第11節:ナイアたんは喜んでいます。
とてつもなく若い、若作りとかいうレベルじゃないアブホース伯爵は、よっこいせ、とそれだけはジジくさい声を発しながら目の前の豪奢な椅子に腰掛けて足を組んだ。
その両脇に、ナイアと貴婦人が控える。
「君たちがナイアのお友達? 社交界にも出ないナイアに男の友達ができるなんて、思いもしなかったな。ねぇ、ヴーア」
アブホース伯爵の問いかけに、貴婦人が静かに頷く。
「ええ、全く。趣味にかまけて、少しも男に興味がないのかと思っていましてよ。いきなり二人も連れてくるなんて、どちらが本命ですの?」
「いやちょっと待て」
なんか勘違いされてねーか!?
狼狽える俺とは対照的に、横でゴストンが真剣な顔で頷いた。
「ええ。ナイア様とは是非ご両親の許可をいただき正式なお付き合いをさせていただきたいと……」
「ゴストン!? 何!? 何の話なんだコレ!?」
「とまぁ冗談はともかく」
少し早口で言うゴストンの後頭部に、ルラトの指先がアブホース伯爵らに見えない位置から突き立てられようとしていたのが、ピタ、と止まった。
ゴストン……お前の危機察知能力ハンパねぇな!
「実は我々、お嬢様の友人ではなく、その手で作り出されたフレッシュゴーレムでして」
ゴストンは滑らかな語り口で、これまでの経緯を説明した。
余計な事は一切言わず、メチャクチャ分かりやすい。
お前本当にゴストンか? もっとふざけろよ!
そしてルラトの爪先の痛みを味わえ!(本音)
「……というわけで、少し人数が多いものでして、馬車一台と従者の装備を一式整えていただきたいとお願いに上がった次第です」
「良いよー」
「返事早ッ!」
何なんだコイツ、本当に伯爵か!?
あまりにも軽過ぎて、逆に信用出来ないんだけど!
「あなた。そちらの方のおっしゃる通りですわ。ナイア。貴女の方から何か一言あってしかるべきではありませんこと?」
「では、一つだけ訂正を。コープ様達はフレッシュゴーレムではなく、ゾンビですわ!」
「そこはどうでも良いだろ! しかも間違ってるし!」
「ははは。ナイア。 ゾンビはこのネクロの都には入れないよ」
「コープ様達は、聖結界に阻害されない特別なゾンビなのですわ! わたくしの術式の賜物ですわ!」
「へぇ、そうなのかい?」
「あっさり信用するんじゃねーよ!」
むしろそれが本当なら一大事だろーが!
「ナイア。彼、面白いねー」
「そうでしょう? いつもこうしてわたくしを楽しませてくれますの」
「ツッコミ芸じゃねーよ!」
この場に常識的な人間はいねーのか!
「まだ死霊術などと戯言を……あなたは聖女でしょう?」
「わたくしは死霊術士ですわ!」
溜息を吐くヴーアに、俺は救いの光を見た。
おお……この人常識人なんじゃね!?
「子どものように言い張るだけではなく、闇の存在を名乗りたいのであれば正式に闇の乙女にお成りなさい。聖霊術を行使しながら嘘をついて満足するなんて、それでもワタクシの子ですか。情けない」
「って、説教の方向が斜め上過ぎんだろ!!」
どこの母親が暗黒に堕ちる事を娘に勧めんだよ! 止めろよ!
「ま、まだジョブランクが足りないのですわ!」
「どうせ死霊術士等級しか調べていないのでしょう。既に聖女の等級はSランクの筈ですよ」
「だってだって、わたくし聖女じゃありませんもの!!」
ダメだこの一家、どいつもこいつもおかしい!
甘えるようにダダをこねるナイアと、無表情で斜め上の説教を続けるヴーアを、アブホース伯爵がニコニコと眺める。
不意にルラトが、俺の肩をぽん、と叩いた。
「言うた通り、問題なかったじゃろ?」
「別方向の問題が噴出しとるわ!」
マジで大丈夫かネクロの領主! お前が飼ってる伯爵一家、完全に闇の一族だぞ!
なのに聖女の等級がS級だとかあり得ない言葉まで聞こえたしな!
S級を当たり前みたいに言うな!
「……ここの家族、もしかして一家揃ってS級なのか?」
「確かアブホース伯爵は極の勇者S級、凶竜人S級、外なる神S級だったかの。ヴーア婦人は導きの乙女S級、永遠の魔女S級、死の霊母S級じゃ」
「何で邪悪な職まで極めてんだよ!」
しかも全部S級だとぉ!? 邪悪な職一つだけでもこいつらが魔王軍率いてておかしくねぇぞ!
不死者の最上級クラス修めてるからその外見なのかアブホース伯爵!
「ヴーアさんも同じようの歳食わない筈なのに、何であの外見なんだ!」
「ああ、シェイプ・シフトの魔術ですことよ。ナイアの母として相応しい外見に合わせていますの」
「そこだけ常識的な発言をするんじゃねええええ!」
じゃあ何か、わざわざ変身して歳食ったように見せてんのか!
むしろ若いだろう素顔を晒して下さいお願いします!
「ま、ナイアの将来についてはまた話し合うとして」
「それより話し合うべき事が俺たちの間にはある筈だ! アブホース伯爵が何で伯爵に甘んじてるのかとか!」
「え、だってあんまり権力とか関わりすぎると面倒くさいし」
きょとん、とするアブホース伯爵の、理由自体はかなり俗物的だった!
「それにお金なら腐るほど作れるしさ。ミスリル、オリハルコンもお手のもの」
「最近は、経済操作もしてましてよ」
「だねー。昔一回、うっかりカヨムー王国にミスリルを流しすぎちゃって、周辺国併呑させちゃったからねぇ」
……話がデカ過ぎてついていけねー!!
うっかりで帝国作ったんかこいつら! てか歳いくつだよ!!
帝国出来たの、少なくとも300年前だろうが!
俺は疲れを覚えてゴストンにボソボソと囁く。
「ダメだゴストン……俺の平民脳じゃこいつらは刺激が強すぎる……!」
「その割にSSS級相手に散々ツッコミ入れていたが」
「言うな。それはそれ、これはこれだ! なぁ、もう金掛かっても良いから下町で宿に泊まろうぜ……」
「アブホーーース伯爵! コープがぜひとも屋敷に一晩泊めていただきたいと申しておりますがよろしいでしょうかっ!?」
このクソむっつり野郎、即座に裏切りやがったああああああ!!
生き生きとした顔で嫌がらせしやがってええええ!!
そんな俺の内心をよそに、アブホース伯爵がのほほんと言う。
「うん、最初からそのつもりだよー?」
「客人を放り出すなどと、アウター家の名誉に関わりますことよ」
「コープ様。そのように改まって仰るなんて、他人行儀ですわ」
他人だろうが!
「ナイア。君のゾンビさんは礼儀正しいねぇ」
「面白いですし。ナイアも中々見る目がありますことね」
「そうでしょう? 自慢のゾンビですわ!」
両親の微笑みと共に投げられた言葉に、ナイアがパァァ……と明るく笑って舞い上がった顔をしている。
が、和やかな顔でゾンビを連発する家族の会話とか俺は嫌だ!
「良かったな、コープ。お前の株が上がったようだ」
何かを成し遂げたような、晴れやかな笑顔のゴストンのツラに、今すぐ短剣を突き込んでやりたい……!




