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19:ナイトちゃん。

「サ、サモンスキル……?」

「そうだ。俺も詳しくねぇから細かくは言えないが、確か……『プチサモン』とか言うスキルだ」


 さすがに予想していなかった答えに、目を瞬かせてアルマさんを見つめる。

 そのアルマさんは、そんな僕をちらりと横目で見ると、けれど何もリアクションせずにパイプに葉を詰めていた。


「な、何かの間違いとかじゃ」

「似たようなものなら空間魔法にもあるがな。さっき言った通り、お前には魔孔が無いから魔法は使えねぇ。となると、俺の知る限りじゃあ、そんな真似が出来るのはサモンスキルしか無いわけだ」

「で、でもスキル無いし」

「それもさっき言ったが、スキルは必ずしも必要な訳じゃない。多分だが、お前それ使った後に身体に異常やら起きなかったか?」

「それは……確かに、頭痛はありましたけど」

「それはスキルが無い状態でそれに準ずる何かを使った時にかかる負担だ。となると、消去法で残るのはサモンスキルになる」


 駄目だ、何か言うたびに外堀を埋められるが如く論破されていく。

 仮にこれが本当にサモンスキル――つまり、召喚技の類いだったとしても、さすがにちょっと受け入れ難いものがある。

 そんな僕の心情を読み取ったのか、アルマさんは怪訝そうにこちらの顔を覗き込み、


「何をそんなに嫌がってんだ。普通は喜ぶところだと思うんだが」

「いや、ちょっと不相応な気がしちゃって……」


 破格のテイム能力に、モンスターの力を自分の力に出来るシンクロ、更には死にかけることで得たらしい閲覧能力。この三つでも手に余ると言うのに、更にサモンスキルまで加わってしまったら。

 確かに手札はあればあるだけいいのだろうが、何だか恵まれ過ぎて逆に怖い、というのが率直な感想である。


「……あのな。前々から思ってたんだがよ」

「はい? って、あいたっ!?」


 口には出さずモゴモゴしていると、不意に掛けられる声。次いで、乾いた音が僕の額で痛みと共に弾けた。

 慌てて額を抑えつつ、涙目になりながら唐突にデコピンを放ってきたアルマさんに視線を向ける。爪が尖っている彼のデコピンは、通常のそれよりかは遥かに痛い。


「お前はな、少しものを難しく考え過ぎだ。ガキはガキらしく、たまには単純明快な思考で考えてみろや」

「だ、だって」

「だってもクソもねぇ。今更お前がただの六歳児だとも思わねぇけどよ、それでもまだ六歳児なのは確かなんだぞ? それともなにか、人間の六歳っつうのは、皆てめぇみたいに無駄に頭が回るとでもいうのか」


 やたらと六歳の部分をプッシュされて、あぁそういえば、と自分の年齢を再確認する。

 クリスが猫可愛がりするので、最近微妙に精神年齢が低くなってきていた気もするが、中身は成人しているいい大人なのだ。

 この里に来てからは意識していなかったが、普通に考えればここまで物事に頭を回す六歳児はいない。今更過ぎる話だが、客観的に見ればちょっと不気味な子供だ。

 しかし、アルマさんには、最早僕はこういう子供なんだと認識されているみたいだ。少し微妙な気分ではあるが、変に疑われて説明しろと言われても無理なので、その評価は甘んじて受け入れるしかあるまい。


「少しは普段のクリスでも見習ってみろ。下手すりゃお前よか子供だぜ、アレは」

「クリスも、まだ十五……十六歳だって聞きましたけど」

「お前だってまだ六歳じゃねぇか」


 ……そこでまた僕に話を戻すのか。


「ただの子供じゃいられない立場にいるのは確かだがな。何にもなけりゃあまだまだ何も考えずに遊び回るくらいの年頃だ、たまには無邪気になってみてもいいんじゃねえか? ってことで、今日は実技は無しだ。クリスにもメルニャにも伝えてあるから、一日好きにして遊んでろ」


