第33話 こんな関係も悪くない
俺とリサ姉は昼食を済ませた後、繫華街へと移動して、セレクトショップへと来ている。
主にリサ姉のような、平成ギャルをやっていた世代へ向けた、色んなブランドが揃っている店舗だ。
令和のギャルは韓国風の大人しめのスタイルが人気で、平成ギャルは派手なファッションが多い。
今でもリサ姉みたいに、平成ギャルのスタイルを貫いている女性達は、俺が思うよりも多いらしい。
店内にはリサ姉のように、日焼けサロンで小麦色の肌にしている女性が歩いている。何ならリサ姉よりも、黒い女性だって居るぐらいだ。
「さあ、一輝君に選んで貰おうかな~」
「が、頑張るよ」
カラフルな衣服が並んでいる店内は、何もかもが派手である。装飾すらも金色やピンク色など、沢山の色が使われている。
俺が良く行く店は、シンプルで落ち着いた雰囲気の所ばかりだ。リサ姉と出掛けると、大体こんな雰囲気の店舗が多い。
必ず置いてあるのが、黒字に金色の文字を使った服。そしてヒョウ柄の派手な上下、スウェット生地のダボっとした服など。
この辺りは定番で、へそ出しになるショート丈のシャツもよく見かける。これからの季節にはピッタリだ。
「リサ姉っていうかギャルって、へそ出し好きだよね?」
夏場なら涼しいだろうけど、冬場でもやる人はやる。寒くないのかと疑問に思うけれど、どうなんだろうか。絶対寒い筈だけど。
「え? だって可愛いやん、そういう服」
「う、うん、まあそうだけど」
ある程度リサ姉で慣れているから、まじまじと見る事はない。ただ見られても平気なのかなって、思う事はある。
確かにリサ姉の私服姿はとても可愛い。今日もしっかりショート丈のTシャツでへそ出しスタイルだ。
でも下心を持って見ている人だって、きっと居ると思うんだよな。こんな魅力的な女性が、肌色成分多めだと。
「見られても、気にならないの?」
「チラ見ぐらいなら別にやなぁ。あんまりガン見されたらキモイけど」
そりゃそうだよね。ただでさえスタイルが良いのだから、そう言う経験は多いだろう。実際一緒に居ると、結構視線を感じるし。
俺に視線が集中する筈もないから、確実にリサ姉へと向けられた視線だろう。……俺が怖がられているわけじゃないよな?
「やっぱり分かるんだ」
「せやで~。一輝君が胸を良く見ているのも分かるで」
いやあの、それは…………はい、見てしまいます。貴女の宝満なお胸を。だって視界に入るんだから、仕方なくない?
感触まで知ってしまった以上は、意識をしないなんて俺には出来ない。ただずっと見ているのではない、とだけ言いたい。
視界に入った時だけね。ふと目に入ったその瞬間だけは、視線が吸い寄せられる。それだけだから。
「おっぱいと会話してるんかなって、思うもんなぁ」
「それは言い過ぎじゃない!? そこまで見てないって!」
酷い誤解があると、声を大にして訴えたい。確かに俺はリサ姉の胸がとても好きだけど、常にずっと見ているのではない……つもり。
「冗談やんか~そない必死にならんでも」
「だって、変態とは思われたくないし……」
そりゃあ俺も男性だからさ、それなりのスケベ心はありますとも。しかも初恋のお姉さんが相手なのだから。
ただ下心に全てを任せて、リサ姉と一緒に居るのではない。確かに都合の良い関係だけど、それが全てじゃないから。
リサ姉がやらせてくれるから、手軽に性欲を解消出来ると思って側にいない。そんな理由で俺が、リサ姉を見ていると思われたくない。
セフレなんて関係を続けておいて、言えた事ではないのかもしれない。だけど俺は、誠意を持っているつもりだ。
彩智がやられたように、子供が出来たら見捨てて逃げるつもりはない。万が一そうなったら、絶対に責任を取る。
「変態とは思わへんよ。でもちょっとエッチやんな、一輝君って」
「……否定出来る要素がない」
それを言われてしまうと、何も言える事がなくなってしまう。一切否定出来ない事実でしかないから。
こんな事を言うと言い訳臭いかも知れないが、俺と同じ状況で下心が一切発生しない男性はいないだろう。
