第15話 戸惑う一輝
間島一輝という人間にとって、セフレなんて存在は遠いものだった。その筈なんだけどなぁ。
かつて憧れたお姉さん、リサ姉と今や肉体関係を持っている。それ自体は嬉しいさ。
だって美人で可愛くて、スタイルも良い初恋の女性だ。そんな人とセックスが出来る。
最近まで童貞だった俺が、まさかの卒業を迎えただけに留まらず、あれからちょくちょくリサ姉と寝ている。
もちろん性的な意味であり、使いもせずに引き出しで眠っていたコンドームが、凄い勢いで消費されていく。
一度そういう空気になると、セックスは1回で終わらない。大体は数回繰り返す。
子育てで忙しかったから、夫婦の時間はあまり無かったらしい。
その反動もあるのか、リサ姉は結構積極的だ。もちろん傷付いた心を癒やす目的もあるのだろう。
俺がこの関係を受け入れていれば、リサ姉が救われるというなら構わない。
寂しさを埋めるという意味では、正直俺も助かっている。殆ど毎日の様に、肌を重ね合っているぐらいだ。
でもそれは恋人という関係ではない。お互いに傷の舐め合いをしているだけだ。
今夜もこうして、俺は全裸のリサ姉と性的な行為に及んでいる。
背後から見るリサ姉の裸は、とても綺麗なボディラインをしている。
大き過ぎずしかしボリュームのあるお尻は、少し掴むだけで柔らかな感触が返ってくる。
最近まで聞いた事も無かった、リサ姉の満足そうな声。満たされている事を示すように、甘い嬌声が響いている。
「もう……一輝君、上手くなるの早いやんか」
「そ、そうかな?」
リサ姉の反応が、俺の精神を激しく揺さぶる。支配欲が高まり、もっとこの女性を鳴かせたくなる。
5月に近付いた事で、夜であっても3回目ともなれば結構な汗をかく。
全身を濡らしている汗は、果たしてどちらのものだろう。俺の汗か、リサ姉の汗か。
そんな事すらも興奮を呼び起こすのに、十分な効果を持っている。
「本当に綺麗だよ、リサ姉」
リサ姉は自分をおばさんと良く口にするが、こんなに瑞々しい肉体を持っている。
「ふふ、ありがとうな」
セフレなんて半端な関係は……そんな風に思っていても、俺はこの誘惑に結局勝てない。
こんな極上の快楽を知ってしまって、拒否する事なんて出来なかった。
ズルズルと関係を続けてしまい、今夜もこうして3戦目を終わらせた。
ベッドにうつ伏せで果てているリサ姉の隣に、仰向けで俺は寝転ぶ。疲労感はあるものの、それ以上に満足感がある。
「はぁ……流石やなぁ一輝君。若いし体力あるなぁ」
体力の多さ、それだけが俺の長所だ。まさかこんな形で役立つとは思わなかったけど。
「ずっと鍛えてたからね」
うつ伏せのままでベッドの上を移動したリサ姉が、顔を上げて俺の胸板を触る。
「ウチって筋肉質な男性が好みやからさぁ。一輝君の体、めっちゃ好きやわ」
「う、うん。ありがとう」
リサ姉から好きと言われると、とても心臓に悪い。そういう意味じゃないと分かっていても、どうしても意識してしまう。
しかもお互い裸の状態だから尚更だ。リサ姉の良い匂いも合わさって、俺の精神をかき乱す。
「俺もリサ姉みたいな女性、滅茶苦茶好みだよ」
「えぇホンマ〜? もう胸とか結構垂れ始めてんねんで」
豊満なリサ姉の胸部は、途轍もない破壊力を持っている。小麦色の大きな胸は、見ているだけでヤバい。
リサ姉が起き上がって、自分の手で胸を持ち上げる。大きい人ほど早く垂れると言うけど、そんな風には見えない。
何より俺は少し垂れたぐらい気にしない。そんな事でリサ姉の魅力は落ちない。
「魅力的じゃなかったら、こんな事してないよ」
むしろ魅力的過ぎるから、ハッキリと拒否せずにこうして甘えてしまっている。
付き合うのが筋だろうと、真剣に向き合わず今日もリサ姉を抱いた。
止められる筈がない。こんなにも刺激的な快楽を、俺は捨て去る事が出来ない。
「……一輝君て、ババ専やないよね?」
「ばっ、すぐそんな事言うんだからリサ姉は。まだ若いって」
どういう誤解なのそれ? アラサーなんて全然ババアじゃないよ。
今じゃあ50代でも、凄く若々しくて綺麗な女性も居る時代だ。年齢だけでババア扱いするものじゃない。
というか30代で初産の家庭も増えている。晩婚化が進む今、30歳は十分若い。
「でも30歳になるとな、やっぱちゃうで? 肌も結構ダメージ受けてるし」
本人はそう言うけど、リサ姉の肌はスベスベだ。昔はもっと凄かったのだろうか?