 言うが早いか、彼は撫でるというには強い力で僕の頭に手を乗せて、そのままぐしゃぐしゃと掻き乱す。

 そして、わりかし珍しい笑みを浮かべると、空になったコップを持って奥の部屋へと行ってしまった。


「無邪気に、かぁ」


 ポケットにいたサピィが頭に飛び乗り、乱れた髪を直してくれている中で、アルマさんに言われた言葉を反芻する。

 確かに、普通の子供なら遊ぶことが仕事とも言える年だが、流石に中身が中身なのではしゃいで遊ぶ気にもならない。

 いきなり言い渡された休みにも、どう過ごしていいか悩んでいるくらいだ。

 しかし、ただ座っていても時間を無駄にするだけなので、取り敢えず立ち上がってアルマさんの家から出ることにする。


「どうしよっか……」

『んー?』

「いや、やることが無くなっちゃってね」


 てくてくと当てもなく里の中を歩き回りながら、やることが無いかを頭の中で模索する。

 昼になればクリスが一度戻ってくるので、食事の支度をするという用事ができる。しかし、まだ中天には程遠い。

 ベアクルさんの家に行ってもいいが、普段からナイトやサピィを預かってもらってる手前、意味もなく押し掛けるのもどうか。たまには一人の時間も欲しいだろうし。

 メルニャさんも、今朝はクリスとは別に見回りに行っているし、さてどうしたものか。


「……薬草探しでもするか」


 暫く畑を眺めながら考えていた結論が、それだった。

 里の周りの森はやたらと植物の種類が豊富だし、記憶にある限り僕でも問題なく採取出来るものも沢山ある。

 なんだったら、今までに教えられた調薬やら錬金術やらを、危険の無い範囲でやってみてもいいかもしれない。


「……そうだな、そうするか」

『なに? 森に行くの?』

「うん。薬草やら果物やら、色々と探してみよう」


 言いながら、踵を返して家へと向かう。

 ちらっと先を行くナイトを見て、もう少ししたら普通に乗って走れそうだよな、とか考える。今でも普通に大型犬のサイズを超えてはいるし、どうやらレベルアップと共に少しずつ大きくなっているようなので、もしかしたら近いうちに乗って走ってもらうのも叶うのかも。

 そんなことを考えつつも、どうやらサモンスキルらしいあの力を上手く使えば、空間を越えて家まで一瞬で行けるんじゃないかとも考えたが、ナイトが通れる大きさの裂け目を造った時の頭痛を思い出してすぐにその考えを捨てた。

 まだ検証もしてない不安定なものでそんな無茶をするのも、色々とおかしい。

 薬草を取って帰ってきて、昼飯を食べたら、その辺りのことも手を付けてみよう。


「なんだかんだ言って、一日の予定立っちゃったよ」


 自分で言って、クスリと笑う。多分、これを充実した日々と言うのだろう。向かう先は、決して明るい未来ではないけれど。






 着替えたり篭を持ったり百科事典を持ったりと準備を整え、やってきました里の森。

 一応、クリスが普段見回っているエリアを狙って、かつ深入りしないように気を付けて行動することを自分に言い聞かせる。

 サピィやナイトがいくら森の魔物をあしらえるくらい強くなったといっても、僕自身はさほど強くはなっていない。基本的に鍛えてもらっているのは、防御や回避といった受けの技術だからだ。

 今回は持ち物が多いので、クリスとの鍛練で使っている木の小手や盾は無い。必然的に、何かあれば避けるしか身を守る手段が無くなる……が。


「アルマさんの狐火を超える攻撃はあるまい」


 回避専門の特訓を伊達に半年続けてきたわけではない。多角攻撃や波状攻撃、範囲攻撃とバリエーションに富んだ狐火に比べれば、森の魔物の攻撃なんて鼻で笑えるレベルである。

 その割に毎回傷だらけになるのは、必ず僕の限界を越えるスピードや威力で三人が攻撃を仕掛けてくるからだ。つまり、僕の回避スキルが上がっていないから結果が変わらないのではなく、ステップアップした分向こうも段階を上げていくから結果が変わらないのだ。

