第九十二話:閑話:ユーノたちの別れ
出会いがあるから、別れがあるのも当然なわけで。
だからといって、こんなあっさり別れが来るとは思っていなかったわけで。
……《勇者》 ユーノ
八日目。
運営からメールが届いてすこし慌てるが、すぐそばに俺の相棒がいるのを確認して、ほっとした。
ファウと名付けた、手のひらサイズの少女型の妖精は、お気に入りのクッションが入ったかごの中ですやすやと眠っている。
その様子を少し眺めていると、ファウも起きて眠そうに目を擦りながら大きく伸びをしていた。
『ふぁぁぁ…………。おはようユーノ。いい朝だね?』
まだ真っ暗だけどな。
幼馴染みのシオリと合流した影響か、ログハウス型の《拠点》を拡張することができて、今では倍以上の広さになっている。
一階は、10人くらいは余裕でくつろげるLDKとトイレと風呂と寝室一部屋。
二階は、四人部屋が三部屋とトイレ。
一階のキッチンには食材と食器専用の収納……というか、俺のアイテムボックスと連動した収納が。
トイレは男女別。
寝室は二段ベッドにすればまだまだ人が増えても大丈夫そうだ。
六日目に無人の村でシオリたちと合流したあとは、休養も兼ねてそのまま一泊。
七日目からベテラン冒険者チームのダクさんたちと《街》まで帰還したあと自由行動ということになり、冒険者ギルドでシオリが冒険者登録をした後は、ダクさんたち《先遣隊》……という名の決死隊……と本当に別れてしまうことになった。
大勢の前で大見得きったシオリは当然俺と一緒に行くとしても、仲間たちから囮にされたサーシャやソロ冒険者のニア、シオリと一緒にいたカティとティアも俺と行動を共にすることになった。
他のチームは自分たちのメンバーだけの方がやりやすいみたいだし。まあ、連携とかあるから当然だよな。
ナジャさんは、ダクさんの異母兄弟であるドクさんの嫁さんみたいだし、ここでお別れだ。
……あの男の夢が詰まっている膨らみは、惜しいけど、他人の嫁に手を出すほど飢えてないし。
…………決して、旦那であるドクさんの睨みが怖かった訳じゃない。うん。
「…………すげぇな。妖精って」
呆然と、ダクさんが呟く。
それもそのはず。
俺の相棒のファウとシオリの相棒のインデックスが共謀して、無人の村から《街》まで転移したのだから。
『ナイショだよ?』
『しー』
無邪気に笑う妖精と、無表情で指を口に当てる妖精とを見て、大体の人が跪き指を組んで祈りを捧げていた。
「妖精様との出会いに、感謝を」
みんな、口々に感謝の言葉を述べて、しばしお祈りタイムとなった。
……シオリに促されて、俺もファウとインデックスに祈ることになったけど……。
……正直、信仰とかよく分からないんだよな。
こっそりサーシャに聞いてみれば、《精霊信仰》の一環だとか?
じゃあなんで、行きの段階では祈りを捧げなかったの? と聞けば、みんな死ぬのが決まっていたからやけっぱちだったんじゃないかな? と、中々にヘビーなお返事が。
「ナジャさんやあたしやニアちゃんだって、無事に帰還できるとは限らなかったわけだし」
……なんて言われたらさ、この出会いに感謝したくもなるよな。
妖精は、世界を構成する精霊の下位存在で、人の前に姿を現すことはめったに無いんだと。
その妖精を連れている俺は、妖精に、ひいては、世界そのものに認められた特別な存在なんだと。
…………なあ、ダクさん? 鍛えてくれって頼んだとき俺のケツをさんざん蹴り飛ばしてくれたよな?
俺の、扱いって…………。
冒険者ギルドで、アイテムボックスに入れたままの解体してないオーク数体を解体して(ゴブリンは討伐証明部位以外無価値といわれた……)、ゴブリンキングやオークキングのドロップアイテムを売却し、調査依頼としての報酬を受け取ったあとは、みんな本当に、あっさりと、それぞれの道へ分かれていった。
「じゃあな」
「また会おうな」
そんな風に声をかけてくれる人もいる中で、ダクさんたちベテランチームは、ただ、手を振り去っていった。
それからは、食料や薪など必要なものを最小限購入して『街』を出て、門番から見えなくなった頃またファウとインデックスの力で無人の村に転移して、《拠点》を出して休むことになった。
ここまでが、七日目のこと。
なお、元々サーシャとチームを組んでいた連中がサーシャを連れ戻そうとしてきたが、抜刀して威圧したらビビって逃げてった。
……もちろん、その後に警ら中の衛兵に街中で抜刀するなとしこたま怒られたが。
しばらく説教された後に事情を説明したら納得して去っていったが……。
あの衛兵、たぶん、私怨とか混ざってたんじゃね?




