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第32節:ナイアたんは宣戦します。


 魔法陣の中心にいるゲルミルは何故か動けなくなっているようで、両手を広げて武器を構えた姿勢のまま顔を歪めている。

 ゲルミルは目だけで、自分の足元にある影を見て、意外な名前を口にした。


「貴様、ドラコン……!?」

「ドラコン?」

「あやつの術か」


 ルラトの苦い声音に、首をかしげる。

 魔王軍なんだから味方の筈じゃねーの?


 いや、魔王の座を争ってんだから競争相手ではあるんだろうけども。


「もしかしてドラコンって、約束反故にして闇討ちとかするタイプ?」

「そうじゃのう。他の師団長はともかく、奴に限って言えば十分にあり得るの」

「……何のつもりだ、ドラコン。答え如何によっては、貴様から殺すぞ」


 拘束されていても尊大なゲルミルに、ドラコンらしき声は小さく笑いを漏らした。


「今の貴方には無理ですよ、ゲルミル……私は正に、貴方が聖気を解放するこの瞬間を待っていたのですからね」

「……何? ぐぅ……!」


 ゲルミルが、魔法陣による拘束を破壊しようと全身に力を込めた瞬間、放たれる強烈な聖気の到達点からじわりと闇が滲み始めた。


「あれ、邪気か?」

「なるほどのう」


 ルラトが顎をコリコリと掻き、思慮深く瞳孔の鬼火を明滅させる。

 ゲルミル自身も、自分を覆う魔法陣が何なのかに気付いたようだった。


「ぐああああああああ……! これは、聖邪反映……!?」

「ご名答。ふふ、己の邪気に食われて散りなさい、古の巨神よ」


 生まれた邪気が見る見るうちにゲルミルの聖気を喰らっていく。

 ゲルミルが対抗しようとすればするほど、邪気が濃密になってるようだ。


「ご……ぁ……」


 ついに体の表面に邪気が触れ、全身に筋を浮かべたゲルミルが白眼を剥いて大きく口を開き、舌を突き出した。

 凄まじい苦悶の形相に、俺は思わず眉をしかめる。


「なんか、えげつねーな」

「肉を剥がれるのとどっちが痛いかの?」

「思い出さすんじゃねーよ!!」


 考えただけで背筋が怖気立つわ!

 俺がルラトにツッコんでいると、魔法陣が乾いたように痩せていくゲルミルと共にふわりと宙に浮き、見上げる程度の場所で止まった。


 そこから、滴るようにゲルミルを覆った邪気が垂れ落ちて影へと繋がる。


「くふふ……いかに不死の肉体とはいえ、それを支える為の聖気を奪われてはどうしようもないでしょう?」


 最早答える事も出来ないゲルミルに、ドラコンが毒の滲んだ声音で告げた。

 あの邪気の先には、ドラコンがいるんだろう……が。


「ドラコンは、一体何をしたんだ?」

「聖邪反転は、神が滅ぶ時に起こる現象で、その支配下にある者が浄化を受けるのです」


 答えたナイアの顔を見ると、彼女は表情を厳しく引き締めていた。

 なんかヤバそうな気がする。


「反転浄化は、邪なるものは聖なるものへ、聖なるものは邪なるものへと移り変わります。ドラコンは、生きた神を相手に、強制的にそれを再現したのです。これ程の技量を持っているとは思いませんでしたわ」

「隠していましたからね」


 呟きが聞こえたのか、ドラコンがナイアに答えて、歓喜に震えるように地面の影が波打った。


「ですがこれで、ようやく私は……陽の光の下へ!」


 ゲルミルを覆い尽くした邪気が影の中に流れ込み切ると、影がゆっくりと盛り上がって人の形を取った。


 現れたのは青白い肌をした、貴族服にマントを纏う退廃的な美貌の男性。

 集会で見た、不死師団長であるドラコンだった。


 紅い瞳に白の瞳孔という異形の瞳が、こっちを見る。


「貴方がたに感謝しましょう。ナイアと、それに従う者達よ。ただ聖王国を攻めるだけでは、ゲルミルは恐らく聖気を解放しなかったでしょうからね」

「ほう、前から狙っていたのかの?」


 ルラトの問いかけに、ドラコンは頷いた。


「ヴァンパイアの身では、昼の活動もままならない。神の力は道理を捻じ曲げますからね。その力をずっと狙っていたのです。ゲルミルは隠していましたが、彼の素性を手繰れば地下世界から現れた存在である事は分かりましたからね」

