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11 五行闘士レイアスト

(ええっ!?)

 唐突に発生した、あまりにも強烈な閃光に、周囲の者はおろかレイアスト自身も驚きを隠せない!

 そんな、周りの目が眩んでいるのを確認したかのように、着ていた服が光の粒子となって消え去り、レイアストは一瞬にして全裸となった!


「!?!?」

 しかし、声にならない声をあげる少女が自らの体をなんとか隠そうとするよりも早く、その身に変化が現れる!


 魅惑的な身体のラインを強調するように、黒厳の光沢を持つ全身スーツが彼女の肌に張り付き覆い、深蒼の輝きを秘めた金属片が、急所や手足を守る装甲となって形成されていく!

 さらに、その上から纏うのは燃える朱炎の緋袴に、清楚な純雪のごとき白衣!

 そして、彼女の黒髪は豊穣の実りを象徴するような黄金色へと変わり、背中を覆い隠すほどに伸びると、狐の尾を思わせる縱ロールとなって九つに分かれ、優雅にたなびいた!

 最後に、顔の上半分を覆う白の狐面型バイザーが装着されて、クズノハとの『魂霊合身』を完成させたレイアストは我知らずポーズを決める!


「五行闘士レイアスト……見参!」


 自然と口から出たその名乗りは、予想外な変化を遂げた彼女に言葉を失くしていた全員の耳に、ハッキリと届いていた!


(……んんっ!こ、この姿はいったい!?)

 無我夢中だった『魂霊合身の儀』を成功させ、無事に転身したレイアストであったが、冷静になるにつれて現在の自分の格好に、言い様のない気分がジワジワと沸いてくる。

 普段の彼女とは、別人といっていいほどにかけ離れた外見……。

 身も蓋もない表現をさせてもらえば、退〇忍に巫女服を掛け合わせた、業の深いコスチューム!

 そこに、金髪縱ロールと狐面という、足し算のみで構築された強気すぎる姿は、本人のみならず見る者達を絶句させるに十分すぎるインパクトだった!


(ううっ……こ、こんな格好になるなんて……モンドくんからどう思われるか……)

 周りの反応を見るに、この変身を促した少年からもドン引きされているのではないのか?

 そんな思いを抱きつつ、レイアストは恐る恐るモンドの様子を窺った。

 しかし、彼女の視線の先にあったのは、今にも「ヤッター、格好いいー!」と叫びそうになるほど、歓喜の表情を浮かべる少年の姿!


 そのキラキラとした輝く瞳には、心の底からヒーローの姿を目の当たりにしたような、憧れの気持ちが現れている!

 まさか、そんな反応をされるとは思ってもいなかったレイアストの方が、若干及び腰になってしまうほど、モンドの眼差しは強力だった!


(正直、まだちょっと恥ずかしいけど……モンドくんには受けがいいみたいだから、まぁいいかぁっ!)

 多少の気恥ずかしさは残るものの、レイアストは結果オーライだと自分を納得させる事にした。

 しかし……。


(でも……なんだろう?変身したら、いつもよりモンドくんが素敵に見える……?)

 彼との視線が絡んでから、レイアストはそんな想いに囚われていた。

 確かに、彼に対しての恋心は自覚している。

 だが、今の彼女にはそれに輪をかけて、彼の存在が大切に思えるのだ。

 かわいい、好き、大切な人、守りたい、一緒になりたい……そんな本能レベルの庇護欲みたいな物に突き動かされるように、レイアストは迷いの無い足取りでモンドの元へと歩いていった。


「レ、レイアストさん……?」

「そんな他人行儀な呼び方じゃなくて、『レイア』って呼んで……」

「え?あっ……!」

 突然、愛称で呼んでほしいと懇願する彼女の姿に狼狽えつつ、モンドはクズノハとの『転身』の影響が出ているのではないかと即座に思い至る!

 しかし、格好いいコスチューム(モンド個人の感想)に身を包んだ憧れのお姉さんが、自分に魅惑的なお願いしてくるというシチュエーションは、少年から正常な判断力を奪おうとしていた!

 息も吹きかかるほどの至近距離から甘く囁かれ、硬直してしまったモンドは抱きしめようとするレイアストになす術なく捕獲されてしまう!


「うふふふ……モンドくん♥️」

「お、落ち着いてください、レイアストさん……ひゃうっ!」

「レ・イ・ア……だよ♥️」

「あんっ!み、耳はダメですぅ……!」

 『頬擦り』から『耳を甘噛み』へと繋げた連続攻撃に、モンドは真っ赤になりながら許しを乞う事しかできない!

 そして、そんな恥じらう少年の様子は、レイアストへのさらなる燃料となり……。


「俺を無視して、なにゴチャゴチャやってやがる!この落ちこぼれがあぁ!!」


 もっと追撃を加えようとしていたレイアストの背後から、アガルイアが突っ込んでくる!

