表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/182

33.さらに変☆身!?

というか、変身の予兆。

 男性はパートナーがどうしても必要という訳ではないそうですが。

 けれど一人で出歩くことは褒められないとされる女性は、必ず付き添いを必要とします。

 たった一人で公式の場に来ることは、非常識と取られても仕方ないそうです。

 なんて面倒くさいんだと、私の顔は勝手にしかめられていました。


 

 サディアスさんは出席せずに勇者様の帰りを離宮で待つと言いました。

 よく分かりませんが、色々と準備が必要なんだそうです。

 ただ帰ってくるだけの相手に、そんなに準備しないといけないんでしょうか?

 疑問に思ったら、夜襲に備えた準備だとのこと。

 勇者様………苦労しているんでしょうね。


 大貴族であり、勇者様とは親しい間柄の学友コンビも当然招待されているそうです。

 オーレリアスさんは嫁と、シズリスさんは婚約者と連れ立っての出席だとか。

 ………私の予想では、二人の相手は変わり者に違いないと思っています。

 じっくり顔を見てやりましょう☆


 …ということなので、悩む余地もなく。

 私とせっちゃん、それにリリフ。

 三人の相手は、いつものメンバーから選ぶ訳ですが。

 まぁちゃんが言いました。


「むぅ坊、せっちゃんの相手頼むな」

「え、僕で良いわけ?」


 予想外のことを言われたと、むぅちゃんの目がびっくり。

 鳩が豆鉄砲連射された!みたいな顔をしています。

 うん、私も意外でした。


「陛…まぁ兄さんは、てっきりリアンカもセツ姫も自分でエスコートするかと思ってた」


 むぅちゃんの言葉に、勇者様も子竜達もサルファも、それに私も無言で頷いていました。

 うわ、無意識に頷いちゃってたや。

 そんな私達の反応に、まぁちゃんはひょいっと肩を竦めて見せるけど。

「俺は他にやることあるし?」

「不気味だね、その反応」

 でもむぅちゃんは、言われてみれば年も背格好も丁度釣り合いが取れる人材です。

 二人並ぶと、初々しくて可愛い感じになります。

 そう、少年少女という感じで。

 大人の世界をちょっと覗きに来ました、みたいな。

 一緒にいても恋愛や政略を感じさせない、ふんわりした可愛さです。

 むぅちゃんが中性的な顔をしているので、一見女の子同士にも見えます。

 なんだか浮世離れしていると言いましょうか…お人形さんめいたコンビになりそう。

 …むぅちゃんは十四歳。せっちゃんは十五歳。

 せっちゃんの方が年上ですが、せっちゃんが明らかに年下に見えるのは否めませんけど。


「まぁちゃん、私は?」

 もしかして私も予想外の相手を振られるのかな、と。

 興味本位で自分から聞いてみました。

 果たして、保護者様は何とお答えになるのでしょう?


「リアンカは、ロロイな」

「え、俺?」


 水を向けられたロロイが、きょとんとした顔をしています。

 自分は我関せずみたいな顔をしていたので、本当に驚いたのでしょう。

 落ちつかなく忙しげに、羽がばさばさやっています。ばさばさ。

「俺、どうせリリフの相手を押し付けられると思ってた」

「ロロイ! さりげなく私に失礼でしょう!」

「生まれてこの方、ずっと面倒見させられてたのはどっちだ?」

「……………私、でしょう」

 リリ、リリ、その間が語るに落ちてるから!

 それでもせめての抵抗か、自分の方が面倒を見ていると主張。

 するとロロは、その左手をにぎにぎさせて……

「どっちが面倒見させられてる?」

「くっ…………………ロロイ」

 自覚症状ははっきりしているらしいですね。

 リリが、歯噛みした様子を隠さず、呻くようにロロイの名前をあげました。


 しっかりしているように見えて、リリフは凄い方向音痴です。

 放っておくとどこに消えるか分かりません。

 そこで、対策を練りました。

 物心つく前から移動の時はロロイとリリフで手を繋ぐように私達が躾けたんですけど…

 ………迷子防止活動は、今でも健在のようです。

 なかなか方向音痴が治らない真竜(ドラゴン)、リリフちゃん。


「え、じゃあ俺は俺は!?」

 予想外の組み合わせが続き、えー?みたいな顔でサルファがパタパタ手を振ります。

 そんな野郎にちらりと目をやり、まぁちゃんは…


「リリフ、面倒頼む」

「えー…?」


 リリフに押し付けるという暴挙に、サルファが目を見開いて大抗議。

「え…子守じゃん!」

 その物言いは、リリフに失礼ですよ!

