第161話 店主「(……チッ、帰れよ)」
俺達は車を運転し、3層と4層の検問所までやってくると、邪魔にならない位置に止め、車から降りる。
そして、検問所にいる兵士達のもとに向かうと、1人の兵士がこちらに気付き、近づいてきた。
「こんにちはー」
「こんにちは。ハルト殿ですな。いかがいたしました?」
あれ?
「知っているんです?」
「大佐の車に乗っているのはハルト殿とジュリア殿でしょう」
兵士さんが苦笑いを浮かべる。
「あー、なるほど」
そりゃわかるわな。
「それでいかがしました?」
「実はその大佐殿から話がしたいと伝言をもらいましてね。どこにおられるかわかります?」
「大佐は今日、非番ですな」
あ、休みか。
「あー、そうですか。では、後日にします」
来週になっちゃうけどいいか。
「少々お待ちを……おーい、大佐がどこにいるか知ってるかー?」
兵士さんが門の前に集まっている兵士達に聞く。
「大佐なら4層のさえずり亭にいたぞー。朝飯食べに行ったら新聞を読みながらコーヒーを飲んでたわー」
優雅だなー。
さすがは仕事ができそうな雰囲気がある人だ。
私生活もエリートっぽい。
「わかったー。ハルト殿、どうやら大佐は4層のようです。さえずり亭は4層にある噴水近くの喫茶店です。小鳥の絵が描いてある看板ですからすぐにわかると思います」
「ありがとうございます。まだいるかわかりませんが、行ってみます」
俺達は戻ると、車に乗り込み、検問所を抜ける。
「噴水って右の方だったよね?」
前に一通り回った時にあった気がする。
「そうですね。ちょっと行ったところにありました」
「えーっと……あ、噴水」
「あ、あそこに小鳥の絵が描いてある看板があります」
ジュリアさんが指差した先には確かにスズメみたいな小鳥が枝にとまっている絵の看板があった。
「止めるねー」
スピードを緩め、喫茶店の近くに車を止める。
「まだおられますかね?」
どうだろ?
「まあ、行ってみようよ」
「そうですね」
俺達は車から降りると、喫茶店に向かう。
「ここも料金があれかねー?」
「だと思います」
「まあ、入ってみようか」
店に入ると、ぱっと見は店員がいないように見えた。
非常に静かな店で居心地は良さそうに見える。
「――んもう! そっちが先!」
ん?
「愛してるよ」
「きゃっ!」
いやー……
「マージェリーはどう?」
「私も好きっ!」
店、出よう。
「嬉しいよ」
「もうっ! はい、あーん……あーん……あー?」
やべっ、目が合った!
「ジュ、ジュリアさん、図書館に行こうか」
「そ、そうですね。行きましょう」
俺達はくるりと振り返り、店を出ようとする。
「――やあ……奇遇だな」
肩を掴まれたと思ったら俺とジュリアさんの間に能面のような顔をした赤髪の女性が現れた。
「あ、マージェリーさん、いたんですね」
「こんにちは」
さっき奥にいたのにもうここにいる。
転移か?
「ああ。こんにちは。いや、おはようかな? 君達はここで何を?」
ドスの利いた声が怖い。
「デートですよ」
「ええ、デートです」
けっしてマージェリーさんを探していたわけではない。
「ほー……見たか?」
「何をです? 俺達、今店に入ったばかりです」
「ええ。ほんのついさっき」
なーんにも見てない。
「……誰にも言うなよ?」
「はい……」
「言いません……」
カーティスさんくらいしか共通の知り合いはいませんけど。
「マージェリー、どうしたんだい?」
奥にいるおそらく彼氏さんと思われる人がマージェリーさんを呼ぶ。
「ごめーん! お仕事関係。ちょっと待ってねぇ」
あまーい。
「うん、いいよ。お仕事は大事だ」
「ありがとー……な? イケメンだろ? 優しいだろ?」
急にドスを利かせないで。
怖いって。
「かっこいいですね」
「優しいし、素敵だと思います」
「ああ。で? 用は?」
ないって言って帰りたい。
「書置きを見まして」
「あー、なるほど。ちょっと出よう」
「でしたら外に車を止めています」
ここはちょっと……
何が嫌って彼氏さんの前にいるこのエリートさん。
「そこでいい……ごめーん。ちょっと外で話してくるぅ」
「いいよ。待ってるから」
「うんっ!」
すんげーぶりっこだなって思っていると、マージェリーさんが背中を押してきたので店を出る。
そして、車に向かうと、マージェリーさんが後部座席に乗り込んだので俺が運転席に乗り、ジュリアさんが助手席に乗り込んだ。
「先に言っておく。私は仕事とプライベートを分けているんだ」
その腕を組んでふんぞり返っている姿を見りゃわかるよ。
「良いと思います」
「大事なことだと思います」
うんうん。
「まあ、君らだってそうだろうが、恋人とのひと時とはあんなものだ」
いや?
せめて家でやれよ。
同棲しているんだし。
「お相手の方はどういう人なんです?」
「研究所に勤めている学者だ。頭も良いんだな、うん」
そっすか。
「あのー、それで魔石の話とは?」
さっさと本題に入ろう。
「ああ、それな。あれから色々なところに話を持っていったんだが、ある程度、売却先が絞れたんだ」
ほうほう。
「どこです?」
「議員達だな。あ、議長は辞退した」
政治家か。
「他はダメだったんです?」
「額が安かったり、本物かどうかを調べたいとか言い出してな。時間がかかりそうだから外しておいた。貴殿らも次があるのだろう?」
「そうですね。土の国辺りに行こうと思っています」
「なら時間をかけない方が良いだろう」
というより新居に入居するまでに売却したい。
「お願いします」
「うむ。そういうわけで議員だ。今はまだ10人以上に打診をしているところでこれからさらに絞ろうと思っている」
「ありがとうございます」
「構わん。叔父上から言われているし、女神様の剣を持っている貴殿らに変なことはできん」
あー、やっぱりノルン様ソードがすごいんだな。
俺の方は使う機会が一切ないけど、持ってるだけで効果があるんだ。
「どれくらいかかりそうです?」
「向こうも考える時間がいるし、2週間程度を目途に考えている」
それくらいなら問題ないな。
「それでお願いします」
「わかった。金貨1200枚から1300枚くらいと考えておいてくれ」
すげー。
「魔道具がいっぱい買えそうです」
「ああ、ぜひ買ってくれ。では、私はここで失礼する。ダーリン……彼を待たせるわけにはいかないからな」
マージェリーさんはすまし顔でそう言うと、車から降り、喫茶店に戻っていった。
「ダーリン?」
ジュリアさんが首を傾げる。
「ハニー?」
俺も首を傾げた。
「まあ、仲が良いのは素晴らしいことだと思いますね」
「そうだね。でも、今日のことは忘れようか」
「はい。図書館に行きましょう」
そうしよう。
「れっつごー」
「ごー」
俺達はよくわからないが逃げるようにさっさとこの場から離れた。
書籍を購入してくださった方、ありがとうございます。
まだの方は是非ともご購入頂けると幸いです。
これからも本作を更新していきますので引き続き、よろしくお願いいたします。