「ふん、地下世界の真の巨人か。そう言えば一度倒した事があったの」

「ええ。故に私は知っておりました。奴らが神に連なる一族である事をね」


 俺は、二人の会話を聞いてふと疑問に思った事を尋ねた。


「ルラト。なんかお前、あいつと知り合い?」

「部下じゃったしの」

「いやそういうんじゃなくて」


 なんか、地下世界を二人とも知ってるっぽいし、同じ体験をしてるみたいに感じたのだ。


「小僧にしては鋭いの。……そう、我と奴は古馴染みじゃ。奴自身は、伯爵とも面識がある」

「そうなんですの?」


 ナイアも目を丸くしているところを見ると知らなかったらしい。


「ま、我と奴のつながりに関しては、アブホース伯爵に口止めされていたからの。我も好んで口にするような事でもなかったのじゃ」


 ルラトはちょっと嫌がっているように見えるけど、一体どんな繋がりだ?

 しかしそんな俺たちの疑問には興味がないようで、ルラトはドラコンとの会話を続ける。


 血のようにぬめった風がドラコンから吹き始めて、草を揺らして俺の頬を撫でた。

 ナイアの長い髪が、陽光を照り返してその風に揺れる。


 抜けるような青空の下で、蒸し暑い夜の不気味さを思わせるその風に、俺は違和感を拭えなかった。


「ナイア嬢に手を出すな、というアブホース伯爵の言葉は伝えた筈じゃがの」

「ええ、ですから、私は、ナイアには手を出しません」


 軽く笑みを浮かべて、ドラコンは両手を上げる。


「力は手に入れました。私はこのまま消えますので、後はどうぞお好きに」

「そうは参りませんわ」

「おい、ナイア」


 向こうから逃げてくれるっつってんだから、ありがたく受け取っとけよ!

 わざわざ引き留めようとすんな!


 そんなナイアに目を向けて、ドラコンは困ったように眉をしかめる。


「エセ死霊術士のナイア・メイリア・アウター。不死師団長の座なら、差し上げますよ? 私にはもう必要のないものです」

「わたくしがエセなら、貴方もエセ不死師団長ですわ。貰わなくても、本来貴方のものではありません!」


 ビシッと指をドラコンに突き付けて、美貌に珍しく怒りを浮かべながら、ナイアが吼える。

 そういう顔してると、なんかすげー聖女っぽいぞ。


 義憤に燃えてる感じだ。


「不死師団の長は、元々肉弾系死霊術士のデッド様です」

「そうですね。あの方が死んだから私が継ぎました。それがどうかしましたか?」


 なんか当たり前みたいに喋ってるけど、誰だよソイツ。

 初めて聞いたぞ。


 ってゆーか、肉弾系死霊術士ってナイアが勝手に名乗ってた称号じゃねーのかよ!


「まさか肉弾系死霊術士に前任が居たとは……」

「小僧。おぬしちょっと黙っておれ」

「何で!? 嫌だ、こんなシリアスな空気には耐えきれグボッ!」


 ルラトの指先により強制的に黙らされた俺を放っておいて、ナイア達は話を先に進めていく。


「死んだ? 見捨てたの間違いではございませんの?」

「私が、彼を嵌めたとでも? 心外ですね。彼が死んだのは自分の意思です」

「……そうですわね。でも、お父様から聞きましたわ。貴方なら救える力があったと。見捨てた事実に、変わりはないのではなくて?」

「そうですね。だからどうだというのです?」


 まるで感情を動かされた様子もなく、ドラコンが淡々と問い返す。

 ナイアは、両手をだらりと下げた自然体で、闘志と共に聖気を放った。


 神々しい空気を纏ったナイアは、自らの聖気によって髪をはためかせながら、ドラコンを美しいルビーのように燃える赤い瞳でまっすぐ睨み据える。


「わたくしは、あの方の地位を、貴方から実力で奪い返したいと思いましたの。ーーー肉弾系死霊術士の称号を継ぐ者として! 魔王を狙う今でも、貴方を叩き潰そうという気持ちは微塵も変わりませんわ!」


 ナイアの宣戦に、ついにドラコンの表情が崩れた。


 とても情けない顔に。

 って、情けない?

 

 ドラコンは両手で頭を抱え、何かに怯えるように周囲を見回した後に。


「……困った」


 と、泣きそうな声を漏らした。

 

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