 リリフが笑顔で、鋭い爪を光らせます。

 竜の瞳が、ギラリと赤い光を放ちました。


 リリフは、今は確かにまだ子供です。

 でも、竜の成長は年齢通りとはいきません。

 十二の氏族長と、真竜王が一つずつ。

 十三の試練を乗り越えた時、真竜は大人となるのです。

 本来ならもっと緩やかなペースで成長する竜の子。

 でもロロイとリリフの二人は、焦ったように試練を次々突破していきます。

 そして達成した試練の数に合わせて、成長する心身。

 今でさえ、実年齢よりも上の年に見えるほど成長しているのに。

 二人が残している試練が今いくつなのか、聞いていませんけれど。

 それでも、もしかしたら一年二年のうちに成竜となるのではないかと囁かれています。

 彼女達の成長は、きっと私達が思うよりずっと早い。

 そんなリリフへの暴言に、サルファは後悔することになるかもしれません。

 そう、それはきっと数年のうちに――




 まぁちゃんの言う通りに分けたら、一番人目を引く二人が相手のいない状態で余りました。

 即ち、まぁちゃんと勇者様です。

 まあ、女性のやっかみが怖いので敢えて相手を決めなかったのかもしれませんけれど………

 …と思ったのは、私の見当違いでした。


「まぁ殿…」

「あ? なんだよ」

「いや……相手を決めずに行ったら、誘いが酷いことになるが…

まぁ殿は、それで構わないのかと思って」

 俺はいつものことだから心情はともかく耐えられるが、まぁ殿は大丈夫か…

 そう言って、勇者様が心配げに眉を寄せます。

 それに対して、まぁちゃんはあっけらかんと告げました。

「あー…そりゃ、心配無用だ」

「まぁ殿、狩人(ハンター)と化した令嬢方を甘く見ない方が良いよ」

「だから、心配ねぇーって。お前がエスコートする相手ならもう決まってっし、その相手なら女共も余計なちょっかい掛けられねーから」


「え!!?」


 ぎょっと目を向いた勇者様が、勢いをつけてまぁちゃんに詰め寄ります。

「あ、あ、あ、あいて!? エスコートの!?」

「他に何の相手が欲しいんだよ、お前は。ゲートボールか?」

「いや、何故そこでゲートボール!」

 びしっとツッコミを入れる勇者様の舌鋒は、今日もキレが良い。

 絶好調だねと思いながら、固唾を呑んで成り行きを見守ります。

 もう、仲間うちに女性はいません。

 まぁちゃんはエスコートの相手とやらを何処から連れてくるつもりなのでしょう。

「まぁ殿、俺に一体誰をエスコートさせるつもりなんだ」

 困惑と不安を綯い交ぜに、まぁちゃんへと詰め寄る勇者様。

 彼に、まぁちゃんはさらっと告げました。


「 (オ・レ) 」


 ………

 ……………

 ……………………………………


 ……… 時が 止まりました。


「ま、まーどの……」


 勇者様の声がぎこちなく、どことなく幼く感じます。

 さもありなん。


 まぁちゃん、さっきなんて言ったのか、もっかい分かりやすく言ってー。


「お前がエスコートする相手は、 俺 だ」


 そう宣言した、まぁちゃんを前に。

 勇者様は、



「maogbpyuranownymogyroonoeonogatiedohgajteoriteuhyojhaoajktaao?!!?」



 壊れました。



 それはもう、見事に。



 勇者様がどこからも耳にしたことのない謎の言語を発しました。

 かつてない取り乱し方です。

 言葉になっていない、とか声になっていない、叫びじゃありません。

 どこの物とも知れぬ、意味のわからない謎の言語と化した叫びをあげました。

 何語ですか、ソレ。


 真剣に、勇者様の精神が心配になりました。

 大丈夫? 勇者様、生きてる?

