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第24話 穏やかに過ぎて行く時間

 朝食を食べ終えた俺達は、まったりとした時間を過ごしている。

 スマートテレビでサブスク配信を観ながら、2人でコーヒーを飲む。

 真横にリサ姉が座っているが、今では何の違和感もない。すっかり定着している。


「あ、この映画観てエエ? 気になっててん」


「良いよ、俺も観てないし」


 リサ姉の細い腕が、テーブルに置かれたリモコンを取って操作する。

 2年ほど前に劇場公開されたアクション映画だ。10年以上前から続くカーチェイスが売りの作品。

 俺はそこまで車に興味はないけど、話は面白いから嫌いじゃない。

 映画が始まると、早速カーチェイスのシーンから始まった。2台の外車がアメリカの街を疾走する。


「海外の車ってドア重いやんか〜。あれって今もなんかな?」


 どうなんだろうか? 俺の父親は日本車しか乗らない人だったから良く知らない。


「分かんない。調べてみる?」


 俺はスマートフォンを操作して、外車のドアについて調べる。

 外車とドアと入力しただけで、サジェストが速攻で表示された。

 検索するとすぐに色んな記事が出てきて、上の方にあるサイトを確認する。


「……へ〜安全性の為だって」


「そうなんや?」


 ひょいとリサ姉が手元を覗き込んで来る。お陰で良い香りが漂って来る。

 シトラス系の香水だろうと思う。さっぱりとした爽やかな匂いだ。


「何や〜最近の日本車も変わらへんのか」


 俺の腕に軽く顎を置いたリサ姉の姿は、ちょっと小動物みたいだ。

 こういう細かい仕草がいちいち可愛いから困る。昔からずっとそうだった。


「みたいだね。俺には分からないけど」


 会社で営業車に乗っているけど、特に重いと感じた事はない。鍛えているから当然だけど。

 ただ女性なら重く感じるのかも知れない。高嶺たかみね部長は涼し気な表情で閉めていたけど。


「リサ姉って外車に乗った事あるの?」


 少なくとも結婚相手の高田さんは、国産メーカーのワゴン車に乗っていたけど。


「昔の話やで? 父親が車好きでな」


「なるほど、そういう事ね」


 スマートフォンを見ていた間にも、映画は続いていた。主人公が本作のヒロインと出会うシーンだ。

 こういう作品を見ていると、やっぱり車を持って隣に彼女を乗せてみたいと思いはする。

 ただ維持費が高いしなぁという意識が邪魔をする。軽自動車でも結構するし。

 憧れみたいなものはあるさ。例えば良い車でリサ姉とドライブとか、出来たら良いなと思わなくもない。


「リサ姉はさ、彼氏に乗っていて欲しい車とかあるの?」


 何となく聞いてみる。知ったところでって話ではあるのだけど。

 ただ空気的に振る話題ならコレかなと。そう思っただけでしかない。


「せやなぁ……やっぱりスポーツカーはちょっと乗ってみたいかなぁ」


 スポーツカーが沢山出て来る映画を観るぐらいなのだから、やっぱりそうなるよね。

 高いんだよなぁスポーツカーは。中古でも高いし新品なんて500万とかするし。

 頑張ったら買えるかも知れないけど、社会人になったばかりの俺には無理だ。


「あ、でも走り屋とかは嫌やわ。危ないやん普通に」


「あ〜なるほどね」


 その手のタイプは好きじゃないのか。あくまでただ乗ってみたいだけと。

 強面が好きと言うから、そっちもいけるのかと思っていた。思い込みは良くないな。


「ほらこんな風にさ、迎えに来て貰うのは憧れるわ」


 映画では主人公がヒロインを迎えに来るシーンが流れている。

 カッコイイ車で颯爽と現れて、助手席にヒロインを乗せて発進する。


「あ、でも結婚する相手やったら普通の車でエエわ。買い物とかに使うわけやし」


 実際に一度家庭を持ったからこその意見だ。子供や荷物の事を考えたら、確かにスポーツカーは向かない。

 趣味と実益は両立しないと言うわけか。難しいところだよなぁ。

 ただどうであれ、やっぱりリサ姉も良い車に憧れがあるのは変わらないけど。


「やっぱり良い車に乗る方がモテるのかなぁ?」


