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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ、薬草園へ行こう!
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51.辛い薬草、踊る薬草

さてさて、駄竜vs勇者様・ロロイ・サルファの勝負の行方は…?


※流血注意(笑)

 怒り、猛り狂う真竜。

 立ち向かう、勇者様と竜の子と軽業師。

 右往左往する薬師達。

 そして見物する私とまぁちゃん。

 騒ぎを聞きつけたらしいせっちゃんとリリフもやって来ました。

 …やって来て、叔父の醜態を見つけてリリが項垂れていました。

「情けない…情けありません、駄目叔父が……」

「いっそ引導渡しちゃう?」

「………そうですね。この遠い異国の空の下」

 ここで殺っちまえば、罪も証拠も残らないかもと本気で検討し始めたリリフ。

 我らが妹分ながら、中々に物騒です。

「ですが私と叔父では、戦うにも相性が良くありません」

「そうなの? 若さで押し切っちゃう勢いがあると思うんだけど」

「私と叔父は、同じ光竜ですから」

 光の属性が強い者同士。

 だからこそ最大の威力を持つ攻撃も、互いに光属性。

 それはつまり光の耐性も強い者同士。

 なればどういうことかといえば、互いに互いの攻撃を相殺してしまうということ。

「そうなれば、後は単純な心・技・体……私よりも体格に勝り、経験に長け、単純な直接戦闘技術に秀でているのはどう考えても叔父の方です。私はまだ子供ですし、叔父はあれでも百年以上生きていますから」

 真竜王の血筋に生まれて、恵まれた強い属性攻撃を持つリリフ。

 でもその強みを省いてしまえば、文字通り大人と子供の戦いにしかならないとのこと。

 以前は複数総掛りだったし、元々ロロイの加勢を当てにしていたみたい。

「それ以前に、そもそも不意を突いて闇討ちするつもりでした」

「今はもう既に最初っから暴れていて、不意を打つどころじゃないもんね」

「ええ、入念な準備なしにとなると、ちょっと……

あの時は主様の奪還が最優先で、命までは狙っていませんでしたし」

「あ、そうなんだ? でも今、ほら、勇者様やロロイも頑張ってるし討ち取り時かもよ?」

「いえ。今は主様が隣にいます。叔父が変な方向に暴走しないか、心配だし。

私は叔父の執念が此方に向かないよう、睨みを利かせていようと思います」

 そう言って、ぎゅっとせっちゃんの手を握るリリフ。

 まるで母親を独り占めしたがる子供のような仕草。

 手を握られたせっちゃんは柔らかく微笑んで、リリの手を握り返しています。

 自分と同じくらいの背丈まで成長したリリフの頭をゆっくり撫で撫で。

「リリちゃん、可愛いですの」

「からかわないで下さいませ、主様」

「うふふ! こんな可愛いリリちゃん、せっちゃんが独り占めですのね」

「せっちゃーん、独占禁止法ー!」

「姉様にもロロちゃんがいますもの。だからせっちゃんにはリリちゃん。ね?」

「主様………ご安心下さい、主様のことは何者にも渡しませんから!」

 この瞬間、私は悟りました。

 将来的にせっちゃんを嫁にと願う人が倒すべき障害が、また一つ増えたことを………

「まぁちゃんに先代魔王夫妻、それから真竜姫か………」

「分厚い包囲網で結構じゃねーか」

「挑んだ人は死んじゃうんじゃないかな?」

 真面目にそう思いました。



 私がのんびり、むぅちゃんと二人でその辺に生えている薬草を吟味している間。

 戦いは新たな局面を見せようとしていました。

 

 竜を嬲る主戦力は、勇者様とロロイ。

 ロロイは水の竜です。

 光の竜との相性は微妙なところらしいですが、それを感じさせないロロイの動き。

 それでも巧みな戦い方に、真竜王家の才能を見ました。

 光を帯びた攻撃は水の膜を張って拡散し、または跳ね返す。

 人型の小回りの良さという利点を使い、懐に潜り込む。

 己の爪で傷つけることもあれば、水竜故の属性攻撃を仕掛けることもあり。

 空気中から生み出した大きな水の塊を、刃のように変質させて切り裂く姿は壮観です。

 背中の翼を使って自由に空を飛べる点で、勇者様よりも多面的な戦い方をします。

 勇者様も素早い方です。

 竜の巨体の上を飛び回る様に駆け抜ける二人。

 彼らは互いに一定の距離を取っていて、お互いをナシェレットさんに対する囮にしながら、自らも攪乱するように戦っています。


 この時点で、目立って戦っているのは勇者様とロロイの二人だけでした。


 サルファはどうしたの?


