表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/233

混血の可能性

 一階に一箇所、他よりも高くなっている箇所があった。腰掛けられる程の高さに上がっている。カイネは草か何かで編まれた、丸められていた敷物をぱっととの場所に広げると、ミスラがそこに料理を並べていく。


「俺も手伝うって」


 ザハリが炊事場に戻っていくミスラの後をついて行くが、ミスラは、


「だから炊事場に入るなって言ってるだろう!」


 と力一杯拒否している。だがザハリは全く意に介しておらず、そのままミスラと一緒に中に入って行ってしまった。物凄く強引な人だな、とヒースはただその様子を眺めるしか出来なかった。


「炊事場に何で男が入っちゃいけねえんだよ。人間の世界じゃ、男だって立派に料理するぜ?」

「ここは獣人の家だ!」

「カイネは半分は人間だろうが」

「うっ」


 言葉に詰まったミスラに、ザハリが畳み掛ける様に言った。


「俺だってまあほぼ人間だしな、いいじゃねえか、一緒に調理場に立つと楽しいぜ。獣人の男はそんなことしてくれねえだろ?」


 話し声は、そこで止んだ。ヒースはカイネに勧められ、上がって敷物の前で待機している。シーゼルも、外を警戒しつつもヒースの隣に腰掛けた。シーゼルだって食べている量はヒースと対して変わらない。腹は減っているに違いなかった。


 暫くすると、手に大皿を持ったザハリが出て来た。カイネが呆れ顔でザハリから皿を受け取った。


「ミスラはどうした?」

「ああ、今はちょっと出てこれないみたいだぜ」


 そう言ったザハリは、少し顔がにやけている。怪しさ満載だ。十中八九、ミスラに何かをしたのだろう。


「ザハリ、あまりミスラをからかわないでくれ。ミスラは純粋なんだから」


 誰よりも純粋そうなカイネが、そう言った。


「綺麗でいい人そうなのに、何で結婚してないんだ?」


 ようやく喋る余裕が出て来たヒースがカイネに尋ねると、カイネが嫌そうな顔をしながら説明してくれた。


「ヴォルグの姉だから、誰も手を出さない」

「……あー」


 ヒースはその言葉で納得してしまった。ティアンと話して実感したが、獣人族にとって力がある者が一番なのだ。それは絶対的な価値で、揺るがないのだろう。カイネは混血で他の獣人に比べたら弱いかもしれないが、それでもこれまで無事に生きてこれたのは、ひとえにこの一族の中で圧倒的な強さを誇るティアンの庇護下にあるからだといえる。つまり、強者の所有だから他の者は触れない。だからヴォルグもカイネを無理やりモノにする様な強硬手段には出なかったのだろう。


 そんな一族の中で二番目に強い男、ヴォルグ。先程ミスラは、ヴォルグが家長だと言っていた。ということは、親はもしかしたらもういないのかもしれない。そうなると、ミスラはヴォルグの庇護下の者と括られることになる。つまりミスラと結婚したくば、ヴォルグに自分が強いというところを見せるか、それともそれ以外で血縁になったら得だと何か優れた部分を提示しないといけないのだろう。


「獣人って面倒くさいね。僕、人間に生まれてよかったよ」


 それまで静かに話を聞いていたシーゼルが、そう言って小さく笑った。でもそれはヒースも同感だった。人間はどの種族よりも弱い代わりに、汎用性と柔軟性を持った種族だ。どの種族とも共に生きることが出来る。それは途轍もなく凄いことなのではないか、とヒースは思った。


「竜人も竜人で面倒くさそうだったけどねえ」


 シーゼルはそう言うと、瑞々しい野菜を一つ指で摘んで口に放り込んだ。シャキ、といい音がする。ザハリは、シーゼルのその言葉に興味を覚えたらしい。料理を挟んでシーゼルの反対側に腰掛けた。


「俺は竜人とはあまり付き合いがなかったんだよな。師匠は何人か懇意にしてた奴らがいたけどさ、そいつらももう死んじまったしな。そもそも奴らは数も少ねえしよ、そうそう会う機会がなくて」

