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08 作戦開始

           ◆◆◆


 昼間だというのに鬱蒼と繁る木々に遮られ、深い影を落とす森の中を、多くの馬車や荷車を引いた一団が進んでいく。

 大量の物資を運ぶその一行は長い列を成して、この危険きわまりない境界領域を通過して人間領域を目指していた。


 彼等は、魔族の補給部隊。

 およそ五百人ほどで形成されたこの部隊は、人間領域内で戦う魔族の戦闘拠点に物資を運ぶ為に、定期的に境界領域内を横断していた。

 とはいえ、そのほとんどは荷物を運ぶ為の人員であり、護衛を担う純粋な兵士達は七、八十人前後といった所であろうか。

 だが、今は荷を運んでいる人員とて、その一人一人が並みの戦士よりも遥かに強い。

 そして、それらを護衛する職業兵士である魔族達は、まさに歴戦の強者と言ってよかった。


 そんな魔族の兵士達ではあったが、周囲を警戒する様子には慢心のような物は見当たらない。

 比較的安全とされる、この境界領域内に開かれた魔族の隠し通路ではあるが、恐ろしいモンスターや、多様な邪人どもの襲撃が無いとは言いきない。

 そのため、わずかな油断が死に繋がる事を、彼等はしっかりと理解しているからだ。

 口数も少なく、荷車の車輪が奏でるガラガラといった音だけが聞こえる中、一人の部隊員が漏らすため息が妙に響いた。


「……おい、あからさまに不満そうな声を出すな」

 ため息を漏らした若い魔族の部隊員に、ベテラン風な先輩隊員が小声で注意する。

 この部隊には、護衛の名目で様々な派閥から幹部クラスの魔族も派遣されているため、そういった連中から下手に目をつけられたくはない。

 自身もそれを弁えているため、若い魔族は先輩魔族に対して、素直に頭を下げた。

 だが、若い部隊員はさらに小声になって、愚痴のような事をベテラン先輩へと囁いてくる。


「……でも、正直やってらんないッスよ」

「……おい」

「いや、別に戦争がイヤだって言うんじゃないんス」

 彼とて魔族だ、戦う事は嫌いではないし、それ自体は否定しない。

 だが、今の戦争状態については、やはり不満が溜まっているようだった。


「つーか、互いが大軍出してぶつかるなり、トップ同士がやり合って素早く決着がつくならいいんスよ。でも……こう何年もダラダラと先の先の見えない小競り合いばっかの現状は、ハッキリ言ってたまんないッス」

「まぁ、気持ちはわかるがよ……」

 若い隊員の不満は、今の魔王軍全体から沸き上がっている不満でもある。


 そもそも、魔族の弱肉強食思考は、『ぐだぐだやるより、力でケリをつけた方が早い!』という気質による物が大きい。

 そんな彼等にとってみれば、年単位でも決着の付かない戦争など、まるで元金の減らない借金の利息を払い続けているようものだ。

 優位なのか不利なのかもハッキリしない、ただひたすらに疲労するだけの現状にうんざりするのも当然と言えるだろう。


 しかし、魔王デルティメア率いる彼の子供達という、強力すぎるトップ層が戦争継続を望む以上、それに逆らう事は許されない。

 上位魔族の中には、せめて人間との戦争は一時見送り、魔族領域の掌握に集中できないかとの意見もあったようだが、それらの意見が取り入れられる事はなかったようである。

 そんな、まるで真綿で締め付けられるような閉塞感は、さすがの魔族の間にも厭戦ムードを漂わせる要因となっていた。


「ちょっと前に、魔王様の一番下の子が裏切ったって話があったじゃないッスか」

「ああ、人間の娘との間に生まれたっていう……」

 魔王と人間の女の間に生まれ、落ちこぼれと影で嗤われていた末子のレイアストが、人間と協力して『雷神』と称される兄のアガルイアを倒し、父に反旗を翻した事件は魔族領域にも大きな衝撃をもたらした。

 その後、彼女の兄姉にあたる魔王軍幹部達が動く事となり、すぐにでもその首を取られて晒されるであろうと思われていたのだが、まだ彼女が討たれたという話しは出ていない。


「……いっそのこと、二十年の『英雄戦争』の時みたいに魔王様とタイマンでも張って、さっさと戦争を終わらせてくれないもんかな~……なんて、思う事もあるんスよね」

「ばか!それはさすがに言い過ぎ……」

 下手をすれば謀反とも取られかねない若い隊員の発言に、ベテラン先輩が顔色を変えた、その時!

