蒼鉱石の鍛え方
シーゼルとカイネがとりあえずの和解をしたことで、完全にではないがヒースの憂いも多少は晴れた。
シーゼルとカイネが見守る中、ようやくザハリの説明が始まった。
「この炉は、ここに元々あったもんだ。昔は魔族の国から鍛冶屋がやって来てここに技術を広めようとした時期もあったらしいが、戦争の所為でそいつらは中央に引き戻されてそれきりだと聞いた」
カイネが後を引き継いだ。
「僕が子供の頃には、年老いた竜人族の鍛冶屋が一人いた記憶があるが、それ以来ここの炉は放置されたままだった」
「竜人にも鍛冶屋がいるんだね」
「どの種族にだっているさ」
と、これはザハリ。
「ふーん」
ジオ以外の鍛冶屋を見るのはザハリでまだ二人目だが、でも確かにこれまで作ってきた物には剣以外の物も沢山あったから、武器以外の目的でも、鍛冶屋は各種族の中で重要な役割を果たしているのかもしれない。そう考えると、まだひよっことはいえ自分の職業が誇らしく思えた。
「蒼鉱石は、溶けにくい。だが一度温まると冷めにくく、叩けば叩く程青みを増していく。――その剣の様にな」
ザハリがシーゼルの腰にぶら下がる剣に向かって顎をクイ、と向けた。
「お前が作ってた剣は、どれ位で完成した?」
「短剣は鍛えるのは一日で出来たけど、柄も入れるともっとかかったし、属性を付けるともっとかかった」
「研ぎはどうしてた?」
「足で踏んでクルクル回る道具があったから、それで研いでた」
「成程な、道具が一通り揃ってたってことか」
「うん」
「ここは道具はこれしかなかったから、ヴォルグらに無理やり連れて来られた後、何度かカイネに道具を取りに行ってもらった。でもうちの道具を壊して持ってくる訳にも行かなくてよ、道具作りから始めたからそもそも蒼鉱石を鍛える段階まで来たのは比較的最近なんだよ」
炉を見上げて言った。口調がどんどん愚痴っぽくなっていっていた。
「炉の中も固まってたしよ、穴は開いてるし。火を入れるどころじゃなかったんだ。勘弁して欲しかったぜ」
「そうだったんだ」
それは大変そうだ。今炉を見る限りはどこも問題なさそうだが、長年放置された物だから状態はあまりよくなかったのだろう。
「谷の入り口の家、あそこってザハリの家だよね?」
「お? おお。どうだった? 誰にも荒らされてなかったか?」
「炉なんてあったっけ?」
見た記憶がない。ヒースは自分の印象をとりあえずは語ることにした。
「なかなか広い家だったけど」
「中に入ったのか?」
ザハリが少し嫌そうな顔をした。まあ、本人不在時の家宅侵入だ。嫌は嫌だろう。
「一泊させてもらった。皆で綺麗に片付けたよ」
「ならまあいいが……。炉は、あそこにはねえよ。少し離れた場所にある。あの家は元々は坑道に入る奴ら用の宿だったんだよ。今は俺が勝手に住んでるが、まあ、うん」
ザハリは金槌の柄の部分で自分の肩をトントンやりだした。見た目が若いだけに、その年寄り染みた動作に違和感を覚える。
「俺はあんまり獣人の為に剣を鍛えたくなんざないんだけどよ、命は取られたくねえもんな。十分生きた気はするが、それでもまだまだ足りねえし」
ブツブツ言いながら、炉の前に設置された叩き台の前に用意された切り株に座った。目の前にあるのは、先程音を立てて叩いていた蒼鉱石だろう。まだ青よりは黒に近い棒状の物が置いてあった。
「ザハリは今幾つ?」
ヒースが尋ねると、ああ? という表情をしてヒースを見上げた。人相はよくない。
「俺は半分の半分位しかエルフの血が入ってねえからな、エルフって呼ぶには短命だ」
