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第七話 ゴーレム娘戦闘訓練 その1

「よし。これからネリアの戦闘訓練を行う」

「うぁい! ネリアがんばるよっ、ますたぁ!」


 MLOにログインした俺は、ゴーレムのネリアと共に草原系フィールド【ミダース草原】に来ていた。雲が早く流れる頭上の蒼穹、風に(なび)く背の高い草むら、遠くには青々とした山脈が(そび)えるのが見える。【ミダース草原】は各ダンジョンやフィールドを繋いでいる分岐路のようなフィールドだ。此処は【風】の属性値がやや高いフィールドで、出現モンスターもそれに類するものが多い。獣型、亜人型、蟲型、鳥型など多種多様なモンスターが出るという特徴も訓練には持って来いなのだ…………けど、逆に言えばそれ以外、特殊な素材やら宝箱やらレアドロップアイテムなど、他の面白味なんて全く無い。だから此処に来る学生(プレイヤー)もほとんど居ないのだ。錬金術での調合を用いない、直接食べれる体力回復系の薬草を摘みに来る学生はちらほらいるが、それも雀の涙ほどの効果で、無料だというくらいしかメリットは無いから人気も無い。

 ガルガロにはネリアは出来るだけ他人に見せるなと言われている。俺としてもネリアのことを誰かに訊かれても返答に困るのでそれに同意した。だからこそ人気が無く、誰か来ても直ぐに気付ける見晴らしの良いこの草原を選んだのだ。


「それで、どーすればいいの?」


 今回はガルガロと桔梗さんは居ない。

 ガルガロは各種アイテムの作成中だ。MLOの錬金術は色々できて面白いとマッドな笑みを浮かべながら作業に没頭していた。ちなみに俺の方の錬金術取得のためのキャンペーンクエストは一応ちょこちょこと進んでいる。今度ガルガロが俺にもアイテムの作り方を教えてくれるというので楽しみだ。

 桔梗さんは、なんでも家の用事とかで今日は来れないとか。わざわざログインしてまでそのことを伝えに来てくれなくても……とは思ったけど、その心遣いは純粋に嬉しかった。


「そうだな……まずはネリアひとりであれと戦ってくれるか?」

「うんっ、わかったよ!」


 俺の指差した方向、一本の木の根元に大型犬ほどの大きさの蟻、【レイジーアント】というこのフィールド最弱のモンスターが一匹で居た。『怠け蟻』の名前通りその動きは凄く鈍く、タイプも非攻撃的(ノンアクティブ)に分類される。ただし、巨大化した蟻のその膂力は本物で、牙付きの顎での噛み付きは貧弱な魔術師には凶悪の一言。

人形(ドール)】というアイテム分類上、武器を装備できないネリアは肉弾戦しか出来ないので、攻撃するにはかなり敵に接近しなければならない。なので初めての戦闘は出来るだけ動きの鈍い相手を選んだ。


 テッテッテッテ、と駆け足でレイジーアントに近付くネリア。

 手の届きそうな場所で一旦立ち止まり、そしてジーッと大蟻を見つめて――――


「ますたぁ!」

「?」


 何故か振り向いて俺を呼んできた。


 ――どうしたんだ、何かあったのか?


「たたかうってー、どうすればいいのー?」

「だぁっ」


 思わずコケてしまった。


 ――そ、そこからだったか……。


 だが、俺自身このMLOでモンスターと戦うことに慣れてしまった感があるけど、一番最初は確かに戸惑いはあった。言動から精神的な幼さが見えていたネリアにいきなり「戦え」と言うのはやはり無理があったか。


「えーっとな……こうやって腕を引いてから思いきり拳を突き出して……こう! これがパンチだ」

「パンチ? こう? えいやー!」


 俺の不恰好なパンチの手本をそのままトレースしたような攻撃を、ネリアは気の抜けた掛け声と共にレイジーアントへと放った。

 ぽふん! という軽い効果音が出そうな微笑ましい一撃だったが、それでも相手の体力ゲージを一割ほど削り取った。流石の怠け蟻も頭上のカーソルを警戒色(イエローカラー)へと変える。