 唐突に、部隊全体の足が止まった!


「な、なんだ……?」

「まだ、休憩のポイントじゃ……ないよな?」

 所定の安全な地点や、決まった時間でもないのに、進行の止まってしまった部隊の兵士達が、何事かとざわざわし始める。

 前の方にいる者達に、後方から何があったのかと尋ねる声がかけられ、返ってきた情報が瞬く間に伝えられていった!


「……俺達の進行先に、陣取ってる連中がいる?」

「しかもそれが……フォルア様ぁ!?」

 先頭集団から伝えられた情報からすれば、彼等の行く手を阻む者がいるという。

 しかもそれが、魔王軍の幹部にして『万魔』の異名を持つ姫、フォルアだというのだ!


「な、なんで……?」

「俺がわかるか、そんなもん……」

 訳のわからぬ状況に、魔族達の間には動揺が広がっていった。


            ◆


「フフーン♪」

 眼前で戸惑う魔族の部隊を前にして、フォルアは仁王立ちのまま機嫌の良さそうに鼻を鳴らす。

 自分達の思惑通りに注目を集めている現状が、とても気持ちいい。

 なんなら、すぐにでも特大の魔法をぶっぱなしてやりたい気分だ。


「おい、フォルア……」

「わかっているわよ。ちゃんと交渉(・・)はするから、安心なさい」

 隣に立つマストルアージからの声に、再び「フフン」と鼻を鳴らしたフォルアが笑みを浮かべる。

 そのままツカツカと前へ出ると、よく通る声で補給部隊の魔族達へと呼び掛けた!


「お前達、よく聞きなさい!ワタクシは魔王デルティメアの次女、フォルア!」

 知っている者もいるでしょうという言葉に、兵達は頷くしかない。

 だからこそ、こうして困惑しているのだ。


「ワタクシは、先だってお父様に反旗を翻し、人間との共存を目指す魔王となると宣言した、健気で可愛くてお姉ちゃんが好き好き大好き♥と言って憚らない、かわいいかわいい大切な妹であるレイアストに着くと決めたわ!」

「なっ……!」

 ザワリとした驚愕の気配が、魔族達の間に波のように伝播していく!

 突然現れた魔王軍の大幹部の一人が、その魔王を裏切ると宣言したのだから無理もない。

 そこへ畳み掛けるようにして、フォルアは彼等に選択肢を叩きつけた!


「ワタクシのかわいいレイアは、無駄な殺生は好まないわ!だから、今すぐ降伏するか回れ右して逃走するなら、見逃してあげましょう!」

 さぁ、どうする?と、彼等へ投げつけた選択を迫るフォルア!

 だが、そんな彼女の申し出に対して、簡単に首を縦に振るものはいない。

 それどころか、戸惑うような気配が収まってくれば、感情は敵意となって増幅され、波のようにさざめき、膨れ上がっていく!


「ざっけんな、こらぁ!」

「この裏切り者がぁ!」

「信じてた幹部がいきなり敵として登場とか、NTR物じゃねぇんだぞ!」

「あとお姉ちゃん大好き❤️とか言ってるけど、明らかにアンタの願望込みじゃねぇか!」

「そんなに妹が良かったのか、この売女(シスコン)がぁ!」


 若干、痛い所を突くような批判を投げつけてくる者はいたが、こんな反応も想定内である。

 ゆえに、フォルアは口の端をわずかに歪め、嘲笑めいた表情のまま右手を掲げた。


「まぁ……口で説得されただけで、素直に降伏するような魔族なんていないわよね。でも、無駄な会話も時間稼ぎ(・・・・)には十分でしょう(・・・・・・・・)

 ねぇ、マストルアージ?と、視線を送るフォルアに、魔術師は「ありがとうよ」とお礼の言葉を口にする。


「お陰で、詠唱も完了だ!合わせろ、フォルア!」

「いいわ、派手にいきましょう!」

 詠唱により威力を増大させたマストルアージの魔術と、己の魔力のみで放てるフォルアの魔法が、目の前の魔族達に向かって撃ち放たれた!


二重同時(デュオ・)爆発魔法(エクスプード)!』


 発動した二つの爆発魔法は、絡まり合い、威力を増幅して魔族の部隊を轟音と共に吹き飛ばしていく!

 大勢の悲鳴や怒号すらもかき消され、爆ぜた衝撃波と爆発音は大地を抉り、周囲の木々をなぎ払いながら、境界領域全域に響けとばかりに木霊していった!