「エルフの方が数少なさそうだけど」


 シーゼルが表情を変えずにそう言うと、ザハリはうんうんと頷いた。


「まあな、殆ど会ったことはねえ。まあ俺のことはいいんだよ。竜人の話だ。奴らはどう面倒くさいんだ?」


 シーゼルはかつて竜人に惚れられて、今身に付けている蒼鉱石の剣を贈られたという恐ろしい経歴を持つ男だ。惚れられる位竜人と親しくなったのなら、当然竜人族の習性もよく知っているのに違いなかった。


「竜人も、エルフ程じゃないけど長生きらしいよ。竜の姿になったら無敵に近いけど、数は少ないとか言ってたかなあ。出来るだけ人間と交わらない様にしてるからで、だから出来るだけ竜人同士で交わって、どうしても必要な時は獣人とかの他の魔族と交わるそうだよ」

「人間と交わんねえ? 何でだ?」


 ザハリが興味深そうに聞いてきた。ヒースも興味があるので、静かにシーゼルの話の続きを待った。


「カイネと一緒だよ。一番強い姿に変身しにくくなるんだってさ」


 すると、その言葉にカイネが反応した。


「シーゼル!」

「なになに」


 シーゼルは面倒くさそうに対応する。やはりどうもカイネと必要以上に仲良くしたいという気はないらしい。


「変身しにくい? 出来ないの間違いじゃなくてか!?」


 あ、とヒースは思った。そうだ、カイネが弱いと言われているのは、獣人の一番強い獣に近い姿に変身することが出来ないからだ。人間に近いこの姿の時はそれなりに強くても、この姿のまま獣の獣人と戦うには圧倒的な差が出てしまうのだろう。


 カイネはずっと、変身出来ないと思っていた。ということは、アイネも変身出来ないのだ。カイネの話ぶりからすると、この集落で混血はカイネのアイネのみで、他の混血は知らないのだろう。だから、思いもしなかったのかもしれない。混血が変身出来る可能性があるかもしれないとは。


「……まあ血の濃さにもよるみたいだけど、出来なくなくもないってそいつは言ってたよ。本当かどうかは知らないけど」

「本当か!!」


 カイネがシーゼルの前に急行したかと思うと、シーゼルの手を両手で握った。シーゼルの顔が、思い切り歪む。そこまで嫌がらなくてもいいだろうに、とヒースは思ったが、お腹が空いているのでわざわざ止める気力がなかった。ミスラはまだだろうか。やけに遅い。


挿絵(By みてみん)


「シーゼル! お前の言葉を信じてもいいのか!?」

「……僕は聞いたことを話しただけで、それが合ってるかどうかなんて知らないよ」

「でも、確かに竜人から聞いたんだろう!?」


 カイネはこう見えて馬鹿力だ。シーゼルもそこそこ力はあるが、そのシーゼルが一所懸命手を振りほどこうとしているのが分かった。腕にも首にも、力を込めた筋がくっきりと浮いているからだ。でもカイネは離さなかった。そして目が期待でキラキラと輝いている。


「……まあ、同衾中に男はあんまり嘘は付かないから、まあ実際にそういう混血もいるんじゃない?」


 シーゼルがそう言うと、少し離れた所からガシャーン! と盛大に皿が割れる音がした。皆が一斉に振り返ると、炊事場から取皿らしき小皿を持ってこようとしていたミスラが唖然とした表情を浮かべてそこに立ち尽くしていた。足元には割れた皿。危ない。


「あーあー、何やってんだよミスラ。ほら怪我するからどいてろ」


 よっこらせとザハリが立ってミスラの元に行くが、ミスラはただカイネを驚いた様に見ているだけだ。ザハリが不審げに声をかける。


「ミスラ?」


 すると、ミスラが両手で頬を押さえた。


「カイネ! その手は何!? ていうか同衾ってどういうことだい!?」

「え?」


 カイネはそう言うと、ようやく自分がシーゼルの手をがっちりと握っていることに気が付いた様だった。

次回は明日投稿頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