58.苦渋の決断(自尊心的に)
とんでもない犯罪(爆)が明らかとなり、項垂れる主従。
あはは…これ、この国の世継の君なんですぜ?
「悔い改めよ…、私」
自戒の念に、オーレリアスさんが神を信仰し始めました。
手を組み、祈りを捧げる相手は誰ですか?
「盗人の神、か…?」
「あれ、ここで意外なチョイス!?」
オーレリアスさんなら、絶対にけもけも系を指定すると思ったのに。
「普段なら、違う神を信奉する。でも今は…正直、問題が大きくなるのが怖すぎて。
そう、ついつい隠蔽を望んでしまうのも仕方が無いだろう…きっと」
「ああ、だから盗人の神…犯罪の露呈を恐れている、と」
オーレリアスさんの顔は、憔悴しきっていました。
数々の苦難と問題に頭を痛める快男児、勇者様はいかがでしょう?
「………」
勇者様も、苦しそうなお顔です。
一縷の望みをかけられてか、サルファに向けられる、その瞳。
四年前の経緯を全て知っているのでしょう、サルファ。
「ちなみに、獣が消えて国王の反応は……」
「あっはっは…草の根分けても探すって!」
あ、主従が潰れた。
勇者様が膝を突くのは、見慣れた光景(笑)
ですが、オーレリアスさんという追加オプションが付くと珍しく感じます。
いえ、主犯はオーレリアスさんなんですが。
しかしオーレリアスさんの主は勇者様なので、これぞ連帯責任。
責任追及されたら、国際問題になりますね☆
…うん、勇者様がんばれ。
「四年かけて追及の手が伸びてないってことは、このまま黙ってりゃばれないと思うけど」
サルファが言うと、そろりと頭を上げる主従。
輝かんばかりに晴れやかな笑顔で、サルファが言いました。
「黙ってて、ほ・し・い…?」
「殴りたい」
「なんで!?」
基本誰にでも人当たりが良いけど、サルファには勇者様も扱いが雑ですよね。
勇者様の変化球に、サルファがちょっと身を引いて。
そしたらぐいっと身を乗り出した白虎に、サルファが押し倒されて。
そのまま圧し掛かる、二頭の獣。
サルファ、おぶおぶ。
「ちょ、ちょっとー? ファティマぁ重い!」
「がう!」
「元気なお返事結構だけど、どーいーて~!?」
じゃれ合う二頭と一人。
そんな様子を暫し、眺めて。
うんと頷き、オーレリアスさんが動きました。
そして気付いてみれば、サルファが縛りあげられております。
「何この展開!? 俺、縛られるなら若いお兄さんからじゃなくって、若くて危ないお姉さんからが良い…! 気が強くて色っぽいお姉様なら言うことなし!!」
「まだ余裕があるようで」
更にするするすると縄を通していくオーレリアスさん。
吊る気ですか? 吊る気なんですね?
そして吊られたサルファ。
ある意味これも、馴染みの光景。
「何か立場、逆じゃない!? 俺の有利性、いつのまに消えちゃった!?」
「全身縛られた状態で、大通りで我が家の羊に足の裏を舐められたくなければ(羞恥刑)……是非、黙っていてほしいものです」
サルファの疑問も、黙殺して。
何故かいつの間にか、脅される立場が反転しておりました。
思わぬ展開に、サルファもあたふた。
それでも諦めることなく、奴が交渉の為に切ったカードは。
「ところでオーリィの存在がばれたら、うちの王様が喉から腕を生やすほど欲しがると思うんだけどな☆ うん、垂涎」
「「……………」」
あ、うん。
私はその王様を知りませんけれど。
それでも話に聞くだけでも、わかるモノがあります。
うん、サルファが言った光景が…ね。
何故でしょう。
物凄い現実感を伴って、はっきりと想像できました。
「下手したら今回の失態を口実に、うちの王様に捕獲されちゃうよ☆
………んで、そのまま強引に王様の道楽専用の手下として仕官…と」
「嫌ですよ。なんだ、その未来」
「つっても、オーリィに非があるんだしさぁ。要求されたら突っ撥ねられないんじゃね?」
「……………」
黙り込むのは、認めているようなものですよ。オーレリアスさん!