「わっ、わわ!? ますたぁ、なんかきたよ!?」


 敵対者に向けてギギィ、ギギィとゆっくり近付き、クワガタのような顎を左右に開くレイジーアント。それを見て慌てるネリアに俺は指示を叫んだ。


「落ち着け! 後ろに回り込んでキックだ! 足を強くぶつけるんだ!」


 こんな感じこんな感じ、というように蹴りを見せる俺。

 ネリアは「う、うん!」と意気込み、そろそろ~とレイジーアントの背後へと回り込んだ。

 怠け蟻は首だけはネリアの動きを追っているが体は付いていっていない。方向転換も遅い。


「てりゃ!」


 俺の指示通り、大蟻の大きな尻に向けて蹴りを放つネリア。今度は1割ちょい体力ゲージが減った。


「いいぞ! そうやって相手に触られないようにして、どんどん攻撃するんだ!」

「はーい! ――あぅっ!?」

「ネリア!?」


 言ってるそばからレイジーアントの反撃だ。ネリアの足に噛み付かれた。


「こんのー!」


 ポカポカッとレイジーアントの頭を叩いてネリアは強力な顎から脱出する。見た感じは大丈夫そうだけど……。

 俺はシステムウィンドウを開いてネリアの情報を見た。


 ■アイテム名:ネリア(名前変更可)

 カテゴリ:人形(ドール)

 属性:【土】【泥】【岩】【鉄】【自律精巧人形】【精霊】

 耐久値:3367/3370

 ・着せ替え可能


 ――耐久値が全然減ってない!


 最初の時はただ転んだだけで10くらい減っていたのに、今回は攻撃力の高いレイジーアントの噛み付きを喰らったのにたったの3しか減っていない。

 昨日の苦労の結晶がしっかりと機能していたことに頬が緩んだ。




   ◆○★△




 ゴーレムであるネリアの身体は、それを構成する素材によって耐久度が変化する。しかし、ただ単に腕や脚、胴体の素材を硬い素材するってだけじゃ、あの場に在った素材では耐久値1000を超えるので精一杯だった。


 ならばどうすればいいのか、と考えに考えた末に思いついたのが、『身体部位単位での素材変更』ではなく、『身体構造単位での素材変更』だった。


 生成陣設定画面の素材設定部位選択では、やろうと思えば細胞レベルでの素材設定が可能だ。ただし本当にするとなるとかな~~~り膨大な時間が掛かるので今はやろうとは思わないが。

 ネリアの外見は生成陣に記録されている。人型の選択肢の中に【ネリア】という項目が出来ていた。更に、この人型というカテゴリ内では内部構造の設定も可能となっている。


 まずは【骨格】。粘土に通す針金の芯のような簡易骨格や、限りなく人間に近い骨格、果ては蟹や海老のような表面を覆う外骨格などの種類があった。最初に選択した形状によって此処で選べる種類が変わってくる。


 次に【神経系】。これは骨とは別の肉体の内側を巡る器官の構造設定で、やはり簡易的なものから根っこのような毛細血管状の詳細なものまで選択することが出来る。


 そして【筋肉】。人間にすれば骨に絡みつく筋繊維に相当するものの設定だ。実はこれが一番面倒くさくて、間接ごとの【腱】の太さ、【屈筋】と【伸筋】の長さなど、細かく設定しようとすればするほど全体のバランスとの折り合いが難しくなる。


 最後に【体表面】。肌の部分だ。これには皮下脂肪部分の設定も含まれている。


 簡単に説明したが、『人型』の項目だけでザッとこれだけ多くの設定が生成陣にはあるのだ。これがゴーレムでなくとも、例えば武器や防具などにも構造設定は応用できる。

 生成陣だけでこれだ。MLOの錬金術は無限の可能性を秘めているとガルガロの言っていたことも大袈裟じゃない。


 俺とガルガロ、桔梗さんは相談と実験を重ね、ネリアの身体構造を徐々に改変していった。

 結論から言うと、身体全てに硬い素材を使うよりも、出来るだけ人間に近しい構造で素材分けした方が最終的な耐久値は高くなった。


【骨格】は206本の骨から成る人体骨格を選択。人間や犬などの脊椎動物にとって骨の強弱は行動に直結する。そこで素材は用意出来た中で一番硬度の高い『鉄』を選択した。

【神経系】は液状の素材のみ選択できる。ただ、実験して分かったことだが、『ゴーレム』だからか、もしくは核として『スピリット(土)』を使ったからなのかは分からないが、ネリアの身体素材には素材アイテムの属性に【土】とあるものしか受け付けなかった。『純水』単体で【神経系】に設定したらネリアが動かなくなってしまったのだ。【土】属性で液状となると『泥』しかない。そこで俺の取ってきた純土と水を合わせた泥を設定した。

 次にネリアの【筋肉】部分。やはり此処は頭を悩ませた。筋肉という分類上、単純に硬いだけの【土】属性の素材を当てても、耐久値は上がるがその動作は鈍くなる一方だった。瞬発力、柔軟性、強度、耐久値の全てを両立させ、尚且つそれらの値を高水準にする素材とバランスを考える必要がある。

