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あたしがあたしである自覚。

 待って!

 待って待って待って!!


「どういうことなの!! ハルカ!」


 ハルカ、あたしに向き直って、顔を近づける。

 その瞳は、なんだか愛おしいものでもみているかのように、優しく柔らかい光に満ちていた。

 安心していいよ、って瞳が語っている、気がして……。


「でも、でも、だって……」


 あたしは頭を振って。目を閉じる。


 だめだ。心の中がぐちゃぐちゃだ。

 不安の色が、どっと心の奥底まで染み込んできてしまって。


「うーん。落ち着いて、セリナ」


「だって、まるで、そんな、あたしがあたしじゃないって言ってるみたいじゃない!!」


 ハルカは、あたしの中にハルカのカケラがあるって、そう言った。色濃く受け継いでいるって、そう言ってる。

 それって、あたしがあたしだって思ってたあたしが、まるでハルカの分身みたいだって言ってるってことじゃない?

 そんなの、そんなの、そんなのって、ないよ!!


 あたしは芹那、日本人だった松本芹那。

 この世界のセリーヌに生まれ変わったけど、それでも芹那だった記憶も、心も、そのままある。

 そりゃあ、多少は変質しているかもしれない、そうは思ってた、けど、でも……。


 ハルカのことは、なんだか他人には思えなかった。

 でもそれは、同じ日本人だったって過去があるから。

 そんな同じ境遇に共感しているんだって、そう思ってた。

 だけど、でも……。

 だめだ、言葉にならない……。


「ふむ。こちらの女神のかけらの主は、別の魂が混じっているようですね」


 白磁の肌、彫刻のような整ったお顔の美丈夫、大精霊マクギリウスがヌッと近くまで来て、あたしの顔を覗き込む。


「そうよ。元々別の世界の魂だったセリナがこの世界に生まれ変わるときに、あたしの魂のカケラも宿して生まれ変わったの。だから、混じっているっていうなら、それはセリナの魂にあたしの魂のカケラが混ざったんだわ」


 え? ハルカ?


「安心して、セリナ。あなたはあなただわ。あたしのカケラがちょっとばかし混ざってるけど、あなたはちゃんとあなた、セリナっていう自我があるもの。だから大丈夫なのよ」


「でも、だって……」


 混ざってるって、ハルカの魂が混ざってる? って。そう言ってるのに……。

 どこまでがあたしで、どこからが混ざってるの?

 そんなの、わからないもの……。


「ばかね。あなたがあなただって自覚をしっかり持つことの方が大事なのよ? 本来なら、人の魂は死ぬとグレートレイスに溶けて混ざるの。そうしてまっさらな新しい魂として生まれ変わるのよ。もともとこの世界のグレートレイスにはあたしのかけらが混ざっていたのよ。それが皇帝の血筋の者に色濃く受け継がれていたの。あなたはグレートレイスに溶けきらなかった。だから、セリナの意識を持ったまま、あたしのかけらも宿したまま、この世界に生まれてきたのだもの」


 あ。

 グレートレイスに溶けきらなかった……。

 この言葉があたしの心を落ち着かせてくれた……。


 あたしは生まれた時から芹那の記憶を思い出していたわけじゃ、なかった。

 パトリック様に恋をしていた頃のあたしは、前世だなんて信じてもいなかった。

 この世界で、普通に貴族令嬢としての自分の意識しか、無かったはずだった。


 そんなあたしはパトリック様の裏切りに会って、心の中の前世の自分を思い出した、のだ。グレートレイスに溶けきらず、あたしとして、セリーヌとして生まれてからもずっとあたしの中にあった芹那としての記憶を……。

 それ以降はあたしの自我は完全に「セリナ」となっていたけれど、それでも。


 それ以前のあたしの気持ちも、そのまま今のあたしに同化している……。


「人がその人である、っていうのはさ、精神的に自分が自分だって思えるかどうかだと思うのよ。もちろん普通の人は魂と肉体は離すことのできない唯一無二だから、自分の存在意義なんて考える余裕はないんだけどさ。ほら、あたし、ねこでしょう? この猫の体でだって、あたしはあたしだもの。セリナは今のセリーヌの体に生まれたけど、セリナはセリナだからね?」


 ああ。うん。そうだ。

 あたしは、あたし、だ。

 貴族のセリーヌ、じゃない。

 あたしは、一人の人間としての、あたしだから。


 あたしがあたしであるためには貴族の血なんて、本当に些細なことだって、思うから。


「ありがとう、ハルカ。あたしは、あたし、だよね」


「そうよ。セリナはセリナ。それでこそあたしが大好きなセリナだわ」




「ふうむ。やはり興味深いな。どれ、私もしばらく貴女の側に居てもいいか? セリナ殿」


 マクギリウスはあたしに顔を近づけてそういうと、ふわんと身体が煙のように消える。

 そしてその場所に現れたのは、ミーシャと同じような大きさの黒い子猫、だった。


「この身体の私の事は、ノワールと呼んでくれるか? セリナ殿」


 それまでの威厳がある姿じゃなくって、かわいらしい子猫になったマクギリウスは、そう言ってあたしの顔にその可愛らしい猫の頭を擦り付けた。


 え、ええーー!!

 かわいいけど、かわいいけど、でもでも!!


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あなたが好きだったから。 今年最後の短編です。 氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、 シークレットベビー企画参加作品です。 初めてのシクべです。 よろしくお願いします。

電子書籍出版しました!
書報です!!
こちらで連載していた四万字程度の中編(番外追加して現在は五万字くらいになってますが)をプロットに、大幅改稿加筆して10万字ほどの本になりました。 電子書籍レーベルの「ミーティアノベルス」様より、10月9日各種サイトからの配信開始となります。 タイトルは 『お飾り』なんてまっぴらごめんです!! です♪ よろしくお願いします。 新作短編投稿しました! お手にとっていただたら幸いです。 よろしくお願いします。 友坂悠
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