「……ん」

「まぁ、こんなもんか」

 初手の一撃で、かなりの人数が吹き飛んでいったのを確認しながら、フォルアとマストルアージは満足気に頷いてみせる。

 二重爆発魔法が炸裂した余波でもうもうと土煙が上がっていたが、境界領域の森に一陣の風が吹くと、霞んでいた眼前の光景がうっすらと見えてきた。


「おっ?」

「あら……」

 するとそこには、二人の魔術師が予想していたよりも多くの魔族が、爆発に飲まれながらもその場に止まっている姿を現す!

 どうやら、爆発魔法が発動して威力を発揮するまでの刹那の一瞬に、隣接していた者達が協力しあって、魔力障壁を展開したようだった!


「さすがは、魔族の中でも選りすぐりの者達ね。こんなにも、対応できる者が多いとは思わなかったわ」

 感心したように、フォルアが魔法に耐えた者達を賛辞する。

 しかし、そんな彼女の言葉をまともに聞いている者はいない。

 なぜなら、ここに彼等はすでに満身創痍であったからだ。


 かろうじて展開できた彼等の魔力障壁程度では、吹き飛ばされずにこの場に止まる事ができただけでも、幸運と言っていいだろう。

 フォルア達が放った爆発魔法の衝撃は、きっちりと彼等に多大なるダメージを与えており、なんとか立ってはいるものの、その膝はガクガクと震え、子供につつかれただけでも崩れ落ちてしまうだろう。


「お前ら、よく耐えた」

「壁役、ご苦労」

 そんな満身創痍の魔族達を飛び越え、フォルア達に向かって突進してくる影が二つ現れる!

 全身鎧に身を包むこの二人は、巨大な戦斧を軽々と担ぐ巨漢の魔族と、大剣を構える大柄な女性魔族!

 彼等はこの部隊の先頭を守るべく配置されていた、上位の魔族兵士である!

 本来なら守るべき人員を盾にする非道っぷりではあるが、高威力の魔法を使った後の魔術師を仕止める絶好の隙を狙う判断は、まさに歴戦の戦士の賜物と言っていい!


「裏切り者に加担するだけでなく、人間とつるむとは……『万魔』と呼ばれた姫も地に落ちたものだな!」

「魔族の恥さらしめ……死ぬがいい!」

 いかに強力な魔法を使えるといっても、身体能力においては鍛え上げた戦士の方が分は大きい!

 猫と灰色熊以上に差がある膂力をもって間合いに入ってしまえば、大根を切るより容易く二人の首を落とせるだろう!


 だが、そんな死の刃が届くまであと数歩といった所で、フォルアとマストルアージを守るように立ちふさがった人物がいる!

 落ちこぼれと言われた姫のレイアストと、そんな彼女と共に歩むと決めた少年モンドだ!

 しかし、そんな二人の姿を認識した魔族の戦士達は、唇の端をわずかに歪め、嘲笑の表情を浮かべた。


「まぐれで生き延びただけの、落ちこぼれが!ここで、素っ首叩き落としてやる!」

「子供とはいえ、戦場に出てきた以上は容赦しないぞ!」

 まずは魔術師達の前の前菜とばかりに、戦士達の振るう刃はレイアスト達へと狙いを定めた!

 だが、予想外にも飛来するそれを軽々と避け、レイアストは巨漢の戦士に、モンドは女戦士に狙いを付ける!


「はいぃっ!」

 レイアストの放つ、伸びのある掌底打が、鎧の上から巨漢の戦士を打つ!

 硬い金属音が反響し、一瞬だけ巨漢の兵士の動きを止めたものの、彼の鎧には傷ひとつ付いてはいない!

「馬鹿め!そんなものが……ぶるあぁっ!」

 効くか……と、続くはずだった戦士の台詞は、沸き上がった自身の嗚咽に遮られる!

 そんな戦士の反応に、レイアストの口の端に笑みが浮かんだ!


「エルフ格闘術(アーツ)・鎧通し!」

 先代英雄パーティの一人である、エルディファに修行をつけてもらい、レイアストが身に付けたのは彼女が創始者である徒手空拳の技の数々……それが、『エルフ格闘術』だ。

 元々、高い魔力だけは持っていたレイアストにとって、この技術は相性が良かった。

 身体能力の上昇に加え、打撃に魔力を乗せる事で物理的な防御を貫通し、内部にダメージを与える打法の威力は、硬い鎧に守られた巨漢の戦士をも悶絶させる!


「ごふっ……きっ……さまぁ!」

 しかし、さすがに相手も鍛えあげた魔族の戦士である!