 質問には辛うじて頷きながらも、勇者様は頭を抱えてしゃがみ込んでしまいました。


 変なことをいきなり言いだした、まぁちゃん。

 男が男をエスコートとか、妙な噂が立ったらどうするんですか。

 というか、確実に変な噂になりますよ!

 私達はまぁちゃんが正気かどうか心配になって、皆で取り囲みます。

「どうしたの、まぁちゃん。人の趣味をどうこう言うつもりはないけど………

男が男をエスコートだなんて、真面目に公の場でやられたら気色悪いよ」

 私はわかりやすく現実を教えてあげようと、はっきりと言ってあげました。

 例えそれが勇者様やまぁちゃんのような超絶美形でも!

 それでも野郎同士でべったり密着してエスコートとか!

 一体どこの腐ったお姉様の妄想か、笑い草なのか!

 確実に、一部の頭の腐ったお姉様方しか喜ばないでしょう?

「そ、そうだ、まぁ殿! そんなことを言い出した理由は!?」

 妙に必死な顔で、悲壮な雰囲気を背負った勇者様が問い詰めます。

 それにもまぁちゃんは、ひょいっと肩を竦めるのみ。

 やがて気楽な口調で、思うところを述べてくれた訳ですが。

「いや、勇者放置しとくと、後で回収が面倒そーだったし」

「それならエスコートの相手は男じゃなくとも…!?」

「阿呆。ここで女…リアンカやせっちゃんを宛がったら、噂が立つだろうが。

いや、立つだけじゃ済まねーな。この機を見て確実に話を詰めようと画策される」

「ま、まぁ殿…誰が何を画策するって……?」

「心当たりあんだろー? あんだけ結婚を望まれてんのに、女っ気のねぇお前だ。

その勇者が公式の席に女エスコートなんて、婚約のお披露目だって取られても仕方ねーだろ。

そこをお前の結婚を何が何でもって望んでる奴らにしてみろ。

この噂を逆手に取って、事実になるよう話を捏造してでも縁談進めちまえってなるだろ。

トントン拍子に外堀埋められて、気付いたら何故か本当に正式な婚約をしたことになっててもおかしくねーよ。そんでそこに、リアンカやせっちゃんが巻き込まれんだ。


 そのくらいなら、俺が女装して笑いを取る…!! 


 いや、勇者を笑い物にする………!!  」


 ま、まぁちゃん………

 なんたる自己犠牲…!?

 まさか、そこまでやるなんて!?


「まぁ殿…なんでそこで笑いを取る方向に行くんだ…!」

 普通にエスコートなしにすればいいじゃないかと、勇者様が全力で嘆いておいでです。


 まぁちゃんは多分、よくよく考えてこの道を選んだのでしょう。

 絶対考えすぎて、混乱の末おかしな道に走ったとしか思えませんが。

 でも、きっと深く勇者様の事情を考えて決めたのだと思います。


 エスコートでなくとも友達として私達が一緒に連れ立つ事実。

 それを気にしているのでしょう。

 傍にいて、親しそうにして。

 勇者様の結婚を虎視眈々と画策したい人達は、きっとたくさんいます。

 大量に存在しておかしくないくらい、心配されたり狙われたりしているはずです。

 そんな人達が、情報操作しておかしな噂を流しかねないと判断したのでしょう。

 勇者様が結婚する未来への取っ掛かりを得る為なら、きっとなりふり構わない。

 それを事実にする為、様々な企みを仕掛けてくると。


 だから、それを阻止する為にまぁちゃんは頭をひねったのです。

 絶対に、ひねりすぎです。

 

 絶大なインパクトがあり、誰よりももっと話題を掻っ攫い、そして笑い話で終わらせてくれそうな道をまぁちゃんは選んだのでしょう。

 でも、ちょっと体を張り過ぎじゃないですか?


 私とせっちゃんの為ならそこまでできるのかと思うと…

 ちょっと保護者様の愛が重く感じられました。


 まあ、きっと。

 勇者様が常日頃骨身に染みて感じておられる愛の重さに比べれば、全然でしょうけれどね!




次回予告

 サルファの腕がひらめき、その手腕がきらめきを見せる…!

 果たして夜の蝶は、どのような色合いを見せるのか!?

 次回、サルファプロデュースによる蝶が光臨する…!


  次回:【34.変身もとい改造大計画】

                  おたのしみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