第31節:ナイアたんは肉弾の意味を間違えています。
爆発後、体が再生した俺は、ガバッと起き上がって呆然とした。
「マジか……」
空が狭い。
それが最初に感じた気持ちで、理由は自分を中心にすり鉢状の斜面が広がっていたからだ。
自分の身長と同じくらいの深さの斜面が、浅く視界の向こうまで広がっている。
その斜面には、巨人のものと思われる腕や足、頭などが転がっており、フレッシュゴーレム化した仲間の姿を見慣れている俺でも、正直かなり気分が悪い。
「どんだけ威力あんだよ、この爆弾……」
何度でも使用可能だというその爆弾は、自分の足元に落ちており、きらりと青い輝きを浮かべている。
凄まじい凶器を恐る恐る拾い上げた。
今まで暴発とかはしなかったが、これもし爆発したらナイア、死ぬんじゃね?
先代、恐ろしいモン寄越しやがって。
内心で筋肉ダルマを罵倒しながら、斜面を駆け上がって振り向くと……すり鉢状の穴は、草原の半分を呑み込んでいた。
当然、巨人師団はほぼ壊滅している。
僅かに残っているのは、後方のゲルミルの周囲に居た特に強そうな一団と、炸裂範囲の外にいた両翼の兵士だが、それらも爆風をもろに食らったのか隊列を乱していた。
「どんな奴が作ったんだ……?」
「コープ様!」
俺が自分の撒き散らした被害に改めて頬を引きつらせていると、邪龍に跨ったナイアが後ろから来て、横に着地した。
「何だよ」
頬を紅潮させているナイアだが、どうせまたロクデモナイ話なんだろ。
「コープ様のゾンビアタック習得で、わたくし達は真の意味での肉弾系死霊団になりましたわ!」
「は?」
言われて、俺は一瞬考えた。
ナイア=肉弾系死霊術士。
ルラト=肉弾系スケルトン。
ホテプ=肉弾系スペクター。
コープ=肉弾。
「って俺だけなんか意味が違う!!」
ふざけんな! ダジャレのつもりかこのアマ!
ギャグセンスのカケラもねーなてめーは!!
「そんな、意味の違いなんて些細な事ですわ!」
「ちっとも全く些細じゃねぇぞ!?」
死ぬ前提の称号なんて嬉しくもなんともねーわ!
「つか何で俺の名前がそこに並んでんだよ!」
「わたくしのスペクター、わたくしのスケルトン、わたくしのゾンビですわ!」
『聖霊である』
「蘇りじゃ」
「フレッシュゴーレムだろうが!」
「うぅ……皆がいじわるですわー!」
シクシクと泣き真似を始めるナイアは放っておいて、俺は周囲を見回した。
キングズが邪龍を率いて右翼の巨人を、ケルドゥがゴストン・セクメト・ジャンヌを擁するナイア死霊団を率いて左翼の巨人を、それぞれに掃討し始めている。
ヴーアに邪気を回復させて貰っていたケルドゥ側は、呪詛士まで陣容に加えていた。
壊滅しかけの巨人連中を相手にする死霊団は、ケルドゥがなんか術でも使ってんのか、普段より動きが格段に良い。
「で、これからどーすんの?」
「当然、ゲルミルを叩き潰すのですわ!」
泣き真似をやめたナイアが、ビシッと正面の一団を指差した。
「これを終えれば、後はドラコンを潰すだけ。それを終えれば晴れてわたくし達が魔王軍ですわ!」
「よく考えたら、魔王軍になっても超弱小だな」
ぶっちゃけこの場の戦力で全員とか、六師団長のいた魔王軍に比べて戦力減もいいところだ。
「規模が小さくて何か問題があるかの?」
「は? だって魔王軍になったら、今度は人間相手に戦うんだろ?」
「え? そんな事はいたしませんわよ?」
「はぁ!? じゃ、何で魔王になるんだよ!」
魔王軍潰して終わりで良いじゃねーか!
「言ったじゃないですの。数で押し潰すやり方が気に入らなかったですし、どうせなら死霊師団長より魔王の方が格好いい気がするからですわ!」
魔王になる目的もねーのに、魔王になりたがるその考えが理解出来ねーんだよ!!
「……戦場で敵を無視するとは、いい度胸だ」
地の底から響くような低い声と共に、反射的に横に転がる。
凄まじい風圧と同時に重い音が聞こえ、起き上がった俺の目に、いつの間にか真後ろにいたらしい巨人……ゲルミルが棍棒を地面に叩き付けている姿が映った。
ナイア達も危なげなく飛び離れている。
「巨体の割に、それなりに素早いようじゃの」
ルラトが言い、手を振るってゲルミルに瘴気を放つが、ゲルミルはあっさり避けた。
今、なんか消えなかったか!?
「空間転移術……」
ナイアが厳しい顔で、跳び離れたゲルミルを睨んだ。
「何だそれ」
「瞬間的に望む場所に移動する古代魔法ですわ」
ナイアの言葉に、ゲルミルは凶悪な笑みを浮かべた。
「……真の巨人族は寿命が長い。すぐに死ぬ人間や亜種どもと違ってな」
「あなたが、真の巨人族ですの?」
「……いかにも。狩りは楽しい。長く楽しむ為に増えては潰す。減れば待つ」
「人間がお前の獲物か」
ゲルミルに言葉を投げると、相手は棍棒で遊びながら軽く頷いた。
「魔王も魔物どもも、どうでも良い。楽しめればそれでな」
「その為に魔王に従っておったか。おぬし、素性を隠しておるな」
ゲルミルは、ニヤニヤと笑みを消さないままに、投げては受けていた棍棒をパシリと掴み、ナイアに突き付けた。
「貴様ら人間が大邪神などと呼んで恐れていたヴェルゾムーアが居た世界、アレフォーゴールドなど地底世界の表層に過ぎぬ。二ブールプラチナ、ムスペルブラックと続く我ら巨人族の深奥世界こそが、真の地底よ」
聞いたこともない名前に、分かる? とルラトに目配せすると、ルラトは、カキン、と顎を鳴らした。
「エルダーと呼ばれる神々に敵する者が、そんな世界に住んでおる、と聞いた事があるのう。アウルの一族、じゃったかの?」
「いかにも。私はスルト・ゲルミル。古より存在する巨神の一人だ」
と、ゲルミルが宣言するのと同時に、彼の肉体が棍棒の先に生まれた炎を纏って、瞬く間にその火勢に包まれた。
肌が黒く焦げ、ボロボロと崩れ落ちるその灰が固まって、棍棒を握るのと逆の手に集まると剣の形を成す。
自爆でない証拠に、ゲルミルから凄まじい聖気が放たれ始めた。
「何で聖気だよ!?」
「人に敵対する者が皆邪悪な訳がなかろうが。人間を狩るからと言って、邪悪であると思うのは人間だけじゃ。人間とて、家畜を殺す者が邪悪な訳でもあるまいし」
人間は家畜と同じか。
「さて、人間よ。神である私を少しは楽しませて……ぬ?」
己の優位を確信しているゲルミルがついに本格的にこちらに襲いかかろうとして来た時。
『ようやく聖気を解放したな』
どこからともなく声が響いて、ゲルミルの周囲に魔法陣が浮かび上がった。




