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第三十五話「彼の想い人」

千景がだいぶ、こちらの世界の言葉を覚えてきたので、会話の括弧を『』から「」にします。そして日本語を『』とします。今までと逆になりますね、宜しくお願いします。

「あれはねー、見物(みもの)だったわね~」

「見せ物じゃないっしょ?」


 私はシャルトと、いつもの言語レッスンを受けていた。そして昨日、王から聞いたキールと王の想い人の話をさり気なくシャルトに訊いてみたのだ。


「だってさ、元々あのコはアイリと結ばれるんじゃないかって思うぐらい仲が良かったのよ。それを覆したキールはさすがだって思ったわね」

「ふーん、それって清いアプローチだったわけ?」


 まぁ、王は卑劣なやり方を使ってキールは今の彼女を落としていないって言ってたけど、あの超美形な王だよ? 確かにキールも綺麗な顔しているけどさぁ、疑わしいんだよね~。


「なに? キールが脅したとか?」

「ち、違うよ! ほ、ほら、キールってすっごいエッチだから、そ、その、む、無理矢理とか?」

「はぁ? そんな卑劣な事するわけないでしょ?」

「ふ、ふーん」


 ぐっ、シャルトからの視線が痛い。軽蔑された目線をヒシヒシと送られている。


「でもさ、キールって彼女がいるくせに、他の女性達と夜な夜なエッチな事してたんでしょ! それってどうなのよ?」


 シャルトの視線に居た堪れなくなった私は思わず反撃を開始した。


「なんか誤解しているみたいだけど、キールは手当たり次第に女性に手を出していないし、不誠実な行為もしてないわよ」

「だって沢山の女性とエッチしてたんでしょ?」

「千景、アンタは根本的な事がわかってない。とにかくキールの事を悪く言わないで」

「フンだっ、逆ギレですか~」


 事実を訊いているだけなのに、こっちが悪者みたいな言い方されて、気分を害した私に、さらにシャルトは追い打ちをかけてきた。


「なにそれ? アンタだってチナールを好きって言っている割に、キールとエッチしているじゃない?」

「えっ」


 ぶっ飛んだ質問に、私は目ん玉をまん丸にして動揺する。


「し、してないよ!」


 明らかに目が泳いで答えた。た、確かにたまにキールとは云々あるけど……それをいちいちアイツはシャルトに話をしているのか! 私は憤りが込み上げていたが、横からシャルトの射るような眼差しが痛いのなんのって!


「あ、あれはキールが無理矢理してきているんだ! いっちいちシャルトに報告してるなんて最低だ、アイツ!」

「やっぱヤッてるんじゃない? ちなみにキールはそんな報告してこないわよ」

「だ、騙したな!」

「騙してないでしょ? 事実を訊いただけだし」

「う、そうだけどさ」


 は、恥ずかし過ぎる! だって別にキールとは恋人同士じゃないのに、ラブラブ行為をしているのが不埒な行いのようで……。しかもキールには彼女がいるのに、益々私が悪いみたいじゃん!


「キールの彼女は私の事、どう思っているんだろう? 契りの相手だから仕方ないって割り切っているの?」

「それは私の口から言えないわよ。せめて本人から訊いてみてよ」

「訊けないよ。王からキールの彼女の事は秘密だって言われたもん」

「気になるの? キールの恋人?」

「そりゃぁ、契りを交わす身としては相手の女性に申し訳ないって思うよ」

「そう。話してもいいけど、それを訊いたらアンタの事だから、その彼女に妬いちゃうわよ?」


☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆


 もう、王もシャルトも同じような事を言ってくれちゃってさ! 私はキールにこれっぽちもの恋心も抱いてないっての! だから彼の彼女に妬く事もないっての!


 そ、そりゃぁさ、もう少し年が近かったら美形な王子様~♪ って騒いでいたかもしれないけど……いや、やっぱエッチ過ぎて興ざめしちゃうか。私はシャルトとの勉強会を終え、自分の部屋へと戻っている最中だった。


「あっ」


 扉がほんの少しばかり開いている部屋に目が止まる。ここはキールの部屋の扉だ。そうそう、キールの寝室って実は私の隣なんだよね。だったら夜は自分の部屋で寝ろよって感じだよ。


 ――施錠が掛かってないの大丈夫かいな? って中にキールがいるのかな?


 そういえば、今日はみんなで晩餐会をやるって言っていたな。いつもは侘しく一人で部屋食なんだけど、たまに内輪でワイワイ食事会を開いているんだよね。


 ――キールも知っているかな?


 せっかくだし、一応声をかけてみようかな?


 ――コンコンコンッ。


 部屋の扉をノックしてみると、自然に開いてしまった。元々少し開きっぱだったからね。


「キール、いる?」


 なんなく恐々としながら、扉を開いて中へと足を踏み入れてみると?


「うわっ、すごっ」


 咄嗟に声を上げてしまうぐらい、内装が華やかで呆気に捉われた。だって私の部屋の倍はあるし、どうやらもう一つの部屋とコネクティングされている。奥の部屋が寝室だろうか。


 しっかし見事な装飾。天井と壁にはきめ細かな上品なデザインのアラベスク模様が広がっていて、床はマーブル模様の大理石、重厚な調度品一つ一つには手の施されたハイレリーフが彫られていた。


 幾多の層となっているシャンデリアは宝石の集合体ですか? キッラキラと眩いのなんのって! こんな豪華な部屋が未成年のキールの? な、生意気な! 寝室もさぞかし絢爛なんざましょうね~。


 中へと進んでみると、ある物に目が付いた。見事な調度品の上に飾られている人物画? 額を覗かせた流麗なブロンドの髪に、紫色の大きな瞳。柔和で儚い雰囲気をもった美少女が微笑んでいる絵だった。年は二十歳ぐらいかな?


 ――かっわいい、誰だろう?


 今まで見た外人さんの中でも一番に可愛いと思った。同姓から見ても一目惚れしてしまうぐらい超可愛い。私が食い入るようにマジマジと見ていた時、突然ガチャッと出入り口の扉が開いたのだ。扉に視線を向けると、入ってきた人物は……?


「キール?」


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