「だから幾つなの」
「あー……幾つだっけ?」
そう言って首を傾げた。
「そろそろ百歳超えたなって頃が何十年か前だったような」
「それ短命っていうの?」
「まあ人間と比べりゃあ長寿だな」
ということは、ハンよりもエルフの血が濃いということなのだろう。
「まあ俺の年齢はいいよ。――カイネ!」
「なんだ」
「こいつ用の丸太を切ってきてくれ」
「分かった」
「寄り道すんなよ」
「しないさ」
カイネはスッと立ち上がると、その場から壁面に向かって駆け出したと思うと壁を片足で軽く蹴り、今度は反対側に跳躍してまた片足で蹴り、あっという間に崖の上へと消えていってしまった。
「いいなあ」
ヒースが手を目の上に翳しながら素直な感想を言うと、ザハリがにやりと笑った。
「人間てのは魔族に比べりゃあ身体能力は劣るだろうがな、ひとつだけどの種族よりも優れている点がある」
「何?」
「どの種族の奴とも恋をして家族を成すことが出来るってことさ」
すると、それを聞いていたシーゼルがくす、と笑った。
「無骨そうに見えたけど、言うことは浪漫的だね」
「俺には大分人間の血が入ってるから、俺も好きな種族の奴と家族が作れるってことだ。まあ大抵相手の方が先に老いて死んじまうがな」
「ザハリは家族は?」
こめかみがピクリと動いた。
「今はいねえよ」
「そっか」
「……とりあえずカイネが戻ってくるまでは、そこで突っ立って俺のやることを見てろ」
「うん、分かった」
「……素直なんだけどなあ」
ザハリが何か言いたそうな目つきでヒースをちらりと見たが、それ以上は何も言わなかった。金属の押さえで蒼鉱石の棒を叩き台に固定させると、金槌で叩き始めた。ジオの所の鉱石よりも若干重い音がする。
その手の動きはとても律動的で、ヒースはどんどんその動きと音に吸い込まれていった。
ザハリの浅黒い肌に汗が滲み出てくる。薄い黄銅色の瞳はまるで光っている様に見えた。そしてうずうずした。もう暫く金槌を振るっていない。毎日振るっていた物を振るわないと、身体がどんどんその動きを忘れていってしまいそうだった。
ヒースはただひたすらザハリの腕の動きと蒼鉱石が叩かれる様を見続けた。これがこの後出来るのだ。そう思うとわくわくした。
すると、シーゼルがふふ、と笑いながら声を掛けてきた。
「ヒース、随分楽しそうじゃない」
「楽しみなんだ」
「僕には分からない世界だなあ」
「面白いよ。シーゼルも機会があったらやってみたらいいよ」
「やだなあ。あんまりムキムキになると隊長に嫌われちゃうかも」
「それは困るね」
「でしょ」
ヨハンには、是非ともシーゼルを全面的にお願いしたい。蒼鉱石の剣を持っていても持っていなくてもあまりシーゼルは逞しい印象は受けないので、蒼鉱石に筋力増加効果があると言っても、目に見えて筋肉量が増える訳ではなさそうだった。そして自分が蛇を弓矢で捕まえた時のことを思い出す。瞬時に力が湧いてきた気がしたが、そういえば見た目は気が付かなかったから、多分分からない程度の見た目の変化なんだろう。
ということは、蒼鉱石の剣をなんとか手に入れてムキムキになってニアに見せつける計画は、あまりいい計画とは言えないのではないか。でもこれだけ動けるのであれば、是非欲しい。何とかどうにかして一振り手に入れたかった。
最悪、ここで鍛え方を学んでいけばジオの所に戻った後にでも自分で作れるかもしれない。
そうと決まれば、とにかく観察だ。ヒースは再び意識を全てザハリに向けると、ザハリを観察し始めたのだった。
次話は明日投稿します。




