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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第3部1章 魔術師の幻滅

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07

 毅然とした態度で自分の席に腰を下ろすライカ。


「ええっとライカ、僕の椅子は?」


 そこには生徒分の数しか座席がなく、エインズが座る椅子はない。


「従者の席はないのよ。席の一番後ろで立って待機するのが一般的なの」


「……鬼畜か?」


 そうして後ろに目を向けるエインズ。

 そこに直立し微動だにしないセイデルの姿を見つける。

 彼もエインズと目が合い、微笑を浮かべ頭だけを小さく下げ会釈する。


「こんなので一日過ごしていたら、足が棒になってしまうよ。……左脚は既に棒だけどね」


 左の義足でコンコンと叩くエインズ。


「……笑いのセンスが絶望的ね、エインズ。ほら、早く向こうに行ってセイデルと一緒に大人しく見学してなさい」


「はいはい」


 そうしてゆったりと歩きだすエインズ。

 一番後方、ひな壇最上段でセイデルの隣に行き挨拶を交わす。


「私はあまり自虐の笑いを好みませんね」


「……聞こえていましたか。セイデルさんは座らなくて平気なんですか?」


「慣れっこですので」


 と、ライカの隣に座っているキリシヤの方へ視線を向けるセイデル。既にライカと楽しそうに会話を始めていた。


「……ああ」


 外見に似合わず、意外に積極的な性格をしているキリシヤ。セイデルも苦労しているんだなとエインズは同情した。


「僕は慣れていないので、座らせてもらいますね」


「エインズ殿、椅子はございませんよ」


 エインズは石膏の床を義足で小刻みに叩く。

 するとエインズの後方で、固まっていたはずの石膏の床が椅子の形にぐにゃりと変化し固まる。


「セイデルさんもいります?」


 エインズは何でもないようにその椅子に腰を下ろす。


「……い、いえ。ですから、慣れていますので」


 立っていることには慣れているセイデルでも、目の前の出来事には慣れておらず、言葉が詰まりながらのものになってしまう。


 そしてその様子はセイデルだけでなく、周りの生徒ももちろん見ている。なんせ魔法実技で初級魔法ではあるが無詠唱での発現、中級三種に関しては略式詠唱を成功させた優等生が引き連れている従者なのだ。加えてその異様な出で立ち。注目を浴びないわけがない。


「……いまの……、なんだ?」


「魔法、なんだろうけど……」


「当たり前の顔で、無詠唱だったな」


 ライカの姿を見て噂していた生徒たちは羨望の眼差しを向けていたが、エインズに向ける視線は単純な困惑であった。


「(錬金術、ですか。また珍妙な魔法を使いますね。加えてこの技量ですか……。本当にエインズ殿は何者なのでしょうね)」


 思わず額に浮かんだ汗をハンカチでふき取るセイデル。

 ライカは「大人しくしてなさいって言ったのに……」と額に手をやる。

 その横では目を輝かせるようにして、背もたれに身体を預けて欠伸をするエインズを見つめるキリシヤ。

 そんなざわつく教室の引き戸が開き、女性教師が入ってくる。


「はい、みんな静かに! 時間になったわよ」


 手を叩きながら教壇に上る教師。


「これから一年、みんなの担当をしますハンナ=ウィールズです。よろしくね」


 教壇に立つハンナ=ウィールズは、普段から身体を動かしているのか引き締まった健康的な体型をしており、短髪の髪に溌剌とした性格をしている。


「……なかなか人格者っぽい先生だなあ。魔法士っぽくはないけど」


 教室の後方でぽつりと呟くエインズ。


「魔術学院は王家も通う名門ですからね。教師は、技量はもちろんのこと人格者でなければなりません」


「なるほど」


 ハンナの自己紹介が終わると、Aクラスの生徒が順に自己紹介をしていく。中でもサンティア王国第一王女キリシヤと魔法実技において抜群の成績を残したライカが席を立ちあがると周りは自然とざわついた。

 半端な魔法使い程度の腕前である生徒の自己紹介など聞く耳を持たないエインズはその間もセイデルに気になったことを質問していく。


 セイデルは常識人であり、従者然とした立ち居振る舞いが出来る人間である。この場では本来静かにしているべきだと分かっているのだが、隣のエインズを無視することも出来ず、困った様子を見せながらもエインズの質問に答えていった。


「すみませんけど、そこの従者のお二方少し静かにしてもらってもいいですか?」


 エインズとセイデルはけっこう目立っていたようで、教壇に立っているハンナの所まで声が届いていた。


「これは失礼しました、ハンナ=ウィールズ教諭」


 注意を受け、すぐに謝罪を口にするセイデル。


「セ、セイデル先輩だったんですか。先輩、すみませんけど今は生徒の自己紹介の場ですので静かにしていただけると……」


「分かっていますよ。申し訳ありません」


 そんなハンナとセイデルのやり取りを横からぼうっと眺めていたエインズ。

 エインズも自らの声量で注意を受けたことは理解したので、小声でセイデルに話しかける。


「セイデルさんの知り合いなの?」


「ええ。私が学院に通っていた時の後輩ですよ。あまり出来の良い後輩ではなかったのですが、少し離れた間に成長していたようです」


 二人の注意のため一旦生徒の自己紹介の流れが途切れてしまったが、ハンナは手をパンッと叩いて仕切り直す。

 それからは大人しく様子を眺めるエインズ。

 生徒全員の自己紹介が終わると、そのまま最初の講義が始まる。


 といっても、生徒らがこれから学んでいく魔法に関する総則の概論といったところだが。

 傍から聞いているエインズからすれば特筆するような内容の講義ではなく、むしろ薄すぎる内容ですらあった。


 それでもこの講義は今後の学びにおける導入でもあるのだろうと汲み取り、エインズは静かに耳を傾けていた。

 一時間半ほど経過したころ、穏やかに進んでいた講義もチャイムの音が終わりを告げる。


「とりあえず今日はここまで。これからみんなに向けたセレモニーがあるから大講堂に行きましょう!」


 ハンナの掛け声で講義が終了すると、その後大講堂で簡単に入学のセレモニーを行なって魔術学院での一日が終わる。



 翌日。

 ライカと並んで教室に入ったエインズは、生徒どうしで挨拶を交わすライカの後ろを歩く形でひな壇を登っていく。

 二人よりも先に着いていたキリシヤがライカと挨拶を交わした後、エインズへにこやかに声をかける。


「おはようございます、エインズさん」


「キリシヤさん、おはようございます。今日も早いですね」


「もう、エインズさんはいつになったらキリシヤと呼んでくれるんですか。ライカとエインズさんは昨日もそうでしたけど、朝はゆっくりされるんですか?」


「ま、まだ慣れませんね」


 と言いながらエインズはひな壇を登り、セイデルと挨拶を交わす。


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