 そして、完全に隙だらけだった彼女の後頭部めがけ、渾身の力を込めた拳を突き刺き立てた!


「っ!?」

 だが、確かな手応えを感じた瞬間、アガルイアは違和感を覚える!

 レイアストの後頭部を砕いたはずの拳は、なぜか彼女の右手一本で受け止められており、纏っていた雷さえも無効化されていた!

 一瞬、その事実が理解できなくて、アガルイアは呆けたような顔を見せたが、すぐにその表情は強ばっていく!


(ば、馬鹿なっ!)

 攻撃が止められた事よりも、止められた瞬間が認識(・・・・・・・・・・)できなかった事実(・・・・・・・・)が、一滴の恐怖となってアガルイアの心中に、ジワリと黒い染みを作った。


「……ああ、そういえば居ましたね、兄様」

 転身してからモンドへ向ける矢印が大きくなりすぎて、素でアガルイアの存在を忘れていたレイアストが、悪気なくすいませんと小さく頭を下げて返す。

 だが、彼女のそんな態度がアガルイアの逆鱗に触れた!


「お前ごときがぁ……!」

 出来損ないの妹から眼中になかったといった態度を取られ、沸き上がった怒りの感情が大き過ぎて言葉にならない!

 膨れあがったアガルイアの迫力と殺気は、先ほどまでとは比べ物にならないほどの放電現象となって、荒れ狂いだした!


(……おかしいな、アガルイア兄様がこんなにブチ切れているのに、なんだか全然冷静だわ?)

 しかし、それほどに激昂する兄を前にしても、レイアストの心は落ち着いている。

 もしも今までの彼女だったら、腰を抜かして失禁していてもおかしくはなかった状況だろうが、自分でも不思議になるほど恐怖を感じていなかった。


「死ね!」

 シンプルかつ、濃厚な殺気が乗ったアガルイアの攻撃!

 万雷の怒号を思わせる雷と拳が、豪雨となってレイアストに降り注ぐ!

 だが、転身したレイアストはそれらを優雅とも言える動きで捌き、受け流していった!


「な、なんだとぉぉっ!」

(見える……私にも、攻撃が見えるっ!)

 通常ならば、肉塊になっていてもおかしくないほどの連撃なのだが、「当たらなければどうという事はない」を実践するように、レイアストは弾雨の中をむしろ前進していく!


「くそっ……落ちこぼれがぁ!」

 自分の攻撃を潜り抜けて接近してくる、コスプレまがいの格好をした落ちこぼれの姿は、アガルイアの心に沸いた恐怖の染みをさらに大きく滲ませた!

 そんな動揺が一瞬の隙となり、それを見逃さなかったレイアストの反撃が、アガルイアの腹部に突き刺さる!


「がっ……はっ……!!」

「いけないわ、兄様……せっかくモンドくんと、イチャイチャできそうだったのに……」

 レイアストによる、独り言みたいな囁きがアガルイアの耳に届く。

 お前はいったい何を言っているんだと叫びたい所だったが、腹部にめり込んだ彼女の拳から受けたダメージが大きすぎて、呻き声のような物がかろうじて漏れるだけだ。

 一方、自身の内に燃える感情に身を任せたレイアストは、まるで祝詞のごとく言葉を紡ぐ。


 ──人の恋路を邪魔する者は、狐に蹴られて飛んで行け!


 その一言と共に跳びあがり、上空で身を翻したレイアストの金髪縦ロールが、大きく広がる!

 それは、そのまま尾を引く流星のような蹴りとなって、アガルイア目掛けて落下していった!


金気を以て(ゴルディオン)木気を制す(スマッシュ)!」


 五行における剋相、金剋木(きんこくもく)の法則にしたがい、白き金気を纏ったレイアストの蹴りが、木気に属する雷を蹴散らして突進していく!

 そして、驚愕とダメージで動けなくなっていたアガルイアを捉え、撃ち抜いた!


「…………っ!」

 まるで砲撃のような必殺の蹴りを受け、雷神とまで称された男は、悲鳴すらあげる事もできずに吹き飛ばされると、派手な音と共に激突した壁にクレーターのような衝撃痕を作りながら、ピクリとも動かなくなった!


 凄まじい攻防からの意外すぎる決着に、室内にはシン……とした沈黙が訪れる。

 そして、その沈黙を打ち破るような、マストルアージの声が響き渡った!


「敵将、『雷神』アガルイアは討ち取った!俺達の勝利だっ!」

 その声に、人間達からは歓声があがり、魔族達は戦意を失って膝から崩れ落ちる!