俺が特別おかしいのではない……筈だ。普通だと思っているつもりなんだけど。
「それより、何を選んでくれるん?」
そうだった、俺の下心についての話はもう良いだろう。今はリサ姉に似合う服を選ぶ時間だ。どうしようかな……。
色々と見て回りつつ、良さそうな服を探す。どれも悪くなさそうというか、リサ姉なら大体着こなしそうだ。
でもそれでも敢えて、俺が選ぶとしたらどれが良いか。ふと目についたのは、黒い生地のキャミソール。
ショート丈で金色のアルファベットが並んでいる。これからの時期に丁度良さそうだ。
この店は所謂Y2Kのファッションを扱っている店らしい。2000年頃のファッションを、令和風に合わせたスタイルの事だ。
「これとかどう?」
「ん~? あ~悪くないなぁ。カップ付きやし」
あ、それは意識していなかった。そうか……そう言えば、女性の服ってカップ付きとか無しとかあるんだった。
彩智が昔そんな話をしていたな。確か……ブラジャーを着用する必要がない服だったっけ。
何かそんな感じの便利な服で、リラックスして過ごしやすいとか何とか。あんまり詳しく覚えてないけど。
「ただ問題はサイズやねんなぁ……ウチのサイズは合うのがあんまり…………あっ! 良かった、多分いけるわ」
そうだよね、リサ姉大きいからね。何がとは言わないけど。大きいと服のサイズに困るっていうしね。
スタイルが良いというのも、デメリットがあるのだなぁ。恵まれているようで、そうとも言い切れない。
「ちょっと試着してみるわ」
「うん」
リサ姉と共に試着室へと向かい、俺は外で暫し待機する。派手な店内を眺めている間に、リサ姉は着替えていた。
「どうやろ? 似合う?」
元々着ていたショート丈のTシャツ以上に、肌色成分が増している。だいぶ刺激的だが、可愛くもある。
リサ姉の小麦色の肌が、とても眩しい。やっぱり綺麗な人だよなぁ。仲良くなれて本当に幸運だった。
「うん、凄く似合っているよ」
「ホンマ? ほなこれにしよかな」
リサ姉は嬉しそうにカーテンを閉める。元の服に着替えたリサ姉は、同じ商品の色違いも手にした。
俺が選んだものを、気に入ってくれて良かった。俺のセンスで大丈夫かと思ったけど、何とかなったらしい。
リサ姉なら大体何でも似合うだろうと、分かってはいたけどさ。でもこうして受け入れて貰えると、やっぱり嬉しくは思う。
今度出掛ける時に、着ていてくれたら嬉しいだろうな。こういうのって、何か良いよな。彩智の時もそうだったけど。
俺があげた物を、使っていてくれたら喜ばしい。まあ今となっては、使われていないのだろうけど。
「ほな、もうちょっと見てまわろか」
「オッケー、付き合うよ」
そうして2人で買い物を楽しんで、帰宅したら食事をしてお酒を楽しむ。もう定着したいつもの流れ。
最初は戸惑ったけど、日常化すれば慣れてくる。夜は自然と流れるように、お互いを求め合う。飽きる事もなく。
ほぼ毎晩こうしているけど、全然物足りない。美人は3日で飽きる? そんな気配はまるでない。もっとリサ姉の体温を感じていたい。
セックスはただエロいというだけの、性欲を満たす行為では無いと分かったから。コミュニケーションの1つなんだと知ったから。
リサ姉が俺の傷を、俺がリサ姉の傷を互いに癒し合う。そうして繰り返される繋がり合い。胸の隙間を埋め合う。
「もうだいぶ慣れた感じやん。これやったら、どんな彼女が出来ても大丈夫やで」
「うーん……今は暫く良いかな。新しい彼女なんて」
リサ姉は彼女ではない。だけどこうしているのが心地いい。とても安心感がある。リサ姉の母性が高いからだろうか。
不純な関係かも知れない、気持ち悪いと思う人も居るだろう。でも俺達にとって、この関係は悪いものじゃない。
いつまで続けられるか分からないけど、どちらかに相手が出来るまではこのままだ。そして俺は、自分からこの関係を壊そうと思わない。
卑怯な考えだとしても、もう暫くはこうしていたい。だって俺が憧れた女性は、こんなにも可愛い人だから。




