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#45

「……うう、ここ、は」


「目を覚ましたか」


 ほどなくして、小夜さんが目を覚ます。とはいえ、まだ体力も魔力も十分とはいえない様相ではあるが。


「動けそうか?」


「なんとか。でも、私は腕がなくなっちゃったから、武器も握れないただのお荷物で――っ!?」


 身体を起こそうと、いつもの癖で地面についた腕をみて、腕をつけているという事実に対して、彼女は驚く。

 ひとまず、地面に座ってから。自身の腕がそこにあることを再度確かめて、まるで夢でも見ているかのように唖然とする。


「だって、私の腕。魔物に食べられて……」


「ああ、それは間違いない。だが、そこにいる千癒さんが治してくれた。感謝なら、彼女に」


 俺がそう紹介すると、小夜さんは少し控えめな態度で千癒さんに「……あ、りがとうございます」と、感謝を述べる。


「月村様からの頼みでしたし、小夜様はお嬢様のご学友の御方ですから。私のやれることを尽くしたまでです」


 事務的に、いつも様相でそう告げた千癒さん。しかし、彼女はその言葉に「それから」と。


「小夜様のことを大急ぎで連れてきてくださったのは、月村様でございます」


「……その、ありがとう」


 やや複雑な面持ちで、小夜さんが俺にも感謝を伝えてくる。


「別に俺は彼女を抱えて走ってきただけだし、原因となったフェンリルをどうにかしたわけではないから、大したことはしてないんだが」


「でも、月村様が私のもとに連れて来てくださらなければ、間に合わなかったのも事実ですから」


「まあ、それもそう、か?」


 そんなことを俺と千癒さんとが話していたその傍らで、小夜さんが少し考え込んで。


「フェンリル……ああ、そうだ! あのときの魔物は!?」


 彼女にとっては痛ましい記憶ではある一方で、無視はできない存在。


「その魔物――フェンリルなら、今は海未が対処に向かっている」


「そう。それなら――って、海未って、あの!?」


「はい、そうですわ! 本日は偶然、私と一緒にダンジョンにいらしていまして」


 本当に偶然なのだから、末恐ろしい話ではあるが。しかし、それで小夜さんが助かる目が生まれたのも事実。

 見た感じだと、あのフェンリルもただのフェンリルというわけではなさそうだったが、とはいえフェンリル種のなかでもせいぜい中位に届くかどうかという程度。それでも、討伐指定としてはギリギリA級に乗ってくるくらいだろうが。

 まあ、いちおう海未にはすれ違いざまに支援バフは渡してきているし、そうでなくとも彼女ならばフェンリル程度に遅れをとることはないだろう。


「まあ、フェンリルに対しては海未が向かってくれているが、イレギュラーな魔物が出現したこともあってか、それに触発されて周りの魔物も嫌に活発になっている」


 海未が即座にフェンリルの応対に向かってくれたこともあり、現状では大侵攻スタンピードとはまではなっていないものの、その前兆は発生しつつある。

 加えて、小夜さんも怪我や腕こそなんとかできたものの、体力や魔力は低下している状態なことに変わりはない。いずれにせよ、このまま滞在するのは危険である。


「ひとまず、ダンジョンから退却をするつもりだが――」


「大丈夫。歩くくらいなら、できる」


 立ち上がろうとする彼女に手を差し伸べてみたが、大丈夫、と断られてしまう。……やはり、随分と気にしているようだな。


「それじゃあ、行こうか。鈴音と千癒さんも、十分に警戒を」






     * * *






 守られている、というのがよくわかる。

 当然といえば当然だろう。怪我人――では、ないけれども、万全の状態ではないのだから。


 けれども、それが今は、痛い。物理的にではなく、精神的に。


 あれだけ斜に構えたような態度を取り、ひとりでも問題ないとのたまい。その結果が、大怪我をしたところを救助され、治療を施してもらい、護衛されながら脱出を目指している。