 たまにネットで見る話題。モテる男の条件に含まれている項目。


「どうやろ? ウチは好きな相手やったら、正直なんでもエエかなぁ」


「そうなの?」


 恋愛経験があまりに少ないから、女性達の心理が良く分からない。

 1回彼女が出来たぐらいでは、分からない事が沢山あるから困る。

 本当に恋愛は難しい行為だと思う。いい歳をして不倫や浮気をする人だって居るぐらいだ。

 実際それでリサ姉みたいな超絶美人でも、不倫をされて離婚まで行った。


「そらだって、なんぼエエ車乗っててもさ、嫌な奴やったら好きにならんやん?」


「あ〜。そりゃそうか」


 御尤もな意見だ。そんな外的要因だけ取り繕っても、中身が伴わなければ意味はないと。

 でもそうだよなぁ。俺がリサ姉に初恋をしたのは、何も美人だからじゃない。

 母親として頑張る姿や、可愛らしい一面を見ていたからだ。

 内面を知っているからこそ、魅力的なのだと思える。綺麗なのは確かだけども。


「たまにおるよなぁ。金しか誇る所がない奴。コイツみたいな」


 映画の中で如何にも成金な性格の悪い男が、ヒロインに言い寄っている。

 分かり易いテンプレな悪役。資金力を示せば誰もが従うと思っているタイプ。

 なるほどこうやって改めて考えると、良い車だけあっても意味はないか。

 劇中で自分の財産をアピールし、高級車を見せびらかす嫌な男が誇らしげにしている。


「こうはなりたくないなぁ……」


一輝かずき君なら大丈夫やて。こんな性格してないし」


 そう思って貰えるのは嬉しいけど、だからと言って油断はしない。

 実際フラレてしまっているわけで、その事実は受け止めないといけない。

 こんな美人が側に居てくれているからと、決して驕ってはいけないのだ。


「もうちょい自信持ってエエんちゃう? 一輝君は魅力的やで」


 自信かぁ……それはとても難しい。だって俺はモテた事がない。

 彼女が出来ただけでモテているだろうと、思う人も居るだろうけど。

 でもたった1回だけで、モテたというのは流石に無理がある。

 人生で一度ぐらい彼女が出来た男性なんて、世の中に沢山居るのだから。


「あんまり実感がないからさ……リサ姉がそう思ってくれるのは嬉しいけど」


 俺は元カノである彩智(さち)を、ちょくちょく怒らせて来た。理由は色々とある。

 それでも何とかやって来た……つもりだった。結局上手くは行かなかったけど。

 リサ姉の助言で、俺が彩智の希望を叶え過ぎたのだというのは一応分かった。

 困らせたかったのに、俺が困らず受け入れた。全部を要望通りに対応した。

 なのに何故か怒られる事があった。多分俺が悪かったのだろうな。


「一輝君はな、自分を責め過ぎやで。相手が悪かったんや! って思ってもエエぐらいや」


「えっ!? そんな事は……ちょっと。俺にも悪い所はあったし」


 確かに突然の別れ話だったけど、俺が至らなかった結果だと思う。

 何でだよと思う所はあるけれど、彩智が一方的に悪いなんて考えられない。


「前から思ってたんやけどな、デートDVされてたんちゃうか?」


「え? 何それ?」


 DVって要するに暴力を振るわれるとかでしょ? そんなのは無かったよ。

 そもそも体格差も筋力差もかなりあった。しかも彩智は運動があまり得意ではないし。

 俺はDVなんて受けていないとリサ姉に説明した。これまでに彩智との間にあった事全てを話した。

 何度も俺の至らなさで、彩智を怒らせてしまった。それは俺が招いた事だ。


「いやそれ、典型的なデートDVやんか!」


「え、え? 嘘でしょ?」


 リサ姉が言うには、交友関係を監視したり制限したりするのはデートDVだそうで。

 他にも怒って相手を従わせる行為や、束縛をする行動が複数含まれていると言われた。


「なんや聞いてたら腹立って来たわ。よう一輝君を相手にそんな事やれるわ」


「お、落ち着いてよリサ姉」


 もう映画なんてそっちのけでヒートアップするリサ姉を、何とか宥めながらその場を収めた。

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