリー様! 任務、ちゃんと遂行してますよ! ヒースの役に立って……るよね?」


 ニアが、そこだけ不安そうになってヒースを見る。可愛いな、そう思い、ヒースはアシュリーにも聞こえる様に大きな声で答えた。


「勿論役に立ってるよ! 俺の命を救ってくれたし、それに今はもう俺の恋人だから、妖精界に返す気はないよ!」

「ば……っヒース! 今それ……っ」


 ニアが真っ赤になると、アシュリーがクスクスと笑った。


「ヒースと恋人になったんですか。あの堅物のニアが……ふふふ、予想以上にうまく行った様ですね」

「よ、予想!? いやあのアシュリー様っ?」


 アシュリーが、笑顔のまま、それでも反論出来そうにない強めの口調でニアに言う。


「ニア、貴女はそのままヒースと共にそちらに残り、お母様を助けてやって下さい。――ニアも知っての通り、身の回りのことはあまり出来ませんので」

「――承りました!」


 ニアがピシッと姿勢を正すと、アシュリーに傅いてみせた。


 ニアは帰りたいと言って泣くのかな、そんな可能性も残っていることを、心の中のどこかで恐れていた。でも、全然そんな心配は必要なかった。ニアはいつだって真っ直ぐで、きっと色んな葛藤があったに違いないのに、そんな素振りは見せずにこちらに残ることをキッパリとひと言で宣言してみせたのだ。


「して、シオン様は?」

「おりますよ。照れて隠れています。お母様、いい加減観念なさいまし」

「うわっ」


 アシュリーがぐいっと何かを引っ張る動作をすると、よたた、と接点に顔を見せたのは、どう考えても焦った表情のシオンだった。

来週月曜締め切りの公募の追い込みの為、来週は火曜日か水曜日投稿を目指します!

これが終わったら暫く手が開くのでなるべく進めたいと思ってますので、見捨てずによろしくお願い申し上げますーーー!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] アシュリー、久しぶりですね(*´ω`*)
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