 一時期自信喪失して微妙にへこたれていた時期に、アルマさんからかけられた言葉である。

 あの人はこういうことで嘘をつかないので、素直に信じることが出来た。


「じゃあ、警戒頼んだよ。ナイト」


 返事に威勢よく吠えたナイトの後を、傍らに浮くサピィと共に進む。

 薬草メインに採取していって、ついでに何か昼飯に使えるような山菜的なものも取れればいい。

 と、早速ポピュラーな薬草を発見。目の前に浮かぶ緑色の疑問符、その名もパニ草だ。

 乾燥させて粉にすれば、軽い混乱状態を起こさせる毒薬になる。毒薬というには軽い症状だし、時間経過で治るので大したものでもないのだが。


「サピィ、お願い」


 僕の意図を受け取ったサピィが、風の魔術を行使して、ハテナマークの点の部分を切り落とす。今のところ、この方法が一番早く品質良く採取出来る方法だ。

 パニ草は普通に手で掴むとその時点で軽く傷んでしまう。その前に、今のように点の部分を切り離してしまえば、手で掴んでも劣化は起きないのだ。

 何故かはよくわからないし、もともと繋がっていないようにしか見えないものを切り離すことにも疑問を覚えないでもないが、まあそういうもんだと深く考えないことにしている。

 ついでに、こちらも乾かして粉にすれば気付け薬になるパニパ草も一本取っていく。これは根っこが重要なので、さながら自然薯でも掘り起こすかのように丁寧に地面を掘り返して取るのがベターだ。ナイトがいれば一瞬なので楽々である。