 本当に、ただただ阿呆なだけである。


 ああ、だからこそ。嫌なんだ。仲間がいたって、邪魔になるだけなんだ。

 今回だって、そうだ。


 自身の力の無さが悔しい。


「そういえば、小夜さん」


「……小夜でいい」


 ゲートに向けて移動している最中。月村……さんに声をかけられて。私はそう返した。私に対して敬称をつけられる理由もないし、逆に、私が彼に対してつけない理由がない。


「じゃあ、小夜。少し、聞きたいことがあるんだから、いいか?」


「私が理解してる範囲にはなるけど」


 だいたいの、察しはついている。


「今回のこと――突然にフェンリルが出現したことについて。小夜はなにも知らないってことでいいんだな」


「うん。……私も、あんなことになるなんて知らなかった」


 というか、あんなことになるということ知っていたら、最初から受けていない。……なんて、そんな後悔を語ったところで後の祭りではあるんだけど。

 私が受けた依頼はなにやら調査のために必要になる装置をダンジョンの中に設置してきてほしい、というもの。


「で、依頼自体も協会を通していない、非正規のものだな」


「……うん」


 説教をされている気持ちになってくる。……いや、事実ある種の説教ではあるんだろうけど。

 とはいえ、協会を通していない依頼に危険なものや違法なものが多いのも事実だし。今回のものも、そのひとつだったので、ただただ私が間抜けだったという話である。

 好条件な報酬も、自分自身で装置を置きに行かなかった理由も。言ってしまえばそこに尽きる、という話なんだろう。設置者が死にかねないほどの危険を伴っているわけだし、死んでしまえば、報酬なんて払う必要性もなくなる。一部先払いで貰っていたが、それでも微々たる損失だろう。

 当然、そんな危険な装置の設置を協会を通して依頼できるわけもなく――というか、依頼しようとした時点で、装置の説明ができなくて依頼が通らないか、下手をすれば捕まる。


「わかった。ひとまず、小夜が今回の件に、関わってないってことだな。……ひとつ、安心した」


「なんで、安心? というか、信じてくれるんだ」


 もちろん、事実しか話してはいないんだけども。その一方で口だけならどれだけでも嘘をつける。

 それに、関わっていない、ということもない。結局、装置を運んで、設置しようとした、というのは私なわけで。


「もちろん、今回起こった事態については無視はできないけど。でも、少なくとも首謀していたわけじゃない。それがわかっただけでも良かった、ってことだ。だって、小夜は鈴音の友人だろ?」


「別に、友達じゃ――」


「はい! 私と小夜さんはお友達ですわ!」


 鈴音が、元気よくそう割り込んでくる。……本当に、コイツは。


「しかし、そうなってくると依頼してきたやつが誰なのか、ということは追えないだろうな。元より報酬を払う気もなかっただろうし」


「いちおう、私に接触してきた人のことなら伝えられるけど」


「……馬鹿な手合ならともかく、この手のやつらなら、接触用の人物かおを用意してる可能性もあるしな」


 まさしく、そのとおりではあると思う。今回の話を持ちかけてきた人も、話の内容こそ、どこか胡散臭い感じはしていたけれど、見目や印象はどこにでもいそうな――それこそ好印象といっていい感じではあった。

 それでいて、毎回同じ人物を使うとも限らない。足取りに繋がる要素は可能な限り断ち切るだろう。


「でも、どうしてこんなことをしたんでしょうか」


 前方の魔物を掃滅た鈴音が、戻ってきながらにそんなことをつぶやく。


「わざわざ強い魔物を呼び出す? 生み出す? なんて、危険なだけではありませんか?」


「いや、そうでもない。たしかに危険ではあるんだが、悪用のやり方ならいくらでもある」


 純粋な鈴音だからこそ、そういった使途には発想が行きにくいんだろうけど。それこそ、今回私が被害を受けたやり方なんかは、その際たる例ではあるだろう。害したい相手に対して、意図的に強い魔物をけしかける。