 ガルガロは様々な種類の土系素材を用意してくれていた。

 鉱物は鉄だけのようだが、岩石は火成岩系を10種類ほど。土は『粘土』『シルト』『砂』『礫』の各含有量のバランスが違うものを20種類ほど揃えてあった。

 要は『人間の筋肉』を『土系素材で代用』するということなので、当然代用品の性質も人間のそれと似たようなものが望ましいだろう。強靭さと柔軟さが求められる【筋肉】には粘土含有量50%以上の粘着性の高い『埴土』に分類される土の中から出来るだけ弾性の高い物を選択した。ネリアの身体輪郭はとりあえず固定なので、【腱】や【屈筋】、【伸筋】のサイズ設定などはそれに合わせる形で落ち着いた。

【体表面】に使用する素材はガルガロと桔梗さんで意見が分かれた。ガルガロは高硬度素材を用いて防御力の高いメタリックな肌質を。桔梗さんは一番最初のようなサラサラした泥を表面にして階層状に段々と硬度の高い素材を用いて弾力の強い肌質にすることを推した。結果として、メタリック肌では間接の接合部分に不安があるということで、桔梗さんの案を採用することにした。……けっして抱きつかれた時に硬いよりは柔らかい方が良いとか、そういう不純な動機ではない。

 しかし、こうしてネリアの耐久値は3000オーバーに至ることが出来たのだ。




   ◆○★△




「て~りゃ~!」


 耐久値はあくまでネリアの体力ゲージのようなものだと思っているが、それとは別に強度の値――情報ウィンドウには表示されていないが――も存在すると考えている。そして、文字通りの鉄の骨格に弾力性の高い身体を持つネリアは、かなり頑丈で強力なポテンシャルを秘めていると推測している。


「あぅっ、あぅ」


 だから。そう、だから。


 ――雑魚であるレイジーアントに苦戦する方がおかしいんだっ!!


「ネリア少し離れて! 回り込んで背中から攻撃を繰り返せばいいんだ!」

「は、はーい、ますたぁ」


 ネリアは俺の言うことをしっかりと聞いて行動してくれている。だが、全体的に動きがぎこちなく、何処か思い切りがない感じがする。おっかなびっくり、とは少し違うか。自分の動きが正しいのかが分かってないような感じか?

 そんなことを考えていると、視界の端に取得経験値とドロップアイテムが表示された。


「ますたぁー! なんか消えちゃったー!」


 どうやらネリアは初戦闘を無事に勝てたようだ。

 笑顔で手を振りながら此方に駆け寄ってくる。


 ――だけど、まだまだ訓練が必要だな……。


 戦うということを知らなかったネリア。やはりその戦闘は稚拙に過ぎる。

 これは何度も経験を積ませて、戦闘時の最適な動きというものを覚えさせるしかないか。


「ネリア、大丈夫か?」

「うん! ぜんぜんへーき!」


 笑顔全開のネリア。耐久値を見ても100弱しか減っていなかった。ちなみに耐久値は生成陣にて素材を足して再生成すれば元に戻る。

 しかしどうしようか。このまま雑魚敵との戦闘を続けてもネリアの戦闘技術が高くなるのは当分先になるだろうな。


「……あれ?」


 気持ちよさそうにするネリアの頭を撫でながら思考に耽っていると、ふと知らない女性の声が耳に届いた。

 しかも、すぐ近くの背後からだった。


「え? え? 何あの子……こんなところで水着なんて」

「ねぇねぇメーゼ。あの子、プレイヤーでもNPCでもないみたいだよう?」


 ――うわやっば! ネリアを見られた!?


 つい考え込んで周囲に注意を払うのを失念していた。聞こえるのは女性2人の声、しかも話題は確実にネリアのことだ。あれほど他人にはまだ見せるなと言われていたのに、ガルガロに怒られる……っ。


 いや待て落ち着くんだ俺。相手は背後だから俺の顔までは見られていない。名前も表示してないし、このままネリアをインベントリに格納して背中を向けたまま去れば最悪の状況は逃れられるのでは。


「ごくり……」

「ますたぁ、どうしたの?」


 黙したまま震える手付きでシステムメニューを操作する俺をネリアが不思議そうに見上げてくる。無視しているようで申し訳ないけど少しだけ我慢してくれ。ガルガロのあの無言で睨んでくるのは結構キツイんだ。