 魔王の罠を完全撃破し、勝利の祝う声が鳴り止まぬ中、レイアストとモンドも互いの無事を喜び、微笑み合っていた。


「すごいです、レイアストさん!まさか、ここまでの強さを発揮するなんて……本当に、想像以上ですよ!」

「ううん……モンドくんとクズノハちゃんの協力があってこそ、だよ」

「レイアストさんにそう言ってもらえると……嬉しいです」

 はにかむような少年の笑顔に、キュンとするトキメキを覚えたレイアストは、そっとモンドを抱き寄せる。


「レ、レイアストさん……?」

「んもう……レイアって呼んでって言ったよね?」

「え、あ……で、でも急に愛称で呼ぶのは……」

「呼んでくれなきゃ、罰を与えます!」

 そう言うが早いか、モンドを捕まえたレイアストは、彼の顔に自身の豊かな胸を押し付ける!

 ムニュッとした極上の柔らかさと、それでいて押し返すようなハリのある双丘の感触に、少年の顔はみるみる真っ赤に染まっていく!


「どうかな?ちゃんと、愛称で呼ぶ気になった?」

「わ、わ、わ、わかりましたっ!愛称で呼ばせてもらいますからっ!」

 狼狽えるモンドからの返答に、レイアストは満足げに頷いた。


「よろしい!では、ご褒美を与えましょう!」

「ええっ?」

 モンドの返事も待たずにそう宣言すると、レイアストはさらなる力を込めてモンドの顔面を胸の谷間へと導く!

 そうして、がっちりと捕らえた愛しい獲物の味見をするように、顔をあげた少年の額にキスをした!


「はうぁっ……!?」

「うふふ……♥️」

 ガチガチに強張っていた状態から一転、グニャリと弛緩して意識が朦朧とするほど茹であがった少年の反応に、レイアストは妖艶な笑みを浮かべる。


(ん……もうちょっといいよね……)

 もはや自分の方が辛抱堪らなくなったレイアストは、今度はモンドの唇へ狙いを定めるが……。

 時間切れを告げるように、彼女が纏っていたコスチュームが光となって弾けていく!

 そうして、瞬く間に元の格好に戻ったレイアストと、その頭に跨がるような格好になっていたクズノハは、呆けたようにキョトンとした後、一気に我に返った!

「…………っっ!」

 変身中の己の行動を反芻したレイアストは、声にならない声をあげながら即座にモンドを解放する!


(う、うわあぁぁぁっ!な、何をしていたの、私ぃ!)

 ウブな少年に胸を押し付けて誘惑した挙げ句、キスまで奪おうとした自身の行動に、レイアストは激しく動揺するのと同時に、顔から立ち上ぼる湯気で眼鏡が曇るほどの羞恥心に襲われる!

 地面を転がり、悶絶しながら訳のわからぬ悲鳴のようなものを駄々漏れにするレイアスト!

 そんな彼女を押し止めたのは、被害者であるはずのモンドだった!


「ぼ、僕は大丈夫ですから、まずは落ち着いてください!」

「だ、だけど私……モンドくんに……」

 キスしようとした……。

 そう言いかけて、再びレイアストは床を転がる悶絶一人地獄車の状態に陥りそうになる!

 しかし、そんな彼女を説得するべく、モンドは声をかけ続けた!


「あ、あの行動は、多分合体していたクズノハの影響もあるんです!」

「クズノハちゃんの……?」

「ええ、一族の守護狐で子孫繁栄を願……と、とにかく、クズノハの本能が強く影響を与えて、あんな感じになってしまったんですよ!」

 いわば、『魂霊合身』の副作用だとモンドは説明するが、レイアスト自身ああいう事がしたい(・・・・・・・・・)という願望が無かったといえば嘘になる。

 そんな自分の欲望を、クズノハが汲んでくれたのではないかという考えが捨てきれず、素直にモンドの言葉を受け入れる事ができなかった。


 とはいえ、ここでレイアストが「いいえ、あれは私の願望です!」などと言い張っても話しは進まない。

 少年に淫らな行動をしてしまった反省を心に刻みつつ、レイアストはモンドの説得を受け入れる事にした。


「わかったよ、モンドくん……。今後は、私も衝動に流されないよう、気を付けるね」

「はい。ところで……その……」

 落ち着いてくれたレイアストに安心しながらも、モンドはどこかソワソワしながら何かを言いかける。

 そんな彼に小首を傾げながら、どうしたの?と問い返すと、キュッと表情を強張らせて少年は口を開いた。


「こ、これからも……『レイアさん』……と、呼んでいいでしょうか……?」

 頬を赤く染めながら、愛称で呼ぶ許可を求めるモンドの姿に、レイアストも自分の顔が熱くなっていくのを感じる。

「は、はいっ!そ、それでよろしいと思い……ます……」

「じゃ、じゃあ……それで……」

 コクンと頷き合い、改めてモンドとレイアストは、お互いに見つめながらぎこちなく笑い合う。


「これからも……よろしくお願いします、レイアさん」

「こちらこそ……モンドくん」

 不器用な若者達のやり取りに、なぜか周りの大人達は「やれやれだぜ……」といったいい笑顔を浮かべ、後方理解者面をしながら二人を見守るのだった。

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