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第四十九話「念願のケンタウルス!」

 …………………………。


 参ったなー。ケンタウルス、相変わらず私を威嚇して睨んでいるぞ。やっとやっとやーっと出会えたのにな~。こっちの人達はスルンバとスカーレットのお肉を食べるけど、チミの下半身も食べられるのかい? 私はケンタウルスの下半身をマジマジと見つめる。


 ――あれ?


 さっきは気付かなかったけど、下肢ニ本から血が出てない!?


「アナタ、血出して! 怪我しているじゃない!?」


 私は心配のあまり、警戒心なしにケンタウルスへと近づいてしまった。ケンタウルスは憤慨し、手前の足を私に目掛けて振り下ろしてきた!


「うわっ」


 次の瞬間にはガッと鈍い音と共に、私は顔から激痛が走っていた。


「!?」


 唇付近を触れるとヌルッとした感があった。どうやら血を流しているようだ。


「へっ、近づくなと言ったのに、勝手な事をするからそうなるんだ! わかったらとっとと消え失せろ! ちんちくりん!」


 な、なんと生意気な! 獣だから凶暴なのは仕方ないにしろ、人をちんちくりん呼ばわりするとは! そんな時、背後から、


「千景! アンタ、なに勝手な行動しているのよ!」


 シャルトの怒鳴り声が耳に入って来た。


「シャルト?」


 私が振り返ると、


「ちょ、ちょっと、どうしたの! 口が血だらけじゃない! ……え?」


 シャルトは驚愕して私へと近づいて来たけど、ケンタウルスの存在に気付くと、動きが止まった。


「え? こんな所にケンタウルス?」


 シャルトはさらに目を丸くして驚く。


「そうなの。しかもあの子、足を怪我しているの! だから宮殿に連れて行って、傷の手当てをしてあげてもいいよね?」

「ちょっと、手当といっても……」


 クールなシャルトが珍しく戸惑っている様子だ。


「余計な事をしようとするな! ちんちくりん娘! オマエなんかに看病されるぐらいなら、ここで死んだ方がマシだ!」


 なんと可愛げのないケンタウルスなんだ! これも獣のプライドというものなんだろうな。でもこのまま放っておくわけにもいかないよね。


「もう! そのままじゃ歩けないんでしょ? 呻くぐらい痛みだってあるんだろうし。お家に帰りたかったら、黙って看病を受けなさいよね!」


 私はまたケンタウルスに近づこうとすると、彼はまたしても前足を高く上げてきた。


「千景!」


 シャルトから行動を止められ、腕を後ろへと引っ張られる。


「むやみに近づいては駄目! また怪我をするわよ!」

「だって放っておけないだもん!」


 シャルトが近づくと、ケンタウルスはさらに牙を剥く姿を見せた。でもよくケンタウルスを見てみると、ブルブルと大きく震えていたのだ。あ、本当は私達が怖くて怯えていたんだ!


「どうしよう、シャルト? このままじゃあの子、痛いままだよ?」

「……仕方ないわね」


 そう言ったシャルトがパチンと指を鳴らした瞬間、あれだけ勢いがあったケンタウルスがパタンと倒れてしまったのだ……。


☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆


「あ、目が覚めた?」


 ベッドでグッタリと寝ていたケンタウルスがようやく目を覚まして、私はホッと安堵の溜め息を漏らした。


「ここは?」


 まだほんの少し意識が混沌しているのかな? ケンタウルスは呟くように問う。


「ここはバーントシェンナの宮殿の中だよ。怪我をしていた足に、ちゃんとお薬塗って包帯を巻いておいたからね。それとだいぶ汗を掻いていたから、タオルで躯も拭いといたよ」


 私は安心させようと優しく伝えたつもりなんだけど、ケンタウルスは目をガッと見開き、いきなり上体を起こしては私を睨み付ける。


「ちんちくりん娘、あれほど関わるなと言ったのに! こんな所までボクを連れて来た挙句に、余計な真似までして、ただで済むと思うなよ!」

「な、なんだ、その言い方!」


 全く! ちっとも可愛げがないな! 勝手に連れて来たのは悪かったけど、普通は有難うの言葉があってもいいよね! 実はあの時、シャルトがパチンッと指鳴らしをした後、ケンタウルスはパタリと倒れてしまい……。


「シャ、シャルト! な、なにしたの!? ケンタウルスが死んじゃったよ!?」

「勝手に死なせないの。プライドの高いケンタウルスで面倒だから、眠ってもらったのよ」

「そうなの? で、この子どうするの?」

「怪我の手当てをしてあげるんでしょ?」

「そうだけど、どうやって連れて帰るの?」

「そうねー、私がこのお店で大きな布を買って来るから、アンタはここで少し待ってなさい」

「わかった」


 シャルトはものの数分で戻って来ると、購入した布でケンタウルスの躯を手際良く巻く。


「ケンタウルスを運ぶなら、荷車が必要だよね?」

「その必要はないわ」

「え? じゃぁ、どうやって運ぶの?」


 シャルトはいきなりヒョコッとケンタウルスを持ち上げた。


「ひょぇええ」


 私は目ん玉が飛び出しそうなくらいビックリした。何百キロもあるであろうケンタウルスの躯を軽々しく持ち上げていますよね! どうやら術者様であれば、多少の重い物も軽々しく持てるとの事で。恐ろしい能力だな。


 さらに驚いたのが、そのままケンタウルスを担いで宮殿へ向かうのかと思いきや、突然シャルトはフワッと躯を宙に浮かせたのだ!


「ひょぇええ!」


 またもや私はすっ飛んだ声を上げてしまった。またもや術力のお出ましですか!


「そんなに驚く事はないでしょ? 一度キールの飛躍する姿を見ている筈だし、それにアンタも飛べるでしょ?」


 という事で、帰りはケンタウルスを連れて、上空から宮殿に入ったのであった。しっかしなー、肝心なケンタウルスが全く心を開いてくれないんだよなー。せっかくだから色々とケンタウルスについて知りたいのにさ。どうしたら心を開いてくれるんだろう……。


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