 ……よし、あとは非物質化ボタンを押せば――――


「黒カーソルってことはぁ、オブジェクトとかアイテムと同じ認識なのかなぁ?」

「ちょ、シィ!? あんた物怖じしなさすぎ!」

「――!?」


 その声は、背後ではなく真横から聞こえてきた。


「う?」

「か…………かわいいよお~~~~っっっ!!」


 突然、ウェーブをかけた桃色セミロングの少女がネリア目掛けて飛び掛かり、抱き付きいて頬ずりし始めた。


「う? う? うー?」

「あぁ~なにコレこのぷるんぷるんな感触ぅ癖になるよお~……というかこの感触やっぱりプレイヤーじゃないですよねぇってことはぁ……『焦げ茶色の泥っぽい肌』に『黒カーソル』でしかも『かわいい女の子』ッ!! つまりつまりつまりぃぃ――――ごごご『ゴーレム娘』ってことですよねえぇ~!!」


「なっ……!?」


 一瞬にしてネリアの正体を見抜いた、だと!?

 桃髪少女のいきなりの抱き付きという突飛な行動と、即座にネリアがゴーレムだと看破されたことに動揺して、完全にネリアをインベントリに入れるタイミングを逃してしまった。


「あ、あの……すみません」

「え?」


 唖然としていると横から別の人から声を掛けられた。

 見ると、ブロンドの髪を三つ編みのシニオンにした少女が、申し訳なさそうに眉を寄せてこちらを見上げていた。


「ほんっと~~~にすみません……あの子、その、重度のファンタジーオタクぷらす可愛いモノが大好きで、自分の琴線に触れたものを見るとあんな感じに興奮してしばらく周りが見えなくなるというか……」

「そ、そうなんですか」


 美少女に類する女の子に殊勝な態度で謝罪されたら何も言えなくなってしまう。それじゃあ、と立ち去れれば一番良いんだろうけど、何故か出来ない。

 仕方ないので、抱き付かれて困惑しているネリアには悪いが、桃髪少女が落ち着くまで俺と金髪の少女は気まずい雰囲気の中で待つことにしなった。




   ◆○★△




 約5分。桃髪少女がネリアから離れるまでに要した時間だ。


「はふう。堪能しましたよお」

「長い!」


 ほっこり顔の桃髪少女の頭を金髪少女が(はた)く。

 そして彼女は俺の前に桃髪少女を突き出した。


「お時間を取らせてすみませんでした。ほら、あんたも謝りなさい」

「あうあう。ごめんなさいぃぃ」

「あ、いや、俺は別に気にしてないから……」


 押さえ付けるようにして頭を下げさせられる桃髪少女のその姿に、俺はといえば先ほどの奇行の件があっても彼女らに嫌な感情は全く生まれなかった。ネリアを見られたことは別に良い。だけどガルガロに怒られるのは嫌だなぁという感じの心情だった。


「ますたぁ!」


 しばらくあぅあぅ言ってたネリアが意識を取り戻し、俺の背中にしがみ付いた。隠れるようにして若干怯えた目で彼女たちを見ている。


「大丈夫だったか?」

「うん……」


 頷いてはいるが、少し疲れたような声音だった。


「あのう」


 そんな俺たちを見て、桃髪少女が尋ねてくる。


「あたし【シーファ】って言いますぅ。いきなり暴走してすみませんでしたぁ。――ところで、失礼ついでに質問してもいいですかあ?」

「本当にびっくりするほど失礼ねあんた……」

「その子って、もしかしてもしかして『ゴーレム』ですかあ? もしくは『ホムンクルス』とかぁ? 契約魔術の召喚……じゃないですよねえ、その場合はカーソルの色はピンクだしい」


 桃髪の少女――シーファは金髪の少女のツッコミを無視して、俺の返答も待たずに怒涛の如く問いかけてきた。


 ――どうしよう……。


 ネリアの事を知られた時、どういう存在なのか気になるだろうとは思っていたが、こんな風に直接的に訊かれるとか思っていなかった。

 純粋な好奇心を感じさせるシーファのランランと輝く瞳に思わずたじろぐ。そこに悪意は全く無いように見える。

 出来ることなら教えてあげたい……けど、それはガルガロを裏切る行為だ。流石にそれは出来ない。


「……」


 だけど、答えないことにも何故か躊躇いを覚えた。

 ネリアへの好意のようなものが抑え切れずにうずうずとしている彼女を見ていると、騙されているのかもしれないが、何というか『自分の作ったモノに好意的な感情を持つ人に対する嬉しさ』みたいなものを感じてしまうのだ。


「バカやめなさい。他人の詮索は基本的に違反(タブー)でしょ」

「ううう、そうだけどぉ」


 金髪の少女に窘められて、名残惜しそうにネリアを見つめるシーファ。


 ――むむむむむ……肝心な所だけボカせば大丈夫かな?