 それも、やり方次第ではトレインのように周りから目立つやり方もしなくていいし、不意打ちも視野に入る。殊更厄介だ。


「それから――」


 言葉を続けようとした月村さん。しかし、その言葉が中断されると当時に、三人はなにかに気づいたかのようか反応を見せ、纏う空気感を変え。鈴音が「私が行ってまいります」と、そう言って駆け出す。

 その言動の意図は、そう時間も立たないうちに理解する。前方にゴブリンの群れが出現したのだ、


 そのまま彼女は行く手を阻む魔物たちを掃滅すると、笑顔を携えながらに帰ってくる。


 ――鈴音は、強い。もちろん、その強さの一端として、持っている武器が強い、なんかの事情もあるだろう。

 けれど、それだけじゃない。これまでも、そして、今も。彼女の戦い方を、その強さを。まざまざと見せつけられてきたから、嫌でも理解している。

 そして、教室で、津々見と笹良が伝えていた言葉を思い出す。それが、なおのこと。私のことを縛り付ける。


 そんな彼女すずねに、守られている自分という。その、情けなさに。


 ……もちろん、自分の今の状況は理解している。

 けれども、私が騙されなければ。あるいは、騙された上でもなお、強ければ。こんなことには、ならなかった。守られることには。


 私が、強ければ。もっと、強ければ。


 ――鈴音よりも、強ければ。


 それが、嫉妬であるということに気づいたのは。感情を抱いてから。抱いて、しまってから。

 抑えこもうとしたその感情は、しかし、あらゆるものを圧し除けるようにして、膨れ上がってきて。


 否。――これは、ほんとうにただの、嫉妬なのだろうか。

 もちろん、嫉妬も含まれている。だけれども、そうじゃないなにか、別のものが。

 文字通り、私でないなにかが、私自身を圧し潰し、奪い取ろうとしているような。


「ぐっ……」


「小夜!」


「小夜さんっ!」


 思い通りに身体が動かずに膝をつく私に、月村さんと鈴音が駆け寄ってくる。

 千癒さんも、こちらのことを心配しつつ、警戒をしてくれている。


「……なんだ、この異様な魔力の流れ」


 月村さんの声が、聞こえてくる。けれど、それも段々と遠ざかっていくような感じがして。

 すぐそばに、いるはずなのに。


「小夜! あの装置以外で、依頼をしてきたやつらから渡されたものを言うんだ!」


「渡された……もの……」


 薄れていく意識の中で。しかし、月村さんからのその質問をなんとか考える。

 しかし、思い当たらない。依頼の中身は、あの装置を運んでくれ、というもの。

 それ以外のものなんて、渡されて――、


「いや。そう、いえば……」


 依頼の内容には、関わらないものだけれども。

 渡された、かどうかは少しだけ微妙だけれども。


「依頼の、報酬として。……先払い、で。私が強くなれるように、って」


 嫌な、動機だった。

 けれども、それが、嫌に魅力的に見えてしまって。

 手を、伸ばして。


「私の身体に、()()、魔石を取り込んで――」


 ――この魔石を体内に直接取り込めば、今までの魔力吸収とは比にならないぐらいに強くなれますよ。


 優しく語りかけてくる、女性の声が。

 悪魔の囁きが、今になって思い起こされる。


 内側から、力が湧き上がってくる。嫉妬に、誘発されるようにして。


 だめだ、と。そう思っても。押し留めるだけの力が、私に残っていない。


 ぼやけてくる視界、追い出されようとする意識。

 その中で、なんとか、彼女を捉えながら。


「すず、ね。だめ、にげ――」


 膨らんだ力が爆ぜるのと、ほぼ同時。私の意識が途切れた。

Tips:小夜 陽鞠

 仲間がいると、邪魔になると思っている。

 強く、なりたかった。

 せめて、誰かの――をしないように。




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