 首を傾げてよく見ます。

 全体的に見ます。

 サルファ、どこ?

 

 飛び回る二人の動きが目を引くので、ついつい見てしまいます。

 彼らが何かをする度に視線がそっちに行ってしまうので、探しづらい。

 それでも何とかサルファの姿を目で探してみると…

「あ、いたいた」

「え? どこ?」

「俺が最初に投げつけたとこ、額から動いてねーや」

「なんと」

 まぁちゃんが見つけてくれました。

 指し示す場所を見れば…そこには確かに、サルファ。

 しかし彼はまぁちゃんに竜の額まで投げつけられて、そこから動いていませんでした。

 ナシェレットさんの頭部から突き出た角のところ。

 どこに隠し持っていたのかは知りませんが、サルファの腰に…あれ、鎖ですかね?

 サルファの身体と角が鎖で結ばれ固定されているのが見えました。

 鬱陶しげに忌々しげにナシェレットさんが時折攻撃を繰り出しますが…

 その度、竜の角に隠れたり竜の角を盾にしたり。

 なんともまあ、巧みに攻撃を避けています。

 ナシェレットさんとしても、己の身体に張り付いているので攻撃しにくいようです。

 だからといって丁寧に攻撃へと専念するには、勇者様とロロイが煩わしいのでしょう。

 中々サルファを叩き落とすことができず、大きな攻撃は自分の頭部も漏れなく巻き添えなのですることができず。

 結果として、サルファは仕方なしに放置されている状況に近くなっていました。

 その辺を計算しているんなら、上手いですね、彼奴。

 更にその状態から、ちまちま何かをしています。

「命綱までつけて…何やってるのかな、サルファ」

「良く見ろ。あいつ、駄竜の額の傷が塞がらないように抉ってやがる」

「エグイね」

「あーあ、全身血塗れだぞ。彼奴」

「あー………それはまずいね」

 サルファさんったら、地道に努力中。

 なんとも地味な戦い…ですが、効果は意外に大きいようです。

 勇者様が最初に傷つけた額には、斜めに大きな傷が走っています。

 現在、竜の全身を走る傷の中でも一際大きな傷と言えるでしょう。

 それでも竜の回復力では、すぐに塞がってしまう傷ですが。

 その大きな傷口が塞がってしまわないよう、万遍無くサルファが塞がろうとする端から傷口を抉じ開けています。

 お陰で吹き出す赤い噴水で、全身血塗れですが。

 ああやって傷が塞がらず、血が流れ続けることで体力が余計に消耗します。

 一定量の血を失えば、貧血となって戦闘不能になるでしょう。

 その辺りの判断をつけたのは、姑息というべきか利巧というべきか。

「姑息でいいだろ」

「うん、姑息だね」

 私とまぁちゃん、共通の見解です。


 しかし、竜の生き血………

 高位の竜種には、生き血に高すぎる薬効があります。

 竜の種類によっても様々ですが、大概その強大すぎる力に見合ったとんでもないもので。

 高位の竜の中でも上級とされる竜種には、生き血に不老長寿効果があるんですが…

 奴はそれを知っているんでしょうか?

 マルエル婆が永遠の若さを手に入れた秘訣も、竜の血なんですけど。

 マルエル婆から聞かなかったのかな?