 

 こんなにもネリアに好意を持ってくれている相手に対して、冷たく突き放すことなんて俺にはやはり出来なかった。


「えっと……この子の名前はネリア。ゴーレム、なんだ。ネリア、挨拶を」

「うぅ……ネリア、だよ? よろしく、ね」


 俺の促しに、ネリアは背中から顔だけ出しておどおどと自己紹介をした。


「かっ、かわいいぃぃぃ~~! やっぱりゴーレムだったんですねぇ。ネリアちゃんていうんだあ」

「た、確かに可愛いわね……」

「どどどどうやってこんなにかわいいゴーレムを造ったんですかあっ?」

「あー、その、ごめん。それは言えないんだ」


 言えるのはネリアがゴーレムということだけ。どのような魔術で、どのような手段で、というのは流石に言えない。もし言ってしまったら最悪ガルガロとの協力関係を破棄されてしまう可能性すらある。絶対にそれは駄目だ。


「ですよね」


金髪の少女が頷く。


「あうぅぅぅ~……じ、じゃあ! 学友(フレンド)登録させて下さいぃ!」

「へ?」

「すっごく気になるけど、もうゴーレムの作り方とかそういうのは一切訊かないのでえ、せめて……せめてネリアちゃんとはこれからも会いたいんですぅ!!」

「あんたどんだけなの」


 ゴーレムを造り方を聞けなかったシーファはそれでも諦めなかった。今度は、定期的にネリアと会うために俺と学友登録して欲しいと頼み込んできた。土下座で。

隣で少し引き気味の金髪の少女と同じく、どれだけネリアのことが好きなんだと呆れてしまった。


「わ、わかったから、土下座はやめてくれ……」


 美少女に土下座させる男。

 傍から見たら最悪な絵面に、冷や汗をかきながらシーファを立たせる。


「じゃあ学友登録してくれるんですねぇ?」

「う、うん」


 無理矢理押し切られたような感じで学友登録を承認してしまった。

 学友一覧にシーファの名前が追加される。


「メーちゃんも登録してもらえばあ?」

「うーん。その、良いですか?」

「ああ、うん。いいよ」


 ――もうどうにでもして下さい。


 金髪の少女から学友申請が来る。名前は【メーゼ】というらしい。

 見た目(アバター)的には2人とも年下っぽいから俺は普通に話してたけど、実際の所は分からないんだよなぁ。もしかしたら男かもしれな……いや、この想像は危険だ。やめておこう。


「カラムスさん、っていうんですね」

「ああ。よろしく、メーゼ……さん?」

「呼び捨てでいいですよ」

「わかった。じゃあ、そっちも敬語はやめない? なんか慣れなくて」

「あ……そう、ね。それでいいなら」

「あらためてえ、これからよろしくねぇ」


 俺、ネリア、シーファ、メーゼが同時にぺこりと頭を下げた。


「それでだけどぉ……カラムスとネリアちゃんはこれから予定ってありますかぁ?」


 首を傾げながらシーファが訊いて来る。

 今日は現実時間で21時に水島たちと待ち合わせをしている。今日は観月と菜野原も一緒らしい。だからそれまではネリアの戦闘訓練をしようと思っていた。


「ネリアが戦うのに慣れてなくて訓練していたんだ。21時に用事があるけど、それまでは続けてようかなと」

「本当ですかぁ? それならちょうど良いしぃ、わたしたちも一緒に居てもいいですかあ? ねえメーちゃん?」

「ちょっ」

「え?」

「いいですよねぇ?」

「えと、その、うん……」

「やったぁ! ネリアちゃ~ん!」

「う~、ますたぁ助けてぇ!」


 またもや謎の押しの強さに負けて思わず頷いてしまった。

 普段抱き付き魔のネリアが逆にシーファに抱き付かれて涙目になっている。メーゼはご愁傷様と合掌。


 ネリアを人に知られるのを恐れて、人目を避けて人気のないフィールドを選んだつもりが、何故か気付けば同行者が増えてしまっていた。

 本当に、どうしてこうなってしまったんだ? とは思いつつ断れないイエスマンな自分に自己嫌悪しながら、仕方なくネリアの特訓を再開することにした。


 ――ガルガロへの言い訳、考えないとなぁ……。

アバターとはいえ、あまりにもリアルな見た目の美少女から求められて、毅然な態度で確実に拒否できるDTは何人いるのだろうか? 少なくともぷちコミュ障の主人公にはできませんw

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