第十五話:閑話:二日目、夜
AEOスタッフルームにて。開発室主任:赤井視点。
(注)徹夜明け、連勤二日目。
夜9時。二日目も終わり、他のスタッフから上がった情報を精査しているところ。
ミコト嬢は、今日も元気に大量キルして、順調にレベルアップしている。
弓のくだりにはヒヤッとしたが、失敗から学んでいるようで、今は問題ないといえる。
また、妖精を通じて他のプレイヤーとアイテムをトレードしたようで、特に姫騎士ちゃんには契約の結晶を渡している。
……それ、レア度でいうと、最大の9なんだけどな……。
鬼の反物はレア度5。
レア度やドロップ率でいえば、全然釣り合わない。
しかしまあ、ゴブリンの契約の結晶って、一次職じゃ使えないし、三次職じゃそもそも役に立たんし、今のミコト嬢からいっても、数あわせにしかならんしな。
通常の契約では、モンスターそれぞれに最大レベルが設定されており、そこで強さは頭打ちになる。
……まあ、通常の契約なら、な……。
既に妖精と強い絆を結んでいるミコト嬢なら、『その先』が見れるかもしれんね。
「……うん?」
他のスタッフの手書きの報告書を読んでいた時だった。
ある項目で、激しい違和感に襲われる。
「ちょっとまて、なんだこれ……」
・プレイヤー名:ミナト
・♂
・LV22
・ジョブ:魔法少女(笑)
なんで、二日目にして特殊二次職解放されちゃってるの!?
そもそも、ジョブチェンジ実装されてないってのに……!!
「……考えられることは、二つ、か……」
まずは、そのうちの一つを潰すか。
「おい梅原、なんか大きな変化あったら、即連絡しろっていったよな?」
即電話をかけ、立場上は部下の梅原を問いただす。位置情報から、休憩室のベッドの上のようだ。
仮眠かよ? こっちはこれから紫髪のおっさんと会わにゃならんというのに。
「か、勘弁してください、主任~」
「勘弁できるわけねぇだろ!理由を述べよ!」
感情のままに怒鳴り付ければ、グズりだす。
女だからといって、泣けば何でも解決する訳じゃない。
言い訳にもならないよく分からないことを並べ立てるので、お仕置き決定だ。身体に分からせてやる。……後でな。
覚えてろ、マジで。泣かせてやるからな。
意味不明な言葉を並べかえて繋ぎ合わせて、ようやく解読すれば……。
「はは……マジか……」
乾いた笑いが漏れだした。
モンスターの出現するポイントを《スポット》というが、そのスポットを一日目のうちに探りだし、二日かけて二次職へジョブチェンジ、別系統一次職へジョブチェンジ、更に二次職へジョブチェンジ。
特殊条件を満たした上で、《魔法少女(笑)》にジョブチェンジしたようだ。
《スポット》からは、無限にモンスターが出現する。
更に、今のβテストではモンスターが再出現するまでの時間を最短の一秒に設定してある。
仮に、モンスターを倒すのに一秒で済むなら、一分で30体倒せることになる。
あくまで、理論上は。
秘匿されているはずのスポットを探し出したのもあり得ないが、この二日で何千何万とモンスターを倒し続けたのかと思うと……。
「……こいつ、狂ってやがるな……」
更に更に、現状でジョブチェンジする方法は、妖精の力を借りるほか無い。それに、進化前ならジョブチェンジの権限自体持たないはず。その上で、妖精に対して固く禁じていたジョブチェンジをやらかしたのだから、この妖精と《魔法少女(笑)》は、アウトだな。排除決定だ。
……まあ、おっさんに事情を説明して、許可を取ってからだけどな。
「素晴らしいではないか!」
……言うと思ったよ。
「このプレイヤーにも、何かしら便宜をはかりたまえ」
……その前に、ペナルティだけどな。
これほどあっさりと隠したいものを暴くヤツは、危険だ。
正式サービス開始したとき、序盤では隠しておきたいイベントを、早期に掘り起こされたらゲームが破綻する。
そうならないようにシナリオを組めればいいんだけどな。
……大体は、このおっさんのせいだよ!
「……赤井くん、やりすぎではないかね? そもそも私は、便宜を図れと……」
「世界の理にいきなり触れてくるような人物ですよ? 危険すぎます。これでも遠慮したくらいです」
眉が寄っている。
ちょっと困り気味な部長がなんか面白い。
「……赤井くん、だからといってね?」
「このプレイヤーは、妖精が進化してません。このプレイヤーにとってこの世界は、それこそただのゲームなんでしょう」
「…………むぅ…………」
さすがに、部長も黙った。
ま、部長にとっては、ただのゲームじゃないみたいだし。
実際のところは分からんがね。でも、もう一押しかな?
「部長も、隠しておきたいことの一つや二つあるでしょう? このプレイヤーは、そんな部長の隠しておきたいことを暴きに来ますよ?」
「……ほう……」
……やっべ、言いすぎた? 部長の顔が怖いものになって、失敗したと思ったが……。
「よかろう。今は、きみの好きなようにやってみたまえ。もちろん、許可を出すかどうかは私が判断しよう」
ばれないように、ホッと一息。
俺からすれば、できれば年単位で秘匿しておきたかったスポットの件。個人的な怒りもある。しかし……。
(ゲーマーの血が騒ぐのは分かるが、ジョブチェンジはまだダメだ。このガイド妖精、進化もしてないのに、なぜジョブチェンジを実行できた?)
ガイド妖精は、進化すれば権限が拡張されるため、ジョブチェンジも実行出来るようになる。
しかし、進化していない妖精が、なぜジョブチェンジを実行出来たか分からない。
……また、睡眠時間削って調べるかぁ……。
ミコト嬢、添い寝してください。
プレイヤー名:ミナトにペナルティ。
LV22→LV1
♂→♀
全ステータスを初期値に。
ステータス《運》にマイナス補正
装備品以外の所持アイテムを全トレード→対象:先触れヤタ。ワイバーンの鱗×10を入手。
スキル《不運》を強制付与。(解除条件未提示)
スキル○○を強制付与。→不許可。スキル付与に失敗。
称号○○を強制付与。→不許可。称号付与に失敗。
ジョブを強制変更。
・《魔法少女(笑)》→《魔法少女》
ガイド妖精の権限を一部強制封印。
・ジョブチェンジ権限封印。
・生産スキルを制限→レア度1までに限定。
便宜? 謀りますよ。上司命令だからな。
……図る、じゃねーけどな。
ワイバーンの鱗×10を消費して、各種装備を生産。
飛竜鱗のグローブ×1、飛竜鱗のブーツ×1、飛竜鱗の胸当て×1、飛竜鱗のシャベル×1を入手。(全てレア度6)