 あと、あれだけ浴びたら肉体が変質しそうなんですけど…。

 具体的に言うと、不死身になると思うんですが。

 細かく言うと、防刃・防毒・防熱・防冷・防魔・防呪・防…えーと、後なんだっけ。

 とにかく、色々な効果が肉体に付属してしまいます。

 うん、普通に人間じゃありませんね。

 あれでもナシェレットさんは竜種の頂点真竜に名を連ねています。

 ですから、その効果は折り紙つきです。

 今こうしている間にも、サルファの身体は人外への道を歩んでいる訳ですが。

「いいのかなー…」

「言わなきゃ十年くらいは気付かないんじゃねーか?」

「いやいや、気付くでしょ。普通に体が刃を通さなくなるし」

「ああ、じゃ気付くな」

「面倒なことにならないかな」

「なったら面倒だな」

 今となってはもう遅いので。

 私達は何をするでもなくサルファを見守ってしまいました。


 とりあえず数十分後、貧血でナシェレットさんが倒れましたが。

 その際にサルファに詰め寄り、血を呑んだかどうか問い詰めたことは言うまでもありません。


「え? 血? ちょっと口に入ったよー」

「呑んだの?」

「気持ち悪いから吐き出したに決まってんじゃん」

「そう言いつつ、うっかり間違えて呑んでたりとかは?」

「いやいや彼奴の血、なんでかえらく熱湯みたいな熱さだったし。

その時点で思わず吐いたって。口火傷するかと思ったし! ていうか、絶対したね!」

 そう言って、奴は私にしなだれかかって来ました。

 いつもより幾分甘い声で、耳元に囁いてきます。

「リアンカちゃ~ん…口の中、火傷しちゃったよー。俺、頑張ったし?


  ね、治療して…? 」


 そう言って頬を擦り寄せてきます。

 うん、馴れ馴れしい。

 まぁちゃんが何かしようとしましたが、それよりも早く。

 私はサルファの顔面を鷲掴みにしてやりました。

 一瞬舌を掴みだしてやろうかと思いました。

 本当に酷い火傷を負っていたら流石に哀れなので、やりませんけれど!

 至近距離ではありますが、しっかりとサルファと目を合わせて微笑んでやります。


「舌切り取って、今後一切火傷しないように別の生き物の舌と交換してあげましょうか?

熱に強いサラマンダーの舌とかと」


「それ、舌の持ってる熱で口の中が大惨事になっちゃうじゃん!」

 ぎゃいぎゃい騒ぐサルファに、変わった様子は見られません。

 ひょいっと肩を竦めて、まぁちゃんが呆れの表情を浮かべます。

「気配に変わったところはねぇし…口に含んだにしろ、すぐに吐いたんだろ?

ちょっと残ってたとしたって、そのくらいの量だったら問題ねーだろ」

「そうだね。ちょっとだけなら病気にかかりにくくなるとか、そのくらいかな?」

「そんなもんだろ」

 肉体面の強度がどのように変わったのか、今後調べてみないと分かりませんが。

 本質的な部分の変容は避けられた…と思います。

 少なくとも、不老長寿は免れたようですね。運の良い奴です。

 でもあれだけ生き血を浴びて、その効果をなかったことにはできないでしょう。

 血を呑まなくても、血を浴びた体が変化しているはず。

 

 ………なのですが、どうしてでしょうか。

 こうも、深刻になりきれないのは。


「リアンカちゃーん、もうちょっとさぁ、頑張ったご褒美的な何かがあってもいいじゃーん!」


「………うん、サルファだし」

「ああ、サルファだしな」

 

 サルファの軽さを見ていると、なんだかどうでも良くなりました。

 奴の身体が鋼ぶりを発揮しても、何も変わらないんじゃないでしょうか…

 うん。問題ないんじゃないかと錯覚してしまいます。

 いや、錯覚じゃなくて本当に問題ないのでは…?

 体がちょっと人外並に頑丈になっただけです。

 サルファはサルファで、変わらない。 ←良い意味とは限らない。

 奴は良くも悪くも、奴のまま変わりませんね。

 こうして、奴の身体の変容は大したことじゃないと打ち捨てられました。

 後に自分の体の異常に気付いたサルファが私に泣きついてくることになりますが…

 それはまた、後日のことでした。




ロロイの付けた傷は既にふさがりました。

勇者様の額につけた傷のみ、サルファがえぐり続けているので治らない&ダメージが重なり続けている状態です。

 →結果、額の怪我が一番酷いことに!

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