「だ・か・ら、そうならない為にも! 人間の口って重くするためには見返り必要じゃん☆
………俺の要求、わかるよね?」
この瞬間。
勇者様とオーレリアスさんの主従が軽薄軽業師に屈する未来が確定致しました。
「無茶な願いは聞き入れられない」
「大丈夫じょーぶ! 俺だって無理と無茶の判別くらい出来るって! 分別できる子よ、俺。
差し当たっては、迫る俺の危機回避に協力してよ☆」
「願いを聞くのは、一度きり。これっきりだ」
「いや、そこは二度で。二頭いるし、一頭につきお願い一つ。OK?」
「くっ………」
なまじ、サルファの素情は知れた後。
このまま無かったことにもできません。
これでサルファがただの根無し草なら、マルエル婆に押し付けて解き放たないとか、監禁して一生出さないとか、いっそのこと手っ取り早く亡き者にするとか、様々手法はあるのでしょうが…
このまま消息不明にしてしまえば、サルファの身分上、奴の実家から追及されることが分かっているだけに、二の足を踏みますね。
「リアンカちゃん、怖いって怖い! 考えてること、口から駄々漏れてるから!!」
「知ってますけど?」
「わざとかよー! 敢えて駄々漏れとか性質悪っ!?」
「ああ、完璧な人間の痕跡抹消術ってないのかなぁ…」
「俺、消されちゃう!?」
「跡形もなく痕跡を消すなら、炎による浄化が一番ですの!」
「お姫さんまで物騒なことを!? それ、絶対に分かって言ってないよね!?」
きょとんとした顔で首を傾げる、せっちゃん。
うん、可愛いですね。
「お掃除の話じゃありませんの?」
「ある意味、お掃除の話で合ってるよ☆ せっちゃん!」
「せっちゃんもお手伝いいたしますの!」
「うぅ~ん…せっちゃんの手を汚すのはちょっと……」
「せっちゃん、お邪魔ですの…?」
「大丈夫、私も直接手は下さないから!」
「誰にさせる気なの、リアンカちゃん!?」
半分焦ったような困り顔の、サルファ。
さてさて、奴の要求に偶には答えましょうか。
私は誰にさせる気かという質問に、首を巡らせ一人の名を呼びました。
「まぁちゃん」
「任せろ」
「………俺、終わった」
まぁの旦那からは逃げられねぇ…そう呟いて項垂れる、サルファ。
うん、私のお友達(勇者様)を虐めた報復はきっちりやらないといけませんね。
自分のことはきっちり棚上げしますけど。
サルファの分際で勇者様を振り回すのは、なんだかちょっと苛々したので報復です。
勇者様をおろおろさせるのは、誰より私の専売特許です。
生半可な相手に、その権利を分けてやるつもりはありません!
実際に始末するほど忌々しく思っている訳じゃありませんし。
ちょっとしたお仕置きくらいで済ませますから。
そのくらいやってもらっちゃっても、良いでしょう?
その日、午後の麗かな昼下がり。
オーレリアスさんのお屋敷に、一つの巨大な照々坊主。
その末路は、誰もが黙して語りませんでした。
彼が何をされたかは……居合わせた人々の、一生の秘密です。
まあ、死んでませんけど。
勇者様は結局、サルファに何を要求されたのでしょうか?
奴の要求は、危機回避。
危機とはフィーお兄さんの要求。
即ち午前奉納試合の出場、及び順調に勝ち進むこと。
その過程でフィーお兄さんとの対戦とあいなった時は、それを打ち倒すこと。
それに対して勇者様は、
「神に奉納する試合だ。不正は認められない」
…とのこと。
断固とした姿勢で、これだけは譲らないと全身で言っています。
対して、サルファは笑顔で言いました。
「認められない範囲の不正じゃなきゃ、良いんだよね☆」
「おい、誰か此奴を殴ってみないか? 具体的に言うとまぁ殿かロロイとか」
「勇者様本人がやっちゃ駄目なの?」
「一応、脅された立場なので。俺は自粛するべきだろう」
むっとした顔で、そう言いますけどね?
さりげなく、勇者様の手が握り拳を作っています。
…あとちょっと唆せば、自分で殴りそうですね。
そんな勇者様の様子に呆れてか、まぁちゃんも口を挟みます。
「それで具体的に、何してほしーんだよ?」
まぁちゃんの言葉に、びくっと肩を震わすサルファ。
さっきのお仕置きが、ちょっと効いてるみたいです。
うあー…と呻きながら、割合素直にサルファが『提案』を口にしました。
「と、トーナメントの組み合わせ操作と若干のルール変更を…」
そうしてサルファが口にした内容は。
「……………わかった」
幾許かの吟味の時間の末、勇者様に受理されて。
ここに後ろ汚く黒い取引は成立。
清廉潔白な勇者様は、どうしようもなく嫌そうな顔をされていましたけれど。
サルファの言った内容は、かろうじて許容範囲だったようで。
不服そうにしながらも、勇者様が頷いたので。
幾らかの交渉の末、サルファの願いは聞き入れられたのでした。
勇者様
「くっ………! サルファに屈することになるなんて!」
サルファ
「勇者のにーさん、なんか酷いこと言ってない!?」
勇者様
「黙れ、脅迫なんて卑劣な手段に走るなんて言語道断!」
サルファ
「それ、リアンカちゃんに言ってやったらー?」
勇者様
「リアンカにそんな酷いことが言えるわけないだろう」
サルファ
「この人、真顔だよ!」
次回から、城下町お忍び探検編に入ります☆
さてさて、気になる勇者様のお衣装は…!?