 未知の攻撃とはいえ、その一撃だけで沈む事はなく、再び戦斧を振り上げてレイアストの頭に振り下ろそうとした!

 仮にもう一度レイアストが『鎧通し』を打ち込もうとも、おそらく振り下ろされる斧は止まる事はない!

 相討ちならば致命傷を負うのはレイアストの方だと判断した、巨漢の戦士の捨て身の一撃である!


 勝利を確信する魔族の戦士!

 だが、レイアストが次に狙ったのは、隙のできた下半身!

 攻撃のために踏ん張りを効かせていた足の膝間接に、正面からの蹴りを打ち込む!

 鈍い音と嫌な感触が広がり、魔族の足は間接の構造的にあり得ない方向へと曲がっていった!


「があぁぁぁぁっ!」

 さすがの戦士も、これには苦痛の声を発っせずにいられない!

 攻撃は大きくレイアストから外れ、勢い余って倒れ込んだ戦士は激痛に顔を歪めた!

 その隙に、自分の間合いに踏み込んだレイアストは、彼の頭部に狙いをつけて、再び『鎧通し』を叩き込む!

 兜も用を成さず、脳を激しく揺さぶられた巨漢の戦士は、ブクブクと口から泡を吹き、そのまま音を立てて地面に転がった。


「……ふうぅぅ」

 相手が倒れたとはいえ、残心を怠らなかったレイアストだったが、ピクリとも動かなくなった戦士の姿に、ようやく警戒を解いた。


(転身しなくても、上位戦士に勝てた……)

 ぐったりと地に伏せ、身動きしなくなった魔族の戦士を見下ろしながら、レイアストは拳に残る感触を確かめる。

(私、強くなってる!)

 レイアストはぐっと拳を握り、自身の成長を自覚して勝利を噛み締めた!


 思えば、これまでの戦いは誰かと協力して得た勝利であった。

 無論、それも素晴らしい勝利ではあるのだが、自分だけの力で強敵に勝利したこの充実感は、また別格の思いが沸き上がる!

 今まで落ちこぼれと蔑まれ、それでも研鑽を続けてきた努力が報われた気がして、レイアストはその喜びを噛み締めていた。


「きゃあぁぁぁぁっ!」

 すると突然、悲痛な女性の叫び声が響き渡る!

 何事かとそちらの方へ目を向ければ、もう一人の魔族の戦士をモンドが打ち破る姿が視界に入った!


 見れば、彼女は纏っていた全身鎧を粉々に砕かれ、大剣をドロドロに溶かされているではないか!

 まるで、フォルアのように別属性の魔法を同時に放たれたかのようなやられっぷりに、当の魔族の女戦士ですら信じられないといった目で、失神するまでモンドを見上げていた!


「五行術式・相生連波(そうしょうれんぱ)……」

 そう小さく呟くモンドに、レイアストはキラキラとした瞳を向けながら駆け寄っていく!

 そのまま勢いよく少年を抱き締めると、興奮冷めやらぬ様子で捲し立てた!


「すごいよ、モンドくん!魔法防御の性能とか高そうな、あの鎧や武器を破壊するなんて……一体、どうやったの!?」

 愛しい少年が活躍したシーンを見逃してしまったレイアストは、せめてどんな技法を使って勝ったのかとモンドに迫る!

 そんな彼女と、間近で顔を突きつける形になったモンドは、顔を赤くしながらも説明をしてくれた。


「えっと……要するに、僕の使う五行術式の技を、相性が良くなる形で重ねていって威力を上げたんです」

「五行術式の重ねがけ……?」

「はい!最初に使ったのは、水気からで……」

 モンドの説明によれば、魔族の女戦士に水気で作り出した水の塊をぶつけ、動きを止めた所に水気を踏み台にして威力の上がる木気の雷を放ったという。

 それにより、魔族の鎧と武器にかなりのダメージが入った所へ、木気を糧として威力を増す火気の炎を叩き込んだというのだ!

 五行術式にいう、相生の流れを組み込んだこのコンボは、モンドの想定以上の効果を発揮し、魔族の上位戦士を見事に打倒したのであった!