「さて、次は――」


 辺りを見回して、めぼしいものは無いかと目を光らせる。と、草葉に紛れて、何やら見覚えのある緑色の姿が見えた。

 ちらっと横を見るが、サピィは普通にここにいる。するとあれは……。


「ねぇ」

『うん、友達。出てきて貰う? 多分いっぱい出てくるけど』

「いっぱいって、どれくらい?」

『呼べば呼ぶだけ。きっと、周りが見えなくなると思う』


 まじか。そんなに沢山いるのか、スピリットって。

 さすがにそこまで大量に出てきてもらっても困るので、先程ちらりと見えた彼女だけ呼び出して貰うことにする。


「へえ……」


 サピィに引っ張られて姿を現したのは、肩の辺りでクルンとカールした髪を持つ、どこか可愛らしい雰囲気をもつ子だった。

 全体的に悪戯好きで好奇心旺盛だと言われる緑のスピリットだが、こういう性格の子もいるらしい。好奇心があるからこそ、隠れながらもこちらを伺っていたんだろうけども。


「初めまして。心配しないで、僕は君達の敵じゃないから」


 言いながら、サピィにするように指先で頭を撫でてあげる。

 肩をすくめながらも、はにかんで笑う姿がどことなく保護欲を掻き立てられるな。やきもちを焼いたらしいサピィが髪の毛を引っ張るが、痛くないので気にしない。

 それにしても、当たり前だがスピリットにも見た目の違いはあるんだな。性別の区別はないみたいだが、男性型のスピリットはいないのだろうか。

 個人的には赤のスピリットが男性型だとカッコいいんだけど、そこらへんは実際に会ってみないとわからないか。


「サピィは赤のスピリットに会ったことは……」

『無いよ。多分、ここにいる皆も会ったこと無いと思う』


 一応聞いてみたが、結果は予想通り。どうやらここにいるスピリットは森から出ないみたいだから、当たり前と言えば当たり前か。

 カールの子と少し遊んで別れてから、更なる収穫を得に森の奥へと進む。

 恐らく、ここら辺りからモンスターが現れるはずだ、と気を引き締めていると、案の定ナイトが低く唸り始めた。

 耳に聞こえてくるのは、荒い鼻息のようなもの。それに地面を蹴るような音が数回。


「ワイルドボアか。昼飯にはちょっと重いかな」


 目視できる場所にいたモンスターを見ながら、そんなことを口走る。

 そこにいたのは、多少牙が大きいかな、と思うぐらいの猪だ。森の半ば辺りに生息するモンスターで、突進攻撃を繰り出してくる。

 逆に言えばそれくらいしかしてこないので、対処を間違わなければ怖いモンスターではない。

 それでも一応、ステータスを覗いておくのも忘れない。変異種とか特異種の可能性もあるからだ。




 名称 ワイルドボア

 レベル7


 筋力D- 体力E 俊敏E 魔力G 精神G




 うん。問題なくただの雑魚である。晩飯のメインにでもなって貰おう。

 既に突進のモーションに入っていたワイルドボアは、迷うことなくこちらへと突っ込んでくる。

 当然、わざわざ食らってやる義理もないので、僕は地面を蹴って枝を掴み、その突進をかわす。同時に、


「ナイト!」


 持ち前の素早さでワイルドボアの背後を取っていたナイトが、そのまま追従してその身体に噛み付いた。

 そしてそこからが、成長したナイトの凄いところだ。

 普通に考えれば、突進最中の猪に噛み付いたところで、そのまま引き摺られるか離してしまうかのどちらかで終わってしまうだろうが、なんとナイトは顎の力と全体重を後ろに乗せることで、ワイルドボアを引き止めてしまったのだ。

 そして、次に起こした行動は――。


「おぉー。ナイトちゃんすごいねー」


 不意に後ろから聞こえた声。同時に、ナイトはそのままワイルドボアを顎の力だけで持ち上げると、身体を振って凄まじい勢いのまま、手頃な場所にあった岩へと思い切りぶつけたのだった。





「クリス。見回りは?」

「昼前は終わり。帰ろうかと思ったらリオの匂いがしたから寄ってみたの」


 枝から手を離して着地して、後ろにいたクリスへと振り返る。

 いつの間に捕まったのか、サピィがうりうりとほっぺをいじられていた。嫌そうではない。むしろ嬉しそうだ。


「にしても。あんな倒し方するなんて。普通なら首辺り噛み切って終わりだと思うんだけど?」

「それだとすぐに死んじゃって血抜きが出来ないから。気絶させてくれって頼んだんだよ」

「食べるの?」

「食べるの」


 猪肉は多少クセがあるが、それも含めて僕は好きである。モンスターだからって忌避する人もいるらしいが、毒とかもないし普通に美味しく頂ける。

 そんな会話をしながら、枝に掴まった時に見付けた木の蔓を引っ張って下ろす。ある程度の長さでクリスが切ってくれたので、それでナイトが引きずってきたワイルドボアの足を二本ずつ纏めて結んでおいた。

 もちろん、普通の蔓ではない。これは岩蔓いわづるというやつで、その名の通りやたらめったら硬い蔓である。

 草食モンスターに食われないように、ひたすら硬く進化した蔓だ。

 普段は普通の蔓なのだが、表皮に傷がつくと硬化を始め、一分足らずで植物らしさを失い岩のように硬くなる。

 大体一時間程で元に戻るのだが、まあその頃には里についてワイルドボアの処理もしているだろうし、問題はない。


「っていうか、もうそんな時間?」


 まだ探索を始めてさほど経っていないと思っていたけれど。


「ううん。でも、今日はメルニャもいるからね。私が抜けても問題なしって判断」

「あぁ……じゃあ、僕も帰るよ」

「そう? 奥に行かないんだったら、まだ続けててもいいんだよ?」

「いや、昨日の晩御飯適当だったし、そのぶんお昼に時間かけて美味しいの作る。だからワイルドボア持って」

「……リオ、ワイルドボア持ってくの面倒なだけでしょ」


 それもある。


 もちろん、昨日の夕飯云々も本音だったので、里に帰ってからはワイルドボアを処理した後、昼までの時間を全て昼御飯の為に使う僕であった。

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