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第八十三話「ヒヤシンス国ビア王」

『現れた娘を禍としてもたらすのか、救いの女神とするのか、それは娘を手にした王の心次第だ。


願いは永遠(とわ)に続く。

願わくはすべての界が…………………………祈りを込め、この書物に記しをいたす』


 ――なんだ? 頭の中からなにかが聞こえてくるぞ? 途中から声が途切れ途切れだったな。しかもどういう意味かさっぱりわからん。


『キール様、いよいよ禍がこの世界に導かれます』

『あぁ』


 ――あんれ? この声はアイリッシュさんと愛しのキールの声じゃないか? あ~キールに逢いたい、ハグしたい、ついでにチューもしたいぞ。


『これでバーントシェンナ国はマルーン国からもヒヤシンス国からも守れます』

『そうだな。他国の王達に知られる前に、禍を見つけ契りを交わす』


 ――ん? 禍ってあっしの事を言ってんかい? もうヤメてよね! 人を禍って言うの! 契りはいつでもよろしくてよ❤


『すぐに禍を見つけましょう』

『あぁ』


 ――ていうか、これってなんの話だ? 禍を見つけるってどうも過去の話じゃない? 私もうキールともアイリッシュさんとも出会っているし、なんで今更こんな話を聞いているんだ?


 意識が朦朧としているからか、映像がグニャグニャでなにもわからない。ムゥー、キールの姿を見たい見たい見たいぃ―――! はよクッキリ見せてーな! 私は苛立ちの感情が湧き起こっていたが、映像は相変わらず不明瞭であった。


『音の凶器をもつ禍か。女のコのようですけど、無事に救いの女神となればいいですね』

『全くだ。そもそも肉体的に交わらなければならないなど、馬鹿げている』


 ――はい? なんかキールってば心底嫌がってない?


 まぁ、確かに私も最初は嫌だったけどさ。何処の世界の人かもわからずで、変に色気づいたイケすかない少年とエッチしろだなんてさ。


『一夜限りだ。事が済んだら禍とは関係ない。後は禍がどうするか好きに決めさせればいい』


 ――おいおい、なんか酷い扱いだな。そんな風に思ってたんかぁーい!


『意外にもキール様の心の女神になるかもしれませんよ?』

『はぁ?』


 ――おいおいおいおい、せっかくアイリッシュさんがナイスな発言してんだから、同意しろよな、フンフン!


 なんだか頭にくる会話を聞かされたと鼻息を荒くした時だ。徐々に視界が開けてきたぞ。目に映ってきたのは……ここは何処すか? んー? 古代中国漢代磚の模様が広がっている? 世界遺産にでも登録されているような格式のあるデザインだな。


 ――んん?


 今までこの世界で見た事のない景色に、私は違和感を覚えた。


 ――本当に何処ここは?


 さらに視野を広げてみると、さっきの模様が天井である事がわかった。チャイナっぽい支柱も立っているぞ。うーん、どうやら私は仰向けになっているようだ。ゆっくりと躯を起こしてみる。


「ほぇ?」


 また大層な天蓋付きベッドに寝ていたみたいで、カーテンレースもシーツも豪奢な絹で作られたチャイナデザインだ。間違いなく高値で売れそうだなと、よこしまな考え湧いた時だ。


「!?」


 気配を感じて私は息を詰めた。視線を巡らせると、近くに腕を組みながら私を見つめる一人の男性がいた。漢民族的で豪華な長袍脚を品よく纏い、漆黒の色の長い髪と同じ色の瞳は恐ろしいほど無機質で、一瞬人形かと見紛った。


 年は三十歳前後かな?私より年上なのは確かだ。端整で美しいというわけでもないけど、威風堂々としている。妙に存在感があるっての? さっきからその人は片時も私から視線を逸らさない。


 ――なんなんだ。


 喋りかけずに人の事をじっと見ていて気味が悪い。私は眉根を寄せながら、相手を注視する。その時、ある一点に目が奪われた。


「国王?」


 男性の覗かせている片耳には王だけが飾るピアスが着けてられていて、白百合のような花の紋章が彫られている。もしやこの人は残る国ヒヤシンスのビア王なんじゃ……? 懸命に記憶を辿る。フィードバックで甦る恐ろしい出来事に躯が大きく身震いした。


 マルーン国のマキシムズ王は不意打ちに討たれ、頽れる光景が蘇る。そんな残酷な行為をした人物は確か……私は刹那凍りついた。その人物が私の目の前の王だと気付いたからだ。


 恐ろしいほどの無機質な瞳、それはマキシムズ王を手掛けたあの時の人物と一緒だ! この人は国王なのだろう。多分、ヒヤシンス国の。という事はキールの元恋人ルイジアナちゃんの……?


 何故この人はあの場に現れ、今どうして私はこの王の元にいるの? 王は先ほどから微動だにせずに私を見つめていて、本当に人形のようだ。なにを考えているか読めないのも怖いが、それよりもマキシムズ王を剣で刺した人物だ。


 ――私も殺されるかもしれない!


 あの後、戦争はどうなったのだろうか。キールは? ……まさかキールまで、この王は手掛けていないよね?


「キールは!?」

「…………………………」


 なによりキールの安否を知りたい私は王に確かめようとしたが、彼はなんの反応も現わさない。


「キールは無事なんですか!」


 私は王へと身を乗り出してキールの安否を確認する。しかし、それでも王の態度は変わらない。どうしたら答えてくれるの? 私は身動きが取れずにいた。訊きたい事は山ほどあるのに、どうしたらいいの!?


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