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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー1 第一次βテスト
58/195

第五十八話:告白

「トールくん……泣かないでよぉ……」


「……ミコト? ……そうか、おれ、今、泣いてるのか……」


 家族の最後を看取ることも出来ず、かつて住んでいた家に帰ることも出来なかったこの6年間は、どれ程辛いものだったろうか?

 その悲しみ、苦しみは、想像に余りある。


……でも、僕もまた、亡くした悲しみは分かる身の上だから。


……だから、トールくんの涙を見て、僕も泣かずにはいられなかった。


「ミコト? ……ごめんよ、ミコト。きみまで泣かせてしまって……」


「ううん。僕も、分かるから。悲しくて苦しくて辛い気持ち、分かるから」


 ()しくも、僕が両親を亡くしたのも、6年前になる。

 両親が遺してくれた遺産があったから、贅沢はしないにしても、一人で生きてこれたのだから、本当に感謝しかない。もらうだけもらってなにも返せないのが、今でも辛いけれど。



 その時、ふと、両親の言葉を思い出した。



『体は細くても、男の子なんだから。誰かを守れるような心の強い大人になりなさい』



………………あれ? 僕………………。




「ミコト? どうしたんだい? 顔色が悪くなって……。どこか具合でも悪いのかい?」


 抱き着く、というよりはしがみつく僕を抱き締め返し、涙を指で(ぬぐ)って、頭を撫でてくれる手が心地よくて、目を閉じて手の感触を味わう。

 そのおかげか、僕自身のことで動揺していた心も、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「……うーん……。あのね、トールくん。笑わないで聞いて欲しいんだけど……」


「ミコトのことで、おれが笑うなんてないよ。……あ、でも、お腹空いたとか言われたなら、つい笑っちゃうかもしれないね?」


 冗談めかして言ってくれる言葉に、覚悟が決まった。この人なら、受け止めてくれるだろうと。


「あ、あのね、僕、僕……。本当の僕は、男の子なんだ」


 きょとんと、首をかしげるトールくん。

……なんだか、空気が弛緩(しかん)したような気がした。


「……ふむ、ミコト? おれには、ミコトはきれいで可愛い女の子にしか見えないよ?」


 確かにトールくんは笑ったりしなかった。けれど、何かこう……なにか、上手く言えないけれど、なんかアレな感じだ。


「じゃあさ、おれの話も聞いてくれる?」


 うんうんと首を縦に振る。もう、なんだって受け止めてあげようじゃないか。


「おれ、なぜかきみのこと、姉さんだと思えてたんだ。顔も髪や目の色も全く違う。けれど、声や雰囲気、仕草なんかは、そっくりなんだ」


……うーん? お姉さんと、そっくり?

 言われたことを受け止めたけれど、噛み砕いて飲み込むまでには、ちょっと時間がかかりそう。


「姉さんもね、よく抱き着いてきたりしたから。だから、ミコトが抱き着いてきても、姉さんが抱き着いてきたように感じて、むしろ心安らいでいたというか……。そうか、当たり前だけれど、ミコトは姉さんじゃないし、だとすると、その……」


 トールくんからは、亡くしてしまった家族のことが本当に大好きで、大切に思っていたことが感じられた。

 僕のことも、その大好きな家族と同じように感じていたみたいだし、それはとても嬉しいのだけど……。


「ねえ、ミコト?」


「なあに? トールくん?」


「もし、ミコトがよかったらだけど、おれと、その……家族にならないか?」


「……家族……」


 両親を亡くして、6年。

 ずっと寂しさを抱えてすごし、時には堪えかねて一人で泣くこともあった。

 けれど、トールくんが家族になってくれるなら、少なくとも、一人で寂しくて泣くこともなくなるのかな?


「……でも、僕は、その……」


「うん。たとえミコトが本当は男の子でも、おれには関係ないから。男の子に戻ろうというなら、もちろん協力するし、今のままでも構わないよ」


「…………うん、…………うん」


「もう寂しい思いなんかさせないから、ずっと一緒にいよう。家族って、そういうものだろう?」


「……うん、うんっ!」


 改めて、飛び付いて。

 勢いのままに、唇が触れてしまった。

 二度目のキスは、一瞬触れただけだけれど、柔らかさと温かさは唇に残った。


「ねえ、トールくん。こんな僕だけれど、こんな僕でよければ、これからもよろしくね?」


「ああ、ミコト。そんなきみがいいんだよ。そんなきみと一緒にいたいんだよ。こちらこそ、よろしくね」




 二人、しばし見つめあって。やがて、ごく自然に、唇を重ねあった。




(可愛いミコト、私の可愛い弟を、よろしくね)




 すぐ近くで、誰かが(ささや)いた気がした。



(わふん、ご主人さま、嬉しそうだワン)

(くうん、邪魔しちゃダメだワン!)

(しーっ。おまえら、今いいところなんだから、黙って見てろ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここにきて、急激に糖分が増量されました。 これ以上のコメントは、ネタばれになりそうなので、 控えさせていただきますが、 いや、ほんと、実に、あま~いですね(笑)
2020/12/15 07:20 退会済み
管理
[一言] ( ´・ω・)⊃ご祝儀
[良い点] 「大団円」という言葉が頭に浮かびました。 こんな風に、自然と家族になりたい相手と出会えるなんて素敵ですね。羨ましくなりました^^ 両親の言葉も忘れずに守っていって欲しいです。
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