「ふわぁ……すごいね」

 素直に感心したレイアストに、モンドも照れながらありがとうございますと返してくる。

 実際、かなりの技術やセンスが必要となるのだろうが、それを見事に使いこなしたモンドへ、レイアストは尊敬の眼差しを向けた。


「だけど……これもレイアさんがいたから……レイアさんを守りたいと思えたから、身に付けられたんです!」

 そう言って、モンドはレイアストの手を握り、鼻先が触れあうような距離で見つめ合う。

 互いの吐息がかかりそうなほど、間近で見つめ合い、ドキドキと胸が高鳴る胸の鼓動は早鐘のようだ。

 まるで絡み合った視線に、お互いが捕られてしまったように、身動きすらできなくなったレイアストとモンドの唇が近づいていき……。


「はい、そこまで!」

 突然、横合いから乱入してきたフォルアが、レイアストの身体をかっさらうようにして抱き寄せて、モンドから引き離す!


「おおお、お姉様!?」

 何かが成就しそうだった雰囲気を強引に破られ、挙動不審気味に驚くレイアストと、千載一遇のチャンスを台無しにされて呆然とするモンド!

 しかし、そんな二人の様子に構わず、フォルアは腕の中のレイアストへと喜びの感情をぶつけた!


「さすがワタクシの妹だわ、レイア!こんなに体術が向上しているなんて、お姉ちゃん感激!」

 スリスリと頬擦りしながら妹を誉めちぎる姉に、マストルアージはヤレヤレと呆れ、モンドは羨ましそうに少し頬を膨らませる。

 だが、フォルアの言動が「今度は魔力向上のために手取り足取り、くんずほぐれつ……」などと、徐々に怪しくなってきた上に、レイアストの身体をまさぐる指の動きも激しくなってくると、さすがに二人も強引に止めに入った!


「姉妹のスキンシップを邪魔しないで!」

「ちょいちょい欲情しながらじゃなきゃ、微笑ましく見てられるんだがな」

「レイアさんを、いやらしい目で見ないでください!」

「い、いやらしいとは失礼ね!ちょっとだけ、妹の成長具合を堪能してるだけよ!」

「それがいやらしいって言うんですよ!」

「み、皆!落ち着いて下さいぃぃっ!」

 先程までの緊張感はなんだったのかと言いたくなるほどに、わちゃわちゃし始めたレイアスト達を、魔族達が恐る恐る見据える。

 護衛の上位戦士も敗れ、ほぼ無傷で元気いっぱいな反逆者達に、彼等が勝てる未来など見えはしなかった。


「お、おい……お前らどうする?」

「な、なんだよ……ビビってんのか?」

「別に、ビビってねぇし!やるなら、やってやるし!……でも、一番槍はちょっと嫌かな……」

 ヒソヒソと話ながら、無駄に虚勢をはりつつも、なんとかこの場から逃れる(すべ)を探そうとする。

 そんな中、一人の魔族が仲間を鼓舞するために声をあげた!


「お前ら、落ち着け!もうすぐ、後ろの連中が駆けつけてくるだろ!」

「そ、そうだな!そうなれば、相手はたった四人……」

「逆転の目が見えてきた……」

 しかし、そんな彼等の希望を砕くように、後方から激しい戦闘の音が聞こえてくる!

 部隊の混乱っぷりを現すような怒号があちこちから響き渡り、それはこちらへの増援が期待できない事を知らしめるのに十分だった。

「ほ、他にも伏兵がいたっていうのか!?」

 動揺し、顔を見合わせた魔族達が、ひとつの結論に達した!


「……よし、逃げるぞ!」

「応っ!」

 どうしようもない劣勢だと認識した瞬間、魔族達は退却を選択する!

 それは闘争に長けた魔族故の、すばやい判断であった!


戦略的撤退(とんずら)ーっ!」

 掛け声と共に、物資や倒れた連中を残したまま、動ける魔族達は四方の森へと散っていく!

 レイアスト達はそれを追いかけようとしたが、マストルアージが制止をかけた!


「バラバラに逃げてった奴等を追って、こっちも分散するのは下手(げて)だ。何より、道を外れて境界領域の森に入るのは危険すぎる!」

 彼の言う通り、比較的安全なこのルートから外れれば、魔獣や邪人が跋扈する危険地帯が広がっている。

 そんな所にわざわざ入っていまで、逃げていった魔族を追うメリットはないだろう。


 なにより、彼女達の仕事はほぼ完了したと言っていい。

 後は、こちらに追い立てられて来るような魔族がいれば、それに対応するだけだ。


「よし、俺達はこっちにくる連中に備えて……」

 マストルアージが、そう指示を出そうとした、その時だった!


 突如、境界領域の奥から、ゾワリと肌が粟立つような凄まじい気配が立ち昇る!

 引き付けられるようにそちらの方向へ目を向ける四人は、はるか後方から突き付けられる背筋も凍るような恐るべき鬼気に、思わず言葉を失うのであった。

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