「そうは思わないけどなぁ、触ってて気持ち良いし」
何となくリサ姉の手の甲に触れる。やっぱりスベスベで、触り心地が良い。
暫く触れていたら、リサ姉が指を絡めて来る。恋人繋ぎで繋がれた手はお互い温かい。
寝転んだ俺に重なる様に、ゆっくりとリサ姉が体重を預けて来る。
「どうなん? 気持ち良い?」
「……うん、俺は凄く好きだよこの感じ」
俺の胸板に、リサ姉の胸が当たっている。お腹や太もも、全身がリサ姉と触れている。
汗で少し冷たいけれど、リサ姉の肌が吸い付くように貼り付いている。
この感触と温もりが、抗えない欲望を刺激する。尽きる事のない欲求が、無限に湧き上がる。
「あ、あれ? もう回復したん?」
「そりゃあまあ、こんな風にしてたらね」
こんなに可愛くて魅力的なお姉さんが、裸で触れ合ってくれれば元気にもなる。
そしてまたしても1つ減るコンドーム。マジで消費ペースが早いな。
22歳まで童貞だった男が、まるで時間を取り戻すかの様に使用している。
俺の上に跨ったリサ姉が、妖艶な微笑みを浮かべながら俺を見ている。
「一輝君、大人になっても可愛らしいトコが残ってんな」
「え? そ、そうかな?」
こんな眼福があって良いのか。記録に残したい映像だが、行為の撮影なんてやるべきじゃない。
俺にそんな趣味はないし、リサ姉も嫌がるだろう。思い出として記憶に残すだけだ。
結局4戦目に及んだ俺達だったが、流石にもう寝ようとシャワーを浴びる。
サクッと済ませて2人でベッドに向かう。未だに慣れないこの状況。
リサ姉が同じベッドで寝るなんて、ついこの間まで思いもしなかった。
「今日もありがとうな、一輝君」
薄手の毛布の下で、リサ姉が手を繋いで来た。流れで俺も握り返す。
「俺の方こそ。リサ姉みたいな美人となんて、お金を払っても出来ない事だよ」
所謂高級ソープにだって、リサ姉レベルの美人はいまい。夜の店には行った事ないけど。
そもそもリサ姉と張り合えるのなんて、芸能人ぐらいしか居ないと思う。
「ありがとうな、いつも褒めてくれて」
「本心だからね。昔からリサ姉は綺麗だ」
初恋をするぐらいに、魅力溢れるお姉さんだ。12年前からずっと、それは変わらない。
繋いだ手から繋がる熱が、俺の心を揺さぶる。でもこれはきっと、恋心じゃない。
性欲由来の感情だ。恋でも愛でもなくて、純粋な下心でしかない。
初恋の女性が初めての人にもなったから、特別感が異様に高いのだろう。これは愛情とは違う感情だ。
「ねぇリサ姉、GWって忙しい?」
「ううん、暇やけど。どうかしたん?」
ただ俺はリサ姉と仲良くしていたいだけ。ちょっと方向性がズレはしたけど、その気持ちは昔から変わらない。
仲の良いお隣さんが、俺とリサ姉の関係だ。だからこんな約束をしても、問題はないよな。
「GWにさ、どっか一緒に行かない? リサ姉が良いならだけど」
デートと言って良いのか、良く分からない誘い。ただ2人で出掛けたいなと思っただけ。
掌から伝わるリサ姉の温もりを、もう少し近くで感じていたい。
ただそれだけだ。笑顔で笑っていて欲しいだけ。その光景を、見ていたいだけなんだ。
「う、うん。別にエエよ」
「じゃあ明日また、何処に行くか決めよう」
そんな会話をしている内に、体力を消耗した俺の意識は落ちて行った。




